見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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揺蕩う目下に光在らず、我の行先人不成。
霊能者・岡トワ子に保護され、彼女の弟子であるゴッドマザーと暮らすことになった、後に神童ロムを名乗る事となる少年はある日、近くの公園へと足を運んだ。
そこで出会ったものは自身の持ち得る常識とは相反するものだった。

パロネタ好き向けが前提の二次小説です。原作を見たい方は『原作(見える子ちゃん)』を見てください。この完結するか(させるつもりではある)分からない小説は、あくまでも『自己責任』を備えた人が書き、『自己責任』を備えた人が読むというのを前提としています。つまり割り切ってください。

嘘です『自己責任』を備えてない人もどうか閲覧してくださいああ待ってブラバしないでお気に入り登録解除しないで低評価だけはやめて下さいお願いします何でもしますから(ん?今なんでもするって言った?)。


もしかしたら、こんな時期もあったのかもしれない

 その日、『少年』は育ての親と一緒に公園へ赴いていた。

 周囲には幼い子達が何人もいて、皆が思い思いに遊んでいる一方。『少年』は周囲の誰とも遊ぶ事も、ひとりで何かをする事もなく、木の陰に隠れている“ソノヒト”をジッと見つめていた。

 

「──大変そうだなミツエ。相変わらず捻くれたツラしてる」

 

「……清巳か。お前こそ、相変わらずしけたツラしてるね」

 

 ふと聞き覚えのない声が聞こえる。振り返ってみれば、ベンチに座っていた育て親『タケダミツエ』の隣に、蛇みたいな鋭い眼光をした見知らぬ男の姿があった。

 着物姿(着流しと呼ばれるらしい)の男と知り合いらしいミツエは、非常にめんどくさそうな様子で鼻から息を吐き出していた。

 

「聞いたぞ、子供預かっているんだってな。御苦労なこった」

 

「フンッ。アンタこそ、こんな所で暢気にお散歩かい。仕事クビになったか?それとも、嫁に逃げられたか?」

 

「阿保ぬかせ。今日は久しぶりに時間が取れたのでな、娘達と出掛けるついでに、お前の顔に刻まれたシワを拝みに来てやった」

 

「そうかい。ならこっちは、お前の髪がストレスで薄くなってないか見てやろうか?」

 

「オイやめろアホンダラ。オレの髪はまだ現役だ。フッサフサのモッサモサだ」

 

「お?反応したな? てことは多少減って来ているって事だろ、可哀想になぁ」

 

「ンなわけねぇだろ捻くれババア、ぶち殺すぞ」

 

「その言葉、そっくりお返しするよ腐れ蛇ジジイ」

 

 『清巳』と呼ばれた男はミツエの横に座るや否や皮肉を言い放つが、鼻で笑って応対した彼女も同じく皮肉を返した。やがて口喧嘩に発展して行くものの、二人の間には嫌悪感や険悪な雰囲気は無く。寧ろ何だかんだ仲は悪くなさそうだと、『少年』は幼いながらも何となくそう感じた。

 ──そういえば今“娘達”って言ってたけど、この辺にいるのかな?二人の舌戦を横目に、チョッピリ気になった彼はキョロキョロと公園内を見渡す。

 

「オーッホホホ!おーほっほっほっほ!おっほっほほホオーウホッホアアー!!」

 

 鉄棒がある所で、凄い勢いで奇声を発しながら凄まじい大回転を続ける人間がいた。回り過ぎてタイヤが回っているみたいに見えるのは、始め気の所為だと思った。

 

「うおぉぉぉ!すげー逆上がり⁉︎ もう10分ちかく回りつづけてるぜ!」

「あのねぇちゃん、にんげんじゃねぇ!」

「デデデデ!ありがとよねえちゃん!良いモノ見放題だ!!」

「だがアレだけの回転が生み出した、爆発的な遠心力。もはや、数分の命……助からぬ!」

 

 子供数人に囲まれながら、人間とは思えない身体能力で大回転する、女性らしき人物。

 目が回っても可笑しくないのに、大丈夫なのかな?と心配になる『少年』。だがその心配は杞憂へと変わった。

 

