見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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──超ド級の馬鹿猿。ただし最強。


もしかしたら、とんだ才能の原石を見つけてしまったのかもしれない

 前回までのあらすじ!

 親友の影杉徹とアニメショップに行く事になった見円洋太は、道中まで幼馴染の四谷みこと同行したり時間を潰したりしていた!

 それから少しして徹と合流を果たした洋太はメイトに赴き、親友が目を付けていたフィギュアの購入に付き合ったり、新しく売られていた“身勝手の極意”形態の悟空のフィギュアを買ったりと、充実した時間を過ごしたのだった!

 

「やっと買えたぜ、『雪音クリス』の限定フィギュア!いや〜クリスちゃんのあの格好、最高だったからなぁ。早く家に帰って飾りたいくらいだ」

 

 ホクホク顔でそう言いながら、先程買ったフィギュアの入った箱を大きめなトートバック越しに大事そうに抱えている徹を見て、洋太は思わず頰が緩むのを感じた。

 

「あ、そういえばさっきまでみこちゃんと一緒に居たんだけど、この辺りにいないかなぁ?ハナちゃんとドンキに行くって言ってたハズだし……」

 

「……え?マジで?四谷さん達もこの辺に居るわけ?」

 

 洋太の発言に徹は驚いた様子で聞き返してくる。

 あの二人がこの辺りに居るかもとは思わなかったらしく、持っていたトートバッグを周囲から隠すように抱え直し、辺りをキョロキョロと警戒し始めた。

 それを見た洋太は、徹が何を警戒しているのか気になり、同じ様に周りをキョロキョロと見回す。

 

「どないしたん親友。別にやましい事してる訳であるまいし」

 

「美少女フィギュアを買ってニマニマしてる時点で十分やましい事じゃい!!

 あのな洋太。この間お前が勝手に俺の性癖を暴露したせいで、彼女達からの印象が『ケツとおっぱいがデカイ女が好きな奴』っていうのになってんだよ!?その上でクリスちゃんのフィギュアを買っている事が知られたら、今度は『ケツとおっぱいがデカイ女が好きなキモオタ』ってレッテル張りされちまうだろうが!!」

 

 純粋な疑問に必死の形相でそう答えたが、「悪い事してないんだから、もう少し堂々としてれば良いのに……」とイマイチ理解出来ない洋太は首を傾げる。

 徹はそんな洋太に溜息を吐くと、気を取り直す為に一度咳払いをしてからこう続ける。

 

「とにかく!今の状況で四谷さん達に会ったら、少なくとも俺が美少女フィギュアを買った事は言わないでくれよ⁉︎ ドゥーユーアンダスタンドゥ?!」

 

「イェス、アイアム」

 

 徹の勢いに押されるがまま、洋太は素直に敬礼のポージングを取って答える。

 『YES、I’am』だと『はい、私です』になるぞというツッコミと、一抹の不安を感じつつも一旦は納得したのか、徹はよし!と頷くと、洋太に背を向けて歩き出した。

 

「だが一番ベストなのは、出来るだけ誰にも会わずに帰宅する事……古本屋で面白いやつ買ったりおもちゃ屋で新しい変身玩具見る予定だったけど、早めに帰ってクリスちゃんのフィギュア飾りたいし、此処はちゃっちゃと飯食ってさっさと解散するか──ってオイ、何で路地裏に行こうとしてんのよ洋太」

 

 そう言って振り返る徹の目には、人気の無い路地裏に顔と足先を向けている洋太の姿が映っていた。

 

「いやぁー。なんかこっちから、枝垂れ桜と焼きたてのパンみたいな香りが……みこちゃんとハナちゃんっぽい匂いがしたから、こっちに二人がいるのかなぁ〜って思って覗いたら、案の定二人が居たから合流しようと思って」

 

「竈門炭治郎かお前は! てか俺の話聞いてた?此処は二人に会わず、牛丼屋で腹満たして帰ろうぜ!?」

 

