お気に入り登録を増やしたくて、
もっと感想が欲しくて、
原作見ながらポツポツ書いてたら、
だいぶ話が溜まって来て、
「あ、もうコレ短編じゃなくて連載じゃね?」という事実に気付いたので、
今日から短編→連載表記にしました。
こうなったら、イケる所まで行ってやるよこの野郎!!(ヤケクソ)
こうして今日もまた、欲望の化身『承認欲求モンスター』が爆現しましたとさ。
『ホレ徹、お蚕様だ。大事に育てろよ』
『うげっ…………あはは。ありがとう、じいちゃん……』
生まれてすぐの頃、御老人が酷く引きつっていて露骨に嫌そうな表情を浮かべていた、まだあどけなさを残す若人に、我が入った桑の葉入りの箱を手渡した。
――我は生まれ故郷である『グンマ』と呼ばれる場所にて、無数にいる兄弟姉妹と共に産まれた。
そんな我らは絹糸を作るためだけに産まれた“家畜”というワケだが、その中で我だけがこの若人の手に委ねられ、育てられる事となった。
『おれ、虫苦手なんだけどなぁ……でもせっかく飼い方とか教えて貰ったんだから、がんばってみるか……』
我としてはこんな若人に育ててもらうのは御免だったが、この若人……影杉徹と呼ばれた少年は我の入った箱を大事そうに抱えながら家へと持って行った為、仕方なく見守る事にした。
──これが徹と過ごした、短くも青い夏の日々の始まりだった。
『ほらシロ、ご飯だぞー……おぅ、めっちゃ食べてる……』
桑を食べながら聞き耳を立てている内に、付きっ切りで世話をする徹が小学生という身分であり、今は“なつやすみ”ということで殆ど家にいる事を知ったワケだが。彼は我が食べる桑の葉を持って来ては、我の食べっぷりを興味深そうに眺めていた。
ただ同時に、我への恐怖と忌避感が混じった微妙そうな表情で見てくるので、怖いのかそうでないのかはハッキリとして欲しかったのは秘密だ。
その間、箱の向こう側からは『ミーンミーン』という音や『ゴーー』といった鳴り響いていたが、のちにこの音が蝉の鳴き声とエアコンの稼働音だというのを知ることになった。
『そろそろ掃除した方がいいよな……シロ〜、大人しくしててくれよ──ミギャアァァァッ!?』
あまりに我の居る箱を覗いてはマジマジと眺めてくるので、食べ残しを掃除しようと我が乗っている葉を持ち上げようとして来た時を見計らってモゾモゾと手に登ってみると、徹は絶叫を部屋中に轟かせた。
……本当に虫が苦手なのだなと思いつつも、それでも我を振り落とそうとしなかったのは少し感心した。
『うぉお……どんどんデカくなってるし、葉っぱの消費が日に日に増えて来てる……!』
二度目の脱皮をした辺りで、徹が我の姿を見て驚きの声を上げ、同時に桑の葉の消費が次第に早くなっている事に気付き始めた。
成長している証拠だろう。この程度の量では満足出来なくなり始めていた所だったので、いつもよりも多く取って来てくれる彼には感謝してやらんこともない。
『ほれシロ、仮面ライダーカブトだぞ〜!天道はカッコいいだろ〜!』
また一段と大きくなった頃になると徹も多少は慣れてくれたのか、葉を盛り付けた紙皿の上に我を乗せて、そのまま一緒にテレビを見てくれるようになった。
……退屈しのぎにはなったが、正直カブトという者や他の“らいだー”とやらを見ている時の徹はあまりにも煩いので、それに関しては少し閉口していた。
まぁ、そんなこんなで特撮モノの英才教育を受けながらも、我はムシャムシャと桑の葉を食して、すくすくと育ち続けた。
そして遂に、4回目の脱皮を終えていた我は口から糸を吐いて繭を作り、その中で成虫になる為の準備を進めていた。
『シロ〜、今日も元気か〜?立派な蛾になったら、また一緒にテレビ見ような〜?』
徹は今日も元気そうに、我の入っている繭に声をかけていた。
初めて会った頃はあんなに嫌そうだったというのに、今ではすっかり親バカならぬ飼主バカである。
……まぁ、別に悪い気はしないけれど。
それから10日ほどかけて成虫になる為の準備を終わらせた我は、遂に繭を破って羽化を果たすべく外へと這い出ると、ゆっくりと羽を広げていった。
