見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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世界には、ビターな刺激が必要だ。


もしかしたら、もう死んでも良いのかもしれない

 様々なゴタゴタがあった末にあの山から帰還して、日が沈み出した時刻と成り。あちこちから色んなご飯のいい匂いが漂って来て、食事を取る人達の話し声が聞こえて来る。

 

「久しぶりだねぇこの味!ワシは此処の『唐突ステーキセット』を食ってる時が一番幸せだよ」

 

「は、はぁ……」

 

「知ってるかい?このトッピングのコーンはね、ステーキに変更出来るんだよ。野菜じゃないトコロが好きだね!この年じゃ流石にキツイが」

 

 今現在居る、郊外のグァスト内にて。店内に響き渡る話し声のひとつである、目の前でステーキを食べている占い屋のお婆ちゃんは、とても幸せそうな笑顔でステーキを頬張っていた。ところでトッピングをステーキに変えれる言ってたけど、それってコーンの代わりに小さいステーキが出て来るってコトで、そうなると『太っ腹Wステーキセット』になるのかな?

 

「みこ、あんたそんな小ドリアで腹膨れるかい?コーン食うか?」

 

「あ、いえ。大丈夫です……」

 

 隣には幼馴染のみこちゃんが座っていて、前のテーブル上には既に食べ終えたドリアが置いてある。

 ……ねぇみこちゃん。あんな事あったんだから、もう少し贅沢言っても良いんだよ?

 

「洋太に至ってはドリンクバーだけか?最近の子は少食だねぇ……なにか食べたいのはあるかい?奢るよ?」

 

 ほんでもって、為すがままになって彼女から手をニギニギされながら、ドリンクバーのオレンジソーダをちびちび飲んでるのが、僕こと見円洋太である。

 

「あ、大丈夫っす……お昼めちゃくちゃバナナ食べて、あんまお腹減ってないんで」

 

 なお実際のトコロ、バナナを沢山食べたというのは詭弁で、遠慮した一番の理由は単純に食欲がないだけである。

 モチロンお昼自体はちゃんと食べたよ? けれど、いつもは何本か食べてる筈のバナナは喉を通らなくて……もしもの時用に持参していた一本も神様にあげたので、結局食べれず仕舞いなのである。是非もないね!

 ちなみに羽織ってた白の表衣は足元に置いたリュックに突っ込んであり、今は赤衣と青っぽい色の袴姿となっています。

 え?額と頬の傷はどうしたのかって? それならとっくに治ったよ。まだ痕はちょっと残ってるケド。

 

 それはともかく。シュワシュワとした喉越しを堪能して渇きを癒していた僕は、お婆ちゃんに聞きたい事を問おうと声を上げる。

 

「「───あの……あっ」」

 

 だが声をあげたのはみこちゃんも同様であり、声が被ってしまった事で若干気不味くなってしまう。流石の僕もコレには冷や汗が滴れ、数秒くらい無言の空気が漂う。

 

「ごめんみこちゃん……先いいよ?」

 

「いや、洋太が先でいいから……」

 

「うんにゃ。僕は良いから、みこちゃんが……」

 

「だから、洋太が先でいいって……」

 

「……よし、此処は公平にじゃんけんでいくか」

 

「じゃんけん…………うん、わかった」

 

「「──じゃんけんポン。あいこでしょ、あいこでしょ!」」

 

「ホントに仲良しだねあんたら」

 

「うしっ……じゃあ僕から先に3つ程質問しますけど、良いですか?」

 

「あぁ、いいよ」

 

 どっちが先行の権利を得るかジャンケンを執行。グーとチョキで勝った僕の先攻となったので、お婆ちゃんに質問を聞く事となる。

 

「んじゃ一つ目に……お婆ちゃんの名前、聞かせて貰っても良いですか?」

 

「……そういえば、まだ名乗ってなかったね。ワシの名前はタケダミツエ。“下町のゴッドマザー”と呼ぶものもおる……まぁ、好きに呼んでくれて構わないよ」

 

 ステーキを食べるのに使用していた紙エプロンを外しながら、改めて自己紹介を行うお婆ちゃん…もといミツエさん。

 それにしても『下町のゴッドマザー』って、中々オシャンティーなネーミングやね。最初の方に『下町』って付けてるあたり、親しみやすさとか考えて付けたんかな?

