見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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前回の話にて、みこにセクハラをさせてしまった事で一部読者の皆様に不快な思いをさせてしまった件について。
並びに、ドンキーには伏字してたのに、クッ●には伏せ字をしていなかった件について、心よりお詫び申し上げます。
つきましては、今回の件の責任を持って自害いたします、断頭台のアウラが。

アウラ「理不尽じゃない!?」


もしかしたら、僕らの日常は少し変わってるのかもしれない

【男子高校生共の朝】

 

 

「はぁ〜〜!ちるる様は今日もお美しいな〜!」

 

「みんなおはよ〜!アレ英次郎、何見てんの?」

 

 バナナを頬張りながら登校した洋太は、教室に入るなり雑誌を手に目をハートにしていたクラスメイトの元へ駆け寄った。

 

「おう洋太、お前も見ろよ!『一条みちる』こと、ちるる様のお麗しいお姿をな!」

 

 バナナを口に含んだまま、ちょっと小太りなクラスメイトである柿山英次郎(かきやま えいじろう)から『CHAOS TEEN』という雑誌を受け取る。

 そこ表示されているのは、長い銀髪を美しく靡かせ、儚げな表情でポージングする専属モデル“一条みちる”の特集記事だった。

 

「ちるる様、相変わらずお綺麗だよな〜。もし神様が許すならば一度会ってみてぇな〜!」

 

「へぇー、英次郎ってみちるって子の事が好きなんだね」

 

 鼻の下を長くして顔をだらし無く緩ませている。そんな英次郎の姿を横目に、確かに綺麗な子だな〜と感心しながらページを捲っていた。

 

「そりゃあモチロン!!あの目で是非っ、養豚場の豚を見る様に睨みつけながら!あの口で是非ィ、饒舌に罵っていただきながら!あの美しく長い脚でケツを蹴りつけて──あぁ!イケませんちるる様ァ!貴女には何百人何千人ものファンが居るのに!俺だけにこんなキモチ良い事をしてはァ!!」

 

「なんか思ってた『好き』と違う気がするけど、英次郎が幸せそうでよかったよ」

 

「やぁ。面白そうな話をしてるねぇ、キミ達☆」

 

 興奮した様子で息を荒くする英次郎に軽く苦笑いしながら雑誌を閉じようとすると、女性の様な凛とした声に男性らしい爽やかさを含んだ声が響いた。

 

「うわっ、志士島かよ。急に出てくんなっつーの」

 

「あ、玲音くんおはよう」

 

「グッドモーニング☆マイフレンド洋太。彼とは何の話をしてたんだい?」

 

 英次郎と洋太は揃って振り向くと、そこには女の子100人中100人が思わず振り返る程に整った顔付きで、肩まで伸びたロングヘアの金髪をキラキラと輝かせるイケメン男子、志士島玲音(ししじま れおん)が立っていた。

 彼は同じクラスメイトで、その王子様を彷彿させる美しい容姿と性格から全ての女子の心を鷲掴みにし、男子校にいる今でも一部の男子に熱い視線を向けられているらしい。

 そんな彼がなぜ今は男子校にいるのかは分からないが、前に直接聞いた時曰く『共学だと全ての女子を魅了させてしまうから、敢えて男子校を選んだんだ☆』とウインク付きで言っていたのを覚えていた。

 

「いま英次郎から、みちるって子が載った雑誌を見せて貰ってたんだけど、玲音くんも見る?」

 

「是非、拝見しよう☆」

 

 雑誌を受け取った玲音は、バサバサした睫毛を瞬きさせながら写真にいる彼女の姿へ視線を向ける。

 

「フゥン……確かに美しいレディだね。特に銀髪と瞳が、彼女の魅力を際立てさせるアクセントとなっている……スタイルも殆どパーフェクトだ」

 

 写真の中に居る彼女を褒めちぎるが、少ししてから「まァ……」と言葉を続けた。

 

「美しさで言ったら、ボクの未来のフィアンセも負けてないけどネ☆ そうだろ、マイハニー♡」

 

 そう言うや否や、玲音は首元から何かを取り出した。それは、天真爛漫そうな女の子の写真が貼り付けられたロケットペンダントだった。

 彼はウットリとした表情で語り掛け、写真に口付けをする。

 それを見た英次郎は、「まーた惚気かよ」と心底うんざりと様な顔をしながら引きつった声を出す。洋太は「ホントにその子のこと好きなんだな〜」と、玲音から雑誌を返して貰いながら思った。

