“数寄屋門”と呼ばれる和風門を開けて外を覗いてみる。大体が田んぼや数本並んだ木々で占められてる、のどかな風景が飛び込んで来た。かなり失礼な言い方をしてしまうが、民家がまばらにしかないので、さっき出てきた武家屋敷かってくらいにデカい屋敷が浮いて見える。
そこから砂利道の上を1分弱歩くと、周囲が木々で連なる領地に入り。次第に視界の範囲内では到底収まりきらない位、広大な森が生い茂る様になって行く。
「おほー……相変わらず、立派だな〜」
高く伸びる大樹の影によって肌寒い微風が吹く森の中を徒歩で進む事、3分弱。
山の中腹辺りまで一直線に伸びる、端の部分に青々と苔生す石段が見え始め。階段の入り口に当たる所にはやや白く濁った木製の鳥居が建っていて、階段の両脇には赤く塗られた木製手すり柵が建ってるのが確認できる。
晴れの日ならば、木々の間から差し込む光が石段や鳥居を照らして、神々しく映える情景が見られたかもしれないが、生憎今日の天気は曇り空。神聖な感じはあるが、若干暗い雰囲気も漂っていた。
「洋太は久しぶりだったわよね?此処に来るのは」
「うん、正月にお父さんと来た時以来だね。お爺ちゃんと挨拶するために」
1歩ずつ踏みしめながら石段を登りきって、高さ7mくらいある朱色の神明鳥居をくぐる。
境内へ足を踏み入れた僕は、足を踏み入れた瞬間から感じ取れる、神聖な…と言うべき空気感を肌で感じる。
それから入り口付近に設置された雄鹿雌鹿の石像に見守られながら、お母さんと境内の奥へと歩を進めた。
「あー……そういえばそん時、仕事してたわワタシ」
「正月でも仕事するとか、休みちゃんと取ってるの?」
歩みを進めて左手側へ視線を外すと手水舎があり、右手側には社務所が確認可能。
石畳で舗装された参道が真っ直ぐと伸びるその先には、檜皮葺の屋根を持つ朱色で塗られた木製の神社──『紅乃神社』が静かに佇んでいる。
僕とお母さんは、参道から逸れて手水舎へ足を運んで、清らかな水で手と口を洗う。次に参道へ戻ると、神社の拝殿の真正面に設置された御賽銭箱を前にして、一緒に参拝する。
「おやおや。そこにいるのは……茜ちゃんと、お坊ちゃんじゃないか?」
お辞儀と拍手をしてお祈りをしていると、シャン…シャン…という金属音を伴って、足音と一緒に聞き覚えのある声が耳に届く。
声がした方へと顔を向けるとそこには、錫杖の如く小さな輪が何個も付いた銅製の輪がハンドルになっているコウモリ傘を持つ、黒の外装とサングラスを身に付けた白髪オールバックの男性が佇んでいた。
「おっ、洸平さんじゃないですか。お久です〜!」
「相変わらずイイ声してるねぇ、おじさんも嬉しいよ〜。あ、茜ちゃんも久しぶりー」
「えぇ、一週間ぶりね唐護さん」
男性・
それにしても、ホント久しぶりだなぁ……この辺に来る時は大抵とバッタリする事が多いし、何だかんだで結構会ってる気がするケド。
「まぁそれはそれとしてね。お坊ちゃんは兎も角、茜ちゃんがワザワザ参拝せんでもええんじゃないの?」
「あら。私が参拝をしてたとしても、別に違和感あるワケじゃなくない?それに……久し振りに息子と一緒にいるんだから、少しくらい良いでしょ?」
「お母さん。お参りも終わったし、そろそろ行く?」
「わかった、行きましょう」