 そんな感想を抱きつつ、二つ目の質問……お母さんとはどんな関係なのかを聞いてみる。

 

「……そうだねぇ。あの子の父親とは色々関わる事があったから、その縁で茜ともちょくちょく会ってたよ。積極的に会ってたわけじゃないけどね」

 

 昔の事を思い出しているのか、少し遠い目になるミツエさん。口ぶりから察するに、お爺ちゃんとも随分前から知り合いだったみたいだ……が、どんな関係だったんだろう。

 お爺ちゃん結構気難しいトコロあるし、ミツエさんとの関係性が割と気になってきたケド……まぁ今はいいか。

 

「じゃあ三つ目、ミツエさんは───」

 

 ミツエさんは、いつから『見えている』んですか?

 そう、最後に聞こうとして──

 

「………遠足に行く時、バナナはおやつに入ると思いますか?」

 

 ──仮に“それ”を聞いたとて、何になるのだと……そんな思考が脳裏を遮り。

 何より、僕が聞いたところで、何の意味も無い質問だと思い、やめた。

 

「……………焼きバナナは、おやつに入ると聞いた事があるね」

 

「ていうか洋太、それってわざわざ聞く事じゃなくない?」

 

「あーうん、他の人の意見も必要かなーと思って……それよりみこちゃん、ミツエさんに何か聞くことある?」

 

「……えっと、じゃあ……タケダさんは『ミツエがいいね』……ミツエさんは、見え──」

 

「なぁ、アイツのコーラにコーヒー混ぜてやろうぜ!」

「うっはw動画撮ろ!ぜってーバズる!」

 

 みこちゃんの番になって質問を投げかけようとした時、彼女の決意を挫くかの様に大きな声が飛んできて。声の方を向くと、男性2人組がドリンクディスペンサー前で屯ってるのが見える。

 その間、手がより強く握り締められてるのを感じ、そちらへ顔を向けると不安げな表情のみこちゃんがいて。彼らが笑いながら離れて行った後も口を噤んだまま俯いている姿は、とても弱々しく見えた。

 

(もしかして、他の人に聞かれたくないのかな……)

 

 みこちゃんの不安を和らげようと何か声をかけようとした僕はふと、今まで彼女から『見えている』事について相談された記憶がないと気付く。

 もし自分の能力?について話したくないと思っているなら、お兄さん達が来たのに気付いて質問をやめたのも頷けるし。誰にも見えないものが見えていると、他人に知られたらどう思われるか…という不安で、今までずっと隠してきたのかもしれない。

 

(そういえば、ユリア師匠には相談したりしてんのかな? あの子も確か『見えている』側だった筈だし。今思えばみこちゃんと仲良くなったのも、それ関係だと思うし……)

 

 ……ていうかさっきからタコの生臭さが鼻に来るんだけど、誰かタコ料理頼んだ?あと今更だけどミツエさん、さっき好きに呼んで良いって言ってなかったけ。

 そんな事を考えていると、ミツエさんが紙ナプキンを数枚取り出して机の上に敷き始める。

 

「ブロッコリーがみこと洋太、ニンジンがワシ、コーンが……()。見えるかい?」

 

 ナプキンの上に小さいブロッコリーふたつと人参ひとつ、そしてコーンを計9個ほど配置していって、『見えるか』どうかを問いかけて来た。

 ……んんっ?どゆこと? 多分ブロッコリーと人参があるトコが、僕らの座ってるところ何だろうけど、コーンの『蚊』が何を意味するのか全く分からない。

 背を伸ばしてコーンが置いてある場所を覗き見るが、それっぽい虫は見当たらない。というか山でも言ってたケド、そもそも秋の時期に蚊って飛んでたっけ?