 

「オイオイ、まーたナルシスト君が自分に酔っとるな?まったく……コレやからイケメンはキライや。オマンの様なやっちゃは、豆腐の角に当たった後で馬に蹴られて死んだらええねん」

 

 だが彼から漂う甘い空気をぶち壊す様に、洋太の背後から関西弁の悪態が聞こえてきた。

 振り返るとそこには、白いメッシュが入った髪を後ろで一つに結び、その端正な顔立ちと細く鋭い目付きで玲音を睨みつける男子が、ゲスい笑みを浮かべながら立っていた。

 

「……やれやれ、相変わらずだねぇ天匙クンは?サッサとそのドブの様に薄汚れた醜い心を、綺麗サッパリ洗濯したらどうだい?」

 

「ウチの心がそんなに欲しいんか?ほんだらくれたるわ、探せェ!母ちゃんの子宮に全部置いてきた!」

 

 眼鏡越しに見える目を細めてトラッシュトークを行うのは、白沼天匙(しらぬま あまじ)。『白沼』という苗字に似合わぬ腹黒男……通称“ドブカス眼鏡”である。

 彼は玲音の様な“調子こいているイケメンリア充”を毛嫌いしており、よくこうして彼に悪態をつくのが日課になっている。

 

「流石はドブカス眼鏡……自己紹介で『授業中に心のノートと道徳の教科書を焚き火して作った焼き芋が一番美味しかった』と豪語する奴だけはある……ッ!」

 

「ちなみに最近のマイブームは、破局するリア充カップルの様子をシャケ弁喰いながら観戦することやで〜。『人の不幸は蜜の味』、ウチの一番好きな言葉や」

 

 嫌悪感を出す英次郎の背後に回って、彼の肩に肘を置いた天匙はニヤニヤと顔を歪める。

 

「ほんで洋太クン、コイツらなんの話してたんや?」

 

「この雑誌に出てる『一条みちる』って子の話してた」

 

 洋太は雑誌を天匙に見せ、そこに載っているみちるの写真を見せる。雑誌を受け取って彼女を一瞥する天匙は、心底見下した溜息をつきながら口を開いた。

 

「このみちるって子………なんやか性格キッツそうな娘やなァ。オマケに専属モデルぅ?どうせ此処までの地位へ来るのに、お偉いさんに股開いて枕営業してたんやろ?

 ウチ、性格が緩くてマタがキツイ女は好きやけど、性格がキツくてマタが緩い女は来世に期待しながら屋上からワンチャンダイブすりゃええと思ってんねん」

 

「酷い偏見だ。人の心とかないんか?」

 

「オイ、ドブカス眼鏡……ぶっ殺すぞ……!するわけないだろ、ちるる様が、そんな事を……ッ!」

 

 その言葉に洋太はチベットスナギツネみたいな目でドン引きし、英次郎は怒りと殺意に満ちた目で天匙を睨みつけながら肩に置かれた肘を退かそうと腕を強く握り締める。

 

「……どうやら君は少しオイタを加えないと、気が済まないらしいね♠︎」

 

「ケヒッ、上等やナルシスト野郎。今日こそイケ好かん顔面に傷付けたるわ」

 

 そして玲音が心底軽蔑した様な目で睨みつけ、天匙は中指を立てながら30cmの竹尺を構えて挑発し返す。

 そのまま二人の喧嘩が始まりそうになり、それを察知した他のクラスメイトが『玲音くん頑張って〜!負けるな〜!』派と『天匙ィ!今日こそ糞ったれイケメン野郎をブッ飛ばせェ!』派と『まーたやってるよアイツら…』派に分かれて沸き立っていた。

 

「皆さんおはようございます。朝の大乱闘●マッシュブラザーズの開幕です。実況はわたくし田中が、解説は若林くんでお送りいたします。では若林くん、何か一言お願いします」

 

「音量ゥを上げルゥゥオッ!!生前葬どルゥゥアアアッッ!!」

 

「相変わらず凄い巻き舌ですね、ありがとうございました」

 

 教卓の方へと移動した二人の同級生がオモチャのマイクを持って実況と解説を行い、それをノリノリでクラスメイト達が囃し立てる。

 もしこの場に真面目な奴がいたならば彼らを止める為に奮闘したのだろうが、生憎此処にいる奴らは全員、馬鹿とイカれ狂人と悪ふざけと諦めの境地のバーゲンセールな奴らばかり。止める者なんて誰一人いなかった。

