見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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ホントはもうちょい長く書くつもりだったんですが、ゴールデンウィークなの(モチベと尺の関係)で、前編後編で分けます。ご了承下さい。

この世の全ての生命(しょくざい)に感謝を込めて……いただきます!


もしかしたら、今日もごはんが美味しいのかもしれない・蒼玉α編

 ──現在地、調理室。只今、10時30分過ぎ。

 私こと四谷みこは家庭科の授業の一環として、自分とハナを含めたクラスメイト四人で班を組み、今回の調理実習テーマであるハンバーグを作る事になっていた。

 

「じゃーん!かんせい!」

 

「……なんのキメラ?」

 

 目の前にあるお皿の上には、液体と毛の様なナニカを割れ目っぽい箇所から垂れ流した、凄まじい見た目をした四足歩行の肉塊生物?が立っていた。

 料理というには余りにも禍々しいそれを作った張本人(ハナ)曰く、おまけで創作料理を一個作ってみた、とのコト。おまけの主張強くない?

 

「みこって料理とかすんの?」

 

「うん、たまに。弟の弁当とか作るよ」

 

「へー優しいっ」

 

 親友の手によって産み出された度し難いナニカに困惑していると、クラスメイト兼班のメンバーであるちえからそんな声を掛けられた。

 挽き肉が入ったボウルを持ちながら質問に答えた私に向け、同じメンバーの野田ちゃんからは微笑みを向けられる。

 

「ふふっ。モチロン恭ちゃん以外にも、洋太くんの為に作ってあげたりもしてるんでしょ? みこの手作り料理!」

 

「……なんでそこで洋太が出てくるの? あと“モチロン”って何?」

 

「洋太くんって確か……みこの幼馴染だっけ? ここんトコしょちゅう話に出て来る男の子」

 

 するとデザート作ろかな〜なんて呟いていたハナが、ニマニマしながらそんな問いを投げかけてくる。それを聞いたちえ達は、心成しかさっきよりも興味深そうに、それでいてワクワクした様子で会話へ入ってきた。

 

「そうそう!小1の頃からの付き合いみたいで、すっごく仲良しなんだっ」

 

「そっかぁ。通りで彼の話をしてる時のみこ、凄く嬉しそうな顔してる筈だよ〜」

 

「……え待って二人とも。私そんな顔してた?」

 

「うん、完全に乙女の顔だったよ。最近はメスの顔だったけど」

 

「メスの顔って何!?」

 

 ハナの口から飛び出してきた発言に、ちえ達が語った話の内容も相俟って、徐々に顔が熱くなっていくのを感じながら、思わず大きな声を漏らしていた。

 いや、確かにここ最近アイツに対して好意を抱いているのは事実だけど。百歩譲って乙女の顔は兎も角、いくら何でもメスの顔って……

 

「それで結局、愛しの幼馴染クンに料理振る舞ったりするの? その辺、如何なんでしょうか四谷みこ選手!」

 

 なんでインタビュー形式なのかとか、愛しの幼馴染だとか何とか、ツッコミたい部分は結構あるけど。計量スプーンをマイクの様に持ち構えたちえの問いに対し、取り敢えずハンバーグのタネを作りながら答える事にする。

 

「別に、アイツの為に作ったりとかは無いよ? そもそもアイツ、割と料理とか出来る方だし、わざわざ私が作ってあげる機会とかもないから……」

 

「えっ、何その優良物件。料理出来る男子が幼馴染とか、マジで羨ましいんだけど?」

 

「そうでもないよ。洋太の作る料理、別に不味くはないんだけど……特に美味しいわけでもなくて……なんていうか、『可もなく不可もなく』って感じだから。

 この間アイツと作った肉じゃがも、何故か微妙な味になってたし……」

 

「まってまってまって。『アイツと作った』……? それってつまり、洋太くんと一緒に料理を作った……ってコト⁉︎ オマケにその言い方だと、何度か洋太くんの手料理を食べた事になるよね……!」

 

