『友情』
『素敵な日常をいっぱい』
全部混ぜるとむっちゃ順風満帆な高校生活を送れる……はずだった。
だけど、四谷みこはある日唐突にとんでもない能力を手に入れちゃった!それは?
『霊視能力レベル
それはそれとして拙作に登場したオリキャラ達!
その場のノリで霊や怪異を浄化したりなんやかんや共存したりする!
見円洋太!
影杉徹!
その他大勢!
出来ればみんなにいっぱい見て欲しいです!モチロン原作の方もたくさん見てほしいよ!見える子ちゃんと見えない夫くん!
“その空間”を分かりやすく解説するとしたら、大正ロマンをモチーフにしたと思われる部屋であり。色取り取りなステンドグラスや白いテーブルクロスなど、ハイカラな間取りが成されていた。
《──This ain't a song for the broken-hearted……》
だけど“そこ”は、ハイカラというにはあまりにも寂れた造形になっていて。
端がややボロボロになっているテーブルクロスの至るところに、血痕らしき赤い液体が付着し。木目状の腰壁が貼られている、大量に飛び散った赤い液体を滴らせる白いビニールシートの壁には、不気味な人物画が額縁と共に飾られている。
《No silent prayer for the faith-departed……》
窓際の方を見てみると、何個も浮き出た目玉や踊り狂う骸骨といった、不安な気持ちにさせるデザインが施されたステンドグラス窓に、所々赤い手形がへばり付いており。だがそこから差し込まれる光は、薄暗い雰囲気を漂わせる空間に鮮やかさをもたらしている。
《I ain't gonna be just a face in the crowd》
そして薄暗くホラーな感じを出してた筈の教室を、スピーカーから放たれる力強いロックなメロディに合わせて、スタンド式ミラーボールから放射されたカラフルな輝きが照らしていた。
《You're gonna hear my voice》
教壇の上では、赤茶色の毛並みが特徴的な耳と尻尾を身につけ、首元には同色のファーマフラーを巻き付けて背中が空いたメイド服を着たヒトが、タバスコの容器を片手にポージングを取っていた。
《When I shout it out loud》
膝にギリギリ届かない長さ丈になっているスカートの下から覗く、ガッチリとした硬質感が伺える生脚を踏み締め。肩出しノースリーブで露出した腕が折り曲げられる度に、上腕二頭筋と三頭筋を盛り上がらせ、筋肉質な体付きを此れでもかと強調し──
《It's my life──!》
「ヤ゛ア゛ァ゛ァ゛ァァァァーーーッッッ!!」
メイド服を着たその人……いや、
教卓の上にお盆共々置かれたオムライス目掛けてブチまけられたタバスコは、ケチャップの代わりに黄色い薄焼き卵を赤く染め上げる。
「──はぁ〜い! お待たせしましたご主人様♡ こちら、ヨウちゃん特製マグマオムライス“タバスコ増し増し”でございま〜す!」
「うおぉぉ〜!キタキタキタぁ!! たまんねぇなァ、この刺激的な香りぃ!!」
やがてメイド服を着たそいつは片手でお盆を持ち、爽やかな笑顔と共に近くの席に座る男性客へ、タバスコのたっぷりかかったオムライスを配膳。
注文の品を受け取った男性は、酸味と辛味の混ざった独特の刺激臭を纏った料理に目を輝かせ。プラスチックのスプーンを片手に笑みを濃くし、舌でも感じるであろう刺激を今か今かと待ち侘びている様子だった。
「それではご主人様!此方のオムライスをもっと美味しくさせていただくことも可能ですが、いかがいたしましょう?」
「よろしくお願いしまァす!!」
「かしこまりました〜♡ おいしくなーれ! 馬! 虎‼︎ 憤!!!」
何だその手の動きと掛け声。と言いたくなる程、目にも留まらぬ程に素早い動きで複数もの手印を作り、最後に迫真の形相と声量で手をハート形にしてオムライスに向ける。
「さぁ、召し上がれ♡」
そんなメイド服を着たそいつ……幼馴染である洋太の様子を、ライブ女装喫茶『怪物娘達の戯れ』内に設置された席へ着いていた私は下唇を軽く噛み締め、眉間に皺を寄せて眺めていた。
前に洋太から「クラスで喫茶店やるんだ〜」ていう旨を伝えられて、てっきり普通の喫茶店をやるもんだと思ってたから、余計に思考回路がこんがらがっているのを感じた。
「……えっと、みこちゃん? 今すごい渋い顔になってるけど、大丈夫……?」
「…………うん、大丈夫。大丈夫だよ、ユリアちゃん……うん、大丈夫大丈夫……」
「みこ……その顔で『大丈夫』は、ちょっと無理があるよ……?」
「にゃあぉ」
同じく席に座っていたハナ達は勿論の事、膝の上で丸くなる黒猫からも心配そうな面持ちで声を掛けられた私は、数回深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
……いや、まぁ。別に女装する事自体は、取り敢えず良いとして……何故にああも恥ずかしげもなく、ああいう真似が出来るのだろうか。
嫌悪感があるわけではない。だがそれはそれとして、昔から家族同然に見てきた顔見知りが、つい最近惚れてしまった相手が、ああいう格好をしているというのは中々に精神的に来るモノがある。