「──デュクァクシ!」

 

 鉄棒から手を離したのか、遠心力に従って高く宙を舞った女性らしき人物は、丸めた身体をグルングルンと四回転。そのまま両足と片手を地面に着けて着地──三点着地と云うらしい──をし、変な声と共に砂ほこりを巻き起こす。

 

「スゲェー!まるでヒーローみてー!」

「んでもあのすさまじい身体能力に関しては一切が謎のままだねぇ」

「ウホッ!いいオンナ……」

「あの着地、ヒザ痛くならないのかな?」

 

 なんだ今の、と『少年』は思わずドン引きしたが、周囲の子達はそんな女性をヒーローでも見るような眼差しで見つめており。子供達の歓声が公園内に響き渡っていた。

 

「はっはっはっは!そうだガキンチョ供、もっとワタシを敬いたまえ〜褒め称えよ〜!」

 

「ちょっとお姉ちゃん! なに大人気ない事やってんの!?」

 

 そこへ湧き上がっていた子供達の間を縫って割り入る、紫がかった黒い長髪にヘアカフスを着けた女子。その子は、あからさまに調子に乗って踏ん反り返っている赤茶色のロングヘアを赤いリボンで束ねた女の人と、大きく似た顔付きをしていた。

 

「なにって……此処らのガキンチョ供に、ワタシがイカにスゴいかを解らせてやっているのよ」

 

「それが大人気ないってんのよ!ちっちゃい子相手に本気なって、恥ずかしくないの!?」

 

「じぇ〜んじぇ〜ん? ワタシがスゴイってことにゃあ変わりないしね〜! そんなお姉ちゃんにお説教したかったら、(あおい)も同じことやってみたら?」

 

「出来るわけないでしょ!? アレが出来るの、ウチじゃお姉ちゃんくらいだし!」

 

「そのとぉーりッ!姉より優れた妹なぞ存在しねぇのだよ!だーっはっはっはっは!」

 

「とんでもねぇ姉だ。私はあなたという姉を持ったこと、心より恥ずかしく思います」

 

 高笑いする赤茶の女性に、紫がかった黒髪の女性が呆れた様子で文句垂れる。

 そんなやり取りを当惑した顔で眺めていた『少年』だったが、自身の袖を引っ張られる感触を覚えた事で、その方を振り向いた。

 そこには自身の袖をギュッと握り締める、オレンジブラウンのウェーブが入った髪を揺らす女の子がいた。

 

「……こっちだよ」

 

 女の子はすぐ側に生えてる木の方……“ソノヒト”を一瞥すると、近くでしゃがみ込んでた自身の顔をジッと見つめ。袖を引っ張り上げて、“ソノヒト”が居る木から遠ざけようとする。

 

「あなた、“あのヒト”見てたでしょ? おかーさん言ってたよ、あーゆーのはヘタにかかわるとキケンだから、ちょっかいかけちゃダメだって」

 

 コソコソと語り掛けられた『少年』は、なすがままになって手を引かれながら察した。この子も、自分やミツエ、そして『岡トワ子』と同じ“こっち側”の人間なんだというコトを。

 

「おねーちゃーん!トモダチみつけたよ〜!」

 

「……んえ? どしたの椿(つばき)、男の子連れて来て。もしかして子分?」

 

「いや、違うと思うよお姉ちゃん……」

 

 手を引かれて気付けば、さっきの口論をしていた姉妹二人が立ってる所まで連れて来られる。妹であろう女の子の声に気づいた二人は、その隣で「え、この二人と家族なの?」と二度見する『少年』へと目を向けた。

 

「この子ね、あそこに居る“黒いヒト”が見えるみたいなんだ〜」

 

「ほへー……この子がね〜?」

 

「……ねぇ。もしかしてこの子が、お父さんの言ってた『知り合いの連れ子』なんじゃないの?」

 

「え?………あー、なーほどね。どうりで暗い顔してると思った」

 

「お姉ちゃん、初対面でソレはちょっと流石に失礼」

 