 この間お母さんが用事で家を空けてた時、ウチに来た洋太と晩御飯を作ることになって、最終的に恭介から「なんでこんな微妙な味になってんだよ」と味の文句を言われてたのを思い出して苦笑する中。頬を赤らめて目をキラキラさせたちえがグイっと身を乗り出し、野田ちゃんも同様に目を輝かせて「うわぁ……!」と口元を隠していた。

 

「うん、そうだけど……私、なんかおかしなコト言った?」

 

「かぁーーーッ!自覚無しかァ〜〜! だってさぁ、同じ屋根の下で? 同じ釜の飯を? 二人で作ったんでしょ!?」

 

「??……えっと、それがどうしたの?」

 

「どうしたのって……だってもう完全にそれ、夫婦の共同作業じゃん」

 

 なんか興奮した様子のちえに小首を傾げる私の鼓膜に、少し呆れた様な顔で嘆息する野田ちゃんが放った一言が、妙にはっきりと聞こえてきた。

 

 ──夫婦の共同作業。

 

 その単語を反芻した私は、せっかく出来上がったタネをボウルの中に落として、顔全体が真っ赤に染まっていくのを感じ取る。

 

「ふっ──!?!? なっ、ななななんな何言ってるのッ⁉︎ ふ、“夫婦”って……! あ、アイツとは、まだそんなんじゃないから……⁈」

 

「ふぅ〜ん……()()ってことは?いつか『そうなりたい』と考えてる、のかなぁ〜?」

 

「…………え、あっ……ぅあ……っ」

 

 誤魔化す様に形の崩れたタネを改めてこねくり回すが、そんな私の様子を目に収めたちえにニマニマ顔で失言を指摘され、何か返そうとした言葉を失う。

 

 ……た、確かに、別に『そういう未来』を望んじゃいないわけじゃないけど。前に「そういう目で見てない」なんて言った手前、今更そんな関係になるのは、何か違う気がするというか……アイツが『それ』を望んでいるとは、思えないというか……

 

「──二人とも……こんな初々しいみこは多分今だけだから、もっとたくさん見た方がいいよ」

 

「ハナはなんの立場で言ってんの?」

 

 頭の中をそんな思考がぐるぐると回っていたそんな合間、調理台の上に肘をついて「見なよ……あたしと洋太くんのみこを……」と言わんばかりにドヤ顔で親指を向けるハナ。それにツッコミを入れる野田ちゃん。此方へ羨望の眼差しを向けるちえは、調理台に突っ伏す勢いで項垂れていた。

 

「いーなー。あたしもみこんトコみたいな、仲良い幼馴染欲しかったなぁ〜!具体的には、名探偵コナンに出てくる様な関係のヤツ。最推しは安室さんだけど」

 

「コナン基準だと、主にシャーロキアンか推理オタクの幼馴染になったりしない? あ、ちなみに私はキッド様推し〜」

 

「なんで急に推しキャラの話?」

 

 羞恥心でキャパオーバーを起こしそうになっていた脳味噌の処理が漸く落ち着いて来た所で、家庭科の先生から「余裕のある班は担任の先生の分も作って」という指示に気付いたちえは、料理が苦手だと言ってたにも関わらず張り切ってハンバーグ作りに勤しむ。

 

「見て見て。善センセーのハンバーグ、ハート型にしてみた」

 

「恥ずかしくないのかい?」

 

「うるさいな、これくらい大胆な位が丁度いいもん。あ、みこも作ってみたら?旦那サマもきっと喜ぶと思うよ〜!」

 

「だからそんなんじゃないから……っ」

 

 ……でも、洋太にはお世話になってばかりだし、ミサンガ貰ったお礼もあるし。このくらいはやってあげないと、バチ当たっちゃうよね?

 そう思ってアイツにあげるハンバーグのタネを形作ってる私を、ハナは微笑ましそうな表情で見ていた。

 

「んふふっ。みこって、ホント洋太くんのこと好きだよね〜!そのハンバーグも、彼の為に作ってるでしょ?」

 

「えっ、なんで……」

 

「だって、また乙女の顔になってたもん。妬けちゃうくらいにね」

 

「……もうっ、やめてよ。それに私はハナの事も大好きなんだから、そんなに拗ねないの」

 

「……えへへ。また告白されちゃったっ」

 

「おやおやぁ?みこ選手、早くもハナに浮気ですかい?」

 

「はいはい、それよりハンバーグ作ろ?善先生にあげるんでしょ」

 

 口を尖がらせてたハナをあやし、おしゃべりし続けるちえに料理を促す。

 何処にでも目にする、そんな当たり前の日常を過ごしながら、楽しくハンバーグを作る為の手を動かす。

 

 ──びたっ、びたんっ。びたん、びたん……っ!