「でぇじょうぶだ。要は徹が美少女フィギュアを購入した事を言わなければ良いだけでしょ?だから安心しろォ!」

 

「だとしても念には念をだな……って力強いなオイィ!?」

 

 路地裏から漂う匂いからみことハナを見つけた洋太を引き戻そうと、徹は親友の腕を摑んでグイッと引っ張る。……が、彼の力では引き止める事が出来ず、そのままズルズルと路地裏の方へ引き摺られてしまう。

 

「待てって洋太!百歩譲って四谷さん達の所に行くのは良いとして、この辺り虫とかが湧いて来そうじゃん!マジで戻ろうぜ!?」

 

「……確かにそうだな。わかった、徹は先に牛丼屋に行ってて。僕はみこちゃん達連れて合流するから」

 

「……いや、やっぱ付いていく。お前ひとりだと何やらかすかわかったもんじゃないからな」

 

 諦めた表情で洋太の後ろを歩いていく徹は、バッグの持ち手部分を握り締めながら足下や建物の隙間などを注視して虫を警戒。洋太はそんな徹を見て、ホント虫苦手だよなと流石に申し訳無さそうな表情を浮かべる。

 

「みこちゃーん!ハナちゃーん!さっき振りだ──わふっ」

 

 それはそれとして、洋太は路地裏を駆け抜けてハナとみこに向かって手を振りながら声をかけようとするが、みこもこちらに気付いたのか此方へ向けて駆け寄って来た。

 ……なんかこちらの声でようやく気付いた感じはあったが、多分気の所為だろう。そう思いながら足下に落ちてたウサギのぬいぐるみを拾い、胸に飛び込んできた幼馴染を優しくキャッチする。

 

「……ようた?」

 

「ハイ!みこちゃんの幼馴染である見円洋太、ただ今参上致しまし、た……」

 

「……オイ洋太、急に黙り込んでどう…し、た……」

 

 不意を突かれたような声で己の名前を呼ぶ幼馴染に、洋太はニッコニコで敬礼しながら彼女の方を見て、思わず固まった。

 少し遅れてやって来た徹は、親友とその幼馴染の様子に違和感を感じながら、二人の顔を見ようと洋太の横から覗き込むように顔を出した。

 ……そして、みこの様子が明らかにおかしい事に気付く。

 

「……〜〜っっ!」プルプル

 

((なんか泣いとる……))

 

 涙目で顔を真っ赤にし、蛇と対峙していた小鼠のごとくプルプルと震えている彼女を見て、身体を強張らせ唖然とする男共二人。

 ハナの「みこどうしたの⁉︎」という心配の声で、先に我へ帰った洋太が慌てた様子で彼女に声をかける。

 

「だっ、だだだだだだだだ大丈夫みこちゃん!?何処か怪我した!?もしかして僕、また何かやっちゃいましたかァ!!??」

 

「騒ぐな洋太ァ!此処は一旦落ち着いてクレイジーダイヤモンドのDISCを探すんだ!」

 

「いや徹くんも落ち着いて!?」

 

「……大丈夫。目にゴミが入っただけだから……」

 

 今まで無いくらいに気が動転して騒いでいる洋太と地面を這い蹲ってDISCを探す徹へツッコミを入れるハナという光景を見て、相対的に少し落ち着きを取り返したみこは、洋太の腕の中でそう答えた。

 それを聞いた洋太はホッと胸を撫で下ろして、頭にぬいぐるみを乗せながらポケットから取り出したハンカチで彼女の目頭に溜まっている涙を拭う。

 

「とりあえず怪我は無いみたいで良かった……そういえば数珠買いにいくって言ってたけど、結局買わなかったの?」

 

「……買って着けてたけど、さっき弾け飛んだ」

 

「イヤ数珠弾け飛ぶって何!? あっ、もしかしてさっき地面に転がっていたBB弾みたいなのって、全部数珠の残骸かよ!どういう不思議怪奇現象だ怖すぎだろッ!?」

 