「……血筋を感じるなぁ」
参拝を終えた僕らは、洸平さんとそんなやり取りをしながら社務所の方へと歩き出し、ガラガラっと中へ入って行く。
社務所の玄関で靴を脱ぎ、若干軋む縁甲板の廊下を進んで行くと、社務所の奥にある和室に通じる襖が見えた。
「……失礼します」
引き手を掴んでゆっくりと襖を引き、座敷内に居た人達へ声をかけるお母さん。後に続いて僕と唐護さんもそれぞれ「お邪魔しまーす……」「おいーっす」と言って中へと入って行き、座布団に腰掛けて居た計十人の男女と挨拶を交わす。
「あらあら。此れは此れは茜さん、随分とごゆっくりなされたご様子で……次期当主の余裕…というものかしらぁ?」
まずお母さんへ真っ先に話しかけて来たのは、
青緑色の羽根が付いた簪で黒髪をお団子にし、目元に赤いアイシャドウを施した端正な顔立ちと豊満なスタイルが特徴的な巫女服の美人さんだ。
「木嶋ァ、あまり茜に嫌味を言うもんじゃねぇぜェ?……お、そこにいんのは坊主じゃねェか?すっかりデカくなったじゃねェかオイ!」
クスクス笑いながらお母さんに嫌味を言った筵さんを咎めるのは、今時珍しいリーゼントヘアと無性髭が特徴的な男性。服装は黒い法衣の様な姿となっている。
名前は
「ウム!少し前に見た時は、こ〜んなに小さかったというのに……イヤハヤ、時が経つのは早いモノですな!」
独活さんに同意する様に頷きつつ、掌を下へ向けながら軽快な高笑いをするのは
身長は僕より少し高いくらいで、中性的な顔立ちと線が細い肉体を持っているのが確認可能となっており。参拝者が着るような白装束で、センター分けの髪には細いねじり棒鉢巻を付けている。
「………………」
そんな彼らの様子を無言で流し見しつつ、ヘッドホンしながら携帯ゲームをピコピコさせてるのは、カナダ人とのハーフだという葛理ヴァーリーさん。
身長は僕よりやや低いくらいで、(コレは後から聞いたが)今は大学に通っているらしい。髪の毛はイエローブラウンで、少し短い毛先がハネているのが特徴。僕と同じ私服姿は、それっぽい服装となっている人達がいる中だと浮いて見える。
「キミ達!そーいう話は後にしてくれないかね?我々はコレから、重要な話をするのだよ?」
「まぁまぁ、良いではありませんか。こうして久し振りに、甲級メンバー全員が集まったのですから」
「そうだぜ鼬ジジイ?そんなにカッカしてたら、また寿命が縮んじまうぞ?お前もそう思うよな梟ジジイ」
「………んあっ? “ソースカツサンドは、梅ジュースで青椒肉絲?”お前さん、何言ってんだい。遂にボケたか?」
「ボケてんのはテメーの方だよあほんだら!また補聴器つけ忘れてんだろいい加減にしろ⁉︎ それと葛理!いい加減ゲーム辞めろ!!ピコピコピコピコうるせーんだよハンマーで叩いたろうか!?」
「……………チッ」
「オイ小僧手前舌打ちしたろ、今舌打ちしただろ?なあァ!?」
そんな彼ら彼女達の前で、10センチくらいある小上がりの上であーだこーだ話している神職装束を纏った御老人達。
ヴァーリーさんに注意を促しているお爺ちゃんは
クスクスと笑みを浮かべるお婆ちゃんは
ニヤニヤしながらノートの上で筆ペンを踊らせるのは
耳に手を当てて身体を少し傾ける丸サングラスのお爺ちゃんは