 

「……無駄だよ。ここにいる“蚊”は、ワシとみこにしか見えん。

 あんたでは()()()捉えられん、()()()()()さ」

 

「……?……??…………あっ、『蚊』ってそういう事か!」

 

「…………」

 

 一瞬ミツエさんの言ってる事が分からなかったケド、漸く理解が追い付いてきた。

 つまりさっきから話してた“蚊”というのは、お母さん達の云う『怪異』の事を指しており。ミツエさんは自分が確認できる霊を伝えていたワケで、その他にも「昔から蚊が集まる場所」とか「血は吸わんから安心しな」とか話している。

 

「見え方は人それぞれさ。ちゃんと姿形を捉えられたり、黒いモヤのように見えたりね。ワシの場合、見えてるのは“このぐらい”だよ」

 

「……え?その“蚊”って、見えるのに個人差あるんスか?」

 

 漫画やアニメとかだと、霊が見える人はだいたい同じ光景を見てる事が多いけれど、ミツエさんが云うには違うらしい。

 『見える』と『見えない』の単純な違いだけでなく、更に細かい違いまであるとか……なんか、メチャクチャめんどいな。

 

「あぁ。それで、みこはどのくらい……」

 

 その時、お箸を取ったみこちゃんがコーンを一粒掴み、ブロッコリーと人参の側に1()0()()()を……さっきからタコの臭いが漂って来ている、僕のすぐ側あたりへ置いた。

 

「…………なるほど、ワシにはその蚊は見えん。山からついて来たのか?」

 

「い、いえ……たぶん、このお店の……」

 

 ……よくわかんないけど、少なくとも通路側の席に座ってるのが僕で良かった。

 漫画とかだと『強い霊』の方が、霊圧の影響だかで“良く見える”と思ってた……けどミツエさんの表情から察するに、逆に“全然見えない霊”の方が『かなり危険』だというのは、何となく理解出来る。そんな奴を、みこちゃんの側に居させるわけにはいかないからね。

 そんな考察をしてる最中。みこちゃんは10個目のコーンを移動させ、“彼女にしか見えない奴”が何処かへと行った事を伝える。

 “アンタ”の臭い、ばっちし覚えたかんな?

 

「……洋太、ピリピリする気持ちはわかるが、たぶん害はないよ……勘だがね」

 

「…………ははは、何言ってんスかミツエさん。僕は至って冷静だし、ピリピリなんかしてないっスよ。どこぞのクソ野郎が、みこちゃんに手を出そうなんてしてるワケじゃあるまいし」

 

「……そっ、それでミツエさん。あ、あの神社は……」

 

 そんな事を言ってる僕の横から、みこちゃんが不安げな表情でミツエさんに尋ねてくる。

 ミツエさんは少し考慮したような素振りを見せたかと思うと、懐から写真を一枚取り出して僕らに見せる。

 

「この写真……」

 

「……SNSから見つけた、奴ですか?」

 

「……その写真については置いといて、だね」

 

 僕らの疑問に対しミツエさんは、神妙な顔で「この神社はね、この世のモンじゃない。普通はたどり着けない場所だよ」。そう静かに語り始めた。

 ミツエさんが話した内容は……おおよそお母さん達から聞いた内容と類似しているから、僕は別の事に意識を分けられるな、ウン。

 

(さてと……“タコの臭い”の奴、また戻って来たな)

 

 それより今大事な事は、おそらく“奴”がまた、僕の近くに戻ってきた事の方が重要だ。

 僕には霊を見るチカラはない。だけど、このタコの臭いがする奴が“そう”だと云うならば、何かしらの方法で追っ払ったり出来るはず。

 

(とはいえ……みこちゃんから離れる訳にはいかないし、下手な事して怒らせたら逆に危険だしなぁ……)

 

 店員さんにコーンとかを乗せた紙ナプキンをお皿と一緒に回収されながら、あの山には関わらない様に言いつけられてるみこちゃんを見てみる。

 ずっと僕の手を握り締めている彼女の顔は、ずっと強張っていた。

 彼女は、ひどく怯えている。

 

「………ほいっと」

 

「うわっ…! よ、洋太……?」

 

 気付いたら僕は、彼女の顔をぎゅっと抱き寄せていた。

 通路側の方を見せない様、大胸筋にみこちゃんの顔を埋め。小さく震える彼女のサラサラとした黒髪を撫でてあげる。

 

「………えっと、何となく『こうしたい』と思って……」

 

「……成る程ね」

 

 抱き締めてる最中、不思議そうな顔付きで此方を伺ってたミツエさんへ言い訳して。通路側をチラ見した彼女は納得したのか、カップを持ってコーヒーを啜る。

 改めて、通路側の方へ鼻を利かせる。最初に“焦げた臭い”と“熱そうな臭い”と“果物みたいな甘い臭い”がしたかと思えば、今度は行列に並んだ人達の臭いが漂って来ていた。

 

「──大丈夫」

 