 みこの話に思わず周囲に散らばった数珠の玉を見渡しながらツッコむ徹。

 洋太は「珍しい事もあるもんだな〜」と呑気にみこの頭を撫でつつ、ハナの物だという“ラムダラビット”というキャラクターのぬいぐるみを「ハイこれ」と彼女に渡していた。

 

「ありがとね洋太くん!よかったら二人もお尻大福食べる〜?」

 

「お尻……何それ下ネタ?」

 

「下ネタじゃねぇわ、食いモンの名称だよ。実は言うと俺も結構好きなんだよな、特にイチゴの奴が」

 

「じゃあ早く行こ!イチゴは限定品だから買えるうちに買っておかないと!」

 

 聞き覚えのない食べ物の話をする我が親友と幼馴染の親友に着いて行けずポカンとしていたが、逆にどんな菓子なのか興味が湧いて来た洋太はみこの手を握って路地裏から出ようとする。

 

「お尻大福か〜……バナナの奴もあるのかなぁ。どう思うみこちゃん? 」

 

「………あ、うん。あると良いね……」

 

 そう答える彼女は彼の指を絡めるように握り締め、肩が腕にくっつく位に近付きながら路地裏を出ようと歩いていく。洋太はそんな彼女の仕草に少し驚きながらも、手の中から伝わってくる体温が心地よいのか、ご機嫌な顔でそのまま一緒に表通りへと出た。

 

(……え、何アレ。恋人?)

 

『……ビギィ』

 

(う、うわぁぁぁぁ!!みこったら、スゴく積極的っ!)

 

『かゆいかゆいかゆいあついあついあついいたいいたいいたい』

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい⁉︎なんでまだ消えてないの!さっき洋太がぶつかったのに!?いつもはアレで消えている筈なのに!!ていうか付いて来てるッ!なんでぇ!?)

 

(うーん、バナナうまし)

 

 背後からツナギを着た身体の右半身を殆ど削り取られた、首に鎖が巻かれた陀袋頭の“ヤバい奴”が付いてきているというのに、幼馴染の手を強く握り締めるみことドン引きしている蚕蛾以外のメンバーはそんな事にも気付かぬまま、賑やかな通りを歩いていくのだった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 ──かつて、『下町のゴッドマザー』と呼ばれていた霊能力者の老婆『タケダミツエ』は魅せられていた。

 全盛期の自分をも超える、圧倒的な才能の原石に……

 

 

 

 その日、商店街の占い稼業で詐欺紛いのサクラ商売をしてたミツエの元へ、四人の男女が訪ねて来ていた。

 

「ほへー、こんな所に占い屋さんあったんだ。初めて知った」

 

「まぁ、こういうのって意識しねぇと案外気付かないもんだしな」

 

「すみません、強い数珠ありますか?」

 

「すぐ壊れないやつ!」

 

「……あぁ、お客さんかい?ちょっと待っててねぇ」

 

 裏で整理整頓しながら家族からの手紙を視界に入れていた彼女は、表の方から聞こえる若者達にそう答えてから、 痛む腰を抑えながらゆっくりと表へ戻っていく。

 

「はい、いらっしゃ──は?

 

 そこまで言ってから、顔を上げた彼女は己の目を疑い、そして絶句した。

 四人の若者の内の一人に、今まで見たこともない程に光り輝き、凄まじい『力』を放つ存在がいたからだ。

 

「……オイ洋太、この婆ちゃんお前の方見てるぞ。知り合いか?」

 

「イヤ、初めて会った人……」

 

「…………いや、すまないね。知り合いに顔が似てたもんだったから。

 それよりお嬢ちゃん、強い数珠だね?ちょうど今開運パワーの奴があるんだよ……」

 

 何故か突然言葉を失っていた老婆に当惑していた男子達にそう誤魔化しながら、ミツエは黒い長髪の女の子に与える数珠(定価3000円)を準備。

 そして数珠を渡しながら改めて、ゆるふわパーマの男以外の三人をじっくりと見る。

 

(この坊やは、変わったのに憑かれているねぇ。輪郭はハッキリしてないが、恐らく蚕蛾……“オカイコ様”の守護霊ってところかね?)

