笑われてもいい、馬鹿にされてもいい。でも、絶対に諦めない。
幼き頃からずっとそう思っていた。かつて、自分の家系が誇り高い一族であったこと。
"再興"。あの時の志はまだ…変わっていない…---。
芽吹の窮地にやって来た弥勒夕海子。
彼女はキャンサーに目をやり、決してその視線を逃さない。
そして、キャンサーは仮面の下で笑みを浮かべて。
キャンサー「貴様が弥勒夕海子か。我々の支部を壊して回っていると言う。」
夕海子「ええ、そうですわ。あなた方の狂気を見過ごすわけにはいきませんもの。あの狂った実験…そして、その贄にされた"巫女"達の末路…あんな胸糞悪い光景を何とも思っちゃいないあなた方は危険極まりない。ここで成敗いたします、この弥勒夕海子が!。」
ハンマーを担ぎ、息を大きく吸い込む。
そして、前進。その加速の爆発力は凄まじいもので。
芽吹(!!?。何…あの爆発力…!!。)
キャンサー「…ほう…防人システムを最新型にアップデートしたか!!。」
夕海子「あなた方の事は徹底的に調べ上げました!!。この力はそれに対抗しうるもの…伊達に単独であなた方のアジトを潰して回ってはいませんわ!!。」
全力で振るうその一撃は、砂浜を大きく陥没させる。
夕海子(…コイツらは我が家に伝わる"手記"に出てくる「例のテロ事件」を起こした奴らと似ています…絶対神の信仰…力の象徴…世界に暗雲をもたらすもの……ご先祖様が守り抜いたこの地を、穢させてたまるものですか…!。)
大型武装にも関わらずその取り回しは良く、その破壊力も合間ってキャンサーは回避行動に撤退する。
キャンサー(最新式とはいえ、一時的な力の上昇…時間を稼げば、直に元に戻る…それまではこの一撃をもらうわけにはいかんか…!。)
夕海子「どうしました!?避けてばかりじゃ、面白くありませんわ…よッッ!。」
その隙を突いて、ハンマーの持ち手を左手に変えた彼女。そして、右の拳を突き付けてキャンサーの持つ槍を弾き飛ばした。
キャンサー「むううっっ!?。」
芽吹(…弥勒さん、すごく強くなってる……あいつらの動きを完全に熟知してる……。)
芽吹は脇腹の傷に手を当てる。その出血量から体が思うように動かないが、気を保ったままその戦いを見届ける。
夕海子「そこッ!!。」
足で槌の部分を蹴り上げ、下方向からキャンサーを打ち上げた。
キャンサー「くッ…面白い…!!。」
だが、キャンサーはその仮面の下で笑みを浮かべる。そう…まるで楽しんでいるかのように。
彼は戦闘狂だ。戦うことが生きがいと言わんばかり、感情に忠実なのだ。しかしそれもまた、邪神教団の理念に沿ったものであり、とても褒められたものではない。故に、何人もの新生大赦関連の人物をその手にかけている。夕海子はその事実を知っていた。
夕海子「…私個人としても、あなた方の凶行を看過する気もございませんわ!!。ここでその胡散臭い仮面を砕き、素直に吐いてもらいます!!。"どこまで"あなた方の計画が進んでいるのかを!!。」
夕海子の強さを認めたのか、キャンサーは応じるかのように盾を下した。
キャンサー「良かろう、どのみち知ることだ。我らと刃を交えるのなら知る権利はあるだろう。我々の計画は直に四国全土へと広がってゆく。邪神様の"降臨の儀"に必要な「人柱」の数は順調にそろっているからな。」
夕海子「……一体、何人の巫女とその候補生が犠牲になったというんですの…?。」
キャンサーはその質問に鼻で笑う。
キャンサー「38人。各地から攫ってきた人数だ。巫女そのものは新生大赦のガードが固くてなかなか手を出しずらい…だが、候補生となると認知されていないものを含めればそれなりに素養のあるものは四国全土で換算すると見つかるものだ。」
夕海子「っ…なぜ、今になって巫女の素養を持つものがたくさん現れ出したというのですか…!?。」
キャンサー「フン…本当に何も知らんようだな。それは、この世界に広がった"神樹の残滓"の影響だ。」
芽吹「神樹様の…残滓…?。」