以上の四人が、紅乃一族を取り仕切ってる神主・巫女の人達……らしい。お母さんから軽く聞いた程度なので、詳しいことはよく分かんないけど。
「───時間だ。これより、集会を開始する」
ホンでもって、大きめな松の盆栽が飾られた床の間前の御座所に座る。藍鼠色の狩衣と白袴を身に纏い、坊主頭の上に黒烏帽子を被ったお爺ちゃん……僕の祖父で、お母さんの父親である紅乃
そんな祖父の一声によってガヤガヤしていた空間が、一瞬のうちに静寂に包まれる。
お爺ちゃんの蛇みたいに鋭く、何者をも恐れさせる鋭い眼光は、同時に底無しの威圧感も放っていて。お母さんと座ってた僕も、お爺ちゃんの短い言霊を聞いだだけで背筋に『ビビン!』と刺激が走り、お尻が微量に飛び跳ねた気がした。
「……皆の衆。今回の集会において、ひとりも欠けずに集まった事を、まずは嬉しく思う。そして御苦労──」
「ハイハイ。御託はいいから、早く話を進めてくれない?おじさん待ち草臥れちゃったよ」
「唐護ィ⁉︎ 今話してる最中だったろうが!人の話は最後まで聞けと親から教わらなかったカネ!?」
「わるいねぇ。おじさん、校長先生の長話は基本聞き流す主義なのよ」
「だったら中断させるなよ貴様ァ!?当主!当主だよヨこの人!!無礼此処に極まれりだろうが!?何なの手前⁉︎ お前にとってこの人、校長よりカースト低い感じ!?」
静寂した和室でお爺ちゃんが始まりの挨拶を語り出したが、参加してた人達のひとりによって話をぶった斬られる。
萩登さんは目をひん剥いて怒鳴り散らすが、制止した張本人である洸平さんは薄ら笑いを浮かべてそれを軽く流していた。さっきまでの物静かな雰囲気が一瞬で台無しになって、お爺ちゃんもちょっと眉を顰めてる。
「だが、唐護の言う事も一利ある。なんせ──この場にゃあ、立場上は一般人な筈の……アンタのお孫さんがいるんだからなァ」
……うん。コレ、僕の事じゃんね?独活さん、こっちガン見しながら話してるし。
「そうですなぁ……洋太くんは才能の観点から云えば、かなり優れた子です。
けど肝心な『見る』才能だけは、小生らと違い持ち合わせていない……
故に、本来ならばこの場へ足を踏み入れる事は無い。でも彼は何故か、此処へ来ている」
「この事から分かるように、なにか特別な事情があるのは明白よねぇ?」
筵さんは口を手で覆いながらクスクス笑いつつ、大葉さん同様に僕へ向けた視線を外そうとしない。
……いや、そんな大層な事した覚えは無いんだけど?ただ単に、お母さんが此処に来てって言われたから来ただけだし。
でも、確かにそう言われてみれば……お爺ちゃんやお母さん以外の人達が、僕を疑惑に満ちた目で見てる気がする。例えるなら、教室にいきなりパンダがやって来たーみたいな……いや、それはちょっと違うな。でもまぁ、そんなモンだよなぁ。僕みたいな一般人が此処に居るって時点で、場違い感は否めないし。
けど、お爺ちゃんは僕の事を見て少し間を置いた後、再び話を切り出す。
「では単刀直入に言おう……そこに居る男孫とその知人が、“あの山”の禁足地に関わった」
『──ッ!?』
その言葉に、お母さんを除いたみんなの顔が一斉に強張って、ザワッと空気が重く、張り詰めたモノに変わっていくのを肌で感じた。
……禁足地ってなんだろ?てかそもそも“あの山”って何処よ?