 “アノヒト”を指差してそう説明する『椿』と呼ばれた女の子。それ聞いた二人は興味深そうに『少年』を見たが、赤茶髪の子が何やら納得した顔でウンウン頷いていた。紫黒髪の子はジト目を向けてツッコミを入れた。

 当の本人である『少年』は若干困惑しながらも、「この二人もか…」と目の前にいる三人の女子達を……彼女達から出ている“炎の様なオーラ”を興味深く観察していた。

 

「まぁいいわ。ハイこれ、あなたもどう?『お近づきの印』ってヤツ」

 

 赤茶髪の子がショートパンツのポッケに手を突っ込み、包み紙で包装された飴二、三個を取り出すと、掴み取った『少年』の掌の上へと置く。

 イチゴ味のそれを受け取った少年はジッと見つめていると、他二人にも飴を渡していた赤茶髪の子が飴の包みを剥がして口の中に放り込み、コロコロと転がす様に舐め始める。

 それにつられて、『少年』も受け取った飴を一個口に含んだ。イチゴの甘い風味が、口の中に広がっていく。

 それを見ていた赤茶髪の子は「あ、そだそだ」とポンと手を叩き、赤いリボンを靡かせながら『少年』の寸前まで顔を近づけ、悪戯な笑みを浮かべた。

 

「自己紹介はまだよね? ワタシ、紅乃茜。こっちは葵と椿、うちの妹達よ。

 それで、あなたの名前は?」

 

 それが『少年』──のちに『神童ロム』を名乗る事となる彼にとって、友人とも云うべき関係となる少女『紅乃茜』との出会いだった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「──『鋼の錬金術師』ってありますよね? ホラ、義手義足の兄と全身鎧の弟が出て来る漫画」

 

 鋏の刺繍が襟に入ったロングコート等といった黒ずくめの服装をした一人の男が、被っていた黒い帽子を胸に抱えて語りを始める。

 

「あの二人って確か、お母さんを人体錬成しようとして失敗した時に真理の扉を通って、その“真理”を見た『対価』を支払う為に腕やら全身を持っていかれた〜って話だった筈ですが……まぁ、話の内容については置いといて。

 私がこの漫画で一番『成る程、確かになぁ』と思ったのが、“等価交換”という要素なんですよね。この辺は錬金術に限らず、色んな所でも適用されるじゃないですか?

 例えば、そう──

 

 買い物をする時には、お金を払う。

 痩せる為には、それ相当に運動とかをする。

 テストで良い点数取るには、頑張って勉強をする。

 誰かに願いを叶えてもらったら、そのヒトへ何かしらの『見返り』を与える。

 

 ──といった風に、何かしらの利益を得る時には、必ず“代償”が付き纏う。

 極論言ってしまえば、『何かを得る為には、何かを捨てなければならない』……そういう話になってしまう、かもしれませんねぇ。飽くまで個人の考えですが」

 

「……それを今のワタシに言うって事は、イヤミって捉えていいのかしら?」

 

「ははは。『飽くまで個人の感想』で、只の世間話ですよ。

 それにしても、酷くやられましたね〜茜さん。まだまだ元気は有り余ってるみたいですが」

 

 病院のベッドの中で何か言いたげな目を向ける女性…紅乃茜に対し、飄々とした態度で話を逸らす男性…神童ロムは昔を懐かしむように揶揄する。

 そんな男を半眼で見つめていた茜は溜息と共に、腕が無くなった左肩の付け根からジンジンと伝わる鈍い痛みで、より深くなった眉間のシワを右手の指で揉みほぐす。

 

「全く……ワタシとした事が。いくら手加減する必要があったとはいえ、このザマなんて……もうお茶碗持てないじゃないの」

 

「気にするところそこですか?」

 

 病院のパイプ椅子に座り、軽口を叩く茜へツッコミを入れるロム。

 

「いえ、茜さんの場合は寧ろ、神クラスを相手に生きて帰って来れただけでも凄いと思うであります。それに比べてワタクシは……不意打ちに対応できず、護衛対象を守る事も出来ず、こうしてのうのうと五体満足でベッドに……!ううぅ……」