それに加えて、狼男をイメージしたであろうコスプレ女装をした洋太を見た時。結構似合っているなと、一瞬でも『可愛い』と思ったりと……僅かながらも見惚れた所為なのか。余計になんだろう、こう……謎の敗北感、というか……なんか凄く、スゴイ複雑な気持ちになってしまった。
「いや〜それにしても。最初に此処に来た時は、なんかお化け屋敷っぽい感じがあったから身構えちゃったけど、思ってたよりも怖くなかったね〜」
とまぁ、そんな風に洋太の接客を眺めていた私の耳に、あたりをキョロキョロ見渡すハナの独り言が入り込み。改めて周囲を軽く見渡す。
「……まぁ、色々な合体事故は起こしてるみたいだけどね」
色セロハンで作ったと思われる、様々なデザインのステンドグラス風シートを貼った窓などで、大正浪漫な雰囲気を醸し出し。血を模した赤い液体で飛沫が描かれた白いビニールシートの壁とテーブルクロスや、壁に飾られた額縁に入った絵や入り口に設置されたスキンヘッドの人形で、お化け屋敷らしい不気味さを演出。
だが折角作り出された不気味さは、ミラーボールの光と軽快な音楽で全てぶち壊され。この間行ったミセドのお化け屋敷と比べると、大分どころか大幅にホラー感が薄まっている印象を受け。
文化祭の喫茶店として見ると、お化けや化け物の仮装……をモチーフにした女装コスプレをした男子生徒が、教室内を動き回って接客や配膳をしており。お化け屋敷のおどろおどろしさとライブ会場の様な騒がしさがミスマッチを起こしているのも相まって、かなりイロモノな出し物だなと思った。
「内装はちょっと怖いけど……コレだったらまだ、ホラーがムリなあたしでも大丈──」
「──ご注文は、恨めしやですかぁ?」
「みぎゃあぁぁぁぁーーーッッ!?」
思ってたよりも怖く無いと気を抜いて腰掛けてたハナだったが、不意打ち気味に背後からかけられた声掛けに、断末魔のような悲鳴をあげて跳び上がる。
思わず出た叫び声と勢いで椅子が倒れる大きな音と共に、周辺の視線が私達へと集まり。私に抱きついて来たハナは混乱した様子で涙を浮かべ、バンダナみたいに頭へ巻いた白い三角巾と死装束風な和服ワンピースの上に赤褐色の腰エプロンを巻いた姿が特徴的な長髪の人物へ、驚愕と恐怖に染まった目を向けていた。
その人物の背中には、灰色の蚕蛾が一匹引っ憑いていた。
「……徹くん。貴方も、そういう格好してたのね……」
「…………えっ、徹くん……?」
「………………トオルじゃないデス。ワタシはタダのホールスタッフでゴザイマス……」
『ギェギェギェーッ』
同様に蚕蛾の子に気付いたユリアちゃんから名指しで指摘されながらも、その人物は死装束風ワンピースの裾をふわりと揺らしながら顔を隠し、芝居掛かった仕草でそう返答する。
だが怯えた表情からキョトンとした表情になったハナは恐る恐る、彼の黒い長髪(多分カツラだろう)で隠れた顔に鼻先まで近づいて、有無を言わせぬうちに前髪を搔き上げる。
青白い肌と濃いクマのメイクが施された、気まずそうな徹君の顔が出て来た。
「………ど、どうも」
「……むー!むーっ!むーっ!!」
「ちょ、やめて⁉︎ アレはその、多少なりともお化け屋敷っぽさを……ごめんて!ごめんってば!?」
涙目で頬を膨らませたハナにポコポコされているのを眺めていると、狼の耳と尻尾を揺らした幼馴染が「何やってんの〜? 修羅場?」とやって来る。
「あー、これは……気にしないで良い奴だと思う、多分」
「ほへー、そうなんだ〜……あやべっ、ゲフンゲフンッ」
アホっぽい顔で話を聞いていた洋太が我に返った様な仕草になり、咄嗟に口元に手を当て咳払いして誤魔化す。そして先程の接客同様に「お待たせしました、ご主人様〜♡」と、猫撫で声を高々な笑みと共に接客を始めた。
ノリが良いのもあるんだけど。洋太って、こういう事はホント真面目なんだよな……
「本日、ご主人様達の接客を担当致します『狼男娘のヨウちゃん』が!精一杯の真心込めて、ご奉仕致します! 萌え♡ 萌え♡ 滅ッ!」
「男なのか娘なのかどっちかにしなよ。ややこしいから」
(イヤ待って滅ってなに!?)
「てかお前それロボコのヤツ……だからやめてハナさん⁉︎ 痛くは無いけどメンタルにはクルから!」
普段のふざけてる(本人としては真剣にやっているらしいけど)姿で、割と忘れがちだけども。
「それでこちらが〜〜?」
「…………え待って。俺もやんの?」
「……え〜? 徹くんのもあるの〜? あたし、どんなのか気になるなぁ〜っ!」
メイド喫茶みたいな自己紹介を終えた洋太は、ハナに横腹を猫パンチされてた徹君の肩を掴み寄せ、同じ自己紹介をするよう促そうとする。
だが急に矛先を向けられた徹君は一瞬驚いた顔をし、如何にも乗り気じゃない表情を浮かべており、声色も渋くなる。
一方ハナは何を思ったのか、口元を隠した拳の隙間から悪戯っぽい笑いを浮かべ、先程驚かされた恨みを晴らさんとばかりに待ち望んでいた。徹君はハナを二度見した。
「………………お」
「お……?」
「……おっ……女幽霊従業員の、トオル子です……殺してください……」
「幽霊なのに!?」
『
明らかに渋っていた徹君だったが、洋太とハナの二重圧から逃れられず、遂に意を決して引きつった笑顔で自己紹介を始めた。長髪カツラで半分隠れた顔は真っ赤に燃え、羞恥心で爆発寸前だった。
「えっと、それで洋太……」
「それとご主人様! 此処では是非、ボクのことは『ヨウちゃん』って呼んでください♡」