「洋太、貴方にも身に覚えがある筈よ……『三狐谷神社』という場所に」
「……………あっ、あそこか」
頭の中に幾つかの疑問や憶測を思い浮かべて思考を巡らす中──お母さんが言ったその単語に、思わず真顔になって小さく声を漏らす。
“三狐谷神社”って確か、この間みこちゃん達と行った神社だよな……?でも、禁足地ってどゆこと?頭に疑問が浮かぶ中、お母さんは神妙な面持ちで話を続ける。
「掻い摘んで話すとね。あの神社は『この世のモノ』じゃない、普通なら“行ける筈もない場所”なの」
「え?でも僕らは行けたよ?」
「ところがギッチョン。あそこの神社は常に結界が張られていて、普通のパンピーが行っても“なんか不気味だけど何にもない山”でしかないのよ。『山の神様にお祈りすれば、願いが叶う』という噂を信じた霊能力者は、例外として入れちゃう事もあるけどね……お分りかい、お坊ちゃん?」
「……?……??……???」
お母さんの説明を補足する様に洸平さんが続き、頭に中でこんがらがった疑問が更に複雑化していく。
「……………漫画で例えると……特級呪霊が降ろした、メチャクチャ強力な『帳』。それなりに強い呪術師なら、呪力の放出ゴリ押しで入れる」
「………あっそうか、成る程。だいたいわかりました」
「なんでそれで分かるの?」
先までずっと黙っていたヴァーリーさんの解説を聞いて、頭の中で絡まった疑問が解けスッキリとした面持ちで声を上げる。筵さんが何故かツッコミを入れて来たけど。
つまりあの山には、めっちゃスゴイ神様によって結界が領域展開されていて、その中に建てられた神社には簡単に入る事は出来ない……ってコトだよね?僕らはなんか入れちゃったケド。
それにしても、『願いを叶える』かぁ……まさかそんなフィクションみたいな話があるとは、知らなかったな。でもそう考えれば、徹とハナちゃんが直ぐに仲直り出来たのも割と納得できるワケだけど。
けど、なんだろう?さっきからずっと心に引っ掛かってるんだけど……何か、見落としてるような……
「………………まさかとは思うけど。“山の神様”が、お願いを叶えてハイお終い。なんてご親切な奴だなんて……思って、ないよな?」
「え?……いやでも、誰でも願いを叶えられる〜って訳じゃないんですよね?だったら──」
頭に浮かび上がった疑問に首を傾げる最中、葛理さんが呆れた様な顔で問い掛けて来た。
そりゃあ誰でも叶えられるなんて、僕でも無いとは思うけどさぁ?一応選別はされるみたいだし、少なくとも『軽い願い事』程度なら叶えてくれるんじゃないの?
「──そう、誰でも叶えて貰える訳じゃない……でもねお坊ちゃん?
「要求される『対価』が、“契約者の命”か、或いは“契約者の命より大事なモノ”か……そこまでは、ハッキリと分からないけどなァ」
そんな考えを唐護さんと伊野尾さんによって叩き落とされ、思わず口を噤んで絶句する。
「……じ、じゃあ。なんでその場で、見返りを要求されなかったんですか……?僕と徹……親友の願いは叶った筈なのに、『対価』を取られた覚えが無いんですけど……」
「それは恐らく、みこちゃんが原因だと思うわ」
心臓の鼓動が強くなったのを感じつつそう問いただすと、お母さんの口から予想外の答えが帰って来た。
何故そこでみこちゃんの名前が出てくるんだ?それにそれがなんの関係が──ッ⁉︎
「貴方も気付いたみたいね。そう、多分彼女は『怪異から私を守ってください』とか何とか、それに近い願いを祈った筈。それで“山の神様”から回数制限付きの加護を受け取って……つい先日、加護を全部使い切ってしまったらしいわ」
「そ、それじゃあ……みこちゃんは──!」
「いえ、みこちゃんを見張ってる子の報告だと、彼女はまだ無事みたい。でも先の話になると……ワタシ達でも無事を保証出来ないわ」
「仮にその……みこ?って子が無事だったとしても、他のお友達が『取り立て』を受ける羽目になるかもしれないわねぇ……」
お母さん達のその言葉に、背筋がゾワッと震える。
それだけじゃない。頭の中は真っ白になって、まるで夢を見ているんじゃないかと錯覚する。
「……いやいや待って待って待って。みこちゃんだけじゃなくて、徹とハナちゃんもヤバいって……いやおかしいよね?!そんなのっ、どう考えたって理不尽じゃんか!?
