紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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ー巫女ー
それは、神の声を聞ける少女の事を指す。
西暦終焉の時から、その力は後の時代にまで大きく貢献した。
"表舞台"が勇者ならば、"裏舞台"が巫女と言ったところだ。

そして、彼女…国土亜耶もまた、その特異な力を持つ"巫女"であった。


第15話 "神託"。

私の名前は国土亜耶。

讃州中学校の3年生です。2年前、防人の皆さん…芽吹先輩達と「最終決戦」に赴いた人間の1人です。

あの時は神様と共にあり、そして死する時も神の為だと信じて生きて来ました。

 

私には、戦う力はありません。見守ることしか出来ません。でも、それでもあの人たちは…芽吹先輩達は懸命に生きて来ました、そう…神の眷属として生きる道を否定し、ちっぽけでも心のままに生きることができる"人"として生きる道を選び、そして…神様を否定しました。

 

この世界は、西暦の時代が滅んでからずっと神様によって見守られ、そして淘汰されて来た世界です。それを信仰する大赦の教えにより、私の家系は神の眷属として生きる道が正しいと、そう信じて生きて来ました。

 

でも、芽吹先輩は私に"生きろ"と言ってくれました。そして、心のままに正直で良いと……そして、私は選択しました…ーーー…"人"として生きていきたいと。

 

あの決意と励ましがあったからこそ、今この青い空の下で元気に生きています。でも、それでも私は"巫女"…神様の声を皆さんにお届けするのがお役目です。もう、この世界に神様はいない…神樹様は御逝去され、天の神は人類の今後を見定めるために"高天原"にお帰りになられました。もう聞こえるはずがないのに最近、頭の中で囁くように"声"が聞こえてくるんです。

 

ー…全てを「真っ白」に…っと…ー。

 

…きっと、この"声"は例の邪神の声なのかもしれない…でも、何の確証も無い…皆さんを心配させたくないからずっと黙ってました。

…不安はあります、この声を聞き続ければ私はどうなってしまうのか…でも、あの人が…彼がこう言ってくれました。

 

「それでも、君は"君"だろっ!?。」

「君は俺の知る"国土亜耶"だっ!。例え、そうなったとしても俺がなんとかするっ!!」

 

…この言葉にどれほど救われたのでしょうか…自分自身のこともあるのに私を助けるために必死になってくれる……だったら、信じよう。逃れられない事実だとしても、あの人が傍に居てくれるなら…怖くない。

 

私はあの人を…紫藤君を…支えたい。

 

そのおかげで私の心は少しばかりか余裕があります。今日もまた、"検査入院"の為に病院にいる彼の元に向かっています。今日は彼のご友人…三上峻輝君も一緒です。

 

峻輝「にしても、あいつが検査入院だなんてな…一体、何に引っかかったんだ?。」

 

…私は、"検査入院"の実態を知っています。先の戦闘…愛媛で起きた「大火の怪異事件」の最中で発現した謎の力について調べるため。その理由で彼はここ数日はずっと病院にいます。…本当はきっと、新生大赦の監視下に置きたいがために。でも、その事実を何も知らない三上君にお話しするわけには行きません。知ればきっと…巻き込んでしまうから。

 

亜耶「えっと…な…なんなんでしょうね?。私もよくわからなくて…。」

 

亜耶(…私は嘘をつけない。だから、下手な事を言うのはやめておいた方が良さそう……。)

 

峻輝「元気なら良いんだけどよ…愛媛で起きたあの化け物騒動の事もあるし……変なウイルスでも蔓延してたりしねェよな……。」

 

「大火の怪異事件」の発端である"ベガ・バーテックス"は多数の人間に目撃されている。その事実をひた隠しになんて出来ない…新生大赦は邪神教団の作り出した「生物兵器」だと説明しているが…当然、"バーテックス"の存在を知らない彼らにとっては納得がいかない説明となったであろう。まるで、漫画の世界に出てくるような化け物だ。それが、「生物兵器」で罷り通るほど一般人は間抜けじゃない。連日の報道でもその事で持ちきりだし、新生大赦に対する追及はとてつもないものだろう。そして、邪神教団の脅威も露見したのだ。人々は混乱に陥れられている。愛媛の次はこっちなんじゃないかと…。