「うん、それでね洋太……」
「『ヨウちゃん』って呼んでください♡」
「洋……」
「『ヨウちゃん』って呼んでください♡」
「………………………………ヨウちゃん」
「はーい♡ なんでしょうかご主人様?」
『
コイツ、公私混同しないタイプだっけ……? 心の底からの『めんどくさい』を抱えながらも、机の上に置いてあったメニュー表を手に取って見せる。
「このメニュー表なんだけど、右下に書いてある『松竹梅』と、『鬼』って何?」
「はい! そちらはオプションコースとなっていまして、ランクが上がる毎に料金が50円アップいたします。コースの種類についてですが、下から『梅コース』、『竹コース』、『松コース』。一番上の最高ランクとして、200円の『鬼コース』がありまーす♡」
「どっかのリズム演奏ゲームみたいなランク付け……」
「それでこちらのオプション。コースによってはオムライスにお絵描きしたり、一緒に写真撮影する事ができ。鬼コースにおいては、さっきのお客様…じゃなくてご主人様にした奴をお披露目したりできまーすよ!」
「アレって鬼コースのオプションだったんだ……」
「ふーん……じゃあヨウちゃん。トオル子ちゃんと写真撮る場合、いくらぐらいするの?」
「ハナ適応早くない?」
ニマニマと笑みを浮かべて問い掛ける親友にツッコミを入れていると、洋太の口から「写真撮影ですと……『竹コース』として、100円お支払いする事になってまーす」という返答が返ってきた。
ちなみに徹君はというと、「ふむ」と考え事をするハナからイヤな予感を察知したのか。慌てた様子で「そっそんなのに金払うよりも、こっちのシチューに金かけた方がお得だから!」と、私が持っていたメニュー表に貼られたホワイトシチューの写真を指差して必死に弁明していた。
「じゃあこの“白夜の這い寄る渾沌♡シチュー”を、竹コース付きで!」
「畏まり〜! ではトオル子ちゃん、よろしくお願いします」
「嘘でしょ⁉︎ 待って!?」
だが哀しいかな。注文を受け取った洋太に前へ出され、抵抗虚しくハナに腕をガッシリと掴まれて逃げられない。
「待ってハナさん……! これ以上は、ちょっと担当範囲外……⁈」
「も〜! ダメだよトオル子ちゃん! ちゃんとこっち向いて、ほら笑顔でね!」
「───ぬぇい! もうどうにでもなーれッ!!」
「ハイっ、チーズ! ……うんうん。よし、もう一枚!」
「ヘアッ⁉︎ まだやるの!? 確かに一枚だけとは言ってなかったけど!!」
「そちらのご主人様達は、何か頼みますか?」
「あ、じゃあこのクッキーと……ぶどうファンタを」
「わっ、ワタシも同じヤツを……」
「洋太ァッ! テメェ止めろやゴラァ!?」
「ボクはヨウちゃんでーす。洋太ではありませーん。
ではご注文繰り返させていただきまーす。“白夜の這い寄る渾沌♡シチュー”を一品、“デンジャラスなマーブルクッキー☆”と、“禁断のヨモツヘグイ・スパーキング”をそれぞれ2品ずつですね! そちらのお膝で寝てる猫ちゃんは……」
「えっと。多分大丈夫だから、あとはよろしく(改めて聞くと、やっぱりスゴイ名前だな……)」
「畏まり〜! ご注文入りまーす!」
「いえ〜い!……おぉ〜、良い笑顔だよトオル子ちゃんっ!
じゃあ次いこ次!あと何枚か撮るよっ」
「……お願い……やめて……もう許して……」
居酒屋みたいな大声を出して離れていった洋太を見送り、真っ赤になった顔に涙目を浮かべる徹君がハナとツーショットを激写されるのを眺めながら、メニュー表をテーブルに置く。
だが不意に横から腕を突かれたので視線をそちらへ向けると、周りをキョロキョロするユリアちゃんが「ちょっと良い…?」って囁き声を発しながら手招きしていた。
何か内緒にしたい話があるのだろうと察して、写真撮影に夢中になってるハナ達に聞かれないよう小声で「なに?」と耳を貸す。
「みこちゃん、さっきの話……覚えてる?」
「………覚えてるって、何が……?」
「何って、昭生会長の事よっ! まさかワタシ達と同じ、“見える”能力者がいるなんてね……それも対話のみで霊を対処した辺り。流石にゴッドマザーや洋太くん程じゃないけど、かなりの実力者よ」
「………あー、うん。そうだねー」
曖昧な返事をしながら話を聞いていた私は、さっきの話……縁日をやっていた教室で会った、権藤昭生と交わしたやり取りを思い出した。
教壇の上では、女装した男子3名が音楽に合わせてダンスを披露し始めた。
『よ〜し! 撃ち抜くよっ』
『ねーちゃんがんばれー』
『メッチャはりきってるー』
『でけー
それは、今から数十分前の出来事。縁日を開催している1年D組の教室にて。
ハナは私達から少し離れた所で、景品のラムラビグッズを手に入れるべく、子供数人に囲まれながら輪ゴム射的に挑戦していた。
『あ、貴方は一体……?』
『権藤昭生。この学校の、生徒会長だ』
その頃、私はユリアちゃんとお面屋の前で、話し合いのみで霊を追い払った男子生徒・権藤昭生さんとの邂逅を果たしていた。成り行きで一緒にいた、一匹の黒猫と一緒に。
『──わっ、ワタシ、二暮堂ユリアっていいますっ! そっ、それで……えっと。昭生、先輩? つまり貴方も、能力者……ってコトですよね⁉︎』
『能力者、かどうかは分からないが……少なくとも、“カレら”と対話出来る程度のチカラはある、と言えるな。それと、オレのことは“会長”って呼んでくれ』