 

「おはよーさん……」

 

 そこへ眠そうに目を擦る徹が教室へ入ってきた。

 

「あ、徹おはよ〜。めちゃ眠そうだけど大丈夫?」

 

「昨日徹夜でニンニンジャー完走させて、今朝延滞ギリギリで返却して来たわ……」

 

「そっかー、とりまお疲れさん」

 

 そう言ってバナナを渡した洋太は、乱闘を始めた二人のクラスメイトを観戦しながら、いつもと変わらない日常に思わず笑みを零しながら席に着いたのだった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

【くしゃみ】

 

 

「徹くん……なんだかいつもより隈が酷いけど、どうしたの?」

 

「……え? あぁ、コレ?実は夜更かしたせいで、今日は3時間くらいしか寝てないんだよ……」

 

「3時間⁉︎ ダメだよ徹くん!もっといっぱい寝なきゃ!! 」

 

『ビギィ、ギィ!』

 

 放課後のDAWSONにて、影杉くんが欠伸を噛み締めながら菓子パンを選んでいると、隣で彼の目の下にくっきりと刻まれた隈を見ていたハナが心配そうに声をかけた。

 それに対して影杉くんは困ったように笑いながら理由を話すと、それを聞いた彼女は心配そうな顔でぷんすこと注意していた。

 

「うーん……そりゃそうなんだけどさぁ。人間って3時間しか寝てなくても、案外大丈夫なんじゃあないかって思ったんだよね」

 

「え、どうして?」

 

「授業中に先生の話聞いてた時、あまりの眠気で目を瞑りそうになったんだけど……不思議なことに上と下の瞼がガッチャーンコ!する事なく、先公にチョーク当てられずに済んだよ。まぁ頭がボーっとして話殆ど入ってこなかったし、途中から記憶が飛んでたし、なんだか最高にハイッって奴にZZZ………あれ、どこまで話したっけ?」

 

「うん、やっぱり全然大丈夫じゃないよね⁉︎ 帰ったら直ぐに寝て!!」

 

『ビギィッ!』

 

 目をグルグルとさせながら眠そうに語る影杉くんを、ハナはお菓子を棚から取り出しながら強くそう言って説得した。

 あと瞼が閉じなかったのは、多分頭に憑いている蚕蛾の子が瞼を押さえ付けてくれたからじゃないかな? 心なしか疲れている感じするし、相変わらず何言っているか分からないけど多分『頼むからはよ寝て』って言ってる気がする。

 

「おほー!見てよみこちゃん、新商品の『キャラメルカスタードクリーム全部のせチョコバナナクレープ』だってさ!チョコバナナにキャラメルカスタードって絶対美味い奴じゃんね!これはもう、買うしかないよね!!」

 

「何その糖分の暴力が具現化した様なやつ……」

 

 そんな事考えながら目的のモノを見つけていると、横から洋太がカロリーがヤバそうなコンビニスイーツを嬉々として掲げながら話しかけてきた。

 

「みこちゃんは……クリクリプリン?……あぁ、栗のプリンか。ちょっとビックリしたよ、栗だけに」

 

「いやびっくりする要素ないでしょ、逆に何だと思ったの。あとそのギャグ面白くないから辞めた方がいいよ」

 

「マ●オRPGのマメクリボー的な奴だと思った、“クリ”だけにね!」

 

「マジで引っ叩くよ」

 

 馬鹿みたいな事を抜かす幼馴染に相変わらずの軽口を叩きながら、秋限定のスイーツ『クリクリプリン』を会計に持って行く。

 

「そう言えば今思い出したけど、去年も同じ奴あったよね。食べた事ある?」

 

「……ビックリした。洋太、去年のこと覚えてたんだ」

 

「え、何それ。もしかしてみこちゃん、僕の事馬鹿だと思ってた?」

 

「実際そうでしょ」

 

「ウソでしょ……みこち僕ショックだよ。こんなに凹んだのは、ヤックルの尻に矢が刺さった時以来だよ」

 

「いい人生送ってんね」

 