みこちゃん達はただ、願いを叶えたかっただけなのに……そんな理不尽な目に遭わなきゃいけない理由なんか何処にも無いし、ましてや“自分の命を対価にしなきゃいけない”なんて、そんなの聞いてないよ!!??」
「確かに“山の神様”は、神龍みたいに親切な説明をしてくれる程、サービスは良くありません……ですが確かな結果として、『願いは叶えられた』のでしょ?」
「……………そうなったら、もう後戻りは出来ない……詐欺に引っかかった奴も、こんな感じなんだろうなぁ………」
自分が思っていた以上に声を張り上げてしまったが、そんな僕とは対照的に落ち着いた様子を見せる大葉さん達。
そりゃあ、徹とみこちゃんの願いを叶えて貰ったのは感謝している。でも、それでも僕は納得出来なかった。どうしてそんな理不尽が降り掛かってしまったのか、理解出来なかった。
どうして彼女が、みこちゃんがそんな目に合うのか、僕は全然わからなかった。
悔しさを胸に秘め、心の中で悪態をつく僕の脳裏に……先程の会話が浮かび上がった。
──洋太くんは才能の観点から云えば、かなり優れた子です。
──それなりに強い呪術師なら、呪力の放出ゴリ押しで入れる。
もしも、僕が抱えているっていうチカラが、お兄さん達の言う通り凄まじいモノだと仮定して。その凄まじいチカラが、結界を破る程に強力だったとしたら──
「──もしかして……僕の、せいなの?」
あそこへ向かったのは、みこちゃんに案内されてだったけれど……僕が居なければ、みこちゃん達は「此処は何にも無い所だった」と諦めて、何事もなく帰れたかもしれないのに。
僕のチカラの所為で、みこちゃんが、徹とハナちゃんが、危険な事に巻き込んでしまった。
全部、僕の責任だ。
「違う。それは違うわ洋太。あの結界を破れたのは、貴方だけじゃなかった。ハナちゃんの生命オーラが、結界を破ってしまった……可能性だってある。
そもそも、貴方達は神社へお参りに来ただけで、何にも悪い事はしていない……
ただ、色んな偶然が重なってしまった。それだけの話……」
「………ちょい待ち茜ちゃん。シリアス展開中失礼しちゃうけど……そのハナちゃんって子、結界を破る程の生命オーラ、持ってる感じだったりするの?」
「高校時代のワタシよりも多かった。あと他に説明いる人いる?」
「……その子、おじさん達と同じ霊能力者か何かで?」
「多分違う……と、思うけど……」
なんかお母さんと洸平さんが話してるけど、耳に入ってこない。
お母さんは肩にそっと手を添えながら慰めてくれたけど、それでも僕に責任が全く無いわけでないのは、何となく理解出来てしまった。
僕が居なかったら、あの神社に行かなかったら、みこちゃんが危ない目に遭わなかったかもしれないし。徹もハナちゃんも、ヤバいのに巻き込まれる事も無かったかもしれないのに。
そう考えたら……胸の奥底から罪悪感が湧き上がり、全身を蝕んでいく感覚がした。
「諸君!この場は過ぎてしまった事を語る場ではない!これからどうするかを考える場だぞ!!今回の問題は、如何にしても当主のお孫様と“山の神様”の間に出来た繋がりを断つか。それだろうが!!」
憂いによって僕の周りを纏ってた重苦しい空気を破ったのは、萩野さんの一喝だった。
その声で思わず身体がビクッと跳ね上がるが、黒く靄がかった景色が晴れた様な気がした。
……そうだ。今考えなきゃいけないのは、“山の神様”の取り立てから、みこちゃん達をどうやって守るかなんだ。
「そうね……一番手っ取り早いのは、“山の神様”をブチのめす事なんだけど」
「それは辞めとけ。セトの奴にどやされるぞ」
「それに古い文献とあやつの話によれば、あの禁足地には“山の神様”の力によって封じられている特級怪異がいるらしい。何の策も無しに突っ込むと、其奴の封印が解ける可能性があるぞ」
「……………チッ、分かってるわよ」
まず最初に意見を述べたお母さんだったが、お爺ちゃん達に一掃されて舌打ちをした。てか止められる理由が「殺されるぞ」とかじゃない辺り、お母さんなら倒せると思われているのだろうか。一応神様だよね相手?