『ふ、二人とも……そう言う会話は、あまりここじゃあ……』
新たな同士を発見したユリアちゃんが言葉を失っていた私の代わりに食い気味で問い詰めると、昭生さんは如何にも上機嫌な態度で答えた。
そんな二人のやり取りを見ていた私は足元で鳴き声を奏でる黒猫を抱きかかえつつ、周囲に話を聞かれたらマズいと制しながら辺りを見渡す。教室内で縁日を楽しむ人々は勿論、何処かに潜んでるかもしれない“ヤバい奴”が聞きつけてないかと警戒して。
私の言葉と顔を確認したユリアちゃんは、先程まで興奮気味に声を弾ませていた様子から一変、冷や汗を垂らして「ご、ごめん……」と気不味く表情を曇らせてポツリと呟いた。
『いや、問題ない。ある程度の会話なら、縁日ではしゃいでる子供の騒ぎ声が大体掻き消してくれるし、此処でお面を売ってる売り子もこの通り。霊の方は……さっき此処を去った彼以外にはいない、そこまで警戒しなくても大丈夫だ』
対する昭生さんは唇に人差し指を添え。お面の陳列台横でパイプ椅子に座って身に着けたヘッドフォンからジャカジャカ音を大音量で立ててスマホを弄る男子を背後に、余裕そうな笑みを浮かべてこちらへ視線を返してくる。
『まぁ、それは良いとして……君も、その子と同じ『見える子ちゃん』なんだろ?』
『ッ! ……な、何のことですか?』
しかし、可能ならこれ以上オカルト関係にあまり首を突っ込みたくない私は、思わず言葉に詰まって咄嗟に顔を逸らし、なんとか誤魔化そうとする。
だが昭生さんは私の言葉に対し、動揺した様子も無く話を続ける。
『オイオイ、冗談はよし子ちゃんだぜ? キミ、明らかに『見えてた』んだろ?あの巨大カタツムリが。だからアレを避けようとして、此処に入って来た』
『そっそれは………え待って、よし子ちゃん……え、誰?』
『か、かたつむり……?』
唐突に出て来た知らない単語に、私とユリアちゃんは頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。
そんな反応に彼は、何かおかしい事言ったかとでも言いたげにキョトンとした表情になるも。すぐ気を取り直したのか、私の胸元に頬を擦り付ける黒猫へ顔を近づける。
『……人にはそれぞれ、その人だけが持つ能力がある。
ある者は、凄まじいエネルギーを放って悪霊を祓うチカラを……
ある者は、守護霊の手を借りて厄を遠ざけるチカラを……
ある者は、魑魅魍魎やその人が放つオーラを見るチカラを……
彼らの能力は果たして、生まれながら持つ『才能』なのか、はたまた天から授かった『ギフト』なのか、或いはコレからの人生を縛り付ける『呪い』なのか。
我々は一体何の為に“その資格”を手にしたのか。
その特殊なチカラが、この世にどう影響を及ぼすのか。
……“こうなった”あの日から、常日頃そんなことを思っていた』
猫を抱える私と、リュックのショルダーを握り締めるユリアちゃん、奥の方で射的をするハナの姿を目に収めながら。何処か遠くを見据える様な表情で、楽しげながらも寂しさを含んだ声色で語る昭生さん。
……てか、なんかさっきから近いなこの人。一応猫越しだけど、若干引きそうになってしまう。二重の意味で。
そう思って少し離れようとすると、それに気づいた彼も同様に少し歩き……
『それでキミはいったい、“何処”まで『見えている』? 他にはどんなチカラを持っている? “アレ”が見えてるなら、そんじょそこらの霊は凡そ見えると睨んでいるが……もし、その更に上。こちらの想像を絶する能力を隠しているなら……是非、拝ませて貰いたいトコロだな』
『え、ちょ、顔近っ……キモ……ッ』
『……結構言うねキミ』
(結構言うも何も、距離感が……)
間近まで来て耳打ちする様に語り掛けながら、口元に愉しげな笑みを浮かべて射抜く様な視線を投げつける。
そんな彼に対し、耳に吐き掛けられた生暖かい吐息で思わず悲鳴を漏らして、まるで飛び上がる様に後ずさった。同時にさっきまで高い位置にあった株が、どんどん下落していくのを感じる。
目を輝かせていたユリアちゃんも、若干冷や汗を垂らして昭生さんにジト目を向けていると……
『カイチョーカイチョー! 大変だよ〜!』
突然、教室の出入口から中学生くらいであろう女子が、慌てた様子で飛び込んで来た。
白いワンピースに片目を半分隠した黒いミディアムヘアが特徴的な女の子は、ハナ程ではないがかなりの大きさを持つ胸をスカートと一緒に揺らし、一目散に昭生さんの元へと駆け寄っていく。
『つばめくんか。珍しいな、こんな所に来て。何かあったのか?』
『それがねそれがね!さっきF組にいた男子が……高倉くんと吉田くんだっけ?あの二人が他校の女の子にしつこくナンパしててね!そのまま女の子達について行っちゃったのよ! これ絶対ヤバい奴よね⁉︎』
『……またあの二人か。一応去年も注意したが、やっぱりダメだったか……あぁ、確かにヤバいな』
まるで子供の様な身振り手振りで説明された昭生さんは、頭に手を当てて呆れた様なため息を吐く。横からサラッと聞いたところ、クラスの男子が一般来場者の女子にしつこくナンパをしているらしく、それを“つばめ”と呼ばれた彼女が伝えに来た……といった所だろう。
それにしてもこの子、昭生さんと親しげに話をしているけど、どんな関係なのかな?
