…人の悪意。それは、蔓延する呪いのようなもの。
そして、人はすぐにその悪意に呑まれてしまう。
かつての"天の神"は……人類のその"悪意"と身勝手に失望した。
楠先輩が入院してから4日後。
ここのところ大きな展開は無かった。まるで、機会を伺うかのような…そんな、気持ち悪ささえも感じ取れる。
臨時の隊長として、俺達を引っ張ってくれる弥勒先輩はとても面倒見が良く、俺もよく相談に乗ってもらっている。まぁ…山伏先輩の言うように少しおかしいところもあるが。
そこもまた、個性だろう。そう…豪勢な紅茶セットを広げて一人でティータイムを満喫しているあの姿も…。
夕海子「…今日も良い茶葉ですわ~…うん、いい香り。」
まさに"自作自演"。だが、楽しそうならそれでいいかと俺は思う。…うん、楽しみ方は人それぞれだ。
流星「弥勒先輩、その茶葉はどこで買ってるんですか?。」
……さすがに放置は申し訳ない。ここのところ、俺はこの人にお世話になっている。話題を切り出すために、少し聞いてみよう。これも、コミュニケーションの一環だ。峻輝によく言われているからな…「お前はコミュ症だ」と。
夕海子「これは我が家に仕えている執事の"アルフレッド"が選んでくれた茶葉です。どうです、あなたもお飲みになられますか?。」
流星「執事がいるんですか!?…本当にお金持ちだったんだ…。」
シズク「んな訳あるかっ!!。これはこいつの妄言だ!!。」
流星「へ…妄言…?。」
夕海子「な・に・が・妄言ですかっ!!。これは事実無根なのですよっ!!。」
シズク「だったら今すぐに見せてみろよ!!。写真の一つくらいは持ってるだろ!!。」
シズクのその追及に、彼女は……"黙ってしまった"。
シズク「ほらなっ!!。」
夕海子「ぅうう…ほ…本当ですのよっ!!。」
…俺はこう思った。"アルフレッド"という名の親御さんが送ってきてくれているんじゃないかと…これ以上はやめておこう、事実とかそういうのを追及するのはよくない、きっと何か事情があるんだろう……うん。
流星「…でも、この紅茶の味は本物ですよ。淹れ方がいいのかな…とても美味しい。」
夕海子「でしょう!?。なら、このスコーンもお召し上がりになられまして!?。とっても合いますのよ!?。」
……嬉しそうだ。きっと、根はすごくいい人なんだ。だから俺はこの人のこういうところも嫌いじゃない。
実際、彼女はとてもすごい人だ。久遠さんが臨時の隊長に抜擢するのもわかる。楠先輩ほどとはいかないにしても、指揮のレベルは高い。訓練においても俺の悪い癖を見抜いてアドバイスをくれる。それに、"十二星座の使徒"の一柱「蟹座」を追い詰めただけの戦闘能力もある…最新式に改良された防人システムのおかげでもあるのかもしれないが、大きな力を扱うにはそれ相応の実力も必要だ。じゃないと、宝の持ち腐れにもなってしまう。それに見合うだけの実力も兼ね備えている。聞けば、一人で邪神教団を調べ上げていたとか…それも相まって、この人は強くなったんだと思う。
そして、時間はゆっくりと過ぎていく。日常タイムはここで終わりだ、ここからは"防人"としての時間だ。
弥勒先輩は「蟹座」から得た情報を皆に共有した。そして、最も話題に上がったのは「巫女とその候補生の増加」について。
玲司「…なるほどな…"神樹様の残滓"か…。」
夕海子「ええ。新生大赦は知っているのですよね、その"残滓"のことを。」
玲司「まあな。今、この世界で次々と莫大なエネルギー源が発見されているのは間違いなく"残滓"のおかげだ。これはきっと、神樹様の最後の"贈り物"なんだろうな。俺たち、人類に託して遺したもの…悪ぃ、黙っとくつもりはなかったんだがその「蟹座」の言う通り、上場企業の独占化や資源を巡っての環境汚染を防ぎたい宗主様のご意向なんだよ。公言しちまうと、抑えが利かなくなっちまうからな…一部の信頼できる機関を除いて、でかい規制を掛けてんだ。」
夕海子「いえ、その事情は汲み取れますわ。言わないほうが正しい…ですが、その"残滓"の影響でどうして巫女の候補生達が次々と確認されているのか…見解はございますの?。」