 

「うんにゃあ、鈴華ちゃんは良くやったと思うわよ? 相手は神の使いだったらしいし……誰も死んだわけじゃ無いし、貴女もの肋骨三本折れた程度で済んだのだから、これ以上気に病む必要は無いと思うわ」

 

「地味に重傷ですね。ご愁傷様です」

 

 隣のベッドでは、自身の不甲斐なさを嘆きながら、滝のように涙を流している女性、根本鈴華がさめざめと泣いていた。負傷したと思われる左脇腹付近に手を置き、歯が砕けんばかりに食い縛っている彼女は、涙と鼻水で枕を濡らしていた。

 茜はそんな鈴華を宥めながら慰めると、太腿に肘をつくロムの方へ向き直る。

 その目は真剣そのもので、先程までのおちゃらけた雰囲気は微塵も感じられない。それはまるで、“仕事モード”に入ったかのようだ。

 

「それでロムくん? お見舞いに来てくれたのは嬉しいけど、用はそれだけじゃ無いでしょ。何を企んでるわけ?」

 

「企んでるって、ひどいなぁ……ただ純粋に、お見舞いに来ただけなのに」

 

「白々しい事、この上なしね。ここに来たのも、“あの神社”に関わったワタシから色々聞き出す為だろうけど……お生憎様、アンタに話す事は無いわよ?」

 

「おや。だったらこのイチゴ大福、いらないんですか?」

 

「知ってる事はだいたい教えてあげるわ。それよりイチゴ大福早く寄越しなさいよホラホラ」

 

「茜さん……」

 

 お見舞い品のイチゴ大福が入った菓子折り箱を取り出した途端に掌返した茜を、鈴華は呆れ半分な表情で見つめていた。

 それから数分も経たない内に、茜はイチゴ大福をモグモグ頬張りながら、今回神社の敷地内で起きた事の顛末と、自身が知っている事を話したのだった。

 

「んぐんぐ……とまぁ、そんな感じで。第二形態に移行した神サマが鈴をじゃらんじゃらん鳴らし始めて、隙を晒した負け犬ちゃんはこの有様ってコトよ。笑えるでしょ?」

 

「……いえいえ。ちゃんと生きて帰って来た上に、貴重な情報を入手できたんですよ? 心配はしても、笑ったりなんかしませんよ」

 

「………あっそ」

 

 ロムは茜の話を興味深そうに、一語一句聞き逃さんと耳を傾けていた……同時に何処か、羨むような目で。

 同じくイチゴ大福に噛り付いていた鈴華は、そんな彼の僅かな表情の変化に気付き、若干の違和感を感じる。

 しかし、同じく変化を感じたであろう茜は特に突っ込む事なく、溜息一つで話を切り上げた。それを見て変に踏み込むのは野暮だと判断したのか、鈴華も口を挟むことなく咀嚼を再開させる。

 

「さて、ワタシの事は話したわよ。今度はそっちが話をするってのが、筋ってもんじゃない?」

 

「はて、何のことやら………なんて、流石に通用しませんよね〜」

 

 惚けるような口調で言うロムだったが、茜の双眸から見据えられているのを見て、観念したかのように肩を竦めた。

 

「……まぁ、茜さんだから話しますけど。他言無用でお願いしますよ? 特にミツエさんには」

 

「……ええ良いわ。わかった鈴華ちゃん?」

 

「………大丈夫です。これからガールズパンツァー見ますから、イヤホン着けて」

 

「うん、ありがと」

 

 スマホと繋がったイヤホンを耳に装着した鈴華が画面に向き合ったのを確認し、椅子の座るロムへと向き直る。

 

「そんで聞くけど、ロムくんは“あの神社”で何をするつもり?」

 

「……簡単に言えば、決着をつける為……ってトコですかね?」

 

「それは、『岡トワ子』が行方不明になった件に関係してる?」

 

「………」

 

「沈黙は肯定と捉えるわよ」

 

 岡トワ子。その名を聞いたロムは、いつもの飄々とした笑みを消して、陰のある表情を浮かべる。だが直ぐに元の胡散臭い、しかし先程より控え目な笑顔を浮かべてみせる。

 