キャンサー「そうだ。2年前に神樹はその力を使い果たし、人類にその後の世界を託して消滅と共に残った"恵みの力"を世界中に解き放った。お前たちは知らないのか?次々と生活に豊かなエネルギー源が各地で発見されていることを。」
芽吹「あ…それって……。」
キャンサー「聞き覚えがあるようだな。一部の上場企業が独占しないように、新生大赦が管理の元で大きな規制を掛けているがな。全く、乃木園子は抜け目がない…もし、そのエネルギー源が悪用でもされたりしたら、西暦の終焉と同じ道を辿ることになる…そう、この世界は再び神の怒りを買うことになるのだ。」
キャンサーは夕海子の纏う「強化装束」を見る。
キャンサー「その最新式も残滓を利用しているのだろう…量産型ながら、その力は"勇者"に迫るもの…元々、貴様たちの纏う「戦衣」は旧大赦が天の神に反抗するための作戦を実行するための力…いわば、"神々の規約"に違反した代物だ。しかし、人類とは欲深いもの…遠い未来、必ず同じ過ちを犯すことになるだろう。現宗主の思想が色濃く残る歴史など、聞いたこともない…だから、この世界に絶対的な力の象徴たる邪神様をお呼びするのだ。そのための「人柱」など、この世界の歴史がやってきたことだろう。死んだ神樹に代わり、信仰する神が変わるだけの話…絶滅を辿るよりも余程、良いだろう?。」
…淡々と、自らの活動を正当化するような言い回し。2人は怒りを通り越して、もはや吐き気すら感じる。
人類を生き残らせるため?愚かな歴史を繰り返した先に備えるため?だとすれば、2年前の"勇者"たちの死闘は何だったのか?自分たちが選択した「道」は何だったのか?。
その瞬間、芽吹は立ち上がった。
夕海子「芽吹さん!?。」
芽吹「…ふざけないで!!。だからこそ、人類が変わらなきゃいけないんでしょう!?。それを示すために、現宗主は世直しを始めた…強引ではなく、古い考えを払拭するために!!。302年前の西暦の時代など誰も知りはしないわよ!!。だからこそ、みんなで探すんでしょう!?。"神が居なかった"あの時代が犯した過ちを繰り返さないために!!。」
満身創痍ながらも、銃剣を構えて発砲姿勢に入る芽吹。流した血の量から、視界が霞む…だが、それでも引き金を引くことは諦めない。自らも参加した2年前の「最終決戦」。あの地獄のような危機的状況から、ちっぽけな人間が絶対的な力を持つ神に挑んだ…---。
その結果、"今"という新時代を作り上げた。これから先、どうなるかだなんて誰にも分からないし、その答えに行き着くのも後世に続く人たちへと紡がれることになるだろう…だけど、時代を切り開いた者の一員として、その"夢"を作り上げて託すことぐらいはしなくちゃいけない。そうやって、人の歴史は繋がれてきたのだ。今、この世界は"変革"の時へと差し掛かっている。それを悪い"変革"へと変更しようとする邪神教団の思想を受け入れるわけにはいかない。この世界は"人の世界"…もう、神にすべてを託すことをやめなくちゃいけないのだから。
夕海子「…芽吹さん、私も諦めませんわ。」
隣に立つ夕海子。「強化装束」の状態を維持するにはもってあと5分。だが焦りはない。
夕海子(…弥勒家の手記によると、神世紀72年に同じような事件が起きていた…まさか、彼らはその時の名残とでも言うのでしょうか…"人の悪意"によるこの事件…ただ事じゃなさそうですわね…。)
キャンサー「フン、人は神に救いを求める生き物だ。長い歴史の中でそうして来た…今更、そんな"夢"のような話をこの世界の民衆が聞き入れるなど…っ!。」
夕海子「"夢"をバカにするんじゃありませんわよ…っ!。」
地面を蹴って飛び出し、キャンサーの盾にハンマーを当てた夕海子。
そのパワーは凄まじく、盾で防いだにも関わらず腕が痺れる。
夕海子「夢のような話でも、それに向かって歩いていける!。夢は人の数だけそこにあるんですのよっ!。この世界は人の涙で紡がれて来ました…今は苦しい時なのかもしれない、信じていた神が消えてしまって皆、路頭に迷っているのかもしれない…けどっ!。」