 一緒にレジ前で並びながら驚きの声を出しながら聞くと、心外だと言わんばかりに目をまん丸にして驚いた様子で聞き返してきた。それに私は鼻で笑いながら答え、洋太は唇を尖らせて不満そうに言い返してきた。

 ……なんかレジの店員さんが、なんだか胃もたれでもした様な目で私達を見ていたけど、なんだろう?まぁいいか。

 

「それでプリンの事だけど、まだ食べてないよ。去年も買ったけど、食べ損ねちゃったから……」

 

「…………そっかぁ」

 

 私は去年の事を思い出しながら話すと、彼は少し間を開けてから小さく呟いた。

 そんな姿に少し違和感を抱きながら、店員に商品を渡してお会計を進める。

 

「お会計440円ですー」

 

「えっと確か……みこちゃんが140円で、僕が『103円』で合ってるよね?」

 

「何言ってるの洋太……アンタのは300円でしょ」

 

「……え、そう言ったけど?」

 

「………え?」

 

 マジックテープ財布を開いて漁る洋太にそう注意すると、彼は顔を上げてキョトンとした表情でそう言った。

 それに思わずポカンとして聞き返そうと顔を上げると……

 

『にひゃくきゅうじゅうえん』

 

 其処には制服を着た“ヤバい奴”が、此方を見下げながら両手を差し出していた。

 

(──やば、目が合った……っ!誤魔化さないと……!)

 

 私は内心冷や汗を掻きながら、ヤバい奴の隣に下がっているおでんの看板へと視線を向け、生きてる方の店員に「他に何か買いますか?」と問われるまでジッとそれを見続けた。

 

「……えっと、じゃあ──」

 

 おでんを購入しようとしたその時、突然動きを止めた洋太がふがふがと鼻をひくつかせながら目を細め始める。

 

「あ、出る……へっ、ヘブしッ!!」

 

 ──ボッ!

 

「んあー……失礼しました」

 

「……はんぺんと大根、お願いします。(くしゃみでも消えるんだ……)」

 

 おでんの追加注文をしながら、幼馴染のくしゃみで上半身がまるっと消え去った“ヤバい奴”を見て、逆に気の毒に思いながら消えてゆく様を見届けた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

【ぶっちゃけありえな〜い】

 

 

 夕方頃になると日が沈み始め、空が茜色に染まり始める。

 

「そういえばさ洋太。お前、四谷さんとは小学生の頃からの付き合いだって言ってたよな?」

 

 あの後、会計を済ませて店から出たハナと影杉くんと合流し、そんな空の下を四人で話をしながら歩いていると、ふと影杉くんがエナドリを飲みながら洋太に話しかけた。ちなみに彼の頭には爆睡する蚕蛾の姿があった。

 その質問に対して洋太は、「うんそだよー」とおでんの大根を食べながら軽い調子で答える。

 

「それで百合川さんは、中学の時から四谷さんの親友やってんだっけ?」

 

「え?あたし小学生の時も、みこと一緒だったよ?」

 

「……え?」

 

「え?」

 

 はんぺんを食べながらそう言うハナの言葉に影杉くんは目を丸くし、それにハナも首を傾げる。

 

「えっと……洋太は四谷さんと小学生の時から一緒で、百合川さんも四谷さんと小学生の頃からの付き合い、なんだよな?」

 

「そうなるねー。ハナちゃんも同じ?」

 

「そうだよ〜、仲良くなったのは小4からだけどね」

 

 影杉くんの質問に二人はそれぞれ答えながら、それがどうしたのと不思議そうに首を捻る。しかし私はその話を聞いた時から、彼の聞きたい事が何なのかについて察しがついていた。

 そして影杉くんは数秒くらい間を空けてから、ちょっとした疑問を投げかけた。

 

「だったらさ、一回くらいは顔合わせしてる筈じゃねぇの?なんでこの間、始めて会った感を出してたんだ?」

 

「……あ、確かに」

 

「……?…………??……………………ハァッ☆!?」

 

「いや遅ェよ!なんで理解するまで少し時間かかってんだよ、察し悪すぎだろうが!?」

 

 影杉くんの指摘にハナがすぐに理解したのに対して、洋太はまだ状況が飲み込めない様で、少しの間目をパチクリさせてから間抜けな声を零す。

 まぁ相手はあの洋太だし……なんて事を思いながら、二人が今まで奇跡的に面識がなかった事を思い返して、割と唖然としながら「確かに妙だな」と首を傾げた。

 洋太と疎遠になってた中学の時ならともかく、小学生の時は二人と何時も交流があった筈なのに、今まで一度も会ったこと無かっただなんて……そんな事ある? あの二人ならてっきり会った事があると思ってたから、私から紹介する事は無かったけど……

