紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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…少女は純粋無垢だ。人を疑うことを知らない。

そして、神を最も信仰している。この世界における信仰神は消えてしまった。自分が信じていたものがいなくなってしまった。

そして少女は……神に好かれていた。かつてのあの"勇者"と同じように。


第9話 神に好かれた"第二の少女"。

 

…"神に好かれている"。

園子はそう、語った。そしてそれは、"邪神"も例外じゃない。

"国土亜耶"という、神の声を聞ける少女を欲していると言う。邪神教団の悪魔の実験のためじゃない。その本懐そのものが、彼女と言う存在を欲しがっていると言う。それが、どういう事なのか全くわからない。そもそも、神が人を欲するなんてそんなこと、あり得るのか?。

 

神はいつだって、上の存在だ。人類の事はそんなに重要視はしていない。そして、それは生きとし生けるもの達の頂点に位置する…そんな存在が、一個人に対して「好く」という感情を抱くと言うのか?。神の声を聞けると言うことだけが、それに値すると言うのか?。

 

流星は園子の話を聴くことにした。

 

園子「…もう、この世界に神樹様はいない。それにまつわる精霊もいなくなった…だから、本来"神託"を受けることなんてないはずなんよ。例え、他の神様がいたとしても巫女の力は神樹様の"声"を聞けると言うだけの事。信仰している神様の声しか聞かないはずなんよね。でも、この子は"その他の神様"の声ですら聞くことが出来る。それもまた、"異例"。」

 

流星「ちょっと待ってください…他の神様の声が聞けるというのはそんなに危ない事なんですか!?。普通に考えればそれは良いことなんじゃ…!。」

 

園子「…危ないといえば危ないよ?だって、それは他の神様が彼女に干渉してくるということだもん。酷くなれば、常にその声が頭の中で響くことになる…それが何を意味するか、分かるね?。そう、この子の頭がパンクしてしまう…つまり、精神に異常を来たすと言うことなんよ。」

 

流星「そ…そんな…!!。」

 

園子「加えて、邪神が干渉でもしたらもっと酷いことになる。この子は邪神に囚われ、そしてその"巫女"として変化してしまう。邪神教団が行う"巫女狩り"のもう一つの目的はそこにあるんだよ。邪神を降ろしたとしても、その"声"が聞けなければ何の意味もない。邪神の"神託"を受け入れられる巫女…彼らはそれも探している。」

 

流星は亜耶な顔を見る。何処となく、わかっていたかのような表情をしていた。そしてその小さな手は…震えていた。

 

亜耶「…私が居ちゃうと…誰かが巻き込まれてしまうと言うことですか…?。」

 

園子「それは違うよ。でもね…なぜ、君がそうなったかは何となく想像が付く…2年前の"あの日"、君は「千景砲」を発射するために他の神官達と祝詞を唱えていたね?そして…"神婚"を受け入れて神の一部としてその肉体を捨てる選択を選んだ。」

 

流星「は…"神婚"を受け入れて神の一部?肉体を捨てる?なんだ…それは……。」

 

園子「…ある1人の女の子がいたの。天の神の祟りを受けて、その身が日を追うごとに滅びに向かっていった…そして逃れられない死と周囲にその祟りが伝播するから誰にも相談できず、たった1人でその祟りと向き合った女の子がね。その子はとても優しく、人が傷付くのが何よりも嫌だった子…そして、神樹様の力に限界が訪れてしまい、この世界を維持する事が困難になってしまった…そこで、旧大赦は"神婚"という儀式を以って、その女の子を"捧げ物"として、神樹様の一部とすることでその力を回復させようと決めたんだよ。それが、"神婚"。神様と結ばれ、そして神様の一部としてその肉体を捨てる…。」

 

その真相を聞いた流星は、神棚を強く睨む。

なんだよそれ…そんなの、ただの生贄じゃないか……1人の人生を蔑ろにして、神という目に見えない存在の為に"捧げ物"にされる?。なんだよ、神って……なんでそんなに"身勝手"なんだ…なんで…なんで…いつだって、神のために人が泣かなければいけないんだ。

 

そんな思いが、込み上げて。

 

流星「結局は神樹様だってその天の神と"邪神"と何ら変わらないじゃないか…人を何とも思っちゃいない…それに、旧大赦もそうだ!邪神教団と変わらない…結局は神のために「人柱」となる人を長い歴史を通じて捧げ続けて来たんじゃないか!!。その犠牲になるのが、国土さん達のような"神の声"を聞ける巫女やその女の子のような人たちだって…じゃあ、この世界の歴史は「人の涙」で受け継がれて来たようなものだっ!!そうでしょう、宗主様!!。」

 

「口を慎みなさい、少年。」

 

その時、園子の脇に居た神官が声を発する。だけど、流星は引かなかった。

 