 

 一人目のシンプルな黒シャツを着たナチュラルストレートの少年は、肩あたりに蛾の様な姿をした存在を憑けており。怨霊特有の禍々しい黒いモヤこそあるが、それと一緒に守護霊特有の神聖な白いオーラも漂っている事から、かなり歪で複雑な状態である事がわかる。

 

(このお嬢ちゃんは……すごい生命オーラだね……!いや、ホント凄いな……)

 

 二人目の茶髪で天真爛漫そうな少女は、燃え盛る炎の如く溢れ出る生命オーラの凄まじさに思わず声が漏れてしまいそうな程だった。

 生命オーラの強さ故に霊を寄せ付けやすいだろうが、飛んで火に入って燃える夏の虫の様に、低級な奴なら恐らく問題ないだろうなと考える。

 

(こっちのお嬢ちゃんは……憑かれてるね、少し離れている所に)

 

「おほー!心なしか、凄いパワーが込められている感じがする!」

 

「そ、そう……?」

 

 三人目のずっとゆるふわパーマの少年の手を握っている黒髪の少女の後ろの方には、黒いモヤが僅かに見えていた。

 だが全盛期より力が衰え始めているとはいえ、あの黒いモヤがどのくらい危険かの察しはついているミツエは、今彼女が着けているそんなに力の篭っていない数珠が破壊されず耐えている事に違和感を感じていた。

 

「……なぁ坊や。スマナイが、少しその子から離れてくれないか?」

 

「え、なんで?」

 

「………まぁ、占いは一人ずつの方が正確に答えを出せるからね。お前さんが近くにいると、お嬢ちゃんの未来が視え難いのさ」

 

 いきなりそう言われたゆるふわパーマの少年は、訳がわからないといった様子で聞き返し。ミツエは少し考えてから、もっともらしい理由を口にする。

 そして数秒の沈黙の後に「そういうモノなのか…」と呟き、手を離して少し距離を取った瞬間、黒髪の少女の腕に着けられていた数珠のブレスレットが弾けて壊れてしまう。ついでに数珠の残骸のひとつが、ゆるふわパーマの少年の額に当たってしまう。

 

「あっ!また壊れた!」

 

「…………どうやらゴムが劣化してたみたいだね」

 

「いやゴムの劣化であんな弾け飛ぶかフツー!?」

 

 蚕蛾に憑かれた少年のツッコミをスルーして新しいのを用意すると言いながら、ミツエは確信した。黒髪の少女をゆるふわパーマ……洋太と呼ばれた男の子が、あの黒いモヤ……怨霊から守っているのだろうと。

 更に少女の方へ少しカマをかけてみると、恐らく後ろの怨霊がハッキリと見えているであろう事が……特別な力を持っていないが為に、気付いている上で徹底的に無視をするスタンスを取っている事が察せられた。

 

「……っスゥゥーー、ハぁ……」

 

「……あのお婆ちゃん、どないしたの?目ぇ疲れたん?」

 

「まぁね、年取ると目が疲れやすくなるんだよ」

 

 目頭を抑えて深呼吸し息を整えるミツエに心配の声をかける洋太へそう誤魔化しながら、現実から帰ってくるかの様に溜息を溢して、改めて彼の姿を視る。

 

(……この坊や、スッゴい光っているねぇ。それも生命オーラが凄いお嬢ちゃんが霞んで見えるくらいに、凄まじい力を秘めている……)

 

 その身体から放たれる光は、焔を彷彿させる輝きを見せる生命オーラとは違って、まるで太陽光の様に強く、鋭く、途轍もないエネルギーが込められているのが視て取れた。

 それと同時に、そこらの弱い怨霊なら近くで浴びせるだけで簡単に祓う事が出来る程清浄な光には、『神』の力が含まれている事も感じ取っていた。

 

(生命オーラとは違う力……さしずめ『神の光』、といった所かね……)

 