妹さん……にしては他人行儀っぽいし。彼女……でもなさそうだから、普通に友達だと思うけど……
『……あの、昭生さん? その子って──』
『あー、ところでつばめくん。玲音くんのところには居なくて良いのか?』
取り敢えずどういう関係なのか試しに聞いてみようとするが、昭生さんは私の言葉に被せる様にしてつばめちゃんへ問い掛けた。
つばめちゃんは天真爛漫な笑顔から、ぷくっと膨らませた頬と尖らせた唇を作り。不機嫌そうな表情を浮かべて、何故か私達の周りをくるくると回り始める。
『いーもんいーもん! だってれーくん、接客で忙しそうで構ってくれないのよ! しかもしかもね!わたしという婚約者がいながら、女の子にあーんな甘い言葉を囁いちゃってさぁ〜。だからわたし拗ねちゃってね、わざわざカイチョーの所に来たんだよ!』
(……なんか、ただの友達っぽいなぁ)
『……ね、ねぇみこちゃん?』
つばめちゃんと昭生さんの会話を見てそんな感想を抱いていた私は、腕をつんつんと突かれる感触で我に返ると、隣で疑問を抱いた顔を浮かべたユリアちゃんが何かを小声で伝えようとしていることに気付く。
「なにユリアちゃん…?」耳を少し近付けて小声で聞き返すと、ユリアちゃんは昭生さんの方をチラッと一瞥し……
『昭生会長……誰と話しているの?』
至極真っ当な疑問かの様に問われたその言葉は、私の身体と思考を硬直させ。その間にも、昭生さんとつばめちゃんの会話は佳境に入ろうとしていた。
『兎も角、そろそろ玲音くんの元へ戻った方がいい。なぁに、安心しろ。キミら程チョベリグなアベックはそういない。オレが保証する』
『……そーだね。ありがとうカイチョー! ほんじゃわたし戻るね〜!』
所々よく分からない言葉を口走りながらも、昭生さんはそう言って優しく微笑みかけ。つばめちゃんはその話に満足したのか、ペコリと一礼して踵を返し。直ぐに出入り口の方……へ向かわずに
つばめちゃんの背中を見送った私は、絶句で錆び付いた体を強引に動かして昭生さんの方へと向き直る。疑問符をいくつも頭に浮かべ此方を見上げていたユリアちゃんも、「あの、ホントに誰と話してたの…?」と言わんばかりの視線を向けた。
『──フフッ……どうやらキミは、もう少しヒトを疑う事を知った方が良いらしい』
非常に興味深そう且つ愉快そうに顎をさすって此方を見据える彼は、今さっきまで話していた女子の霊を引き合いにし、まるで他人事かの様に揶揄いの言葉をかけて来た。
私は前に公園で子供の霊へ手を振ってしまった時の事を思い出して身震いし、ユリアちゃんと黒猫は此方と彼方とで視線を彷徨わせていた。
『……さぁて。オレはそろそろ、仕事に戻ることにするよ。あの二人の事もあるしね』
『……っ⁈ ま、待って下さい! コッチは昭生会長に、まだ聞きたい事が……』
『あー。ユリアくん、だったか? そんな焦らなくとも、また機会があった時にでもすれば良いだろう? キミ達は引き続き、文化祭を楽しんでくれ』
そう言って踵を返し、私らの元を離れて教室を出て行こうとする。
もっと色々と話を聞きたいであろうユリアちゃんが慌てて呼び止めようとするが、昭生さんは左手を肩の横でヒラヒラ揺らしながらそう返し……
『あ、そうそう。ひとつ言い忘れていた』
あと一歩で廊下、といった所で踵を返した昭生さんはピタリと足を止め。人差し指で宙をくるくる弄りながら、此方を振り向いた。
『この学校の中には、危険な“ヤツ”がうじゃうじゃ跋扈しているが……その中でも『黒くてデカイやつ』には気をつけろ。アレはとびきり“ヤバい奴”だからな』
「では、バイなら!」と言い残して廊下の向こうへ消えて行った彼と入れ違いに、射的をしていたハナが景品の箱を持って此方へ戻って来た。
『みてみて二人とも〜っ! ラムラビのルームライト、遂に手に入れたよー!!
……あれ? どしたの二人とも、誰かと話してた?』
『……う、うん。この学校の生徒会長だって人と……そうだよねユリアちゃん?』
『ッ。え、えぇ……この学校の、魅力?について……よね?』
ハナの問い掛けに答えつつ、私は先程の台詞を脳内で反芻。やがて言葉の意味を呑み込んだ末、ひとつの結論に至った。
(………え? もっとヤバいの出るの?)
「おー待たせしました〜ァ!ご注文の品でございまーす♡ あ、領収書は此処に置いときますね」
数刻前の記憶を思い浮かべて若干震えていると、洋太が発した大声でふと我に帰った。
スマホに向かってた顔を上げると、教卓側にある段ボール仕切りの裏からそれぞれ、シチューの入った発泡どんぶり容器とスプーン、クッキーが添えられた紙皿と紙コップを二人前。それらをお盆の上に乗っけてやって来た、幼馴染の女装コスプレ姿の姿に、またしても口の中が架空の苦味でキュッとなる。
「おっ、来た来た! これが特製シチューか〜! 美味しそ〜」
「……シテ…コロシテ……」
スッキリとした笑顔をするハナは、目の前に置かれた湯気を立てる容器を手に取って中身を覗き込む。中には様々な具材が白くトロッとしたシチュー内を泳ぎ回り、食欲を一層引き立たせていた。
ちなみに彼女の足元では、手で顔を覆った徹君が蹲って、か細い声で何かを呟き続けていた。正直反応に困った。
「それで、こっちのクッキーは買った奴?それとも手作り?」
「はいっ!シチューはクラスの料理担当、じゃなくて料理人達が丹精込めたもので……そっちのクッキーは、ドンキで買った奴を盛り付けただけになってます」
「あ、こっちは普通にドンキで買った奴なのねこれ」
「……衣装と内装で予算が逼迫したから、シチュー以外は安物になっている、でございます……」
「あっ、復活した」
続いてハナは、私とユリアちゃんの前に置かれたマーブルクッキーとジュースに視線を移しながらの問い掛けに対して、配膳を終えた洋太は素直に答え、徹君も続いて補足を入れる。その返答を聞いたユリアちゃんは、思わずといった様子でツッコミを入れた。私も内心同じ気持ちである。