 一体全体何が起きているのか、僕には見当もつかない。

 だけど、みこちゃんが辛そうな顔をするというなら、その原因が通路側にいるならば。

 彼女がこれ以上不安にならないように、腕の中でモゾモゾと動く彼女をちょっとでも安心させるべく、静かに語りかける。

 

「僕はちゃんと、君の隣(ここ)にいるから」

 

 その言葉がどれだけ彼女に届いたかは、わからない。

 それでも、ほんのチョッピリでも安心してくれるというならば、君の笑顔を取り戻せるならば、何度でも言いたいと思う。

 それが何にもできない僕に出来る、ただ唯一の事だから。

 

「……っ。うん……」

 

 さっきまで震えてた身体を密着させて、ゆっくりと手を回し抱き返してくれる。

 そんな彼女の行動に、僕も抱き締め返す力を強め、少しの間だけお互いの体温を感じる。

 ふと今どんな顔で抱きついてるか気になっていると、先程まで漂っていた変な臭いが漸くなくなったのを感じ取り。名残惜しいが、みこちゃんからゆっくり離れる事にした。

 

「………さて、洋太。あんた、()()感じ取った?」

 

 幼馴染の顔から安堵の表情を垣間見た所で、ミツエさんから声が掛かる。

 その問いにどう答えようか迷ったケド、変に隠さずにミツエさんには伝えておこうと思い、ありのままを伝える事にした。

 

「……たぶんですけど僕、『蚊』のにおいが分かるんだと思います」

 

「そうか、ニオイか……どんな臭いだった?」

 

「タコの生臭い奴が、僕らのすぐ側から。“焦げた臭い”と“熱そうな臭い”と“果物みたいな甘い臭い”の三つが、ドリンクバーの方から……それと、行列に並んだ人達のにおいもしました。誰もいないのに」

 

「……みこ、どうだい?」

 

 みこちゃんは首肯し、ミツエさんは腕を組んだまま考えるように唸る。

 その様子に内心の不安が膨らんだ僕は、恐る恐るミツエさんに尋ねる。

 

「あの、ミツエさん……()()って結局、何なんですか?」

 

「さぁ?天国の階段でもあるんじゃないか? 決まった時間に列となって、消えてく……ワシにとっては、見慣れた光景だけどね」

 

「……霊道、的な奴……ですかね?」

 

「たぶんね。他にも、駅前のミセド横の路地だったり、そういう場所はいくつもあるが……まぁ、あんたには関係ない事だね」

 

「それはそう」

 

「それよりもみこ、神社の件はワシらで何とかする。あそこは、近づきさえしなければ大丈夫だから、もう心配せんでいい」

 

「……あの……本当に、大丈夫なんですか……?ミツエさんも、茜さんの方も……」

 

「よっぽどの事がなければ、大体は茜の奴が何とかする筈だ……ワシの勘は結構当たるぞ?」

 

 お母さんへの信頼が強すぎて草超えてハイパー大草原。

 いやまぁ、なんとなく分かるけどネ。小さい頃にお母さんと忍者ごっこした時、「分身の術〜」つって殺せんせーみたいな高速移動分身を披露してたし。片手で大木をへし折った事がある、なんて逸話をお父さんから聞いたりしたし。

 

「……私、ちょっと嬉しいです」

 

 過去の思い出に浸かった束の間、幼馴染がそんな声を漏らす。

 視線を向けると、彼女は優しく微笑んでおり。その顔はさっきみたいな不安げなモノではなく、安心した表情でミツエさんを見つめていた。

 

「見えるようになって初めて、分かって貰えたというか。今までこういう話できる人、いなかったから……」

 

「だろうね。まぁワシもみこほどは見えんが、経験はそこそこ積んどる。もしも何か困ったら、店においで」

 

 そんな二人の会話を横から見ていた僕も、みこちゃんにつられて笑みが溢れそうになる。

 ホントに良かったね、みこちゃん……ミツエさんと出逢えて、本当に良かった。

 僕じゃあきっと、君の苦しみを知ること無く、ずっと呑気していたから。

 こんな風に、誰かに頼れる人間には決してなれなかったから。

 君の苦しみを、共感し合う事も出来なかったから。

 

「そっかぁ……よかったね、みこちゃん」

 

「うん、洋太も──」

 

「じゃあミツエさん。みこちゃんの事、よろしくお願いします」

 