『うわぁ……っ!』
久し振りに見た徹の顔は、今までの嫌悪感を露わにした表情ではなく、心の底から感激しているキラキラとした笑顔を浮かべていた。それを見て嬉しくなった我は、頭の触覚をピクピクと動かしながらゆっくりと彼に近付いた。
それを見た徹が伸ばした手に乗ると、やっぱり引き攣った表情を浮かべ、僅かに悲鳴も漏れ出ていた。
……それでも、我を拒絶することはなかった。
そうして彼はもう片方の指で、手に乗った我の顔にそっと触れながら、慈しむような眼差しで呟いた。
『シロ。お前、こんなに綺麗だったんだな』
その一言は我の胸に不思議と深く響き渡り、そりゃそうだろうと胸を張りながらも、成虫になった甲斐があったと誇らしくなった。
『よし……他のみんなにも、見せてあげよ……!』
次の日。“なつやすみ”とやらが終わって学校に行く事になった徹が、我の入った箱を持って登校し、他の者達に成虫になった我の御姿を見せつけた。
我の姿を見て、皆は一斉にザワザワと騒ぎ出す。
それもそのはず。何しろ成虫になった我ら蚕の姿形は、ここにいる有象無象の虫よりも美しいハズだからな! 特に男子は我の白き美貌に見とれて、キャーキャーと黄色い歓声を上げ……て無いな、ウン。女子の方もちょっと引き気味なのが気になるが、まぁいい。
徹は我を皆に見せびらかした後、そのまま授業が始まったので、我は箱の中でまた徹と一緒にテレビを見る事を心待ちにしていた。
だが徹が目を離した隙に、我は馬鹿な糞ガキのせいでひき肉でーす!にされてしまった。
……うん、まぁ。最初はだいぶムカついたけれど、元々お先短いお命だったんだ。それが一足早く来ちゃった。それだけの話だと思って、とりあえず納得はした。
そもそも、我ら蚕の殆どは羽化出来ず、繭の中でコトコトと茹で蛹にされる事が多い。仮に羽化できる立場であっても、運悪く病気や餓死でおっ死ぬ事も珍しく無かった。
そう考えれば、羽化までいった我はだいぶ幸運であると思うし、それなりに大往生をしたのではないかと思う。
だからもう我は、あの悪餓鬼共に怒っていない。「なんだコイツ気持ちわりーな」とか「害虫はサッサと殺さないとな!」とかほざいていたけれど、我はまっッッッッったく怒っていない。
怒っていないのだが……
『えっぐ……ごべんな、ジロぉ……おれのせいで……ごべんなぁ……!』
なんか徹がめちゃくちゃ号泣しながら、踏み潰されてぐちゃぐちゃになった我の亡骸を丁寧に、近所に生えている桑の木の下に埋葬していたのを見て、我は少し困惑した。
いや、あの……そこまで泣かれると、逆に困るんですけど。
というか悪いのはあの餓鬼共であって、徹は悪くないからね?だから自分を責めないで頂戴?
我はオロオロしながら声をかけるが、徹には当然聞こえないので一向に泣き止む気配が無く、かなり心配になって来ていた。
短い生涯に幕を閉じた我だが、このまま徹をひとりにしたままあの世へいくのは、ちょっと心残りだと感じていた。
そこで我は徹にくっ付き、彼を見守り続ける事を決意したのだった。
「……ゔぅん、もう朝か……」
『
そんな訳で誕生したのがこの我、徹専用の守護霊『オカイコ様』という訳だ。
何時ものように徹が眠るベッドの上で就眠についていた我が、彼の唸り声で目を覚ます。
相変わらず寝起きの悪い徹は眠そうに目をこすりながら、ぼーっとした頭でベッドを這い出ようとした。それを見た我はすぐさま彼の腕によじ登ると、そのまま彼の頭の上に陣取った。
そう、この我が守護霊として憑いている限り、徹が危険に晒される事など絶対にない! それに何より、我の温もりで彼を暖めてやれるからな!一石二鳥とはまさにこの事である!
「今日は確か……三人と映画を観に行く予定だったなぁ……クソねみぃ……」
……まぁその反面、中学あたりからちょっと邪魔な馬鹿猿が絡んでくるのでマジで鬱陶しいしクソ暑いし、最近は新たに娘っ子二人が徹にちょいちょい絡んでくるのが問題ではあるがな。
でも我は守護霊なので、彼の側を離れる訳にはいかない。だから今日も今日とて、我は徹と共にあるのである!