……というか洋太、この喫茶店にどんな設定がされてるのかは知らないが、いちいち忠実に守らなくても良くない?要所要所で忘れてる節あるけど。徹君の方はゆるっとした対応してるし、他の男子の方は……
「へーい、ご注文はなんスかご主人様〜」
「ぅおおおおまたぁぁぁぁせしぃぃぃいぃましとるァァァ!! オムライスどるぇぇぇぇぇぇすッッッ!!」
「…………す、スライム娘の……マックです……よろしく、デス……」
設定らしきものを守ってるの、見る限り一人二人程しかいないっぽいし。それ以外はもう雑っていうか、まぁまぁ好き勝手やってるじゃん。
ちなみに今言った例外のうち一人は、なんか水色のクラゲ(というより、ホイミスライムに近い)みたいなデザインをしたメイド着てる巻衣くんで。もう一人が……
「お待たせしました、お嬢様。ご注文の品で御座います……☆」
「ぴえっ……あ、ありがとうごじゃいましゅ……」
「おっふ……良い顔が貫通してくる……!」
施しを受けてる女性達は、頬を赤らめながらあたふたと視線を彷徨わせたり、恍惚な表情を浮かべて天を仰いでいた。
なんか“そういうお店”みたいだなと眺めているうちに、顔を赤らめて興奮していた女性の鼻から一筋の血が垂れたのが見え。それに気づいた男子が机の上に置かれたナプキンを一枚取り……
「おやおや……吸血鬼の前で、美味しそうな血を晒すなんて……」
「……えっ、ちょ。え待って⁉︎ ち、近い……!?」
「なんと迂闊で、無警戒で──実に、お可愛こと」
妖艶な笑みを向けられた彼女の鼻血が、すっと拭われる。
「──ヒンッ」
「おっとぉ。刺激が強すぎたみたいだね☆」
「あぁ?! 比奈子が倒れたァ!大丈夫なの⁉︎」
「………我が人生に、一片の悔いなし……!」
「思ってたより大丈夫そうで安心したわ!」
椅子から崩れ落ちそうになる女性を支えるもう一人の姿を横目に入れていると、シチューを食べていたハナがスプーンを手に持ちながら話し掛けてくる。
「ねねみこっ。あの人、すっごいイケメンだね! なんかもう、オーラって言うのかなぁ? それがこっちにまで飛んで来る感じ!」
「あー、確かにカッコいいわね……」
「うん、わかるわかる」
そう言って今現在進行形で鼻血を流して失神した女性の介抱をしている、女装風タキシード姿の男子を再度見やる。確かに見た感じ、女性なら誰もが一度は恋をしてしまうであろう程の美貌の持ち主だ。キョロキョロとお化け屋敷風の内装を見回してクッキーを頬張ってたユリアちゃんも、顔を若干赤らめて同意する。私は別になんとも思わないけど。
そんな彼を見つめていたハナの前に、羞恥心で蹲ってた徹君が復活し、視界を遮る様にして立ち塞がった。
「……けど知ってるか、ハナさん。アイツ、志々島玲音には婚約者がいるって話を……」
「えっ、そうなの?」
「おうともよ。本人がそう言ってたからね。遠距離恋愛らしいけど」
「へー、そうなんだ〜。まぁあんだけカッコ良かったら、婚約者くらいいるよね」
「……うん、そだねー(遠距離、遠距離かぁ……)」
洋太の肯首になんてこと無さげな反応を返すハナは、湯気を立てているシチューをスプーンで掬い取り。ふー、と軽く息を吹きかけてから頬張る。
……うん、ところで徹君?その人の、志々島玲音って男子の婚約者なんだけど、もしかしてその子──
『むふふ……ハナちゃん、だっけ? 彼女もれーくんのトリコになったみたいだね〜! ねぇねぇみこちゃん、アナタはどうなの?ねっねっ』
今私のすぐ隣で、ずっと親しげな顔で私に語り掛けてくるツバメちゃんもとい、身体を浮かせて頰を指でつついて弄んでくる女性の霊のこと、じゃないよね?
私の顔を見た瞬間にこっち来て、「わたし、山石つばめって言うんだ〜!つばめって呼んで良いからね!」と自己紹介してきた、この子の事じゃないよね??
最初に此処へ来た時から玲音って人に引っ憑いて、目にハートマークを浮かべながら彼の首に腕を回して何回も「れーくん♡れーくん♡」って囁き続けてた幽霊の事じゃないよね?
だとしたら、あの光景が色んな意味でお労しい事になるんだけど。大丈夫なのコレ?
『ねーねーみこちゃん〜? なんで返事してくれないの〜?
アナタ、カイチョーにわたしのこと聞こうとしたでしょ? 見えてたんでしょ? だったら少しくらい、わたしとお話ししてもいいじゃないのよ〜』
というか、あの時つばめちゃんの事を聞こうとしてたの、普通にバレてるじゃん!?
昭生さんが言葉を遮ってくれたからワンチャンバレてないと思ってたけど、全然誤魔化せてなかった……!
『……ふぅ〜ん。それじゃあ、にらめっこしようか! 反応したらアナタの負けだかんね?』
どうしよう……これ、誤魔化しきれるかな? なんかもう無理そうだけど。あっちは私が『見えてる』前提で話かけて来るけど。
『じゃあいっくよ〜!いないいな〜い──』
……いやでも見た感じ、お父さんや洋太のお婆ちゃんみたいな、害のある霊ではなさそうだし。もしかしたらさっきの昭生さんみたいに、意思疎通とか出来たりするのかな……?
一応、今まで見てきた“ヤバい奴”と比べたら、話は通じそうな感じもあるし。もし出来るとしたら、後で話を聞いてみたり……
『ば ぁ』
色んな思考を巡らせていた私の目の前で、つばめちゃんは手で覆い隠した顔をパッと開き、前髪を軽くかきあげながら笑顔を向ける。
そう、その笑顔を……顔の半分がタイヤで削られたみたいに抉り取られ、惨たらしい引き裂かれて肉が見えてるその顔を。一目見ただけで身慄いする裂傷からドバッと溢れ出た血を、皿の上に盛り付けられたクッキーにドレッシングさせながら。残ったもう片方の目で此方を覗き込んで、笑った顔を見せていた。
瞬間、全ての神経を表情筋に全集結させてガッチガチに固めた。ついでに彼女へ話しかけようとした己の選択肢を、全力で窓の外にぶん投げた。
「……この炭酸ジュース、すごく美味しいなぁ」
「え、そなの? それもドンキで買った奴だよ?」
「うん、文化祭で飲むジュースは、格別だから……」
『…………へぇ〜!みこちゃん、ポーカーフェイス得意なんだね! すっごーい!