流星「なんだよ…あんただってそうだったんでしょう!?。その仮面が邪魔をして…どういう思いでその子達の涙を見て来たんだっ!!。大人達は一体何をしていたんだ…ただ、祈るばかりで、その先頭に立って泣いて来たのはいつもそう言う人達だって分かっていたのかよッ!?。」

 

園子「やめてっ!!。」

 

声を張り上げた園子。流星はその"悲痛"な声を聞いて言葉を紡いだ。

 

園子「…ごめんね……今の宗主として、旧大赦のして来たことの業はちゃんと背負うつもりだから。でもね、みんなわかってたの。それが間違いだって…でも、長い歴史の中で見て来た"現実"の厳しさから受け入れるしか無かった…きっと、大人達も辛かったんだと思う…だから、その業は私が背負うから。この人を…いや、大人達を許してあげて欲しい。」

 

それを聞いて、流星は歯を食いしばった。

 

流星「…そんな抱えきれない業を背負って、貴女は持つんですか…心が死にますよ…!。」

 

園子「大丈夫、やってみせるから。それが私の選んだ道…心に従った事だよ…?。」

 

流星「…っ……だったら…新生大赦は国土さんをどうするつもりなんですか…そんな事実があると言うのなら、彼女は"普通"の生活が出来るんですか…俺はいい、自分で決めたことだから…でも彼女は…!!。」

 

その時、黙り込んでいた亜耶が何か決心したかのような目で園子を見つめた。

 

亜耶「向き合います。…神の眷属として神樹様と共にあろうと思ったあの日に芽吹先輩に言われました。生きろ…と。そして私もその時に…心に従いました。「生きたい」と。今の私がいるのはあの人たちのおかげです。でも、その事実だけは拭えないと言うのならもう向き合うしかないです。紫藤君だって、決めてくれたんです…なら私も心に従って決めます。この事実と…向き合うことを。」

 

怖い…でもそれでも…それ以上の事を受け入れて来た人たちがいる。だから、向き合うんだ。これは…私の問題だから。

 

流星「…国土さん…。」

 

園子「…わかったよ。防人にはこの事実は伝えておくね。きっと…知らないと怒るだろうし…でも、それはきっと大変な道のりだよ?。それこそ…"私たち"が歩んできた道と同じこと…やれる?。」

 

亜耶「大丈夫です、皆さんが…居ますから。」

 

園子「そっか…うん、わかった。フフ、やっぱり今日ここに来た事はとても良かったよ。紫藤流星君は意思がとても強い、それこそ場に飲まれない自分の意思を貫ける強さを持ってる。そして、亜耶ちゃんは…みんなを信じてその道を共に歩いていける勇敢さがある。それがわかっただけでも儲け物だよ。ありがとうね、今日は時間を割いてくれて。」

 

流星「いえ…俺の方こそ、無礼ばかりで申し訳ございませんでした。」

 

園子「いいってことよ〜。私と君の歳は一つしか変わらない…それに、立場を気にせずに怒れるのはいいことだよ。おかげで私も覚悟を決めれた、君のその強い意思を受けてね。任せて、"元勇者"として未来ある君たちのために尽力するからさ〜?。それじゃあね〜?。」

 

神官と共に、去っていく園子。…何か、最後にとんでもないことを言っていた気がする…流星は風のように去っていった園子を見守りながら。

 

そして、気付いた……。

 

流星「"元勇者"…え…ぇええええええ!!?。乃木先輩…いや、宗主様が"元勇者"!?。」

 

亜耶「知らなかったんですか?。私は知ってましたよ、それに防人達も知ってることです。えっと…口外はしないでくださいね?。久遠さんの言っていたこともありますし…。」

 

流星「いや…うん、言ったところで笑われるだけだろうし"勇者"の存在は誰も知らないから…マジかよ…目の前にいたあの宗主様がそうだったのか……納得したよ、あの凛々しさが…ーーー。」

 

…………………………………。

 

園子「ふぅ……。」

 

その帰り道、園子は神官の運転する高級車に乗って自宅へと向かっていた。そしてその神官…"安芸"は話しかける。

 

安芸「またあんなことを言って…自分を追い込みすぎじゃない?。」

 

園子「ん〜、そっかな〜?。まぁ、癖の強い大人達を相手にしてるんだもん、子供の私が立派な大人達の考えに飲まれないように…と言う意味もあるんだな、これが。」

 

窓の外を見ながら、園子はにっこりと笑みを浮かべる。

 

園子「それに、流星君は"私達"のせいであんな体質になったものだからね〜…5年前のあの時、もう少し上手く立ち回れていれば「災害」なんて起きずに済んだのかもしれない…そしたら、彼には"勇者"の適性を得ていない"もう一つの未来"があったのかもしれない。だから、責任を感じちゃうんだ。でもね、少し嬉しいんよ。」