「………うん、こんなもんか」
徹はインスタントの味噌汁と、昨日の残り物の白飯に卵をかけたものを用意。ついでに冷蔵庫から作り置きしておいた紅生姜を取り出すと、それを卵かけご飯へこんもり乗せて朝食の準備を済ませた。紅生姜を入れた瓶は、満タンだったものから半分以下のものになっていた。消費ヤバすぎだろ、どんだけ紅生姜好きなんよ。
「んん〜〜……やっぱ卵と紅生姜はベストマッチだな。朝といえばコレッ!ってカンジ」
朝食を摂りながら満足げにひとり頷くと、テレビのリモコンを手に取り、朝に放送しているニュースを観始めた。
『家族で食べたいものベスト10〜!こちらのコーナーでは、街頭1000人以上に徹底調査!家族と一緒に食べたい料理を紹介していきます!』
すると番組からそんな音声が流れ、我はチラリとテレビの方へと視線を向けた。徹も食事を続けながらチラ見していると、眉間に皺を寄せて嫌そうな表情でチャンネルを変えた。
「……最後に母さんとご飯食べたの、何時だっけ」
放任主義の母親の事を思い出しているのか。徹はそう独り言ると、食事のペースを早めてさっさと完食した後、そそくさと流し台へ行って皿洗いを済ませた。
自分の部屋に戻って外出用の服に着替えると、玄関で靴紐を結びながら、我ら以外に誰も居ないリビングの方へと顔を向ける。
「…………いってきます」
『
徹の挨拶に、我はすぐさま返答した。そして我もいってきます。
そのまま外へ出た我らは、なんの変哲も無い道をゆっくりと歩みながら、集合場所である某駅へと向かっていた。
『いゆかんちんちお……いゆかんちんちおォ……』
道中、何言っているのか分からんキッショい霊が徹に絡んで来たので、いつもの如く我の出番である。ソイツの頭に向けてもう一つの口を伸ばし、頭に齧り付いて思い切り引き千切った。
胴とお別れした頭は中身を啜りとった事で砂の様に消え、残った方は首から黒い体液をぶち撒けながら消滅。我は徹の頭上で小さなゲップを出しながら、自慢げに鼻を鳴らした。クリリンと同じで、鼻ないんですけど。
「あ、徹くんだ!」
するとそのタイミングで、後ろから声をかけられる。
徹と一緒に振り返ると、其処には胸が豊麗的でオレンジがかった茶髪にクロス型にヘアピンを留めた小娘…百合川ハナが、炎を彷彿させるオーラを撒き散らしながらこちらへ手を振って駆け寄って来ていた。
『※※※※※※※※……』
着物を着た猫背の人間を禍々しく歪めた様な化け物を連れて。
え、いや……えぇ……?なんでこの小娘、こんな奴連れて来てんの?
というか……うわっ。コイツ小さいオッサンを小娘のオーラで焼いて食ってるよ。意外とグルメなのかな。
「ゆ、百合川さん⁉︎ な、なんでここに……?」
「何って、普通に遊びに行く為だよ?徹くんも一緒に映画観るんでしょ?」
小娘は驚く徹にそう返答すると、メロンパン片手に隣へ来て一緒に歩き始めた。
オイやめろ。そのヤバい奴を連れてこっちに来るな。我をデザートを見る様な目でチラチラと睨み付けて来てるから。めっちゃ長い爪を向けて来てるから。
……イヤ、我とて徹の守護霊としてのプライドがあるのだ!こんな輩に日和って堪るものか! 我は気を持ち直すと、彼女の連れてる禍々しい奴を睨み付けて声を上げて威嚇した。
『
『ーー@ぁア"?』
『
「それにしても奇遇だね〜!同じ道通るなんて!」
「た、確かに……住んでるとこ近いんかな……?」
ハイ、我はクソ雑魚ナメクジでしゅ……イキってすみましぇん……
……イヤね、流石にあんなヤバげなのに睨まれたらビビるに決まってるでしょうが!というか、あの猫背野郎もなんか変なオーラ出してたぞ!?何アレ怖ッ!?