 過去の経験より知った事だが、ここまで強い『神』の力を感じるケースは少なからずある。例のひとつとしては……守護神、或いは土地神クラスの憑き物筋に魅入られているケース。

 屋敷神や祖先神といった守護神の大体は、個人や一族を災いから守護して繁栄をもたらす事が多く。憑き物筋に関しては、狐や狸といった強い獣の霊が血筋の一族に代々と祀られる事で、周囲に祝福又は災いを齎すと云われている。

 これらの共通点は、もしも彼らに魅入られたり憑かれたりして『神』の繋がりを得た結果、その力が強く出て周りに影響を及ぼすという点だ。

 

(──だがこの子からは、神に魅せられている気配も、神に憑かれている様子も感じられない……)

 

 通常、神クラスの存在に魅せられて憑かれている人間は、それが守護神であれ、祟り神であれ、神に魅入られた者独特のオーラを纏う。

 だが洋太と呼ばれる少年からは、そういった特有の気配も繋がりも無いのだ。

 この気配はどちらかというと、寧ろ神と限りなく“対等”な力……いわゆる『現人神』の類に近いモノを感じる。

 だからこそミツエは、あの若さでこれ程の力を持つ“洋太”という少年が、只者では無いと判断した。

 

(隣の“見える子ちゃん”とは違って『見えている』様子はないが……この坊や、いったい何者なんだ……?)

 

「数珠壊れちゃったけど、あとで請求とかされないよね?もしもの時は、僕が立て替えるけど……」

 

「いや、流石にそこまでしなくて良いから……」

 

 目の前で行われる洋太と“見える子ちゃん”の遣り取りを見守りながら、霊能力者である自身の勘が警鐘を鳴らしている事に冷や汗を流す。

 だがそれと同じくらい、この若者に強い対抗意識も抱いていた。

 

(……まさか、これを出す日が来るなんてね……)

 

 そんな事を思いながら取り出した箱の中から出て来たのは、力がありふれていた全盛期時代に作り上げた特注品の数珠。

 さっきの安物とは比べ物にならない程に力が込められた一級品を、何のためらいも無く黒髪の少女へと渡す。

 

「こ、これって……」

 

「あぁ……さっきのとは比べ物にならん力が宿っている…!お代は結構だよっ!」

 

「……おい洋太。あの婆ちゃん、なんか滅茶苦茶高そうなの渡そうとしてるぞ。ああいうのはタダであげると言っといて、後から高額請求して来るのが相場だから気を付けとけよ」

 

「それはわかったけど、なんで僕にだけ言うの?」

 

「聞こえてるよ坊や」

 

 洋太の耳にそう囁きかける蚕蛾の少年をジト目でツッコミつつ、ミツエは凄まじい力を秘めた光を放つ洋太をジッと見る。

 

 ──目の前には、“全盛期の自分”を超えうる才能の原石。

 彼を見た時、腐り始めていた霊能力者としての自分が叫んでいた。この男には超えられたくない、と……

 無意識下に住まう己の『自信』は、証明したかったのだ。たとえ凄まじい力を秘めていようと、原石は磨かなければ只の石ころである事を……

 

(自分の持つ力を自覚すら出来ていない子に負けるなんて、『下町のゴッドマザー』としてのプライドが許さん!それに何より──)

 

 チラリと横へ視線を移せば、背後の怨霊に対して不安そうに震えている黒髪の少女が立っている。

 

(ワシぁ、孫ほどの年の子を見捨てる程……腐っちゃいないよ!)