 だからこれで心置き無く、お母さん達のトコに戻れるよ。

 

「………えっ。はっ?」

 

「……あんた、自分が何を言っているのか分かってるのか?」

 

「えぇ、ちゃんと分かってますよ」

 

 僕はみこちゃんに、笑顔でいて欲しいって思ってる。

 今まで君の優しさに、色んなものをもらった。

 沢山ワガママ聞いてもらった。

 いっぱい笑顔をもらった。

 だけど……

 

「だって僕、みこちゃんに何も出来てないし、守れてないもん」

 

 その上、僕に襲い掛かって来たという怪異や今回の神社の件にしたって、僕のせいでみこちゃんに迷惑がかかったのだから。

 別に、みんなの側にいる事が嫌なワケじゃない。寧ろこのままずっと、みこちゃん達と一緒にいたいと思ってる。でもそれは、彼女に負担を掛けてしまうというコトでもある。

 故に、そんなお邪魔虫は居なくなった方が、安心してハナちゃん達と楽しく暮らせるはずだ。

 

「……」

「あー……まさかとは思っていたが、やっぱりね」

 

 ミツエさんは訝しげに此方を見ていたが、これが僕が考え得る、最善の決断だと信じている。やっぱりね、という言葉の意味は分かんないけど。

 

「まぁそれはいいとして。ミツエさんが居てくれるなら、みこちゃんも安心して生活出来るみたいだし、僕なんかいなくても何の問題──」

 

「お願い、もう黙って」

 

 瞬間、周りの空気が重くなる。

 聞こえた声は、あまりにも冷え切っており。さっきまでの嬉しそうだった声から一変して、まるで威圧するかの様なモノへと変わっていた。

 

「……洋太、私の目を見て」

 

 声の主に視線を向けると、真剣な眼差しで此方を睨みつけるみこちゃんの姿が映り。それを見て初めて、どういう訳か彼女を本気で怒らせてしまった事に気付いた。

 一方ミツエさんは、やれやれといった具合に肩を竦め。顔を此方に向けてきたかと思うと、顔を逸らしてコーヒーを再び傾ける。

 その間もみこちゃんは僕の頬を挟み込むように掴んで、視線を逸らす事を許さない。

 

「──私はずっと、怖くて『見える』事を言えなくて、誰にも相談も出来なかった……」

 

 みこちゃんは、淡々と語り始める。

 

「でも、洋太が居てくれて……貴方のおかげで、それだけで『怖い』って気持ちが和らいだ」

 

 僕はただ、彼女の言葉に耳を傾けるしかなかった。

 

「私が怖い思いをしてる時、洋太はいつも助けてくれた。

 洋太と手を繋いでると、心が温かくなった。

 洋太と一緒にいるだけで、すごく安心できた。

 洋太の笑顔に、たくさん救われた」

 

 彼女の言葉の1つ1つが、僕の心へ突き刺さる。

 それらがどんな意味をもつのか。考えるまでもなく、この言葉を聞けば誰でもわかる。分かってしまう。

 

「だからお願い、謝らないで。何も出来てないなんて、言わないで」

 

 彼女の瞳には、激しい怒りと……強い悲しみが浮かんでいた。

 

「で、でもっ……僕、みこちゃんに……迷惑しか、かけてないし……!」

 

「勝手にどっか行かれる方が!迷惑なのっ!こっちはッ!!」

 

 瞳から大粒の涙を流した幼馴染の顔は、今までに見た事も無いぐらい、悲痛で苦しそうなモノだった。

 だが彼女は涙を拭う事も、口を開く事も止めず、僕に想いを伝え続ける。

 

「……洋太、前も言ったよね。迷惑をかけて来た分だけ、ワガママを言って欲しいって」

 

「っ……うん」

 

「じゃあ、言わせて貰うね」

 

 みこちゃんは僕の頬から手を離し、今度は優しく抱き締めてくる。

 

「──もっとたくさん、私と一緒に居て。

 それでいっぱい、貴方に迷惑掛けさせて」

 

 それは、とても優しい抱擁だったけれど。

 さっきの僕もした、胸の中へ埋めるような抱擁だったけれど。

 それでも僕には、彼女が震えているのが分かってしまった。

 ……いや、違う。震えてるのは、彼女じゃない。

 