 すると洋太も漸く理解が追いついた様で、少し考えながら口を開いた。

 

「うーん……確かにそう言われると、今までハナちゃんと会った事が無いのが不思議でしょうがないな……なんでなん?」

 

「でも洋太は小4の頃からずっとクラス違ったし、そこでハナとすれ違いになってたんじゃないの?」

 

「いや……それでも四谷さんと関わってたなら、最低でも一回くらいは面識が出来る筈だろ?」

 

「そうだよね〜。あたしも何度かみこの家に遊びに行ったから、その時に洋太くんも来てたなら、其処で顔合わせてる筈だけど……」

 

 影杉くんの疑問に対して、私達は思い出話を交えながら振り返っていた。しかしどんなに思い出を掘り下げても、ハナと洋太が顔を合わせた記憶は一向に出てこなかった。

 

 例えば運動会。私とハナが白組の時、洋太は必ず赤組だったから、クラスが違うのも相まって顔を合わせる事はなかった。

 例えば遠足。お昼ご飯の時にハナが別の子の所へ行っている間、洋太がバナナを持ってやって来たけど、アイツが自分の班へ戻った途端にハナが戻って来るといった出来事はあった。

 例えば家族と遠くにお出掛け。ハナが同行する事になった時、洋太はお父さんと旅行に出掛けてたり親戚の法事に出たりしていて。洋太が同行する事になった時、ハナは他の友達と遊ぶ予定があったり結婚祝いに行ったりしていた筈。

 そんな感じでエトセトラ、エトセトラ……と他にも例を挙げればキリがない。

 

「「う〜ん……不思議だね!」」

 

「不思議すぎんだろ!?此処まで徹底的なすれ違い、物理的アンジャッシュが過ぎるよ!」

 

 洋太とハナが声をハモらせながらそう首を傾げる中、影杉くんが頭を抱えながら叫んだ。

 まぁ気持ちは分かるけど、コレに関しては本当に『不思議だね』としか言いようがない。

 

「……でもさ、今はこうして一緒になったんだから、別に昔がどうのこうのって気にしすぎる事ないでしょ?大事なのは『今』なんだしさ」

 

 すると洋太は、何かを見透かす様に落ち着いた声でそう言い放ち。それを聞いた私達は思わず顔を見合わせる。

 

「……洋太。お前バカのくせに、たまにちょっとドライな所あるよな」

 

「え、そうかな?」

 

「でも『今』が大事ってのは分かるかな〜。あたしも二人ともっと仲良くなりたいしさ!」

 

 影杉くんは少し呆気に取られた様子で半笑いになり。そんな様子に洋太は目をパチクリとさせると、ハナが彼の意見に同意する様に頷きながらニコッと笑う。

 

「………んぁあ!やめやめ!!こういうこそばゆい話はもう辞め!俺らみたいなのは、バカみたいな話をしあって笑い合うだけで十分なんだよ!

 Hey洋太、何か面白い話を頼むっ!」

 

「ぽーん、わかりました。今年の夏休みにセミの気持ちを理解する為、木にしがみついて鳴き真似してたらお巡りさんに怒られた時の話をします」

 

 そんな二人の様子に少し照れたのか、影杉くんがそれを誤魔化す様に大声を上げてから頭を掻きむしり、洋太に別の話を振って話題を逸らそうとする。

 その姿に私は小さく微笑すると、隣でハナもクスクスと笑いながら、四人で歩みを進み続けたのだった。

 

 

 ──ちなみに洋太が披露した蝉の鳴き真似は、そんなに上手くなかった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

【五目黙示録ヨウタ】

 

 

 ざわ……ざわ……

 

「ホラ洋太、早く置けよ」

 

「ハァ、ハァ……ぐっ!」

 

 晩御飯を食べた後、某ゲームパッドを使って『アソビ大全51』をプレイしていた洋太と恭介。彼らは現在リビングにて、明日のおやつをかけた『五目並べ』の対戦をしていた。

 

 ──五目並べ。白と黒の碁石を縦横19列の盤上に置き、先に縦横斜めに五つ並べて揃える『五連』に達した方が勝ちというシンプルなルールでありながら、かなりの戦略を有する奥深いボードゲームである。因みに洋太が恭介に勝てた事は一度も無いし、他の人と戦って勝てた試しもない。

 

 ざわ……ざわ……

 

 更に今回は後手である白で打っていたが、この五目並べに於いては基本的に先手である黒の方が有利。一方の白は禁手無しというハンデこそあるが、あらゆる状況において圧倒的不利ッ!