 

『つくる つくるっ』

 

『■■、■■■■!』

 

(………後は、“あれ”がいなければ完璧なんだけどなぁ……)

 

 思わず出そうになる溜息を堪えて横目を向けると、でっぷり体格の上にエプロンや手袋を身に付けた、大きくギョロッとした死んだ魚の如き目と顎下から生えた太い左手指が特徴的な化け物が立っていて。歯茎を剥き出しにした口で縄の轡を噛み締めながら、小型の“ヤバい奴”をコンロの上に叩きつけていた。

 ここで一番の困惑ポイントは、子犬形態の白い狼がいつのまにかミサンガから出て隣にある料理台の上を陣取り、化け物に向けて指示の様な唸り声と吠え声を発している事である。

 あなた、ホントに何してるの?

 

(なんだろ……なんか、料理?してるっぽいけど……)

 

 隣から嫌という程に聞こえる打撃音で気が滅入る中、化け物が後頭部から伸びている鎖を掴んで、地面に沈んでいた鎖を引っ張り上げる。

 ピンと伸びていた鎖の先端には釣り上げられた魚の如く、小さいおじさん(略してちいおじ)が太い釣り針に突き刺さっていた。

 

「みてみてー!星トマト!」

 

「……わぁぁ、めっちゃ可愛い」

 

『しんせん しんせん』

 

 化け物はちいおじを針から外して早速ミンチにして黙らせると、新しい獲物を捕る為に鎖をしならせながら再び地面の中へと投げ込もうとする。

 その直後、隣の調理台から重量感のある物体がドサっと落ちる音がして。気を紛らす為にハナ達と会話していた私は、恐る恐るそちらを覗いてみる。

 

『ア……ア“ァ……』

『た゛……だず げ……ぐぶぇッ』

 

(……うっわぁ)

 

 そこには真っ黒い煙を立てる“ヤバい奴ら”の残骸らしきものが、ぐちゃぐちゃに焼け焦げた状態で山を形作り。辛うじて原型を留めて呻き声を発していた奴は、(紅い数珠を着けてた時よりも小さいがそれでも)体高が大型犬程の大きさへと成っている白い狼に頭部を叩き潰されていた。

 ……もしかして、あの子が集めたの? だとしたら、いつの間に集めてきたの? それも目を離した一瞬の内に。てかそもそも、何の為に集めて来たワケ?

 

『……■■、■■■■』

 

『……ちがう ちがう ち──』

 

 気怠そうに一息つく白い狼は、残骸の山に爪を向けて化け物に何かを指示している様で。その指示に対し、焼け焦げたそれらを一瞥した化け物は、明らかに不満気な声を上げていた。

 刹那、化け物が持っていた鎖が一瞬の内に斬り刻まれて、ジャラジャラと地面の上に散らばり。目の前では爪を立てた白い狼が眉間に皺を寄せ、口からは牙を剥き出しにし、恐ろしい位の殺意を発していた。

 

『理解出来ぬなら、もう一度言ってやろう……これで、足りるか?

 

『……まんぞく! まんぞく! まんぞく!』

 

『……■■■■』

 

(めっちゃ脅してるじゃん……)

 

 白い狼の低く唸る様な声色に、化け物が慌てて頭を振って頷く。満足した様に鼻を鳴らした彼はまた子犬みたいな姿になり、さっきまでの威圧感は何処へやらって感じで、身体を丸くして欠伸を溢す。

 一連の流れを見ていた私は、悍ましくグロテスクな見た目の化け物に対しなんか気の毒に思いながら、ハンバーグのソース作りに取り掛かった。

 

 

 

 ──某女子校、調理室。11:55 a.m.