 

安芸「何が…?。」

 

園子「2年前、この世界は神様の一部として"人"という肉体を捨てる選択をしかけた…でも、それを私達…ううん、"ゆーゆ"が"人として生きたい"っていう選択を選んで天の神を追い返した。でもその代償に神樹様に限界が来ちゃって…そして、私達を"信じてくれた"。だから、それに報いなきゃって思ったんだ。確かに長い歴史の間、神樹様は生きながらえる為に「人柱」となる子を選び続けてきたのかもしれない…けど、それは300年にも及ぶ長い間、私達人類をずっとずっと守ってくれてたんだ。だから、もう休ませてあげたいなって…あの時はそう思ってた。」

 

安芸「乃木さん…あなた…。」

 

園子「そして、私達がしたその"選択"は間違っちゃいなかったんだなって…今日、彼を見てそう思えたんだ?。心に従う…いい言葉だよね、あれこそまさに"人の意思"。彼は…"神の勇者"なんかじゃなくて"人の勇者"……私達が選択した"人として生きる"強さを持った子なんだよ。だから嬉しいなって…私達が選んだ道を真っ直ぐに突き進むような人が現れた事に。」

 

園子は流星を思い浮かべながら、海を見る。

 

園子(きっと、貴方の道はすごく険しい道になると思う…いくら強い意思でも、限界があると思う…でもね、それでもあなたが"人らしさ"を捨てない限りは何度だって立ち上がれるよ。"アルストロメリア"。まさに、君らしい花だね…ーーー。)

 

…………………………………………。

 

ーーー…放課後、その帰り道。

園子から聞かされた自分の事と彼女…亜耶の事。

午後からの授業の内容は全く入ってこなかった。だけど、聞いて良かったと、流星はそう思っていた。未だに整理がつかないことも正直言えばある。でも、知らないよりは遥かにマジだ…そして、多忙の中でそれを伝えるためだけに時間を割いてくれた。彼女に言った通り、自分は「心に従う」を事を信条に、これからもこの力と向き合っていこうとそう思った。でも、亜耶の事が一番気になる。自分とは別のベクトルで大変な悩みを抱えることになる。そして…声をかけた。

 

流星「国土さん、その…大丈夫?。昼休みの件…なんかすごく重いことになっちゃったけど…。」

 

亜耶「…紫藤君にはお見通しですか…あはは、正直言うと凄く怖いです。何が怖いかと言うと…私が私で居られなくなる事が一番………かな……。」

 

立ち止まると、突然亜耶は身体をガタガタと震わせてその場で座り込んでしまった。

 

流星「国土さんっ!?。どうした、気分が悪いのか!?。」

 

亜耶「…違うんです…私……今あるこの景色を失いたくない…神様の声を聞けることはとても名誉なことなのに…ずっと、誇らしく思っていたのに…"邪神の声"を聞いちゃったら私…どうなっちゃうのかなって思うと凄く怖くなって来たんです…もし聞いちゃったら、私……ーーー。」

 

流星「例えそうだとしても、君は君だろ!?。」

 

亜耶「紫藤…君……?。」

 

流星「聞いたとしても、君は紛れもなく俺の知る"国土亜耶"だっ!。それでもし、おかしくなってしまっても俺がなんとかするっ!この力を使うことを選んだのは君を助けたかったからだっ!。訳のわからない事情を振り翳されて、いろんなものから振り回される君を助けたかったからなんだよ!。」

 

亜耶「え………。」

 

流星「あの時、俺は君に救われたんだ。逃げてもいいって…それが間違ったことじゃないんだって、言ってくれたから今があるんだ…でも、俺は逃げない。自分の事からも…君の事からも。だから、俺が助ける!やれるかじゃない、やるんだ!!。」

 

その言葉を聞いた途端、亜耶は大粒の涙を流す。不安で押しつぶされそうなその心に、意志の強い彼の言葉が突き刺さって。そして、まだ助けようとする…その言葉に嬉しくなって。

 

亜耶「私…私……っ…!。」

 

流星「大丈夫…誰も迷惑だなんて思わない。楠先輩達もついてる…君の事は大事だからみんなが守ってくれる。それに甘えてもいい、甘えてくれ。」

 

手を差し出す流星。亜耶はそれに応えて手を取る。

 

…やっぱり、心が強い…その言葉が嘘じゃないことに安心する…そしてその手はとても暖かくて。

 

…信じよう。そう思って。

 

……………………………end。

 





少年は少女の"心"を救うために戦う。その内に秘めた思いはずっとそのままだった。

例えそれが荊の道だとしても、足を止めなければなんとでもなる。そう思って。

そして、数日後…事態が大きく動く。

次回
第10話 「蟹座」の襲来。
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