紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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"人の悪意"の塊である"人造バーテックス"。

この異形には、人の命が使われている……。

その"悪意"に少年は…立ち向かう。


第13話 "悪意"に打ち克て。

…燃え盛る街と、目の前の"異形"。そして、「水瓶座」。

状況は芳しくない…この「水瓶座」だって、いつ仕掛けてくるかわからない。それに、実験感覚でここまでの被害を何とも思っていないこの男を許すわけにはいかない。

 

…初めて、ここまで怒りを覚えたかもしれない。俺は…こいつをここで倒しておかないとこの狂乱ともいえる愚行をまた繰り返すかもしれないと思う。だからこそ、意を決して挑む。この…"悪意"の塊と。

 

アクエリアス「君如きが、いくら足搔いた所でこの状況を覆せると思えないんだけど?。」

 

流星「それでも、お前という人間を放置するわけにはいかない!。こんな化け物を生み出しておいて、まるで人の命をおもちゃのように…!。」

 

「水瓶座」のいるビルの上に跳躍し、銃口部分を向ける流星。そして、容赦なくそのトリガーを引いた。

 

シズク「おい紫藤!!何してやがる!!。」

 

流星「お前だけは…ここで落とすっ!!。」

 

着弾した霊力弾はビルを損壊させるほどの物量だった。にも関わらず「水瓶座」は無傷。そして、何やら「結界」のようなもので防いでいたのだ。

 

アクエリアス「…くだらない。命なんてそんなものだろう?。2年前まではそうやって理不尽に奪われてきた…そして、西暦の時代では同種で命の奪い合いをしてきたというのに、人の世となった今でもその歴史は繰り返されるんだって。現に君は、僕に対する怒りで武器を手に取っている。何が正解で何が間違っているかだんて、君がそれを決定する権利があるというのかい?。それはただの傲慢だよ。」

 

流星「っ…!!。」

 

アクエリアス「物事はシンプルに捉えたほうがいいよ。余計な綺麗事を並べてないで、憎いものは憎いと素直になればいい…無駄な正義感を振りかざされてもウザいだけなんだよね。」

 

「水瓶座」に戦闘の意思は無い。ただただ、"状況"を見ているだけだ。そして、今最も危険なのは…"ベガ・バーテックス"。だとすれば、優先順位は自ずとわかる…今は"個人"の感情で戦っている場合じゃないと、流星は冷静に判断した。

 

流星「くっ……今は…っ!!。」

 

視点を変え、ベガ・バーテックスに目を向けた流星。その時、ベガ・バーテックスは身体を隆起させて"変化"をし始めた。

 

美咲「は…な…何っ!?。」

 

アクエリアス「おめでとう!!。君たちは最高の瞬間に立ち会えるよ!?さあ、見たまえ…これが、"進化"だ!!。」

 

ボコボコと、巨大化していくその姿。翼が生え、両腕が無くなったがその代わりに脚部が筋肉質なものへ、そしてカエルのような姿は"鳥"を思わせるような姿へと変化。先ほどまで異形だったそのフォルムとは打って変わって「攻撃的」な形へと姿を変えている。いうなれば"猛禽類"…まるで"捕食者"そのもので。

 

翼をはためかせると、まるで台風のような猛烈な風が3人を襲う。

 

シズク「くっ…これ、やべェな…!!。」

 

…「樹海化」がない今、周囲の被害はそのまま反映される…長引けば長引くほど、不利になる上にもしこの化け物がここを飛び去れば近隣のみならず、新生大赦の本殿がある"香川"にまで侵攻してくるかもしれない。なによりそれは、邪神教団にとって有利な状況へと事を運んでしまう。それが何を意味するのか……そう、この愛媛で起きている惨状と同じようなこと…いや、それ以上にひどい事態へと見舞われることになる。

 

彼らは人の命を何とも思っていない。それどころか、自身の命でさえその狂った信仰心が強すぎて捧げることに何の戸惑いもない。遂に、こんな化け物まで生み出したのだ。この化け物を生み出すために何人の命を使ったのか…想像するだけで吐き気がする。

 

こんな"理不尽"を認めてなるものか。打ち勝たなければならない、この"悪意"に。

 

流星「負けられない…行きましょう、この化け物を倒すんです!!。」

 

シズク「は…いい面構えじゃねェか。オレも同意見だ、それに…2年前を思い出す。行くぞ!!弥勒が戻ってくる前に片づけてやる!!。」

 

シズクを筆頭に、流星と美咲は後に続く。

進化したベガ・バーテックスは再度、羽ばたきによる暴風を巻き起こす。だが、いつまでもやられっぱなしではない…シズクは冷静に見極め、一際大きな瓦礫に身を隠してはその暴風の直撃を防ぐ。それはまるで、刃物のようにその風は周囲を吹き飛ばしながら転がった車などが細切れにされていき。