玲司「いや、その事実はわからなかった。俺たち(新生大赦)だってその謎を解き明かしたいところだったが、「蟹座」の発言から一つだけ考えられることがある。それは……"勇者"のような適性だ。」
しずく「…適性…?。」
玲司「ああ。世界中に広がった"残滓"は、少なからず人間にも影響している。その中で、自身に眠る"可能性"が開花したんだろう。」
"可能性の開花"…それは、邪神教団の言う"人の進化"にあたるもの。
少なからず、"神"が一度でも干渉した世界だ。そして、散り際の"贈り物"としてこの世界に新たな"恵み"を遺した。だが、それが人類の進化を促進するほどの影響なんて誰が考えられるか…その答えは神のみぞ知る…もしかすると、それが偶然の代物なのかもしれない。それとも、"人"として生きていく人類に遺した"副産物"なのか…その答えにたどり着くのは自分たちだ。ならば、それを悪用しようとする邪神教団を止めなければいけない。今、わかるのはそれだけだ。巫女の素養を持つ者が多数現れ、そしてそれは邪なる神の降臨に使われる"消耗品"として、その命を奪われている。
そんな非道、ここで終わらせなければならない……亜耶のためにも。
そんなことを話していた直後、玲司のスマホが鳴り響く。
電話の内容は重いものなのか、返答が暗いものとなる。そして、5分ほど話した後、通話を切ってため息を吐いた。
流星「久遠さん…どうしたんですか?。」
玲司「…愛媛の方で、大規模なテロが起きた。首謀者は…言わなくても分かるな?。」
愛媛…それを聞いた、流星を除く防人メンバーの顔が真っ青になる。
しずく「…ねえ、"加賀城"は確か……!!。」
夕海子「故郷である愛媛に里帰り中ですわっ!!。久遠さん、私たちは…!。」
玲司「特例で変身して向かうことが許可されてる。車で行くよりも、変身して飛んでいったほうが早ェ!。お前らはすぐに向かえ!!。最優先事項は"加賀城雀"の保護!!。念には念として数名はここに残って、讃州市の防御を固めろ!!。坊主、お前は…!。」
流星「俺も行きます!。あいつらの凶行を止めないと……!。」
玲司「…惨い光景を見ることになるぞ、それでも行くのか…?。」
その言葉に、流星の迷いは……無い。
流星「それでも行きます、この目で見ないといけません…俺も…"防人"ですっ!。」
玲司「よく言った、なら弥勒を隊長とした「第一部隊」は愛媛に向かえ!。メンバーは山伏と坊主に…高崎、お前らだ!!。」
美咲「ラジャ…!。」
美咲(楠さんが不在の今、ここで功績を挙げれば…!。)
……最速で愛媛にたどり着いた第一部隊。その道中で乗り捨てられた数々の車を見た。そして、その方向の空は朱に染まっていた…恐らく、火災の影響だろう。
邪神教団がここまで大きな動きを見せたのは初めてだ。何が目的でこんなのとをしたのか…それは県庁所在地である松山市に入った途端、理解が追い付かない光景が目の前に広がっていた。
シズク「…おいおい……なんだよ、これ……!!。」
鳴り響くサイレン、焦げた街路樹と煌々と燃える炎。崩れた建物の数々……まるで、ここだけ"災害"にあったかのように地獄絵図と化していた。……見たくもない光景。勿論、そこには人の骸らしきものも転がっていて。
流星「……なんで、こんなことを……こんなのって…!。」
流星は目の前に広がるこの"理不尽"に納得がいかなかった。ついさっきまで、普通の日常を送っていた人々が一瞬にして全てを奪われたのだ。こんなのがテロなのか…そう思いながら、あたりを見渡すと地響きが起こるほどの"咆哮"が鳴り響く。
夕海子「……っ!!各位、周囲に最大警戒をっ!!"何か"がここにいますわっ!!。」
"何か"?。まるで怪物を連想させるほどのその言い回し、そしてその時…その"何か"が顔を出した。
…目が無く、口が裂けているのかと思わせるほどの大口に巨大な白い体躯。そして、その形はまるで蛙を連想させるかのような異形。
