紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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"勇者"を摸して、作られた"勇者"ではないシステム…"防人"。
それは、"代え"の利く"勇者"擬き。適性を見込まれ、「当たり」では無かった少女たちの力となるもの。

そして……"異例"の少年が纏うものは"防人"であって"防人"とは程遠いもの……まさしく…"作られし勇者"。


第14話 "擬似勇者システム"。

邪神教団による愛媛襲撃事件…多数の一般市民が"ベガ・バーテックス"を目撃したことから「大火の怪異」と名付けられたこの事件による犠牲者は68人。そのうちの13人が"巫女候補生"だという。そしてその命は奴らの言う"儀式"により、“人造バーテックス「ベガ・バーテックス」"の創造の為に使われたと推察されている。その中には、教団の邪教徒もいくらかは含まれているのだろう…。

 

“人造バーテックス"なるものは恐らく、奴らの最重要目標である"邪神降臨の儀"の試験的なものだと、俺はそう考えている。そして、その主導者があの「水瓶座」…アクエリアスだ。

 

"儀式"と呼ばれる研究により、人の命を対価に生み出された"人造バーテックス"は差し詰め「錬金術」を彷彿させるもの…あれは、神に対する冒涜としてその技術そのものが「禁忌」とされている。故に、信仰世界であるこの四国では忌み嫌われるものとでも言えるだろう。

 

ーバーテックスこそ、完成された生命体ー

「水瓶座」がそう言っていた…つまり、"邪神降臨の儀"と呼ばれるものはその上に至る「全てを超越した生命体」を呼ぶことなのか?。

そもそも、"邪神"とは一体何を指すんだ…奴らは「力の象徴」だと言っていたが、それが302年前に"一度"、世界を滅ぼした「天の神」と同等の力を持つ神の事を言うのか?。だとすれば、奴の説う「バーテックスこそが完成された生命体」という考えは教団の理念と少し違ったものになる。奴らは"邪神"を崇拝するカルト集団だ。

そして、その"バーテックス"は"天の神"がもたらした"尖兵"…"天の神"の勢力そのものだ。"天の神"を殺すことがその目的ならば、何故その勢力である"バーテックス"を利用するのか、そして魅せられたのか…。

"バーテックス因子"と呼ばれる"勇者の適正"とは真逆の理論を構築させたその科学力……考えれば考えるほど、分からなくなってくる。

 

キーワードは"邪神"と"バーテックス"……この二つが奴らに結びついているもの。そして、神の声を聞くことができる巫女の増加……この世界で起きている"別の変革"は"人類の進化"なのかもしれない。

最期まで"人"である事を選択したこの世界で起きている進化…それが良くない方向に行けば、きっとまた"天の神"の粛清が起こる可能性だってある。だからこそ、神樹様が遺したこの「恩恵」の使い所を間違っちゃいけないんだ。そう…俺たち(人類)は神に"試されている"…そんな気がしてならないーーー。

 

………………………………。

 

〜新生大赦・本殿〜

 

「大火の怪異」事件の後、夕海子は新生大赦の本殿へと単身で赴いていた。その理由は流星の持つ「防人システム」の事だ。

あの“超常的な力"は一体何なのか…"勇者"とは違った別の力…まるで、神の力だと思わせるほどにまで不可思議なあの力を宿したあのシステムの実態は何なのか…ーーー,

 

こういった"秘匿事項"に関しては敏感になってしまう。それこそ、自分自身は話でしか聞いたことがないが…旧大赦が勇者達に隠していたあの"機能"ーーー。

 

ー「満開」…絶大な力を得る反面、その反動で訪れる「散華」によって、自身の身体機能を"供物"として神に捧げる…いわば、"神の力を行使した対価"の事。それにより、勇者達は苦悩しそして…その後の人生を奪われるかもしれないほどの大きな心の傷を負った。

 

その事を話で聞いていた彼女は神の力と思わせるあの超常的な力の事を問い詰める気で居た。そう、流星の身に何か起こるのか…そして、それについて"知っていた"のか?。それが聞きたくて。

 

事前に連絡をとっていたおかげで、本殿の中へとすぐに案内された。そう、彼女に問わなければならない……現宗主・乃木園子に。

 

夕海子「お忙しい中、お時間を取らせて申し訳御座いません。宗主様。」

 

深々と頭を下げる夕海子。目の前にいる園子は公務の為の「正装」姿で出迎える。

 

園子「いいですよ〜…貴女の方が先輩ですからお気遣いなく〜。」

 

間延びしたその口調、彼女は"素"で接する。緊張の糸を解きたいためか、和かに対応する。その様子に、夕海子は戸惑いながら。

 