「──コレからもずっと、貴方の幼馴染でいさせて」

 

 震えてるのは、僕の方だった。

 

「………みこ、ちゃん……」

 

 目の奥から溢れてくる“ナニカ”が視界を歪めて、みこちゃんの黒いシャツを濡らし始めてしまう。

 ギュッと抱き締められた状態で、僕はずっと前から聞きたかった言葉を、彼女の口から聴くために。

 

「僕……っ、ちゃんと……君のこと、守れたかな……?」

 

 昔からずっと大嫌いな、役立たずな泣き虫の言葉が、生意気にも幼馴染へと投げ掛けられる。

 

「洋太……」

 

 ……嗚呼。お願い、みこちゃん。それ以上、何も言わないで。

 そんな優しそうな顔で、今にも泣きそうな顔で、返事しないで。

 もし僕の予想が正しければ、“それ”を言ってしまったら──

 

「今まで私のこと、守ってくれて……ありがとう」

 

 ──今まで失敗だらけな過去を、しくじってばかりの自分を。

 思わず、赦してしまいそうに、なってしまうから。

 

「──みこちゃん」

 

「……うん」

 

 これ以上迷惑を掛けたくなくて、何とか堪えようとするけど。その心地良さに、目から噴き出る汗が止まらなくて、みこちゃんから離れる事が出来ずにいた。

 そんな状態で、お腹の奥から湧き出る衝動が、口から溢れる熱が言葉と成って、彼女へと投げ掛けられる。

 

「今まで……気付いてあげられなくて、ごめん……」

 

「今まで、何も知らなくて……ごめん……っ」

 

「ッ、今まで……寂しい思いさせてっ。本当に、ごめん……っ!」

 

 一度出た感情は止め処なく、口から溢れてくる。

 今までに溜めていたモノが、もう止められなかった。

 ミツエさんがいるのも、周りからの視線がある事も忘れて。

 ただただ心のままに、みこちゃんへ言葉を吐き出し続けた。

 

「みこちゃん……!」

 

「なに、洋太?」

 

 やがて彼女の抱擁から抜け出し、微笑みかけるみこちゃんへと向き直る。

 だけどうまく呼吸が出来なくて、言葉が詰まってしまう。それでも、何度もみこちゃんの名前を呼んでは深呼吸して、乱れた息を落ち着かせていく。

 そんな僕に彼女は何も文句を言わず、優しく頭を撫でてくれた。

 その優しさが嬉しくて、また涙が溢れそうになるけど、今はそれをグッと堪えて……

 

「今まで、無事でいてくれて……ッ、本当に!ありがとう……っ!!」

 

 心の底からの想いを、彼女にぶつけた。

 みこちゃんはそんな言葉に対し、涙で目を潤せて、花の様な笑顔を返してくれる。

 僕も精一杯の笑顔を浮かべて、彼女の温もりへ応えるようにした。

 

「……青春だねぇ」

 

 二人して笑い合っていると、ミツエさんがふぅっと大きな溜息をつき、呼び出しボタンの音を鳴らして、やって来た店員さんと目を合わせる。

 

「黒蜜白玉デラックスパフェ、()()

 

「かしこまりました」

 

 注文を受けた店員さんが去ってくのを見届けたミツエさんは、どういう事かと疑問に思ってた僕等の方へ顔を向け直す。

 

 

「──ふたりとも、甘いもんは好きかい? 頑張ったご褒美だよ」

 

 

 彼女はとても穏やかな顔で、静かに笑いかけていた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 ──前略、我が兄弟達よお元気ですか?我は今日も元気に、現世で憑いています。

 さて、我が何をしているかと云うと、宿り主である徹とその友人である百合川ハナと四谷恭介と共に、四谷みこの捜索をしております。

 それで現在、肝心の徹達は……

 

「ハナさんや……いくら飲み放題とはいえ、ドリンクバー全種類はやりすぎじゃねぇの?」

 

「えーそう?店員さん笑ってたよ?」

 

「苦笑いに決まってんだろ⁉︎」

 

 とあるグァストで飲み物を取りに行きながら、くだらない会話を繰り広げておった。お前ら、知り合いが音信不通になってる割にはかなり余裕そうだな。

 まぁ“腹が減っては戦は出来ぬ”というくらいだし、外は暗くなって来た訳だし、ここで腹ごしらえするというのは間違いではないのだろう。

 