 

 そう決意し、特注の数珠を彼女に装着させる。

 そして全盛期の力が込められた数珠は──頭陀袋の化け物の力に負けて、普通に破壊された。

 

「ア"ァァァァァァァーーーーッ!?目が、目がぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

「ウワーーー!?洋太ァーーーッッ!!」

 

 ついでに弾け飛んだ数珠の残骸は洋太の眼球目掛けて飛び込んでいき、彼を悶絶させた。

 

(……コレが、己の限界地点か……)

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 茶髪の少女に心配されながら、ミツエは顔を覆う様に押さえて失笑する。

 全盛期の力でも彼女に憑く怨霊を追い祓うまでに及ばない事実を痛感し、自身の力に限界を感じたからだ。

 

「……あー、痛かった」

 

「あ、復活した。大丈夫洋太?」

 

「もう大丈夫。それより、また数珠壊れちゃったね……」

 

「うん……なんかもう、数珠はいいかなって思い始めてる」

 

 心なしかゲッソリし始めている少女を心配そうに見ていた洋太は、ふと何かを思い付いた様に左手に付けていた赤い数珠のブレスレットを取り外し、それを少女の右腕に着け始める。

 

「じゃあコレ、みこちゃんにあげる!」

 

「えっ……でもコレ、お母さんの……」

 

「だけど欲しかったんでしょ?数珠」

 

 ケロッとした顔でそう言って、みこと呼ばれた少女に数珠のブレスレットが着けられる。彼女の腕には少し大きめなそれは、不思議と優しい光に包まれながら輝いて見えた。

 

「それにお母さんから貰った奴はまだあるし、ひとつくらい他の人にあげても大丈夫かなーって!だから遠慮しないで!」

 

「……わかった。ありがとう洋太……」

 

 笑い掛けながらそう語る洋太に、みこは仕方無さそうな笑みを浮かべて腕のブレスレットを優しく撫でる。

 その微笑ましいやり取りを見ていたハナと徹だったが、ミツエだけは毛色が違っていた。

 何故ならたった今洋太と呼ばれる少年が着けていた数珠のブレスレットから凄まじい力を感じた上に、心当たりがあったからだ。

 

(守護霊と似たオーラを放つ、二つの天照石と他より大きめの狼眼石。

 そして生命エネルギーがふんだんに込められ、血管の様に循環し続けている、赤珊瑚の数珠……ま、まさかこの数珠は──)

 

 ──キンッ!

 

「──ッッッ!!??」

 

 その瞬間、ミツエは戦慄していた。

 それはほんの一瞬……他の子は勿論、みこと呼ばれる少女ですら気付かないくらいに、あっという間の出来事だった。

 少女に着けられていた数珠のブレスレットから、“あるモノ”の『手』が飛び出し……まるで獲物を狩る獣の様な圧を放ちながら、彼女から離れていた所にいた怨霊から金属音を響き渡らせたのだ。

 そして気付いた時には、黒いオーラはさっきよりも小さな物へと変わり、獅子に睨まれた草食動物の如く、その場から逃げていったのを感じた。

 

(あ、アレは……守護霊……いや、『式神』かッ!)

 

 霊能力者の間──具体的には“陰陽道”における『式神』の役割は、主の命令で害をなす悪霊を退けたり、その身を盾にして主を護る存在である。

 

 一口に『式神』と言っても、それらは様々な種類に分類されている。

 術師の思念から生み出される、術者の力が直接的に具現化した式神…『思業式神』。

 おそらく『式神』と聞いた多くの人が思い浮かべるであろう、和紙や藁などを人型にして作ったモノを依り代にして、そこに霊力を込めて生み出される式神…『擬人式神』。

 かの安倍晴明が使役していたとされる“十二神将”などが該当する、神や霊などを調伏させて従えさせる、最も強力な式神…『悪行罰示神』。

 

 そして“紅い数珠を使って生み出される式神”は、己の生命オーラを媒体として、そのエネルギーを数珠に通して生み出すモノ……()()()()()が使役している、『思業式神』に該当する術式のみだ。

 

 だが問題はそこではなく……あの数珠から感じた『()()()神の力を纏った生命オーラ』だった。

 『微かな』──そう。先程瞬間的に放出されたオーラは、少年が放つそれと比べると『あまりにも少な過ぎる』。

 とどのつまり。先程見えた『力』は、その式神の力の一端に過ぎないという事を……ほんの片手間であれ程の怨霊を祓った事を指していた。

 