 

亜耶(…新生大赦の偉い方達は愛媛の援助でお忙しい……宗主様、凄く大変かもしれない…何か、私でもお手伝い出来たらな……。)

 

そんな事を話していると、流星の居る病院へと辿り着いた。そして、彼のいる病室に案内される。

 

流星「あ…国土さん、それに峻輝まで…来てくれたのか。」

 

峻輝「あったり前ェだろ?。お前が検査入院だと知って心配したんだぜ全く…んで、何が原因なんだよ?。」

 

流星「ああ…検診の結果、疲労による免疫力の低下が見受けられるから少しの間、病院で検査を受けろって言われてな。ついでに、栄養失調も疑われた。」

 

峻輝「なんだ、そんなことか。ったく、最近筋トレにハマりすぎて生活を疎かにしてんじゃねェのか?。」

 

流星「はは、かもな?。お前こそ、部活は良いのか?。ほら、もうすぐ最後の大会だろ?。」

 

峻輝「そっちはバッチリさ。けどこの間、愛媛で起こった"事件"があんだろ?。愛媛の中学がそれどころじゃねェって言うんで少し延期になっちまった。」

 

流星「あ………。」

 

愛媛の事件…流星はあの時のことを思い出す。

「水瓶座」の狂気的な実験により全てを奪われた人達の事と、日常の崩壊…あんな化け物を平気に街中に解き放てる奴らは最早、隠すつもりがないのだろう…自分たちの事は新生大赦の根回しで露見していないがあの場にいた当事者として、峻輝の言ったことは心に刺さるものがあった。

 

峻輝「だから、今度合同練習……ん、どした?。まるで不味いものを食ったみてェな顔をしやがって。」

 

流星「いや…何でもない。そっか、愛媛の人達にも頑張って欲しいな?。」

 

峻輝「お前な…普通そこは親友を応援するところだろって言いてェが…確かにな。"こんなこと"で中学最後の大会を終えて欲しくねェからな。」

 

流星("こんなこと"…そうだ…"こんなこと"で人の未来が潰されていいはずなんてないんだ。)

 

自然と拳に力が入る流星。亜耶はその様子を見ていた。

そしてしばらく談笑した後、峻輝は帰って行った。自主練の時間だとそう言って。

 

流星「…あいつ、すごい努力家だからな。頑張って欲しいな…本当に。」

 

亜耶「フフ、お二人のお話はとても楽しそうでしたね?。」

 

流星「え…あ、ごめん。国土さんも来てくれたって言うのにほったらかしにしてしまって。」

 

亜耶「いえ、誰かが楽しいなら私も楽しいですし構いませんよ?。人のお話を聞くのも好きなので。」

 

流星「そっか…それなら良かったよ…その後、どうなったんだ?。新生大赦に報告されたんだろ?「俺の事」。」

 

本題を切り出す流星。正直、少し心配であった。あんな人智を超えた力を発揮してしまったのだ…当然、新生大赦にだって知れ渡る事だし何より、この"検査入院"の事もある。自分の身に何が起きてこれからどうなるのか…知りたくもなってくる。

 

亜耶「紫藤君のあの力につきましては、弥勒先輩と久遠さんが本殿に赴いて宗主様を問いただしました。そして、その防人システムの事も……。」

 

数日前、園子から返ってきた"返答"について説明する亜耶。流星も何となく、自分のことについてはわかってはいたのだろう。それよりも一番驚いたのはこの"防人システム"…いや、"擬似勇者システム"の事だった。

 