我が猫背野郎から隠れるように肩の方へと移動してプルプル震えていると、雑談を繰り広げていた徹と小娘が少年の啜り泣き声に気付いて、不思議そうにそちらへ顔を向けた。
「……おい、どうかしたか?」
「もしかして迷子?」
「ひぐっ、ひぐっ……チコの首輪が取れて、逃げちゃったの……」
そう言って少年が涙目で首輪を見せると、小娘と同じく屈んでいた徹が「そのチコって子、何処に行ったんだ?」と尋ねた。
すると少年は泣きながらもチコという犬が逃げた方向を指差すと、そこは見るからにヤバい輩が屯しているビルだった。
それを見た徹と小娘は、無言で青くなった顔を見合わせていた。
「……百合川さんや。俺の記憶が正しければ、ココって取り壊しの度に事故が起きて放置されてる“呪いのビル”だった希ガス……」
「………っ」
徹のその言葉に、小娘は涙を浮かべてゴクリと唾を呑み込んだ。
「ヤベーだろコレ……多分警察案件だよ。待ってろキミ、すぐにおまわりさん呼んで……百合川さん?」
「……お姉ちゃんにまかせて!ワンちゃん大好きだから!」
「百合川さんェ!?」
スマホを持って通報しようとしていた徹が小娘の様子に思わず怪訝な顔を向けていると、小娘が決意じみた顔で少年をなだめながらビルの中へ入って行こうとする。
「いやいやいやいやいや、別にすぐ行かなくたっていいだろ!? あのビル、どんな奴がいるか分かんないんだぜ!?」
「でも、放って置けないよ……チコちゃん、怖がってるかもしれないんだよ!」
それに慌てた徹は小娘の服の袖を掴んで止めようとすると、彼女は明らかに強がった様子でそう反論した。
その返答に、徹は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて押し黙った。
「待っててね二人とも……すぐに連れて来るから!」
「あ、ちょ……」
そして小娘は猫背野郎を連れて、ビルの中へと入って行ってしまった。
……まぁ、流石の我もちょっと不安になっているけど。だってなんかあのビルの中、嫌な気配がごちゃまんとあるし……
「ねぇ、お兄ちゃんは行かないの?」
おいおいオイオイオイ、何言っちゃっているんだ少年よ。あんなヤバそうな場所に行くなんて自殺行為だぞ。我も行きたくないわ!
徹も行きたいくないよな?そう思いながら顔を覗き込むと、苦虫を噛み潰したような顔を引き締めてビルの方へと向けていた。
……え。まさか、徹も行かないよね?見るからにヤバそうな所だよココ?頼むから此処にいるって言ってくれ……!
「………キミ。ちょっと心細いと思うけど、一人で待てるか?」
「っ……うん!」
ブルータス、キミもか。
卍 卍 卍
「チコちゃ〜ん……出ておいで〜、怖くないよぉ……うぅ……」
薄暗く荒れ果てたビルの中で、百合川ハナは涙目で声を震わせながら、ひょんな事から出会った少年の飼い犬であるチコに呼びかけていた。
いくら生命オーラに溢れた人間であると言っても、不気味な雰囲気を漂わせる所にいれば、ホラーといった怖いモノが苦手な彼女が恐怖と不安を抱くのも当然のことであった。
それでもハナは今にも泣き叫びたい気持ちを堪えながら、チコを怖がらせない為にも必死に笑顔で呼び掛けていると……
「こんな事いいなァ!できたらいいなァ!あんな夢ェこんな夢ェいっぺぇあるーけどォォ!!」
クソでかい大声で“ドラえもんのうた”を歌っている徹が、入り口で拾ったであろう鉄パイプのようなものを両手で持って、ハナの所まで小走りでやって来た。
「と、徹くん……?どうして……」
「ハレワタールそぉらを自由にィ!飛びたいなァ!!ハイッ!『C-MOON』!!」
「C-MOON⁉︎ そこはタケコプターじゃないの!?」
外で待っていたはずの男友達がやって来るという突然の出来事にハナが思わずギョッと唖然しながら歌詞に突っ込んでいると、歌いながら辺りを警戒していた徹が彼女の方を見ながら口を開く。
「どうしてって……百合川さんを、女の子をひとりだけにする訳にはいかねぇだろ!」
「ッ!…………あ、ありがとう、徹くん」
顔から大量の冷や汗を噴き出しながらも真剣な表情でそう答えた徹に、ハナは心臓を『どきり』と跳ねさせながらも、すぐに気を取り直して笑顔で礼を言った。
それはともかく、彼が隣に来た事で心細さと恐怖心を緩和させることの出来た彼女は、「シャララララ♪うたを歌おう♪」と徹と同じくドラえもんのオープニングを歌いながら、ワンちゃんを探しにビル内を探索し始めた。
(あっ、あっちの方から鳴き声が……)
(頼む頼む頼む出て来るなよ出て来るなよ虫虫虫虫蟲蟲蟲蟲蟲……)
その間、徹は周囲から出てくるかもしれない不審者や虫や蟲などに対して、怯えながらも鉄パイプを軽く振って威嚇していた。
そうして二人は慎重に進みながら、時折聞こえるか細い鳴き声を頼りに階段を登っていると……
《ガタンっ!》
「ひゃあ!?何いまの音!」
上から聞こえた物音に、ハナがビクリと声を上げて徹の腕へとしがみついた。
(あああああああああ!煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散祓って貰おう陰陽師ルゥェッツゴォォォォォォ!!)