 そのお陰で、洋太は恭介が打った石の並び阻止・対策で手一杯。白を自由に並べる事が出来ず、このままでは負けるかもと頭を悩ませていた。

 

(ここからどうする見円洋太ァ…!考えろ……考えるんだ……!勝たなきゃ僕のバナナは恭介の養分……!

 偶然にも、ココに打てば白の四列を取れる様になってる。けど片端には既に黒が置いてあるから、そうなれば五連は簡単に阻止される……!かといって保守に走れば、いつかは負けてしまう可能性が爆上げ……)

 

 ざわ……ざわ……ざわ……

 

 ゲームパッドの横に置かれたバナナを横目に、自分達が今まで打った石と自身の打ちたい場所の兼ね合いに頭を唸らせながら、必死に思考を回転させる。

 

(いや、此処は冒険だ……轟轟戦隊ボウケンジャーだッ!

 コレは賭けだ。恭介が僕の戦略に気付かない、或いは黒の四列を作ろうとすれば、その時点で僕の勝ちだ! ……だが、もしこの賭けが失敗したら?その場合はまた停滞した状況が続いてしまう。でも僕は打つ!ここで打って、勝負に勝つ!!)

 

 洋太は意を決して、三列の白に石を置いて四を作った。

 ──が……駄目!

 

「くそォ!」

 

 普通に五連を阻止された洋太は、悔しそうにそう叫んだ。

 恭介からうるせなーと思われながら、そのまま勝負は進んでいく。

 

 ざわ……ざわ……

 

(ダメだ、見えねぇ……『勝ち』のビジョンが……ッ!)

 

 いくつもの戦略を思い浮かべても弟に勝つ己の姿を想像する事が出来ず、悔しそうに顔を歪めながら画面内の連珠盤を見る。

 そうして悩み続けながら石を置こうとした瞬間……思いもかけず洋太に与えられる、ある僥倖……!

 

(──イヤ、違う……あった……ッ!コレだ!これなら勝てるぞッ!!ちゃんとあるじゃあないか、勝ちのビジョンが!)

 

 その気付きによって脳内に浮かんだ答えを手繰り寄せる様に、今置かれている石から遂に見つけた勝利への道筋に歓喜ッ!洋太の口から笑い声が漏れ始めた。

 

「? どうしたんだよ洋太。急に笑い出して」

 

「フフフ……恭介ェ……僕は今此処で、二本目のバナナをベッドする……『上のせ(レイズ)』だッ!」

 

 ざわっ……

 

 自信満々の表情で机に二本目のバナナを置く。その様子に恭介は首を傾げたが、またバカな事考えてんだろうなーと特に気にしなかった。

 

 ざわ……ざわ……

 

「……じゃあ、オレは此処に置くぞ」

 

 そして遂に時は来る……ッ!初勝利ッ!圧倒的快進撃ッ!

 相手の迂闊な一手にニヤリと笑うと、言葉をつらつらと続け始めた。

 

「利根川ァ……僕が蛇に見えたか……!」

 

「いや別に見えてねぇし、利根川じゃねぇよ」

 

「そうか………なら、お前こそが蛇なんだ……」

 

「なぁオイ、話聞いてる?」

 

 恭介に突っ込まれながら、勝利を確信した眼光で其処に置かれた黒を見据える。

 

「こんな風に物言わぬ心理戦は鏡を見るようなモノ……

 相手の心を読もうと必死に考えるつもりが、気がつけば『自分だったらどうする?』と考えている。

 つまり、僕が蛇に見えたならお前こそが蛇なんだッ!」

 

「もしかして洋太、この間見たカイジの映画に影響されてる?実写の奴」

 

「蛇でいてくれてありがとう、利根川……ッ!」

 

「だから利根川じゃねぇってば」

 

 冷静なツッコミを受ける洋太だが、その声には余裕が感じられた。

 それから洋太は勝利への道筋へ足を踏み入れる為に、置かれた石を慎重に並べて四つ並んだ白を……両端が空いている四個直線『達四』を作り上げた。

 