"人"を強制的に"勇者"にするためのシステム…芽吹もまた、適正のあった人間だ。きっと、勇者に"選ばれなかった"事に起因しているのだろう……"勇者"が居ない今の世界で恐らくだが戦闘能力が一番高いのは芽吹だ。かつて、三好夏凛と肩を並べる程の強さを持ち、実際、過去に一度彼女を打ち負かしている。その実力と"勇者"になる事に執着していた当時の彼女の事を知っている旧体制派がこのシステムを秘密裏に作り出し、そして「楠芽吹専用の新型防人システム」という名目で彼女に渡そうとしたのだろう。それを偶然にも流星が拾い上げ、"過去の出来事"から勇者の適性を得ていた彼に反応を示した…つまり、このコンセプト通りならば流星はこのシステムにより"勇者にされた"ということになる。しかし、"擬似"と呼ばれていることからきっとまだ完全にそうはなっていないのだろう…園子の言う通り、"隠された機能"がある可能性だって考えられる…だからこそ、亜耶は"個人の思い"を告げることにした。

 

亜耶「……紫藤君。私個人としてはそれをすぐに手放して欲しいと考えています。宗主様の言った通り、その「勇者システム」は旧体制派の人達が"人"を否定するために作ったものです。本来、"勇者"に選ばれるのは神樹様の御意志と同意の元で…となります。そして、神樹様の御意志を聞き入れた人たちが「当たり」の人達にその力を行使する為に"システム"として譲渡し、"お役目"に就いて頂く…それが本来の"しきたり"なんです。でもそれは…"人の悪意"によって作られたも同然の代物です。それを纏うとなればきっと、紫藤君の身に降りかかるものは……。」

 

流星「それでも、俺はこれを使い続ける。」

 

亜耶「でも……!!。」

 

流星「自分で決めたから。ちゃんと心に従って決めたんだ。この力があれば、愛媛のような惨劇を防ぐことだって出来るかもしれない。君の事も…助けられるかもしれない。でも失えばきっと、守れるものも守れなくなる…今の俺にはコイツが必要だ。それに、これが"人の悪意"によって作られたものなら、その"悪意"を否定したい。曲がりなりにもこの力が"勇者"の名前を継ぐものなら俺は…"される"のではなく"なる"為に現実を受け入れたいから。」

 

相変わらずの意思の強さでそう語る流星。現実志向だからこそ、目の前の現実から逃げたくない…事実を受け入れてその"理不尽"を否定するんだ。そんな意思を感じさせて。そして…それを受けた亜耶もまた、"決意する"。

 

亜耶「…わかりました…なら、私も決めます。私は"巫女"です。初代勇者様の時代から"巫女"は"勇者"に寄り添っていくものでした。貴方が"勇者になる"為の道を突き進むのなら、私も一緒に突き進みます。貴方と一緒に………。」

 

その時、亜耶の頭の中に"何かの声"が響いた。それはとても鮮明で、そして瞳が虚になって突然、力無くその場に座り込んでしまった。

 

流星「こ…国土さん…!?。」

 

呼びかけても返事が無い…それどころか、まるで魂がその場に無いかのように、抜け殻とも感じさせるくらいにまで無気力だった。

 

流星「ッ…ナースコールを……!!。」

 

亜耶「………した…。」

 

亜耶はか細い声で何かを伝え出す。

 

流星「……えっ!?。」

 

亜耶「……"神託"が…降りました……。」

 

流星「神託!?何を言って……ッ…まさか……ッ!!?。」

 

亜耶「……造られし"生命体"と…数人の信者……1ヶ月後……に……讃州市で………。」

 

それだけを言うと、まるで電池が切れたかのように亜耶は流星の腕の中で気を失った。

 

流星(今の言葉……1ヶ月後に讃州市で何かが起きると言う事なのか……まさか…愛媛のような……!?。)

 

彼女が告げた"言葉"。

流星は亜耶を抱き止めながら考え込む。

 

そして、その"神託"は…………流星にとっても受け入れ難い現実のものとなる……ーーーー。

 

…………………………………end。




降りた神の声を聞いた少女が告げたのは、「1ヶ月後」に起こるとされる何らかの事態だった。

少女に"神託"が降りたことで、古き体制の人間達が表立って動き出す。

その時、少年は………。

次回
第16話 助けると決めたから。
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