あとセトって誰?お母さん達の知り合い?お爺ちゃんが止めるって事は、結構ヤバい人なんかな?
不安を募らせていると、今度は洸平さんが手を挙げてから口を開いた。
「あのー……参考までに聞くけど、助けるのは
「………洸平さん。冗談でもそういうのは辞めて下さい」
「わーってるよ洋太くん。だからそんな青筋立てんでもええやんね?」
うん、良かった。もしみこちゃん達を生贄に捧げる気だったら、洸平さんでも絶対に許さなかっただろうから。
そんな僕の心情を察してか、今度は筵さんがコホンと咳払いして話を続けた。
「でしたら、人柱の代わりになる『対価』を用意する……というのは、如何でしょうか?」
「良い考えね筵。相手が高利貸しでなければ、あの山で行方不明になった方々もそうしていたでしょうね」
「……やっぱりダメですかぁ」
「……………だったら、死なない程度にボコして服従させる……茜さんが」
「あら、良い考えね。それ採用しようかしら」
「ダメに決まってるだろ!ハイ次!!」
続いて、木嶋親子のやり取りを見てたヴァーリーさんが口を出した……が、お母さんも絶賛な意見を萩登さんに即否定され、メチャクチャ不機嫌になる。
「………坊主達に、パワーがギッチギチ詰まった厄祓いグッズを装備させる……ってのはどうだァ?」
「悪くない意見だ……が!相手は曲がりなりにも『神』の名を与えられている存在。それでなんとか出来るなら、行方不明者は出ないだろ。他にはないか!」
項垂れる独活さんの次に、大葉さんが「ハイ!」と挙手した。
「でしたら!小生が誇る封印術式で、見事“山の神様”を封印してご覧に入れましょう!!そうなれば、洋太殿達に危害は及ばぬ筈ですぞ!」
「………ふむ。やはり『封印』という方法が、一番按配ですかね?」
「しかしねぇ……『神』と呼称されている特級怪異を、長期間かけて封印し続けられると思うか?」
「お任せ下され!この下釜大葉、是非皆様の期待に応える事をお約束しましょうぞ!!」
「そうかそうか、それは良かった……他!!」
他にも色々と意見は出たが、皆の意見を聞いてたお爺ちゃん達の顔を見れば分かる様に、あまり良い意見は出なかったぽいな、多分。
……というか、僕だけ置いてけぼりな気がするんだけど。いや、なんで呼ばれたんだっけ僕?まぁ素人の僕が口挟む暇なんて無いんだけどね??
「………洋太、お前の意見はどうだ。当事者として、参考までに聞こう」
なーんて思ってたら、お爺ちゃんから話を振られた。正直びっくりした。
でも正直言うと、僕自身どうすれば良いのか分からないからなぁ。だけど、みこちゃん達を出来るだけ危ない目に合わせないようにはしたいし……あっ、良い事思いついた!
「御供物を捧げながら土下座して、許して貰えるまでお願いし続ける。とか?」
「………いけるかァ?このアイデア」
「確かにワンチャン狙うなら、有りっちゃあアリだとは……少なくとも小生は思いますぞ?」
「ですが、相手が納得出来る『対価』を用意出来なければ、先程わたしが挙げた意見と同じ結果になるだけよ……?」
「……………てか、土下座で済むなら……きっと皆、そうしてる……」
我ながら良いアイディアだと思ったけど、それを聞いてた皆は微妙な反応を醸し出して、お母さんに至っては「ハァ?」とでも言いたげな表情で僕を見つめてきた。その目はやめてよ、流石に凹むからさ?