 

シズク「オレが合図を出したら身を乗り出して一斉射撃だ!!。あの羽を撃ち抜く!!。」

 

シズクの提案に二人は頷き、その機会を伺う。

そしてそれは……訪れた。

 

シズク「今だァアアアア!!。」

 

身を乗り出し、一斉にトリガーを引く。飛び交うエネルギー弾はベガ・バーテックスの翼目掛けて放たれる。

 

美咲「おおおおおおおおお!!。」

 

弾が切れるまでトリガーを引き続ける。そのあまりの物量に周囲の視界は黒煙で悪くなる。だが、当たってる気配はする…そう信じて、撃ち続けた。

 

そして………。

 

シズク「はぁ…はぁ……どうだ…!?。」

 

晴れる黒煙。だがその瞬間、周囲に風が吹き荒れた。

 

美咲「ちょ…嘘でしょ…!?。」

 

損傷はあるものの、その翼は健在。そして、吹き荒れる風も衰えてはいなかった。瓦礫は瞬く間に削られていき、その風域に捉えられてしまう。

 

シズク「クソ、散開だっ!!。」

 

アクエリアス「あははは…素晴らしい、素晴らしい!!。これこそ、完全なる生命体!人智を超えた完成された生命体だ!!。」

 

流星「っ…何が完成された生命体だ…!!。」

 

流星は前に飛び出し、トンファーを構える。

 

流星「そんな存在が必要なのかよ!!。こんな間違った進化がなんだって言うんだ!!。」

 

アクエリアス「またお得意の綺麗事かい?。だから、なんでそれを君が……。」

 

流星「違うッ!!お前は他人の命を使ってこんな化け物を作りたいだけの狂人だっ!。」

 

アクエリアス「狂ってないとこんなもの、作れないだろう?。僕は魅せられたのさ…"バーテックス"という、完成された生命体の全てに!。」

 

ベガ・バーテックスが流星に飛びかかってくる。

 

アクエリアス「"人"は不完全だ、いくら優れていようが人智を超えた進化を成し遂げることなんて出来やしない。そう、人という器を捨てない限りは。」

 

流星「それでいいんだよ!!。」

 

強靭な鉤爪を向けて飛びかかって来たが、トンファーを盾に防ぎ切る。だが、力負けしているのかジリジリと後ずさっていき。

 

流星「人が人を捨てる意味なんてないだろっ!。なんでそこまで進化にこだわるっ!?。」

 

アクエリアス「…僕はあまり、教団の理念やら何やらを説うつもりなんてないんだけどね……人には限界がある。2年前、旧大赦だってそうしただろう?。人の器を捨てて、神と一体化しようと。つまり、この世界の人類は求めているんだよ…人を超えた"その先"の生命体へと進化するためにね。」

 

ビルから降りてゆっくりと歩み寄る「水瓶座」。ベガ・バーテックスは流星を押し潰そうと、その足に力を込める。

たまらず、地面に押し込まれる流星。だが、鋭い眼差しは「水瓶座」に向けられていた。

 

流星「…それはお前達の勝手だろ!?。それを押し付けてるだけだ!!人の自由を奪っておいて何が進化だ…そんなの…お前達だけでやればいい!!。」

 

力を解放し、弾き飛ばす流星。その時、流星の持つトンファーから淡い光が放たれる。

 

そしてそこへ、救助を優先していた夕海子がやってくる。

 

シズク「弥勒っ!!。」

 

夕海子「今し方、避難を終えましたわっ!。それにしても、紫藤さんから放たれてるあの光は一体!?。」

 

美咲(っ……あの力が私にもあれば……!。)

 

アクエリアス「…なんだい、その煩わしい光は…!?。」

 

流星「はああああああッッ!!。」

 

トンファーを振るうと、その光が放たれる。周囲を巻き込む形で広がるが、建物が崩れる様子は無い。そして、それがベガ・バーテックスに直撃すると、まるでダメージを受けたかのように仰け反っては吹き飛ばされた。

 

アクエリアス「…何…!?。」

 

シズク「おい紫藤、なんだその力は!?。」

 

流星「わ…わかりません…でも、頭の中でこの力はこう使うんだって分かった気が…!。」

 

夕海子(…"異例"とはいえ、勇者の力でも何でもありませんわ…言うなれば…超常的な力……この防人システム…一体、何なんですの…?。)

 

アクエリアス「…認めないぞ…そんな、不確かな力なんて!。」

 

ベガ・バーテックスはゆっくりと身体を起こす。光を受けた場所が輝き、その部分の再生だけがまるで追いついていない。

 

流星(なんだ…あの光を受けた場所だけ再生していない?。この力は一体……。)

 

自分の手を見る流星。先ほどの"光"はもう消えていた。

"あれは"一体なんだったのか…流星は自身の変化に少し戸惑いながら。

 