 殆どの班がハンバーグを完成させ、あちこちから歓喜の声が上がり始める。そんな中で私達の班も、担任の善先生に食べさせる分のハンバーグが出来上がった。

 

「もうできるよ〜じゃーんっ!」

 

「おー!おー……うん…………チギャウ、チギャウ……コンナハズジャ……」

 

「……元気だそう?」

 

「う〜ん、よしっ」

 

「何を思って“良し”と思ったの?」

 

 なお肝心のハンバーグは、ソースで煮込み過ぎた所為で形が若干崩れ、オマケにトッピングのプチトマトが破裂した事で、血涙を流した肉塊クリーチャーみたいな見た目になっていた。他のトッピング?が手みたいに飛び出てるの相まって、まあまあグロテスクである。

 完成したハンバーグの出来に、ちえは手で顔を覆って俯向き、野田ちゃんに苦笑いで慰められていた。

 

「コレは、流石にアレじゃない……? 料理って、見た目が大事だって聞くし……」

 

「そうかな? あたしは良いと思ったけど。

 それに一番重要なのは見た目じゃなくて、味だと思うし!」

 

「じゃあ徹君にあげるってなったら?」

 

「………………………………よーし!さっそく善せんせーに持っていこっ!きっと喜ぶよ〜♪」

 

「ねぇ質問」

 

 ──料理といえば、あのヤバい奴と白い狼はどうなったんだろう? 陰惨な光景を見ないようハンバーグ作りに集中して、何回も聞こえた叩きつけ音以外の情報を必死に遮断してたけど。

 

『……どうぞ』

 

 気になって隣の方を振り向くと、調理台の上には巨大なハンバーグみたいな見た目の、ヤバい奴らで作られたと思われる肉塊が人面を浮かべており。その前で座っていた白い狼へ献上する様に、化け物がその肉塊を彼の前へと差し出していた。

 あれ、やっぱり料理(?)だったんだ。そんな感想を抱いていると、白い狼はヤバい奴らの成れ果てに鼻を近付けて匂いを嗅いでおり、やがて大きな口を目一杯に開いて喰らい付いた。

 

『…………グム……グルゥ……』

 

 ひと噛みする度に肉塊から血飛沫が吹き出し、それを白い狼は舌の上で転がしながら味わう様に呑み込んでいく。

 やがて全てを平らげた彼は、ゴクリと喉を鳴らした瞬間……

 

『──毛ェ入ってるじゃねぇかァッ!!』

 

『ひでぶっ』

 

(えぇぇぇぇーー!?)

 

 再び大型犬みたいな姿へと変化し、化け物の顔面に正拳突きを叩き込む白い狼。

 物凄い勢いで吹き飛ばされた化け物は壁を透過し、叫喚が段々と遠くなっていくのを、唖然としながら聞いていた。

 

『………チッ』

 

(えぇ……いや、えーー……)

 

「お願いハナ!みんなで作ったコトにしてっ!」

 

「えっ? ちえが作った〜って事にしなくて良いの?」

 

「いーの!寧ろそっちの方がダメージ少ないし!」

 

 なんか、この世に蔓延る理不尽の縮図を垣間見た。

 不機嫌に舌打ちを鳴らしてミサンガの中へと戻っていく白い狼を見ながら、ついでにちえがハナと何か話しているのを背にしながら、そんな事を思った。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 ──某男子校、調理室。只今、10時35分あたり。

 

「──へっ、へぶしッ!」

 

 急に襲い掛かって来た鼻のムズムズでくしゃみが出そうだったので、袖の内側で口周りを抑えて飛沫が出ないようにする。しっかし、なんで急にくしゃみが……?