「四つ揃った白……!両端にはなんの障害も無し……!僕の勝ちは確定だァッ!」

 

「はい黒五つ揃った、オレの勝ち」

 

「どうしてだよぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!?」

 

 しかし次の瞬間、恭介はそう宣言しながら黒の五連を作り上げる。

 勝利からいきなりドン底へと叩き落とされた洋太は、頭を抱えながら絶叫した。

 

「き、恭介ェ……おまッ、何をしたんだぁ!僕の目には、四つ並んだ黒は見当たらなかった!どんなイカサマを……禁手を使ったんだ……!」

 

「何って……普通に飛び四の間部分に黒置いただけだし、イカサマでも禁手でもねぇよ」

 

 ざわっ

 

「聞いてねぇよぉぉぉッ!!?」

 

 平然とそう言い放たれた洋太は再び絶叫し、頭を抱えて机に突っ伏して崩れ落ちた。

 歪む!歪まざるを得ない自尊心……!全身を包む……敗北感!

 

「格の違い、見てみたいな〜?まだまだ時間あるし」

 

「──上等だ、やってやるよ! まだまだ始まったばかり……!

 勝ってやる……次こそは見せてやる、格の違いを……ッ!倍プッシュだ!!」

 

「……洋太、程々にね」

 

 弟に煽られながら普通にボロ負けしそうなフラグを立てる幼馴染を、みこはお風呂に入る準備を進めながら苦笑いで一瞥していた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

【また明日】

 

 

「バナナ全部持ってかれた……」

 

「まぁ、なんとなく予想はついてたけど……」

 

 お風呂から上がってリビングに戻ってみると、案の定恭介に全負けした洋太がソファの上で真っ白に燃え尽きていた。そんな彼を慰める様に、みこは隣に座って優しく頭を撫でる。

 

「そもそもアンタこういうゲーム弱いんだから、あまり落ち込む事ないでしょ」

 

「小5に負ける高1というダサい絵面を前に、凹まない奴いますか?」

 

「小学生にムキになる方がダサいでしょうが」

 

 項垂れる洋太に、みこは呆れた様子で正論を返す。

 しかし落胆の言葉を吐露したことで気分が少し晴れたのか、洋太は顔を上げてテレビをつけ始める。丁度バラエティ番組がやっていたので、みこはスマホをいじりながら暫くそれを二人で見続けた。

 

「そもそもさ、五目並べって難しすぎんのよ。この間ネットで初級のコンピュータと対戦したんだけど、一回も勝てた試しが無いんよ。もうちょい手心というものをですねぇ……」

 

「へぇー、そうなんだー」

 

 横で五目並べについて愚痴る幼馴染に対して適当な相槌を打ちながら、最近の日常を振り返り、気を抜きながら僅かに頬を緩ませる。

 この数日、洋太から貰ったブレスレットのお陰で“ヤバい奴”が近づいてくることは少なくなり、大分精神的にゆとりを持つ事が出来ていた。

 ……まぁ、普通のより滅茶苦茶ヤバそうな奴には効果が薄いみたいだし、そもそも怖い事には変わりない為、今でも奴らをシカトしなければならないのだが。

 

(ここの所、家ではお父さん以外そういうの見なくなったけど、それでも洋太がいない時は偶にヤバいのが出て来るし……嫌だなぁ……)

 

 だからそういう時、一番頼りになるのはやはり幼馴染である洋太だった。

 別の意味で疲れる事もあるが、それでも彼が居るだけで自分の心は大分落ち着く事ができる。

 

(流石に“アイツら”の事を相談は出来ないけど、守ってもらうくらいは……良いよね……?)