夕海子「えっと…そう言うわけにはいきませんわ…その…お隣の神官の方が凄まじいオーラで私を見るものですから…。」

 

園子の隣にいる神官…安芸を知っている彼女は懐かしさを覚えると共にあの時の雰囲気が未だ健在だと言うことに息を飲む。

そう、彼女…安芸は2年前に自分達に任務を伝える伝達係であると共にその責任を負っていた人…今の責任者である久遠玲司の前任者だ。

そんなことを感じながら、突然背後の扉が開く。やって来たのは、正装姿ではない玲司だ。

 

安芸「…この場では正装で来なさい。公務ですよ。」

 

玲司「…すんません、先輩。けど、俺も聞きたくてここに来たんだよ。弥勒から全部聞いたんだ、あの坊主の防人システム……楠に渡るはずだったあの新型に隠された事実…あれが何なのかを。」

 

いつにも増して真剣な玲司。園子は目を閉じて考え込んでいた。そして……。

 

園子「…ごめんね、"アレ"に関してはまだ調査中なんよ。報告を受けたその時から、いろんな所にアプローチを掛けてはいるんだけど…。」

 

夕海子「ちょっと待ってください…それじゃ、宗主様でもお分かりにならないと言うことですの…?。」

 

その質問に、コクリと頷く園子。2人は言葉を失う。

 

園子「でもね、一個分かるとしたら貴女が見た"超常的な力"…あれは恐らく、彼自身に起因しているものだと思う。」

 

玲司「…どういうこった…あの坊主自身…だと…?。」

 

園子は以前、流星に話した"異例"の事実を2人に告げる。そう、男性でありながら"勇者"の適正があるその事実を。そしてそれを知り、思わず息を呑んだ。

 

夕海子「…過去の事故によって…身体の一部が神格化している…?。」

 

玲司「……先輩、それって……"御姿"じゃねェ…ですよね?。」

 

安芸「…流石に"彼女"程ではありませんが、それに近いものです。そしてそれが今もなお、色濃く現れている…神樹様が居ないにも関わらず、その力は大きくなっています。そう、彼には"人の悪意"を感じ取れる超感覚が芽生えております。」

 

夕海子(…時折見せる、異常な判断能力……それがそうだった…ということですの…?。)

 

玲司「…なんとか"普通"に戻してやれねェですか…?。そんな神様みてェな能力が知れ渡ればアイツは古い体制の奴らによって…!!。」

 

安芸「落ち着きなさい。その辺も含め、現在詮索中です。この事実が広がればまた、神格社会へと戻ってしまいます。この世界にはもう神がいない…人は神を作りたがる…普通とは違う人間を神格化して祀り上げる事は予測していますよ。」

 

玲司「…っ……俺ぁもう"結城友奈"のような過酷な目に遭うような奴を生み出すのはごめんだぜ!?。それこそ、宗主様だって"あんな目"に遭わされてんだ…大人達の勝手な都合で…!。」

 

安芸「だから落ち着きなさいと言っているでしょう、貴方が喚いた所で何かが変わるわけじゃない。彼らを思うのなら、事を冷静に考えなさい。これは、思っているよりも深刻なのよ?。」

 

玲司「………すんません……。」

 

夕海子「……それは分かりましたわ、それはご本人も自覚されてることかと…ならあれが何故、楠さんに渡るご予定だったのですか?。あれを作ったのは…誰ですの…?。」

 

その質問に、園子は真剣な眼差しで見つめる。

 

園子「"アレ"の正式名称は"擬似勇者システム"…元を辿ると、楠芽吹さんを強制的に"勇者"にするためのシステム…らしいの。」

 

"擬似勇者システム"?。芽吹を強制的に…"勇者"に「する」?。「強制的」と「する」…と言った言い回しに、夕海子は疑問を抱く。

 

夕海子「……その言い分だと、どうやら新生大赦側での御事情があるんですのね…?。」

 

園子「うん…これはね、私の力が足りないばかりに起きたことだから先に謝らせてね?。一部の旧体制派が、私の宣言した"人の世"を受け入れられなかった…彼らは未だに神樹様の世界だと信じてる人たちなの。そして、それは神樹様の戦士である"勇者"も居なくてはならない…バーテックスのような外敵から自分達を守ってくれる存在を作り出すために、もうその力を失った私達に代わる新たな候補…防人の隊長である楠芽吹さんに白羽の矢が立ったんよ。作ったのも、その旧体制の人達…だからこそ、"アレ"にはまだ隠されている何かがあると………私はそう思ってる。」

 

その言葉に、机を激しく叩く音が響く。玲司だ、その隠された都合に流石に怒りが隠せていなかった。

 