腕から柔らかな感触と温もりを感じ取った徹は、下半身に熱とリトル徹が集まってしまう前に、精神を統一して邪念を振り払おうとしていた。
だがそうやって必死に性欲と戦っている彼をよそに、ハナは更に強く腕へとしがみついてくるので、少しでも気をそらす為に徹は話題を振った。
「そ、そういえば百合川さんって!四谷さんとは小4の頃に仲良くなった。って言ってたけど、馴れ初めってどんな感じだったん?」
「ふぇ……?う、うん……みこに給食のパンを貰って、それから一緒になる様になって……」
「小鳥の餌付けかな?」
彼女は身体を小刻みに振動させつつ、四谷みことの馴れ初めについて話し始める。
その話を聞いた徹が思わずそう突っ込んでいると、ハナは涙で潤んだ目で彼を見上げながら問いかけた。
「そういう徹くんはどうなの?洋太くんとの馴れ初め」
その質問に対して、親友との出会いから馴れ初めに至るまでの過程が、徹の脳裏に蘇った。
──影杉徹。彼はかなりの虫嫌いで、元陰キャオタクであった。
小3の頃に起きた
その結果。中学に入る頃には、彼の髪は目が隠れるほどボサボサに伸び、人に話し掛けられた際には挙動不審になって、相手が女子の時は顔も見れなくなる程の人見知りとコミュ障を拗らせていた。
「………アイツとの、馴れ初めか」
そんな徹に……そんな自分に、何故親友と呼べる存在が出来たのか?
どういった経緯で、ソイツとの縁が出来たのか?
どうして彼と、親友になろうと思い立ったのか?
「大した理由はないよ。ただ……」
『──ねぇ君、なーに見てるの?』
『どアァあ!?……な、何だよ。驚かせないでよ……』
『あはは〜メンゴメンゴ。それでさっきの何? 白い蝶々?』
『…………いや、コレは“蚕”っていう虫で、蛾の仲間なんだ』
『ほへー、そうなんだ。そんで君は蚕?って子の事、なんで見てたの?』
『あ、いや。その……俺、虫スゲー苦手だから……こういうのを見て、少しでも、克服したいと思っていて……それで……』
『へ〜……勿体無いなぁ。さっき見えたの、めちゃくちゃ綺麗なのに』
『……お前。コレが……この子が、気持ち悪くねぇのか?』
『え、なんで?こんなに綺麗で可愛いのに?』
「………何となくアイツとなら、これからも仲良くやっていける。そう思ったんだ」
──中学入学してからひとりだった俺に話しかけて来て、ひたすらまっすぐで嘘偽りの無い笑顔を浮かべて、なんて事無さげにそう言ってのけたアイツが眩しく見えて。
初めて出来た友達を肯定してくれたのが、すごく嬉しくて……
今日の晩御飯カレーが食べたいな、早く家に帰ってあの漫画読みたいな。それくらいごくありふれた欲求と同じくらいに自然と出て来て、それでいて燃え滾る焔の様に強く心の奥底から思った。
嗚呼。俺、コイツと仲良くなりたいなぁ……って。
それが、アイツの付き合いの始まりだった……
徹はそんな事を考えながら、小さく笑って昔を振り返った。
「……そっかぁ。ふふっ」
短い語りを聞き届けたハナは、頬を赤く染めながらも微笑ましそうにはにかんだ。
二人の間に少しばかり穏やかな空気が流れる中、「クゥーン…」という小さな鳴き声が両者の耳に届き、ハッとしてその方向へ顔を向けた。
「あ、いた!ほらあそこ!」
「お、本当だ」
そこには物陰の下で縮こまって怯えていたラブラドールらしき犬の姿があり、二人は駆け寄ると怯えさせない様にゆっくり屈んで優しく撫でる。
「ほら、もう大丈夫だよチコちゃん〜!」
「飼い主待ってるぞ〜! ハァ……これでやっと……」
一安心、そう徹が息を吐いた瞬間。視界の端から不意にナニカが入り込み、彼は嫌な予感を覚えながらそちらへ目を向けた。
そこには、黒光りのGがコンニチワしていた。
「──びぎゃぁあああああああああッッ!!?」