「だってさぁ?相手がそれで手を引いてくれるなら、あの山で行方不明者が出る訳がないでしょ?そもそも誰がやるって話だよ、土下座。おじさん達全員でやるの?」
「え、僕がやるつもりだけど?」
それを聞いたみんなが全員、今度は信じられないモノを見たみたいな顔をする。
「いやもっとダメな奴ッ!? 貴方達を守る為にアレコレ考えてるのに、洋太が一番槍を補っちゃダメでしょうが!!」
「でもねお母さん。その……山の神様?は、願いを祈った僕らに取り立てを受けさせようとしてるんだよね?」
「え、えぇ……多分、そうだと思うけど……」
「だったらさ、その『債務者』に含まれてる僕が『お願いを叶えてくれてありがとうございました!』って心から御礼を言えば、神様も満足してくれるんじゃないの?」
「それで満足してくれたら!誰も苦労しないのよ!!このおばか!!!」
「──じゃあ!どうすれば良いの!? どうすれば、みこちゃん達を守れるの!!教えてよお母さん!霊能力者なんでしょ⁉︎」
どうしたら良いか分からずに、思わず声を荒らげてしまう。
……そりゃあ。お母さんが僕らの事を心配して、色々と考えてくれているのも分かるし。自分でも、すごくバカな事を言っているのも分かっている。他にも色々とやりたい事がいっぱいあるから、別に死に急ぎたい訳でもない。
だけど僕にとっては、自分の事なんかよりも、みこちゃん達の方が大事で、守らなきゃいけない存在なんだ。
「もし何も思い浮かばないなら……僕一人でも、あの山に行くよ?」
だから、みこちゃん達を守る為には多少の犠牲?って奴は付き物なワケで……
もし生贄が必要だっていうならば、みこちゃん達を危険に晒すくらいなら、僕は死ぬ事も辞さないつもりだ。
すると暫く黙っていたお爺ちゃんが、ゆっくりと問いかけて来た。
「……洋太、お前、死ぬ気か?」
「イヤ。勿論死ぬ気は無いよ?流石に」
それは飽くまで最終手段だしネ。
「──そうか……お前達、他に意見はあるか?」
「ハイ!“山の神様”を浄化しない程度にボコして、これ以上手を出すなって脅すのが良いと思います!!」
お爺ちゃんは軽く頷くと、皆にそう問いかける。お母さんは若干慌てた様子で、やや食い気味に新たな意見を提示してるけど。
他の人達からは特に意見が出ないのを確認した後、少し考える様な素振りを見せてから口を開いた。
●紅乃清巳
紅乃一族の現当主で、見円茜のお父さんでもある。階級は『甲』。
組織の最高責任者である彼は、常に冷徹且つ厳しい目線で物事を見つめ、キツイ物言いで家族から避けられる事もしばしばある。
実は、影では『ヴォルデモート』というあだ名で呼ばれている。
●紅乃肆老僧
紅乃一族に従っている、計四人の上層部霊能職員。
一戦から退いている者達で構成されており、組織運営の殆どが彼らによって補われていると言っても過言ではない。
実は、紅乃一族の跡取りへ取り入って、自身の子息を当主にしようと企む者が多いらしい…が、仕事自体は真面目にやってるとのコト(茜談)。元ネタはソードオブロゴスの四賢神。
●甲級霊能職員
紅乃一族に所属する、茜を含めた全六名の最高等級霊能者。鬼滅の柱を思い浮かべながら書いた。
唐護洸平:お爺ちゃんの同期である自称おじさん。色々あって盲目になった。
木嶋 筵:お母さんと同期である女性。すっぴんが地味目なのがコンプレックス。
伊野尾独活:元ヤンのおじさん。猪突猛進な見た目とは裏腹に少し慎重な性格。
下釜大葉:ロムさんとは別ベクトルで胡散臭い霊能職員。モデルはスターシャイン星野。
葛理ヴァーリー:普段は大人しいが、一度キレるとメッチャ大暴れするハーフ。ウルヴァリンではない。