玲司「…ざけんじゃねぇ……まだ子供達に"やらせる"気なのかよ…ソイツらはどこに居るんです…?。」

 

安芸「居場所を知って、どうするつもり…?。」

 

玲司「決まってるっ!ぶん殴ってやんだよ!。なんだってまだ…今だって、コイツらが居ねェと教団の奴らがのしあがってやりたい放題やりやがるから頼るしかねェってのに、なんでまだ"使う"事を考えやがるんだ!。コイツらだって、年頃の奴らだ!普通に過ごして、普通に青春を送りてェはずなのに、俺たち(大人)が無能だからそぐわねェ武器なんざ取って辛い目に遭い続けてんのに…クソが、まだそんな"古い"馬鹿どもがのさばってやがんのかよッ!!。」

 

激昂する玲司に安芸は…強烈な平手打ちをかました。

 

安芸「いい加減にしなさい!感情的になるのもわかるけど、貴方が今騒げば宗主様の努力は全て無駄になるのよ!?一時の感情でこれまでの苦労が全て消えることになるっ!!古い体制の者を黙らせるには、それなりの力と知恵が必要なのよ!。変わろうとしている"今"の邪魔をするのは貴方のその無意味な行動のせいになる!。それに…覚悟を決めて"お役目"を引き受けている彼女らの矜持を汚すつもりなの!?。」

 

矜持…その言葉を聞いて、玲司は夕海子を見る。そう、目は本物でまさしく覚悟を決めて決意を秘めている目…それこそ、自分がよく言う「心に従って」の事だった。でも、それでも玲司は納得が行かなかった。芽吹と流星…身勝手な大人の都合で振り回されている2人を思うと、怒りが込み上げてくる。

 

玲司「……席を外しますわ…外の空気吸って頭冷やして来ます。」

 

そう言って、退室。立ち上がった安芸は再び椅子に座る。

 

安芸「…申し訳ございません、宗主様。もう少し、教育しておきます。」

 

園子「ううん、いいんよ?。あれだけ真剣になってくれて嬉しかった。だからこそ、頑張らないといけないなって。ちゃんと考えてくれる大人達だっているんだもの。彼の怒りはごもっともだよ?。」

 

安芸「……ありがとうございます。」

 

園子「さて、お話を戻すね?超常的なあの力は彼自身の力なのかもしれないけど、それを顕現させるものが"アレ"にはあるから厄介っちゃ厄介よね…それが何なのかはわからないけど、楠芽吹さんを勇者に"する"為のシステムが"異例"の彼の手に渡ったのは運命なのかもしれない。"人"を強制的に"神の戦士たる勇者"に変身させるあのシステム…一筋縄では行かないよ、その思惑に込められた"理不尽"がアレにはあるかもしれない…定期的にこっちでも調べとくね?。後で、彼の端末に仕込みのアプリを送っておくから。」

 

夕海子「ありがとうございます。」…ーーー

 

ーーー……それからしばらくして、本殿を出た夕海子。そこには、安芸に打たれた頬をさすりながらタバコを吸う玲司がいた。

 

夕海子「見事な平手打ちでしたわね、とても痛そうで?。」

 

玲司「そりゃ痛ェよ、全く…あの能面女、容赦無く打ちやがってよぉ……。」

 

夕海子「後で告げておきましょうか?久遠さんが文句を言ってましたって。」

 

玲司「ぐっ…勘弁してくれ、ただでさえいつも怒られてるってのに。にしても……あの坊主の事もありゃ楠の事もある。そしてこの間、聞かされた巫女ちゃん(亜耶)の事も……どうも暗くなって来やがったな…防人達の今後がよ…。」

 

夕海子「…それでも、守りますわ。年長者として…今は私が臨時隊長ですもの、楠さんが戻るまでの間は私が皆さんを守ります。この弥勒の名にかけて。」

 

玲司「…変わったな、お前。聞いてる話じゃ、自分の家の事ばっかだって。そんでよく無茶をするってな。」

 

夕海子「勿論、それはまだ諦めてませんわ。弥勒家の再興…それが私の行動理念ですもの。でも、それと同じくらい今が大切ですから…。」

 

そう言って、青い空を見上げる夕海子。

その瞳に籠るのは決意……みんなを守れるくらいにまで強くなれればきっと、自身の"夢"だって……ーーー。

 

そう思うのであった。

 

……………………………end。




勇者に"する"為にその思惑に利用されそうになった少女は"異例"の少年がその全てを引き受けていた。

きっと、それでも最後に従ったのは自分の意思…その思惑なんてものは最早、関係ないのかもしれない。それは誰にもわからない事だが、きっと………。

その頃、巫女の少女にある"異変"が起きる。
…"神託"………それを受けて。

次回
第15話 "神託"。
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