「──っっっ!!!????」
黒光りのGを目撃してしまった徹はハナにしがみついて特大の悲鳴を上げ、その弾みで彼女の胸部に付いているメロンを鷲掴みにしてしまった。
揉みしだかれた彼女は一瞬何をされたのか理解出来ず、しかし数秒ほど遅れて自分が今どんな状況にあるのか把握すると顔を真っ赤に染め、口をパクパクと開閉させる。
「ご、ごゴゴゴーゴ、ゴーゴゴォ!おおおお俺の側に近寄るなァァァ!!」
だが黒光りのGに取り乱していた徹は、彼女の胸を思いっきり掴み取っている事に気付いてなかった。
「……と、徹くんのえっちィっ!!」
「ぐべらぁ!?」
ビルの内部にスパーン!という快音が響くと共に、ハナのビンタが炸裂。
引っ叩かれた徹はチコに呆れた様な目で見届けられながらきりもみ回転し、頭から地面に激突したのだった。
『■■■■■■■■ーー!』
『
その間、ハナに憑いていたヤバい奴は有象無象の霊を捕食してナメクジみたいな巨体とそこから無数の手を生やした様な姿へと無為転変し、それなりの霊に悪戦苦闘していたオカイコ様はその姿を見て悲鳴とションベンを漏らした。
卍 卍 卍
「僕、前から常々思ってたんけど……ロロルの『メメちゃん』ってさ、ユルセンに似てるよねー。単眼で口があるあたりが」
「単眼で口があるキャラは他にもいることは置いといて、ユルセンって何?特撮のキャラ?」
「そうそう、特撮キャラ。ユルセンは仮面ライダーゴーストってヒーローの相方……いや、使い魔?マスコット?ペット?なんだろ……みこちゃん分かる?」
「イヤ知らないけど」
駅前で互いの親友を待ち合わせしていた洋太とみこがそんな雑談を繰り広げていると、「みこ〜!洋太く〜ん!」という元気いっぱいな声が聞こえたので、二人揃ってそちらを振り向き……
「おくれてごめーん!」
「…………」
『■■■■ ■■■■……』
『ピキィ……』
「何でなのっ!?」
「何があったの徹!?」
みこの目線がハナの背後から一緒にやって来た明らかに“ヤバい奴”に向けられ、洋太の目線は頬に落ち葉型の跡をつけて死んだ目をした徹に向けられ、二人揃ってツッコミの叫び声を上げた。
そして蚕蛾は涙目になって、徹の腹部にガッチリと引っ付いて縮こまっていた。
●オカイコ様
徹に憑いている蚕蛾型の怪異兼守護霊。別称『シロ』。
特撮でいう所のユルセン的な存在で、この作品のマスコットとして作られたキャラ。
徹を守らんとしているが、なんとか出来るのは頑張っても精々三級相当の呪霊まで。それ以上は基本的に無力なクソ雑魚と化する。
●影杉徹
小学生の頃、祖父の家に遊びに行った時に貰った蚕の霊に憑かれている凡夫。ワンピースだとボア・ハンコック推し。
小さい頃にテレビで見た仮面ライダーカブトに憧れているが、同番組内で登場するワームによってトラウマを植え付けられ、今でもリアルな虫が苦手。
唯一苦手意識の薄い蚕の画像を見て克服を狙っているが、中々結果が伴わない模様。
●百合川ハナ
いつのまにか二級から一級相当の呪霊へと進化したヤバい奴に憑かれている娘。ヒーローだとアンパンマンが好きだと思われる。
朝にはパンケーキ5枚相当のご飯をペロリと平らげ、その後も間食を行なっているくらいには食いしん坊。いっぱい食べる君が好き。
原作とアニメの絵柄だと、原作が一番好きです。
●メメちゃん
ロロルが出しているリトルドールズのひとりで、一つ目が特徴的。みこちゃんのお気に入り。
馬鹿猿はユルセンに似てると称したが、顔のあたりはゴーストドライバーに似ていると作者は思いました。
●前回の話の余談
話の都合上、書かなくて良いかなーと思って出さなかったけど。
あの後みこちゃんは馬鹿猿に「そういえば昨日、ベッドまで運んでくれたの洋太でしょ?ありがとね」とお礼を言っています。