 

「おい、大丈夫か洋太?」

 

「んあ〜……だいじょーぶ。多分、誰か僕の噂話をしてる気がしただけだから」

 

「漫画とかでよくある描写」

 

 片手鍋でブロッコリーを下茹でしてる徹が心配そうな目でこちらを見るので、大丈夫な事を伝えながら鼻の下を擦る。

 そうこうしている内に、調理台の上には切り終えた乱切りのジャガイモにんじんがボウルの中へと投入されていく。

 

「そーいえば、今度の文化祭でやるクラス喫茶でも、シチュー作るんだっけ?」

 

「んだな。ほんでその予行練習っちゅーことで、こうして調理実習やってるワケだけど」

 

 そう応えながら徹は、茹で終わったブロッコリーを湯切りする。

 

「シチュー以外にも、オムライスやクッキーも出すコトになってたよね?

 教室の模様替えに加えて、人数分のコスチュームを用意したり、人によってはイチから作ったりで予算カツカツなハズなのに、結構メニュー豊富なのスゴいよね〜」

 

「まぁその代わり、オムライスの方は冷凍食品で、クッキーもドンキで買った格安だけどね」

 

「しっかし……なんで俺らが、シチューの材料を持参しなきゃなんねぇんだよ。こういうのって、学校側が用意するもんだろ……少なくとも、俺が中学の時はそうだったぞ」

 

「先生の話だと、文化祭の予算を少しでも節約するため……らしいけどね」

 

 別の班でホワイトシチュー作成に取り組んでいた委員長と錦吾くんが、隣の調理台から補足を加えて会話に入って来た。

 彼らの方を見てみると、コトコト煮込む音を奏でる大鍋へシチューの素を投入する委員長。肉団子にする為なのか、鶏肉を軟骨諸共リズミカルに細かく刻んでチタタプへと加工する錦吾くんの姿が見受けられる。

 そういえば錦吾くんって、確か中学の時まで北海道にいた言ってたし、それと関係あったりして……いや、ないか別に。

 

「それにしても……同じシチューでもみんな、結構自由に作ってるね。英次郎の班はイナゴや蜂の子投入してるし、若林くん達の班は何故かミキサーに野菜とかなんとか入れてるし……何アレ、ジュースでも作るの?」

 

「それ言い出したら、ウチの班も大概だけどな。ドブカス眼鏡なんか……」

 

「……なんやジッと見て、気持ち悪い」

 

「白沼くん。さっきから気になってたけど、なに捌いてるの?」

 

「見りゃ分かるやろ、今が旬の秋鮭やで?」

 

「……うん、まぁ。確かに鮭シチュー美味いよね、それは同意する」

 

「なんや、文句あるんか」

 

「イヤ、文句っつーか、なんてゆーか……なんで鮭を丸々一匹捌いてんのよ!? しかも結構イキのいい奴!」

 

 そんなツッコミを入れる徹の指先には、調理台の半分近くを占拠してシャケの解体ショーをみんなの前で披露している白沼くんがいて。既に三枚下ろしにされたシャケが、どんどん手の平サイズの切り身へと姿を変えていく。

 確かにいくら調理実習とはいえ、学校の授業でシャケを丸々一尾捌く人なんて初めて見たし、インパクトが強過ぎて仕方がないのも分かる気がする。

 

「別にえーやろ、食えないもんじゃあらへんし」

 

「いやまぁ、それはそうなんだけれど! なんでわざわざ此処で捌いてるんだって話になるワケで、ここさ持って来る前にお前ん家で捌いておけば良かったじゃん」

 

「あ? なんでウチの家で魚捌かなあかんねん。家ん中魚臭くなるやろがい」

 

「学校でなら魚臭くなってええってか、このドブカス眼鏡。

 それはそうと志々島、お前いつまでカッコつけたポーズ取ってんだよ」

 

 シャケの解体を続ける白沼くんを、徹がこめかみに青筋を浮かべながら睨む中。カットしたタマネギと受け取った野菜を大鍋で炒めていた玲音くんは、手で顔を押さえながら天を仰いでいた。(あと徹の言う通り、何故かちょっとカッコいいポーズをしていた。玲音くんじゃなかったら、こんな厨二臭いポーズ許されないよね☆)

 

「……あぁ、なんて事だ……ボクとしたことが……!」

 

「どしたの玲音くん、急に推理ミスした右京さんのモノマネして」

 

「何故そこで相棒……? いやそれは良いとしてマイフレンド洋太くん、ボクはとんでもないミスを犯してしまった……♠︎」

 