…こんな生物は見たことがない。だが、その形は少し似ていた…そう。初めての"お役目"の日に見た異形と化した邪教徒の遺体…そして、教団ロッジの前に転がっていたあのオブジェ…"星屑"と言われるあの化け物と。
その時、その異形が凄まじい速度で突進してきた。
夕海子「各自散開!!。この化け物…もしかして…!。」
美咲「だあああああっっ!!。」
夕海子の指示を無視し、カスタムされた銃剣を乱射。その全てが異形に直撃する。
夕海子「ちょっと高崎さん!指示通りにしてください!!。」
美咲「っていっても、こいつは待ってはくれないよ!?ほら、止めないとどんどん人が死ぬ!!。」
シズク「っ…コイツの言う通りか!おい弥勒!!オレと紫藤が前に出るからお前は逃げ遅れた奴がいねェか確認しろ!!。」
夕海子「ええ、わかりましたわ!!。」
シズク「行くぞ紫藤!!ついてこい!!。」
流星「はいっ!!。」
シズク・流星を先頭に美咲が後衛。そして、指揮官の夕海子が生存者を探す。その異形は、まるで叫び声のような声を上げながら突撃してくる。この生物は一体…そう考えながら、流星は前へ出る。
シズク「ちっ…星屑のカエル版ってか!!。」
銃剣を構え、その体に突き刺してはゼロ距離射撃による撃ち込み続ける。しかし、その強固な体にはまるで効いている気配が無い。それどころか、エネルギー弾を受けながらも突進速度が弱まらない。
流星「この…まるで本能のように…!!。」
トンファーを握る手に力を込めて振おうとしたその時、流星の頭に"声"が響く。
流星「…なんだ……これ……"叫び"…?。」
一瞬、手を止める。シズクと美咲の様子を見るにその声を聞いたのは自分だけだ。
流星(2人には聞こえていないのか?。なんだこの感覚…まるで"恨み"のようなドス黒い感じがする…!。)
その時、流星は"直感"で危機を感じ取った。
流星「マズイッッ!離れろ2人とも!!。」
シズク「あぁ!?…っ……!?。」
その異形は突如として身体が隆起。その瞬間、口から途轍もない衝撃波を放つ。
流星の起点で間一髪で避けた2人。その射線上は抉り取られ、アスファルトの下地まで見えるほどに陥没した。
流星「くっ……本当に何なんだこの怪物は!!。」
「…これは“人造バーテックス"。我々が作り出した"バーテックス"だよ。」
男の声が鳴り響く。視線の先には黒いローブに身を包み、黄道十二星座の「水瓶座」のマーク「♒︎」を象った仮面をつけた人物がビルの屋上から見下ろしていた。
流星「そのマーク…「水瓶座」!?。まさか、"十二星座の使徒"!?。」
アクエリアス「僕は"アクエリアス"。以後、お見知り置きを。」
一礼してその場に降り立つアクエリアス。ここに来て"十二星座の使徒"まで現れるとは……警戒心を最大にまであげる3人。
シズク「おいテメェ、今"人造バーテックス"だなんて言いやがったか?。」
アクエリアス「そうだとも。信仰心の足りなかった数十人の邪教徒とこの街の哀れな者の命を掛け合わせて"儀式"により作り出した"人造バーテックス"。その名を"ベガ・バーテックス"という。」
「ベガ」。こと座に位置する星の名に因んだこの異形はその名で呼ばれていた。そして、驚くべきは…"人"の命を使って作り出したという。
流星(なるほど…さっき感じた"叫び"はコイツのために"儀式"とやらで使われた命の声…だと言うのか…。)
シズク「クソが…随分と胸糞悪い事をっ!。こんな醜い化け物を作るためにこの街を燃やしやがったのか!?。」
アクエリアス「おや…僕達と事を構えてるはずなのに、これは不思議なことなのかい?。君たちと僕たちは敵同士だ。なら、こんな状況くらいは想像が付くだろう?。」
この「アクエリアス」という男は"人の悪意"そのものだ……流星は怒りに震えるのだった……ーーー。
……………………………end。
「水瓶座」の実験により、愛媛の街は燃やされた。
街に響くのは人々の阿鼻叫喚。まさに地獄絵図。
この非情な男の所業に、少年は怒りを募らせる。
次回
第13話 "悪意"に打ち克て。