 それを悟ってから冷や汗の止まらないミツエは、それでも自分が感じていた疑問を解消するべく、「どうしたのかなぁ?」と首を傾ける洋太へと尋ねた。

 

「なぁ坊や。アンタ、洋太……と言ったかね?」

 

「あ、ハイ。そうですけど、何でしょうか?」

 

「──『紅乃(くれないの)』という苗字を、知っているかい?」

 

「えっ? なんでウチのお母さんの、昔の名字を知ってるんですか?」

 

 それを聞いたミツエは確信する。

 この少年はあの一族……『紅乃一族(くれないのいちぞく)』の血筋に連なる者なのだと。

 

「……いや、ウチの知り合いにその苗字の人がいてね。その人が、そこの数珠と似たものを着けてたのさ」

 

「へー、そうなんだ。ちなみにその人とは……」

 

「すまないね、今日は此処で店仕舞いだよ」

 

「急に!?」

 

 ミツエは洋太の言葉を遮る様に、商売道具を裏の方へと片付け始めた。

 洋太は納得いかない様子で呼びかけるが、彼の友達であろう蚕蛾の少年に引っ張られ、占いの館から引き離されてゆく。

 それに続いて他の女子二人も去っていくのを横目に、ミツエは自分の体から力が抜けていくのを、真っ白に燃え尽きていくのを感じ取っていた。

 

 ──見えざるモノが見えないという“無知”を物ともしない、圧倒的な『力』。

 ──あらゆる怨霊を浄化するであろう、絶え間なく放たれる神々しい『光』。

 ──力の一端だけの時点で理解出来てしまう、暴力的な凄まじき『圧』。

 ──『原石』である時点で、既に自分よりも一歩先を行く存在に、勝負を挑んでいた。

 

 だがその時点で既に、“全盛期の自分”は負けていた。

 

「……足、洗うか」

 

 後にゴッドマザーは占いの館を畳んで、田舎にいる息子夫婦の元へ帰って行った。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「よぉーし!これぞ俺が出せる、最強の牛丼の完成だァ!」

 

『……ギィ』

 

 占いの館から立ち去った洋太達はお尻大福を購入した後、徹に誘われて牛丼専門店『牛鬼ノ里』に来ていた。

 店内はシンプルな内装をしており、四つのテーブル席と八個の椅子が並んだカウンター席には、お箸や調味料等が置いてある。

 カウンター席に座った三人の目の前には、美味しく焼かれたボリューミーな牛肉と玉ねぎがのせられ、その下から僅かに見えるご飯は白い輝きを放っていた。

 だが残りの一人……影杉徹の目の前にある牛丼は、卓上にある黒い箱の中に入った紅生姜を殆ど使った事によって、真っ赤な山脈を造り上げていた。彼に憑く蚕蛾はちょっと引いていた。

 

「……ねぇ徹くん、ホントに牛丼頼んだの?あるはずのお肉が見えてないよ?」

 

「何言ってるんだ百合川さん?此処にあるのはれっきとした牛丼だよ」

 

「うーん、だとしたらおかしいな〜?あたしの目に写っている情報は、それが紅生姜丼だって言っているんだけどなぁ〜?」

 

「確かにコイツは、只の牛丼じゃねぇ……紅生姜との相性が最高にベストマッチな牛丼だ。ここの牛丼は、紅生姜を美味しく食べる為に存在すると言っても過言ではない」

 

「どうしようみこ、紅生姜ジャンキーが同じ空間にいるよ」

 

 横の席に広がる紅生姜の山を前にドン引きするハナの隣で、徹はお箸を使って紅生姜の山をひと掬いして口の中に放り込んでいた。

 みこもバナナ中毒者の幼馴染と同じ領域にいる存在に、頬を引き攣らせながらも牛丼を食べ始める。

 

「ゥンまああ〜いっ!ご飯と牛肉に染み込んだタレの甘辛さが肉汁と一緒に染み渡って、口いっぱいに広がっていくゥッ!!