「さっさと食って、姉ちゃん探しに──」

 

 それにしても、黒髪の小娘は一体何処にいるというのだ? あの山の神社なら、ぶっちゃけもう諦めた方が良いのだが……呑気にそう思ってると、黒髪娘の弟が発してた言葉を切って目線を固定。我は釣られて、そいつの視線の先へと複眼を向けた。

 

「──あっ」

「──んえっ?」

 

 ……バッチリ居るじゃんか。しかもドリンクバー近くの席で、いつか見た数珠の占い婆さんと一緒に。頭に何故かシマリス…の守護霊?を乗せた馬鹿猿に至っては、目を赤く腫らしてパフェを頬張りながら。

 

「……みこー! いるじゃん!」 

「てか洋太もいるし!?」

「……お宅ら、ここで何してんのよ」

 

「三人とも、何でここに……」

「もがっ、もぎゅもぎゅ……!」

 

「洋太。お前はパフェ食うか喋るか、どっちかにしろよ」

 

「…………」モッキュモッキュ

 

「オーケー分かった、お前ちょっと席立て……なッ?」

 

「モガッ!? モガモガッ!」

 

「………ッ! ッッ!!」

 

「もー!心配してたんだよーっ⁉︎ スマホも繋がらないしっ!」

 

「ごめん、電源切れてた」

 

 パフェを食べる手を続行させた馬鹿猿にヘッドロックを仕掛ける徹。地獄の拘束に捕らえられた馬鹿猿は、パフェを口いっぱいに頬張りながらジタバタと暴れるが、追い討ちに涙目の黒髪娘弟に無言で脛を蹴られていた。

 それはそれとして徹、あまりそいつに引っ付かないで?()()()()()()()()()()()()()が、我の体を焼くように照らしてるから。バチクソ暑いから。

 

「すまないねぇ……みこはワシの荷物を運ぶのを手伝ってくれたんだよ。腰が痛くてねぇ」

 

「……それで、この馬鹿は何故に? それも神社の人が着るような格好で」

 

「お……お母さんの……じっ、実家の都合で……ギブギブ!卍固めやべて!パフェまびろ出る!!恭介も足蹴らんといてやァ!」

 

「……その子のお母さんとは知り合いでね。ちょっとお世話を任されたんだよ」

 

「へぇ〜……ねぇみこ!いつの間に洋太くんと再会してたの? あと数珠のおばあちゃんといつから仲良くなったの?」

 

「たまたまばったり……」

 

「あっ!黒蜜白玉デラックスパフェだ!」

 

 わちゃわちゃした光景に我は呆れながらも、徹の頭部に避難しながら彼らの顔を……馬鹿猿と黒髪小娘の顔をチラ見してみた。

 心の底から笑っているのが、見えた。

 

 

 

「じゃあ、そろそろ帰るかね」

 

「そうだねーっ。みこも見つかったし、洋太くんともまた会えたし、お腹いっぱいになったしね!」

 

「そりゃあ、みこさんにデザート分けて貰って、ピザやら何やら頼んだ後にまたデザートの追加注文したからな……」

 

 数珠の婆さんに同意する様にそう言いながら席を立つ茶髪の小娘は、黒髪の小娘とその弟の手を引いて帰ろうとして。婆さんの隣に座ってた徹の方も、馬鹿猿へ呼びかけようとして、正面席の通路側の方へ顔を向ける。

 だがそこにはさっきまで座ってた馬鹿猿の姿はなく、またもや居なくなったアイツに徹の口からは溜息が吐き出される。

 

「恭介、アイツ何処行ったか知らない?」

 

「洋太なら、さっきお手洗いに行ってたぞ」

 

「……ちょっと見てくるわ」

 

 小童の言葉を聞いた徹は席を立ち、アイツ同様にトイレへと向かっていく。

 そのまま通路を移動し、もうじきトイレ前へと到着しようとした……そんな折。

 

「だから僕は、みこちゃん達と一緒に居たい……みこちゃんを、護りたい。そう思ったんだ」

 

 お手洗い場の前でスマホを耳に当て、誰かと通話している馬鹿猿の姿があった。

 徹は馬鹿猿の姿を確認すると、すぐに陰へ隠れて聞き耳を立て始める。

 

「……わかんない。でも僕は、みこちゃんが好きだ。それだけは、ハッキリと言える」

 