流星「…俺が前に出ます。多分、右の翼は再生が追いつかない…あの一斉射撃で無傷だったのは恐ろしいほどにまで速い再生能力だったのかもしれません。でも今なら…!!。」

 

夕海子「わかりましたわ…なら、前衛に紫藤さん。他は援護で…!。」

 

美咲「私だって前に…!。」

 

シズク「言う通りにしろ!。コイツをここで仕留めねェとここ以上に悲惨な事になる!"樹海化"はもうねェんだっ!。戦闘そのものが被害そのものなんだよ!。」

 

美咲「っ……!!。」

 

流星「…行きます…!!。」

 

地面を蹴り、バイザーを下す流星。そこに映るのは、ベガ・バーテックスの"損傷"部分と自分の"加護ゲージ"が表示される。

 

流星(…ゲージは6…被弾は……上等だ…!!。)

 

ただ一直線に、突き進む流星。吹き荒れる風が刃のように自分の身体を掠めていく。そして、少しずつ減っていくゲージ。だが、その脇からビームが幾つか飛び交い、敵の攻撃を相殺していく。

 

シズク「あの野郎、オレらに露払いを任せやがって!。」

 

夕海子「確かに、捨て身の戦法は褒められたものじゃありませんわね!。でも、背中を任せての戦い方は楠さんそのものですわ。さすが、あの人を師に持つだけはある…!。」

 

美咲(っ……紫藤流星……何なの、あの"気迫"は…!。)

 

アクエリアス「バカの一つ覚えに突っ込む気かい!?。よく分からないが、君は危険だな!ここで始末した方が良さそうだ!!。」

 

ベガ・バーテックスが散らした羽が動き出し、まるで意思を持ったかのように四方八方に展開。流星の周りから一気に突撃してくる。

 

流星「止まれェエエエエ!!。」

 

またもや、トンファーが発光現象を起こす。そして、放たれた"光"がそれらの動きを全て止めた。そして、今度はベガ・バーテックスに向かって行く。

 

アクエリアス「何…こっちの攻撃を利用して!?。」

 

羽がベガ・バーテックスに突き刺さる。光を浴びたそれは奴の再生能力を封じ込めた。

 

流星「その悪意を…打ち祓うッッ!!。」

 

懐に潜り込み、トンファーによる殴打を繰り出す。そして、6撃目で頭上に叩きつけてはそのまま振り抜き、地面に叩きつける。

その連撃と最後の一撃により、"御霊"と思われる三角錐の物体が露わになった。

 

流星「…これが"悪意"の塊か!!。なら…これで!!。」

 

今度は自身の身体を包み込むように発光現象を起こし、突撃。"御霊"を完全に打ち砕いた。

 

アクエリアス「…何……僕の最高傑作が…!!。」

 

流星「はぁ…はぁ……ぅ……。」

 

光が消えたと同時に強烈な疲労感が流星を襲う。視界がボヤけ、トンファーを離してそのまま地面へと落ちていく。その視界の中、自分に向けて手を広げた「水瓶座」が攻撃しようと仕掛けてくる。マズイ…そう思った直後、少女の声がその場に鳴り響いて。

 

「ダメェエエエエ!!。死んじゃうよこのままじゃッッ!。」

 

放たれた水色のエネルギー。それを防いだのは、巨大な盾を構えた1人の少女……そう、32番目の防人の少女・加賀城雀だ。

 

シズク「か…加賀城!テメェ、無事だったか!!。」

 

雀「うわわわッッ!。つい前に出ちゃった!どどどしよう!?。」

 

夕海子「ご安心なさいな!!。」

 

銃剣のワイヤーを射出。流星と雀を回収して後方に退避させた。そして、シズクが残る「水瓶座」に目を向けるが、彼はすでにその姿を消していた。

 

シズク「ちっ…逃げられちまった…!。」

 

夕海子「いえ、作戦は成功ですわ!。各位、周囲に警戒しつつ撤退を!!。」

 

雀「ら…らじゃ〜!!。さっさと帰ろう、こんなところ居たら命がいくつあっても足りない〜!。」

 

そのまま撤退に入る一同。そして、夕海子は気を失った流星を抱えながら跳躍する。

 

夕海子(お手柄でしたわね、紫藤さん。しかし……あの超常的な力が何かを問い詰めなければいけません…新生大赦に。楠さん専用として作られたこの防人システム…"何が"仕込まれているのかを……!。)

 

………………………………end。




流星の活躍と発現した“超常的な力"。そして、雀の保護のみならず“人造バーテックス"の撃破に成功した。

……夕海子は、目の当たりにしたその超常的な力の所以を新生大赦に問い詰める事に。

宗主・乃木園子ですら知らないその事実……この防人システムに隠された真実とは…?。

次回
第14話 "擬似勇者システム"。
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