 野菜が焦げぬ様ヘラを動かしつつそう呟く玲音くんの方を見ながら、僕と徹は顔を見合わせる。

 とんでもないミスとは一体……?そんな疑問を余所に、コンロの横で肘を着いて額に手を当て、深く溜息を吐いていた彼は何を思ったのか、顔を上げながら口を開く。

 

「調味料用の白ワイン……持ってくるの忘れてしまった……!」

 

「………別にいーんじゃねーか?それくらい」

 

 うん。てっきり野菜を真っ黒焦げにしたとか、シチューに使う小麦粉や牛乳忘れたとかだと思ったよ。いや小麦粉云々はシチュー作る前に確認済みだから、闇の白い粉やバリウムと間違えたとかじゃない限り、それは無いんだけどね?

 

「なにを言うか! 白ワインを入れたか入れないかで、シチューの味は大きく変わるのだよ⁉︎ 白ワインの原材料たる白ブドウ特有のフルーティーな風味を漂わせ、仄かな酸味がプラスされたホワイトシチューでないと、ボクはシチューとして納得することが出来ないのだよッ!」

 

「いうてねぇ……ちいと酒入れたかどうかでそこまで味が変わるもんちゃうし、そもそもそない細かいとこまで拘る必要無いやろ」

 

「鮭捌きを披露するのに、マイ包丁を持参した人の言葉とは思えないね」

 

「ボクの家ではっ!シチューには必ず!白ワインを入れるってっ!決めているんだッ!!」

 

「わかったわかった。だから迫真な顔で叫ぶのやめなさいや」

 

 しかしねぇ……ここに白ワインがないとなると、玲音くんが所望するシチューは完成させられないワケで。大変申し訳ないが、こればっかりはどうにもならないかなぁ……

 とりあえず白ワインの代わりになりそうなモノを探すべく、僕は他班の調理台をキョロキョロと見渡す。すると溜息を漏らした玲音くんが、エプロンのポッケからスマホを取り出した。

 

「仕方ない……Amasanで白ワイン購入するか」

 

「まさかのAmasanかよ!それも今!?」

 

「オイオイオイ、とんだアホやなぁ。それで直ぐに来るわけないやろ」

 

「ほう、Amasanですか……たいしたものですね」

 

 スマホを操作し、あっという間に白ワインの購入を完了する玲音くん。

 そんな彼を見た徹がまたもやツッコミを入れ、白沼くんが馬鹿にしたように嗤う横で、なんか調理台の引き出しに偶然入ってた伊達眼鏡をかけた僕は感心の眼差しを送る。久し振りのデータキャラです、メガネクイッ。

 

「ドンキが古今東西色んな商品を扱っている様に、クソでかい物流センターを持つAmasanは、その仕組みからショッピングから配送までのタイムロスが殆どなく、どんな時でも早く届け物がやってくる(ウィキ調べ)。だからそこで頼めば、直ぐに白ワインを手に入れる事が出来る……理に適ってるよ」

 

「ンなわけねーだろ⁉︎ いくらAmasanでも、実習の合間に来る訳が──」

 

「ちぃーっす、Amasanでーす!お届けモノ持って参りましたー!」

 

「おいマジで来やがったぞ、しかも秒で。幾ら何でも早すぎだろ」

 

「疾風迅雷やね」

 

 唖然とする班の二人を他所に、調理室の戸を開けて姿を現した配達員のお兄さんとアレコレやり取りして無事に白ワイン(200mlのキャールサイズ)をゲッチューした玲音くん。嬉しさと安堵感が溢れるホクホク顔である。

 

「さーてと!調味料の白ワインが届いた所で、改めてシチュー作りを再開するとしますか! ほんじゃ白沼くん、切り終わったシャケを大鍋に入れたって」

 

「ハイハイ、言われんでもそうするつも……………おう馬鹿猿、お前何切っとんねん」

 

 玲音くんが早速白ワインを小さじで鍋へ入れ始めた所で、白沼くんもまな板からボウルへと移した一口大のシャケを持ち、鍋へと投入しようとした所……なんかこちらを二度見した。

 僕は小首を傾げた後、何か問題でもあっただろうか?と怪訝そうな顔をした彼を見つめ……現在手元にある、右手の包丁とまな板上の剥かれたバナナへ視線を移す。

 

「何って……バナナだけど」

 

「………デザート用の奴か?」

 

「シチュー用の奴だけど?」

 

「まじかスゲーな。シチューにバナナ入れようとする阿呆、初めて見たわ」

 

 そうかなぁ? 僕的にはコレも、意外とイケるんだけど。それにこういうのって、カレーにリンゴを入れたり、酢豚にパイナップルを入れたりするのと似た様な奴じゃない?