「──茜さんは、誰かの『助けを求める声』を聞いた事ありますか?」

 

「………まぁ、こんな仕事をしていれば、何回かは聞いたりしたかしらね。それが?」

 

「私は小さい頃、“あの山”から『助けを求める声』を聴きました」

 

 ロムはそう言いながら窓の外へと目を向ける。

 病院から見える景色は、茜にとっては割と見慣れたモノ。だが彼の目には、全く別の景色が写ってる……なんとなく、彼女にはそう思えた。

 

「当時、その“声の主”を助ける為、あの神社へ赴きました。

 そして『願い』を叶えるべく、『見返り』を渡そうとした時……ミツエさんとトワ子さんが現れた」

 

「……そう。大体わかったわ」

 

「えぇ、話が早くて助かります」

 

 ロムへ視線を向け直す。後悔と哀しみ等色んな思考が入り交じった、複雑な表情が見えた。

 

「取り敢えず、貴方が“あの神社”に拘る理由は何となく察しがついた……ウチの息子を、或いはその友達を利用しようとしてる事もね」

 

「『利用』なんて人聞きの悪い。でももし可能なら、あの子達の助けを借──」

 

「あの結界を破るだけなら、ワタシ達でも十分でしょ?」

 

「いやー、難しいでしょ。今回の件で“あっち”にかなり警戒されてる筈ですから。

 それで紅乃一族が出入り出来ない様に結界の強度を高めていたら、例え茜さんでも結界を破るのは容易ではない」

 

「でもやろうと思えば、ワタシ達なら突破出来るわよ?」

 

「仮に突破出来たとして。大きくチカラを消費した上、片腕欠損した状態で、確実に勝てるとお思いで?」

 

「出来る。ていうか殺ってやるつもりよ」

 

「ははは、頼もしい限りで。あとは他の方々が、それに賛同するかどうかですね」

 

 皮肉の篭った返しをするロムに、フンと鼻を鳴らした茜は改めて横になって天井を見上げる。

 

「まったく、とんだ自殺希望者ね。これだから拗らせた真面目ちゃんは……」

 

「本人の前でなんて言い草。というか、止めないんですね」

 

「ワタシが止めても行くでしょ、貴方」

 

「えぇ、まぁ」

 

「いくらワタシでも、助けを求めて来ない人を助けられる程、余裕はあるわけじゃないし。ロムくんが“それ”を望むなら、どうぞご自由にとしか言えないわ。

 でも、これだけはハッキリと言ってあげる」

 

 そこで言葉を区切ると、ロムの目を見据えてハッキリと告げる。

 

「ウチの子とみこちゃん達に何かあったら、ガチで引っ叩いてやるから、覚悟なさい?」

 

「……えぇ、肝に銘じておきます」

 

 生命オーラを放出させてドスの効いた声音で脅しをかける茜に、ロムは背中に若干冷や汗を垂らしながらも笑みを崩さぬままそう答えた。

 

「では私はこの辺で、お暇させていただきますね。お二人とも、お大事に」

 

「そっちこそ、死なないでね」

 

「善処します」

 

「おいコラ、その返しをした奴が実際に約束を守った前例」

 

 茜のツッコミも何のその。ロムは椅子から立ち上がると、彼女から突き刺すような視線を背中に受けながら病室から出て行く。

 木組みの廊下へと出たロムは、道中で大量の点滴をつけたマスクの少女とすれ違い様に会釈しつつ、窓の外を眺めながらスリッパを鳴らして歩く。

 

「いやぁ、それにしても……流石茜さんだ。“あの神社”に喧嘩を売ったにも関わらず、生きて帰って来るなんて…………トワ子さんは、帰って来なかったのに」

 

 ポツリと呟いたその言葉は、廊下に木霊すること無く、虚しく空気へと溶けて消える。彼の呟きは、誰の耳にも届く事は無かった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 やや沈み始めた日が、空を暁色に染める頃。

 人通りの少ない商店街を、一人の老婆が歩いていた。

 