 更にはぁ!付け合わせの紅生姜とチョイと合わせる事で、口の中がサッパリする上にピリッとした辛さとショッパさがアクセントになって、次々と牛丼を口へと運んでしまうッ!!」

 

「洋太、もう少し静かに食べて」

 

「あ、ハイ。すみません」

 

 一口食べた途端、あまりの美味しさにテンションが上がって声を響かせる洋太だが、同様に牛丼を食べていたみこに注意され、大人しく黙々と食べ始める。

 そんな二人のやり取りを見てハナはクスクスと笑いながらも、レンゲで特盛りの牛丼を掬って口へ運ぶ。

 

「(そういえばあの路地裏から付いて来ていた“ヤバい奴”。いつのまにか消えてたけど、どうなったんだろう……まぁ、いいか)

 ……あ、そうだ。ハイこれ」

 

「え?コレって……ブレスレット?」

 

 思い出した様にみこが洋太に差し出したのは、橙色のパワーストーンで作られたブレスレットだった。

 

「うん……洋太にもあげよう思って、もう一個だけ買ってたやつ。

 さっき貰ったブレスレットと違って、大した物じゃないけど……」

 

「そんな事ないよ!メッチャ嬉しい!ありがとみこちゃん!!」

 

 彼から貰ったブレスレットを見ながら、どこか気まずそうに呟くみこに対して、洋太はニコニコとしながら貰ったブレスレットを左腕に着ける。

 

「うん!これでお揃いだねっ!」

 

「……そうだね」

 

 その反応が嬉しいのか、彼女は気恥ずかしそうに口元を微かに綻ばせて、互いにブレスレットを見せ合った。

 ブレスレット越しに伝わる、陽だまりの様な優しい暖かさを感じながら……

 

 

 

「そういえばずっと気になってたんだけど……二人のそのバッグ、何が入っているの?」

 

「ブフッ!? こ、コレはですねぇ……」

 

「実はさっきメイトでフィギュア買っててさぁ〜……僕のは悟空のフィギュアで、徹のはクリリンのフィギュアなんだよね」

 

「クリリン!?……あ、いや。そ、そうそう!クリリンのフィギュアだよ、クリリンの!アハハ……(お前クリスちゃんのことクリリンって呼ぶなや!?)」

 

 その後の食事中、バッグの中身についてハナから質問をされ、洋太のクリリン発言にツッコミを吐き出しそうになっていた徹の姿があったが、尺の関係でカットする。




●百合川ハナ
心なしか、ボケとツッコミの割合が不義遊戯してる気がする少女。
逆V字口のウサギのキャラ『ラムダラビット』がお気に入りで、部屋に大量のぬいぐるみが置いてあるらしい。

●影杉徹
今回の話では、ボケとツッコミを切り替えながら騒がす要員と化してる少年。
仮面ライダーカブトなどのライダー作品やケツとおっぱいがデカイ美少女キャラがお気に入りだが、最近の推しキャラはデザストらしい。

●ゴッドマザー
かなり腕の立つ霊能力者のお婆ちゃん。本名はタケダミツエ。
二次創作の初登場時では大体オリ主の力を見て驚き戦慄するリアクション要員と化しているが、それ以降は滅茶苦茶有能なOTONAと化している。鎧武物語後半のブラーボやセイバーの大人剣士勢並みに安心感が凄い。

●洋太の数珠ブレスレット
とある一族が作り上げた、式神召喚用の呪具。術師によって出て来る式神と一部数珠の種類が違う。
????「よっしゃァア!やっと来たぜ、俺の出番がよォ!てな訳で今回は初回サービスで、ノーコストであの怨霊を追っ祓うでェ!!」

●路地裏の呪霊
頭に陀袋を被ったような怨霊。かゆうま。
突然出て来た馬鹿猿に身体の右半分を消し飛ばされ、痒さに加えて沸騰する様な激痛に耐えながら憑いていたら、首元の鎖をとんでもねぇ奴に消し飛ばされたので必死に逃げた。
痒さからは解放されたが、新たに出来た焼けるような痛みによる苦しみを背負いながら、今も路地裏に居る模様。
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