 

「あっ、でも流石にそのまま入れないよ? ウチで作る時も大抵、火が通りやすい様に切ってから入れてるし」

 

「その台詞からして、お前ん家でもシチューにバナナ入れとんのかいな。別に知りとうなかったわその話」

 

「お前もそう思うか白沼。正直俺も、シチューにバナナ入れるのはどうかと思ってたんだよ。言う機会なかったから言ってなかったけど」

 

「お、久し振りに意見が一致したな影す……おい待てやお前、何入れとるんや」

 

 白沼くんはそう言って、玲音くんが煮込み始めたシチューの鍋へ紅生姜をドバドバ投入する徹を見てギョッとしつつ、キョトンとする彼に問い掛ける。

 一方玲音は白沼くんの声が耳に入っていないのか……或いは意図的に無視してるのかは定かではないが、構わず紅生姜をドバドバ入れる徹を特に制止せず。気にも止めもしないまま、薄力の小麦粉を弱火で炒め続けていた。

 

「何って……紅生姜だけど」

 

「おうそうか、少なくともシチューに入れるもんちゃうやろソレ」

 

「そうかぁ? 俺的には意外とイケるぜ? それにな、紅生姜ってのは万能食材なんだぞ?

 カレーを始めとして、牛丼や焼きそば、お好み焼きに練り物にベストマッチで、挙句の果てにはおつまみとしても優秀なんだ。デザート系以外の料理にぁ大抵添えられ、単品でも美味しい食材、それが紅生姜だ。どこに間違いがある?」

 

「取り敢えずお前は病院に行け、舌と頭のな」

 

 紅生姜を入れてた瓶が調理台の上に置かれる。まな板に上のバナナも、1cm台の輪切り状態で揃った。

 

「病院云々は置いといて徹、そんなに紅生姜入れて良いもんなの? ホワイトなシチューがピンクのシチューになったりしない?」

 

「でぇじょうぶだ。ちゃんと汁を切ってから投入したから問題ない。それはウチでも作った時に検討済みだ」

 

「テメェも家で最低一回以上は作っとるんかい⁈」

 

「天匙クン? 鮭入れるなら早く入れてくれるかい? 時間押してるから」

 

「お前はお前でなんで止めへんのよ、耳と目ェ腐っとんのか腐れイケメンっておいおい洋太、何しれっとバナナ入れとんねや。なに?なんなの?ウチが悪いんか? 自分で言うのもアレやけど、今回ばかりはウチ全く悪くあらへんよな?」

 

 

 ──某男子校、調理室。00:03 p.m.

 ハイ、途中キンクリしましたが無事にシチュー作りが完了致しました。他の班も同様に作り終えたシチューを器に盛り付け、実食を待つばかりとなっております。

 

「それでは諸君……待ちに待った実食の時間だ。

 配膳は済ませたね? それでは、いただきますッ」

 

 1メートルのコック帽とダンディなお髭が特徴である家庭科の庭澤先生が号令すると、他の班も同じくいただきますと合掌し……いよいよ実食タイムがスタート。ちなみに先生の前には、玲音くんが利用して余った白ワインが置かれていた。

 

「………………何やろ。フツーに美味のが腹たつわ」

 

「うん、やっぱアレだな。紅生姜入れたお陰じゃねぇかなコレ」

 

「いや、ボクの白ワインが素晴らしいマリアージュを起こしたお陰さ」

 