 

 そうやって考え事をしながらソファで寛いでると、だんだんと瞼が重くなって来るのを感じた。

 そろそろ部屋に戻らないと……頭では分かっていても、身体がそれに従ってくれない。

 でも起きてないと……そう思っても、視界はどんどんと狭まっていく。

 そうしてみこは心地良い温もりと眠気に身を委ね、ゆっくりと瞼を閉じるのだった。

 

 

 

「──だから思ったんだよね、五目並べと五目炒飯って絶対深い関係にある気がするって。それでさ……みこちゃん?」

 

「………んぅ…」

 

 肩が重くなったのを感じた洋太が隣の幼馴染に声を掛けながら様子を見てみると、みこは自身の肩にもたれ掛かる様にして眠っていた。

 先程から妙に静かだと思っていたが……どうやらいつの間にか寝てしまった様だ。

 何時もは僕が先に寝てる事が多いのに、珍しい事もあるんだなぁ。なんて事を思いながら優しく微笑むと、そっと彼女を起こさない様に注意しながら持ち上げ、部屋へ連れて行こうとお姫様抱っこをする。

 

「……昔はもっと重かった気がするんだけど、こんなに軽かったけ……あ、透子さん。みこちゃん部屋に連れて行きますね〜?」

 

「はーい、みこをよろしくね〜」

 

 少し声を抑えて、みこの母親である透子にそう告げると、彼女も分かっているとばかりに声を抑えて静かに返事し、笑顔で小さく手を振る。

 洋太はそれに会釈で返すと、みこを起こさない様にゆっくりと階段を上がり始め。そのまま部屋へ連れて行き、ベッドに寝かせつけた。

 

「……うん、いい顔だ」

 

 布団を掛けてあげて、眠っているみこの顔を少し眺めてから満足げに頷く。

 

 ──これからも、みこの事よろしくね洋太くん。

 

「………昔がどうのこうの気にしすぎる事ない……大事なのは『今』……

 頭では分かってるのに、どうしても気にしちゃうんだよなぁ……」

 

 小さく苦笑ながら、寝ている彼女の頭を優しく撫でた。

 そして暫くしてから部屋を出てドアノブに手を掛けた所で、ふと何かを思い出した様に動きを止める。

 

「──おやすみ、また明日」

 

 気持ち良さそうに眠る幼馴染の方を見てからまた小さく微笑むと、そのまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 こうして何気ない日常はまた終わりを告げ、夜明けを待ち遠しく思う日々がまた始まる。

 ただ、願わくば……この日常が長く続いて欲しいと思うのは贅沢だろうか?

 そんな事を考えながら、洋太は自分の家へ戻っていったのだった。




●一条みちる
名前と写真のみの姿で先行登場した原作版ヤバイ子ちゃん。
某オリ主版ヤバイ子ちゃんが溺死寸前まで追い込んでからガブリンチョするタイプの和邇系ヤバイ奴に憑かれているのに対し、みちるは殺せんせーみたいに触手を動かして霊等を捕食するタイプのニャルラトホテプ系ヤバイ奴に憑かれている。
どっちも違ってどっちもヤベーイ。

●柿山英次郎
洋太のクラスメイトのひとりで、小太りの少年。顔は普通。
あ……ありのまま、さっき起こった事を話すぜ!『俺はコイツをモブキャラAみたいな感じで書いていたら、いつの間にはドMキャラみたいになっていた』。
な、何言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……
催眠術だとか時間停止だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ……
もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……

●志士島玲音
洋太のクラスメイトのひとりで、超絶イケメン男子。睫毛バサバサ。
自分の事は大好きだが、幼い頃からの幼馴染である婚約者はもっと好き。兎に角彼女に対して一途で、遠距離恋愛中でもその愛は変わる事はない。心が美しい者も好き。
見た目は乙女ゲーの王子様キャラをイメージしながら書いた。

●白沼天匙
洋太のクラスメイトのひとりで、関西弁が特徴的な眼鏡の糸目男。禪院直哉をイメージしながら書いたので、口も性格も悪いぞ!
好きな食べ物はシャケ弁で、調子に乗っている奴が破滅していく様を観察しながら食べるのが通との事。
実は、洋太の事を内心“偽善者”と嫌っているが、それと同じくらいに深い興味を抱いているようで……

●第2話のとあるセリフの補完
前回の馬鹿猿と恭介の会話から、恭介と徹が顔見知りであるという描写がありましたが、第2話では「恭介……あ、みこちゃんの弟なんだけど……」といったセリフがあり、この二つのセリフが矛盾を起こしていると思われるでしょう。
実は恭介と徹が始めて顔合わせした際に、馬鹿猿が「この子は恭介、僕の弟だよ!」と紹介していたので、徹が『恭介=洋太の弟』と思っていると考えたからなんですねェ。
まァ、すぐに恭介が「弟じゃねぇよ」と言ってたので「あ、コイツが勝手に言ってるだけか」と秒で理解されたんですけどネ。
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