カイチョーでも始めてこの顔を見せた時は、スゴい驚いてたのに!」
恐怖で震える内心を押さえ付け、洋太とそんな話をしながらファンタを口に含む。
今まで色んなヤバくて怖い目に合ったけど、その中でも
一方のつばめちゃんは顔を軽く摩ると、さっきまでのグロテスクな顔が最初の綺麗で可愛い顔へ修復されていく。それを見て思わず、心の中で安堵のため息を吐く。アレがずっと視界に入っていたら、流石に吐き気を催しそうになるから。
「おーい玲音! そろそろお前のシフト終わりだぞ。その辺にしとけー」
「……ふむ、もうそんな時間か。すまないねレディ、我々の時間はここまでのようだ」
「ふぁいっ! だ、大丈夫でしゅ!!」
そこへジャージを身に纏った男子が廊下側から顔を出し、声を上げた。
その声を聞いた玲音という男子は「あぁ、了解した☆」と、軽く手を振りながら答え。そのまま立ち上がると、先程まで接客していた女性らに一礼をして、教室を出る準備を進める。
「じゃあマイフレンド洋太☆ ボクは一足早く、失礼させて貰うよ。マイフィアンセも、待ってるだろうしね?」
「うん、わかった〜!僕らももう少ししたらシフト終わるから、また後でね」
『そっか〜頑張ってね洋太くん! それじゃみこちゃん、また後で! シロちゃんも、また後でお話ししよね〜』
『ビギャア』
「え、この子シロって呼ばれてるの?」と驚く私や、玲音って男子に手を振り返す洋太、それに徹君に憑いてる蚕蛾の子にも朗らかな挨拶を済ませたつばめちゃんは、手を振りながら教室を出ようとする彼の首元にしがみつきながら。顔を明るくして、今にもルンルンと鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌さで着いて行った……ように見られたのだが。
去り際に「あ、そうだっ」と何かを思い出したかのように呟くと、私の方を見て人差し指を一本立てて口に当てる。
『言い忘れてたけど。いくられーくんがカッコ良くても、ぜったいに誘惑したりはしないでね!もし万が一、そんな事しちゃったら……』
そう言いかけた彼女は、教室内の電灯とミラーボールから放たれる輝きがパチパチと一瞬途切れた、その瞬間に視界から姿を消した。
いきなり明かりを無くした教室内で「なんだ?」とハナや洋太達が疑問を呈してる間、背筋が凍りそうな気配を背後に感じたかと思えば──
『うっかり 呪い殺しちゃうかもだから 気を付けて』
私の肩を力強く掴んで、半分が抉り取られたあの恐ろしい顔のまま、真後ろから呪詛を耳元で囁かれる。
だがすぐに明かりを取り返した教室は、また元の顔に戻った彼女の姿を映し。にんまりとした笑顔を浮かべて手を振るつばめちゃんは「じゃーねー」と、そのまま玲音って人の所へ飛んで行った。
「なになに急に⁉︎ 演出!? だとしても急にこんな、お化け屋敷みたいなのはやめてよぉーッ!」
「いや、ハナさん……この喫茶店、一応お化け屋敷も兼ねてるから……」
「んん〜?なんだろ、こんな演出やる予定だったけ? ご主人様はどう……って、どしたのみこちゃん!? 僕なんか変な事した?!」
「え、なんで洋太くんがやらかした前提で…?」
「………だ、大丈夫……っ。ちょっと、炭酸が鼻に入っただけだから……」
「イヤなんでぇ!?」
もし今後、志々島玲音という男性と会っても、全力でスルーしよう。ついでに残ったクッキーは、後で洋太にあげよう。
仕事モードからシラフに戻ってオロオロする洋太に涙を拭いて貰いながら、私は心の中で固く誓った。
卍 卍 卍
──おい、そこの男子!文化祭だからって、女子にちょっかいかけるな!
……と、外から来た女子にナンパをする男子生徒へ注意の言葉を言い放つのは、この学校の生徒会長・権藤昭生……つまり、オレの事である。
『やべーぞ! カイチョーが来たぞ!』
『にーげるんだよぉぉ!』
ちなみに注意の相手は、この学校で昔から住み着く地縛霊である。
足音を立てることなく彼女達から離れて行く高倉と吉田を追いかける事もなく、ただ黙って彼らの後ろ姿を見送った。
さて、この辺は粗方見廻りを終えたし、そろそろあっちの見廻りでもしておくか。そう思って来場者の女子達とすれ違いながら、不良や霊が屯ろする事の多い校舎裏へと向かおうと踵を返した。
「──また霊の対処ですか昭生会長、ご苦労な事ですね」
「ふむ、アザミくんか。君の方こそ、風紀委員の仕事は良いのかい?」
道中、風紀委員会の現・副委員長の賢道アザミが、帽子と眼帯を外したままの状態で話しかけてくる。
「ご心配なく。彼らは優秀なので、わたしが離れていても良い働きをしてくれますよ。
それより、気を付けてください。霊に襲われても反撃出来る様な力、アナタには無いんですから、あまり無茶は……」
心配しなくとも、大丈V!これでも君よりは経験豊富だからね、話しかけても害がない霊を中心に対処している。それに『見える』だけで大したことが出来ないのは、君だって同じだろ?
「……それは、そうですけど」
いつもは眼帯で隠している、その左眼……小学生の時に交通事故にあって。目が覚めた時に片目が“黄銅色”へと変色して以来、霊を見る力を秘めるようになった……だよな?確か。
「……ハァ、全く。こんな瞳になってから、左耳からは霊の声が聞こえる様にもなって……不愉快極まれない事、この上なしだ」
あ、そうそう。いきなり話は変わるんだが、実は先程、中々素晴らしい才能の原石を見つけたんだ。
今思い出しても……ハハッ、アレは実にスゴイ。ひょっとしたら、見円洋太にも匹敵する、稀に見る逸材だ。
「……アナタがそこまで言うなんて。それ程までにスゴい霊能力を持った者が、此処へ現れたのですか?」
あぁ……ひとりは、筋は悪く無いが、今は精々“それなり”程度だな。それと、凄まじい生命オーラの持ち主もいたが……そっちは霊が見えてる様子はなかったから、一旦置いておくとしよう。
だがあと一人の方は恐らく、君でもボンヤリとしか見えないモノが、ハッキリと見えている。それ程までに、彼女の
「──へぇ、面白そうな話をしてますね。私も混ぜてくださいよ」
彼女達三人組について語っていると、不意に何者かの一声がかかって、そちらを向く。
そこには黒いハットと黒いコートを身に纏った、黒ずくめの男性が片手を上げながら立っていた。
「…………もしもし委員長、不審者を発見しました。至急応援を……」
「ノータイムで通報するのやめてくれます?」
アザミくんは懐に入れてたトランシーバーを取り出し、電源を入れる。流石アザミくん、判断が早い。
……って。よく見たら、神童ロムさんじゃないか。随分と久しぶりだな、前にあったのは一年前だったか?