 白沼くんは不屈そうに舌鼓を打ちながらそう呟き、徹と玲音はドヤ顔で胸を張りながら、スプーンでシャケやジャガイモなどと一緒にシチューを口に含む。

 うーし、それじゃあ僕も早速一口食べて───

 

 

 

「まさかシチューでバナナを食う事になるなんてな。洋太、お前はそれ食ってみてどう思……」

 

「──あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!なんか〜気分良くなってきたなぁ〜〜!シチューどんどん持ってこーい!」

 

「……おい待て、もしかしてお前酔っ払ってんのか? シチューに入った白ワインでか⁉︎」

 

「ブフッ。洋太マジかお前、酒弱すぎやろ!マジウケるわ〜っ!」

 

「こういう料理って、大抵アルコールが殆ど蒸留してるハズなんだが……」




●見円洋太
幼馴染は脈アリな馬鹿猿。この世に生まれた事が──
男子校で親友+ドブカス眼鏡+超絶イケメン男子とグループを作り、ごちゃ混ぜホワイトシチューを作った。味は意外とイケるらしい。「今日はシチューを作ります! 並べ、逝け」
ちなみに前々回見たという夢の内容は、クソでかい力士とバナナ大食い対決五番勝負を交わし、無事に勝利したというモノだったらしい。だからなんだよ。

●四谷みこ
幼馴染が陽源性単細胞である可哀想な子。やがて星が降る。
女子校でハナと他クラスメイト達と班を組んで、特級呪物の様なハンバーグを作成。食した善先生曰く、味は普通だったとのコト。「此方、100%ハンバーグでぇす!」
前々回の話で幼馴染と別れた後、「洋太の事はそういう目で見たことない」と言った手前、今更好きだなんて言える筈ないもんなぁ……と、自虐していた。

●ちえ&野田ちゃん
みこのクラスメイトである名前有りのモブキャラ。モブ厳世界だと、さっきまで命だったものが辺り一面に転がる一歩手前くらいのポジション。
ちえは黒いリボンでお団子を作っている子で、何度か名前で呼ばれたりしている。善せんせーにハンバーグ作ろうとする位には彼へ好意を抱いているが、当の本人は対人への興味がかなり薄いので全く相手にされない。苗字は知らん。
野田ちゃんはちえとよく一緒にいる、毛先がウェーブ状になってるミディアムボブの垂れ目娘。みこちが禁断の凶おみくじ“三度打ち”を叩き出した回でちえと登場した際に、彼女の苗字が発覚した。名前は知らん。
(追記:原作三巻読み返したら、ちえの苗字が森野だったぽいし、野田ちゃんの苗字も出てたばい。おいは恥ずかしか!生きておられんごっ!)

●調理室のヤバい奴
ホラー系肉屋のエプロンを身に付けた、料理人らしき風貌の化け物。カニアマゾンではないが、個人的にぁ魚類寄りの顔だと思った。(呆れたな……‼︎今時流行らんぞ、魚人差別など……‼︎)
調理室で料理?をしようとした所、不幸にも急にハンバーグが食いたくなった白狼に目を付けられ、色々と口出しされながらハンバーグ?を作る事になってしまった。尚結局お気に召さなかったのか、顔面を思い切り引っ叩かれた模様。理不尽ッ!
白狼「やっぱり下民が作ったヤツはダメだな、うん。少しでも期待したのが愚かだった」

●白い狼
みこ達がハンバーグを作ってるのを見て、食い患いを発症させた狼の守護神。
紅い数珠に入ってた時は大本からエネルギーを常時供給される為に、体高を160cm以上の状態で維持出来ていたが。ミサンガの場合は充電式なので、エネルギー節約の為に通常時は小型犬くらいの姿を維持し、力を行使する際にのみ大型犬形態(体高60cmくらい)へ変化する様になってる。
ポケモンで例えると、数珠装着時は50%フォルム、ミサンガ装着時はプニちゃんから10%フォルムへとチェンジするジガルテみたいな状態。

●Amasan
原作第4話で、豪塚さんの飼い猫になる捨て猫ちゃん(とノッポのヤバい奴)が入り込んでた段ボールに書かれてた文字より判明した、Amazonが元ネタである企業。アーマーゾーン!
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