強引に振り抜くハンマー。まるで、花が散るように「強化装束」の状態が解除されていく。キャンサーは歯を食いしばり、槍を突きつけるが頬を傷付けるだけで避けてみせた。
夕海子「神は夢を見ない、でも人は夢を見ます!。だからこそ、強く生きていけるっ!あなた方の言う、私達のこの"変革"が夢だというのならそれを実現できるように歩いて行かなくちゃいけない!!。舐めるんじゃありませんわよ……"人"として生きていくと啖呵を切った以上、それが夢で終わらないように私たちの次の"お役目"は……っ!!。」
ガードごと、キャンサーの身体を打ち上げた夕海子。そして、芽吹はその照準を完全に…捉えていた。
芽吹(この先を生きる人たちのために時代を作る。それが私たちの夢であり……意志だ…!。)
迷わずにトリガーを引く芽吹。そして、放たれた弾丸。まっすぐに向かって突き進むそれは、覚悟を乗せた一撃。そして……キャンサーの仮面に直撃した。
芽吹(っ……一矢…報いたわ……よ……。)
限界が来たのか、芽吹は意識を手放した。慌てて駆け寄る夕海子は地面に落ちる仮面の破片を見る。そして、キャンサーもまた地面に激突した。しかし……。
キャンサー「…なるほど……それが貴様達の意思か。ならばいい、それを全力で否定するだけの話だ。」
夕海子(っ……まだ浅かった…!。)
警戒をする夕海子。しかし、キャンサーは仮面の破片を拾って踵を返した。
キャンサー「人の意地と"我々"の思想…そのどちらかがこの世界の命運を分けることになるだろう。神になる機会を逃した人類が辿る歴史は同じ歴史だ。そしてその時…再び"天の神"が現れる。だが、今度はそうは行かん…"天の神"を滅ぼし、そして……真の意味で人類は進化する。また会おう。」
暗闇に消えたキャンサー。その場にこだまするのは静寂のみ。
そして、夕海子は…芽吹を病院へと担ぎ込んで行った。
……………………………………。
〜病院・病室〜
亜耶「芽吹先輩ッッ!。」
芽吹の重傷を知って、やって来た亜耶達。そこにはしずくと玲司、そして流星がいた。
夕海子「一命は何とか取り留めました。しかし、過度の疲労と失った血液が多すぎて回復までに時間が掛かるそうです。」
亜耶「弥勒先輩…。」
しずく「戻って来たんだね。おかえりって…あまり喜べる状態じゃないよね。」
夕海子「ええ…どうして、こんな無茶を…って言いたいところですけど、この人はそう言う人です。咎めたところで、きっと奴らと対等に渡り合うために強くなろうとしたんでしょう。人一倍、責任感のお強いひとですから。」
流星「……楠先輩、この間の「射手座」との戦いで…。」
夕海子「あなたが噂の"異例"の方ですね?。弥勒夕海子です。どうか、お見知り置きを。」
流星「そ…そんなに畏まらなくても…紫藤流星です。その…今は防人の1人として皆さんのお世話になってます。」
しずく「因みに弥勒は少し変人…。」
夕海子「へ…変人だなんて人聞きの悪いことを!。後輩の方に変なイメージを植え付けないでくださいまし!!。」
玲司「お前ら、ここは病院なんだから静かにしろっての。でもまぁ…楠の離脱は実質的な指揮系統の欠落だな。弥勒、すまんがお前がコイツの代わりに指揮を取ってくれ。」
夕海子「ええ、任されましたわ。この弥勒夕海子、謹んでその役目をお受けいたしましょう。」
流星(…「蟹座」まで現れた…そして、楠先輩がこうも……いよいよ…なのか……。)
2人目の"十二星座の使徒"が現れた事に、流星はその不穏な空気を感じとる。
そしてこれが……戦いの火蓋が切って落とされた瞬間だった。
……………………………end。
夢を追う者と否定する者。
この戦いはまさにそれを体現していた。
その暗雲は目の前にまで広がっている。
その時、少年は……"理不尽"を目の当たりにする。
次回
第12話 広がる"悪意"。