「えぇ、久しぶりですね昭生くん」
「……昭生会長、お知り合いですか?」
まぁね。オレってほら、
それにしても、今回はどんな用事で来たんだ? アンタが何の理由もなく、此処へ来るとは思えないからな。
「えぇ。ちょっと、ある人物の情報を探ってまして……
この学校の一年生である、“見円洋太くん”の事についてなんですが」
「…………委員長」
「すみません、通報しようとしないで下さい。あの、ちょっと、手に持ったトランシーバを下げてくれません?」
アザミくん、気持ちは分かるが、ロムさんはそれなりに信頼できる霊能者だ。見た目は確かに怪しいけどな。だからロムさん、そんな不満そうな目をしないでくれ。
兎も角。そちらで何かを聞きたいなら、こちらも色々と聞かせて貰うとするよ。
洋太くんが何をしたのかとか、何を考えているのかとか、アナタに聞いてみたい事があるんでね。
「えぇ、良いですよ。そこのアナタも、よかったらどうですか? ジュース一杯分なら、奢りますけど」
「ジュースは結構です……が。アナタが何を企んでるか、何をしでかすかを調べるためにも是非、同席はさせていただきますが……よろしいですよね?」
「酷いなぁ、扱いがまるで不審者じゃないですか」
「控えめに申し上げても、半分くらいは『そう』としか言えない格好じゃないですか」
「……まぁいいでしょう。それで、何処で話しますか?」
そうだなぁ……あ、そうだ。丁度上の階で空いた教室があったから、そこを使うとするか。
オレは初めに何を聞こうかと考える最中、ロムさんとアザミくんを連れて目的の教室を目指した。
●見円洋太
狼男の女装コスプレをしていた馬鹿猿。サブカルクソ野郎ではない。
ぶっちゃけ今回の話は、主人公の女装ネタをやってみたいと思い立った事が始まりなんですが、女装喫茶だけだとなんかありきたりかな〜なんて思ったので、文化祭の定番であるお化け屋敷要素を足し。更に文化祭と喫茶店でぼざろのメイド喫茶を思い浮かべた結果、スターリーから取ってライブハウス要素まで加えちゃいました!あーもうめちゃくちゃだよ。
MBTIは『
●影杉徹
白装束の女幽霊風コスプレをしていたオタク。どっちかと言えばコイツがサブクソ。
第1話で馬鹿猿が徹の事を『かげすき』と呼んでいたが、実は単純にコイツが苗字を読み間違えてただけで、正しい読み方はちゃんと『かげすぎ』で合っている。つまり馬鹿猿は徹の苗字を、中学で親友になってから今日までずっと間違え続けている事になるが、実際に言葉で出す際には何故がちゃんと『かげすぎ』と呼べているので特に問題ない。
MBTIは『
●志々島玲音
吸血鬼の女装コスプレをしていたイケメンナルシスト。WRYYYYYーーーッ!
女装する事に対しては特に抵抗無く、寧ろ「自分の美しさと魅力が際立ってしまうのでは?」なんて考える余裕もあったりする。ちなみにマイフレンド洋太くんも女装に抵抗無し、なんなら結構ノリノリで着替えていた。
MBTIは『
●山石つばめ
志々島玲音の幼馴染で婚約者だった女の子。中二の時に交通事故で死んだ後は、愛する彼の守護霊になった。
他の女性からアプローチをかけられても一切気にしないし、寧ろ「見なよ…アタシのれーくんを…」とドヤ顔で誇らしげになる。その一方で、愛しの彼が他の女性に惹かれそうな素振りを見せるなどすると、普段の天真爛漫さから一変して精神状態が不安定になり、事故った時の惨たらしい姿で圧をかけるようになる。上級怪異、或いは一級呪霊相当のパワー持ち。
MBTIは『
●黒猫(名前はまだ無い)
前回に引き続き登場し、善せんせー編でも出て来た野良猫。みこちゃん似らしい。
模擬店の料理の匂いに誘われ、文化祭真っ只中の男子校内へ侵入した際。見覚えのある少女を見つけたので、ちょっくら関わってみようかと思い立った。
年齢は一歳半。みこちにはシンパシーを感じて気が合いそうだなと思ったのか、割と懐いているカンジ。反面、馬鹿猿に対しては初対面時の大声で好感度が大幅に下がったのか、あまり懐いていない。
●権藤昭生
昔の俳優っぽい雰囲気を漂わせる、少しナルシストっぽい生徒会長。
実は寂しがり屋な一面があり、霊が見えるみこユリアに先輩風を吹かせながら会話を繰り広げていたものの。長年ヤングな女子と接して来なかった弊害か、ナウなギャル達との距離の取り方がよく分からないでいる。
これでも映画よりは色々出来ているが、未熟な霊能者の相談に乗ったり、霊と会話出来る以外は特にやれる事が無い。
●ライブ女装喫茶『怪物娘達の戯れ』メニュー表
・白夜の這い寄る渾沌♡シチュー:唯一の手作り料理。(」・ω・)」うー! (/・ω・)/にゃー!
・
・デンジャラスなマーブルクッキー☆:ドンキで買った市販のマーブルクッキー。ニエルブ君「酸賀さん、開けて」
・禁断のヨモツヘグイ・スパーキング:ドンキで買ったグレープ味のファンタ。ブドウアームズ!メロンエナジー!ベストマッチ!!ヨモツヘグリアームズ!
●it's My Life
アメリカのロックバンド『Bon Jovi』の代表曲。
某サイト曰く、『力強いロックサウンドとポップなメロディが融合し、「逆境に屈せず、自分らしく生きる」というメッセージを届けている』とあった。
日本でもお笑い芸人『なかやまきんに君』の持ちネタである“マグマスパゲティ”のBGMに採用されたりと、根強い人気がある。