「ふぅ……たまにはこういうのも、悪くないねぇ」

 

 袋をぶら下げて歩く老婆…タケダミツエは、ほのぼのと微笑みそう呟く。

 彼女は今、商店街の外れにある小さなスーパーで買い物を終え、自身の拠点地である占い館へと向かっていた。

 そこでふと袋の中身を、購入したパックお寿司を眺め──

 

 

 

『ほら、お前も寿司もっと食え。コイツの奢りだからな』

 

『オイこらテメェ、何しれっとタカろうとしてんだ。お前らの分はお前らが払えよ』

 

『おとーさん!二人の分も奢ってあげたら?』

 

『オイ小僧、たらふく食え。金の心配はしなくていい。だがお残しは許さんからな』

 

『この親バカが……』

 

『何が親バカだ捻くれババア。そもそも許可を与えたのは飽くまでこの小僧だけであって、オレがお前の為にアレコレする必要性が何処に……』

 

『あーあーもう良い、お前の話は要約が出来てないから長いんだよ』

 

『お姉ちゃん、なんでおすし屋さんでイチゴパフェばっか食べてんのよ』

 

『そこにイチゴがあるから。それ以上でもそれ以下でも無い』

 

『イヤ。せっかくのすし屋なんだから、おすし食べようよ?ウチの近くじゃすし屋ないんだからさ』

 

『それだったら、葵もハンバーグのおすしばっか食べてるじゃんね?』

 

『初っ端からデザートに手をつけてるお姉ちゃんには、あーだこーだ言うしかくないじゃん?』

 

『ほらほら、アンタもっとサーモン食べなさい。マグロでもいいわよ』

 

『おスシハラスメント略してスシハラやめなよお姉ちゃん』

 

『ねぇキミ、なんのおすしがイチバン気に入った?』

 

『………おいなりさん』

 

 

 

「───ったく、今更昔のことを思い出すなんてね。ワシもすっかり年取ったよ」

 

 ふと思い浮かんだ、かつての思い出。

 まだ全盛期だった頃の、今よりもずっと若い同業者とその娘達……つい昨日ウチに来たロムと交わしたやり取り。それを思い出しながら、辛気臭い顔で一人呟く。

 

「明日にでも、あいつの所に行くか……」

 

 一番信頼できる男に預けた『あの装束』を脳裏に浮かべ、思案する彼女はふと空を見上げる。暁色だった空は、いつの間にか群青色に染まりつつあった。




●見円茜
つい先日、“山の神様”に左腕持ってかれたお母さん。養殖モノ。
病院でロムとアレコレ話している間、クソ親父達は現最強の甲級霊能職員が片手取られた事実に頭を抱えつつ。洋太の監視云々の対応をしながら、“山の神様”の『処置』に備えて色々と準備を行なっている模様。
ちなみに鶏肉アレルギーで、摂取すると割と深刻に死にかける。卵は普通に食べれる。

●神童ロム
“山の神様”の件で色々と暗躍している胡散臭い霊能者。天然モノ。
前に借りたハガレンを返す為に茜と会った際には、昔のヤンチャ時代とは打て変わって大分落ち着いた雰囲気になっているなーと、かつての思い出を振り返っていた。5年近く前の事である。
ちなみに動物は嫌いだが、強いて言えば狐が一番好きとのコト。ギーツは関係ない。

●ゴッドマザー
久し振りに元弟子と再会した霊能者のお婆ちゃん。残りモノ。
ふと仕事仲間である清巳とその娘達の事を思い出し、もうあの頃には戻れぬ事実に若干の淋しさを覚える。だがそれはそれとして今は“山の神様”の件を片付ける為、『あの装束』を取りに元夫の所へと向かおうとしていた。
ちなみに好きな動物は雀である。セトさんの雀とナッジスパロウは関係ない。

●くだらないあとがき
みんなァ!久し振りにオラの脳汁迸らせて(高評価)くれェェェ!ランキング上位入りさせてくれェェェェェェ!!ついでに励みになるから感想もお願いしますぅぅぅぅぅぅ!!!!(他力本願クソカス作者)
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