 途中からだし、電話の主の声が聞こえぬから、どんな会話をしているのかは我には分からぬ。だが、その言葉は馬鹿猿の本心なのであろうという事だけは分かった。

 そんな光景を物陰から窺っていた徹は、鼻から軽く息を吹き出して、壁へ背を持たれかけて待ち続ける。

 

「うん、うん……わかった。じゃあねお母さん、また後で」

 

「……よう、終わったか?」

 

 やがて通話が終わり、電話の主が母親だという事が分かりつつ。徹は馬鹿猿がお手洗いから出てくるのを待って、声を掛ける。

 出てきた馬鹿猿は徹の存在に気付き、驚いたのか少し後ずさる。

 

「お、おう……まぁね」

 

「何の話、してたんだ?」

 

「今後のことについて」

 

 そう言った馬鹿猿はスマホを仕舞い、徹の横に並んで小娘達のいる席へと向かう。

 

「それは、お前と一緒にいられるかどうか……に、ついてか?」

 

「うん。少なくとも高校卒業までは……みんなと一緒にいられると思う」

 

「…………ほーん。そっか」

 

 素っ気ない態度をとる徹だが、その顔からは嬉しそうな様子が窺える。

 馬鹿猿もそれを察してか、眩しい光をより引き立たせながら、ニカッと笑みを浮かべる。

 

「んじゃま、とりあえず……お帰り洋太」

 

 そっぽを向けながら腕を上げた徹に対し、馬鹿猿も同じく腕を上げて、二人同時に軽い助走をつけ始めた。

 

「うぃ、ただいま」

 

 腕を互いにぶつけ合う二人は、とても愉快そうで。

 小娘らに呼び掛けられながら、彼らはゆっくりと歩を進めた。




●四谷みこ
スゴくヤバい奴に怖がりつつも、原作主人公らしい活躍を見せた可哀想な子。涙が降る前に、キミが必要。
グァストのヤバい奴を目撃した際には、前に見円家で対峙した夢魔法師(頭に馬の頭蓋骨がついてる奴)を思い出した。トラウマが蘇った。
色々あったけど、これでまた幼馴染と一緒になれると思った所で、馬鹿猿がまたどっかへ行って離れようとしていた。みこちはキレた。
ラキアン「見えちゃいけない奴まで見えるのかよ、だるっ……」

●見円洋太
実は滅茶苦茶メンタルやられてた馬鹿猿。他人事には敏感、なのに自分事には鈍感、後回し気味。
コイツにとって、みこちゃんの手を握ったり一緒にいたりするコト=ハナちゃんや他の人にでも出来るコトなので、そこを褒められてもピンとこないのはごく当然な結果なワケよ。
ウソップ「お前らの化け物じみた強さについて行けねェ」
チョッパー「……………?」

●タケダミツエ
原作最新話でも面倒見の良さを魅せ続ける、霊能力者のお婆ちゃん。眩しくて戻らない瞬間、もう誰にも奪わせない。
みこち達との出会いを境にパワーアップしたとは言え、それでもみこちゃん程見える訳ではない……が、そういう仕事しながら長生きするなら、寧ろ程々に見える位が丁度良いんだよねコレ。実際に未来の話で、ロムさんが見えちゃいけない奴見てヤバい事になってるし。
トッシー「いいか小僧ども。この時代、老いぼれを見たら『生き残り』と思え」

●グァストのヤバい奴
馬の頭蓋骨と髪のように伸ばした蛸足が特徴の、執事服姿の怪異。呪霊レベル・きっと特級クラス。
多分冥界の悪魔とかそういう類の存在で、マリオUSAのガプチョみたいに三つ首がある幽霊ムシャムシャくん(どっかの考察だと、あの世への扉を兼ねており、地獄・煉獄・天国に繋がっているらしい。みっつ合わせて、「ガプチョ」で〜〜す‼︎)を配下或いは眷属に従えている……と思われる。あと思ったんだけど、幽霊ムシャムシャくん達ってマスクゲートみたいだよね。(あげ玉ボンバー!ソースビーム!)
原作見える子ちゃんにおける“ヤバい奴ら”の中だと、特撮とかでも出てきそうなデザインのコイツが一番好き。次点で電車のアシュラマン亜種。シャイニングストライク‼︎
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