紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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"巫女"の少女に神の声…"神託"が降りた。

2年前まではなんて事のないものだった…しかし、神が消えてからの現在では異例中の異例…即ち、"特異"として認識されるもの。

新時代を受け入れられない者は再び、神に縋る。そしてそれは、神の声を聞いた少女をその手中に収めようとせんがために…。


第16話 助けると決めたから。

…数時間後、俺は国土さんに起きた事を久遠さんに連絡を入れた。

電話越しに慌てていたのがわかる…そして、何故か久遠さんは「俺がそこに向かうまでは外に警戒しろ」と強く強調して来た。それと、院内の者にも他言無用だと。

 

俺は眠る彼女を自分のベッドに寝かせ、電気を消してカーテン越しに外の様子を伺う。面会時間はとうに過ぎている…彼女がまだここにいることを悟られない為に俺は何とか隠し切るつもりだ。久遠さんが言っていた事が何なのかは皆目見当も付かないが、分かることは国土さんが受けたその"神託"とやらが、周囲に露見すると不味いと言うことだ。

 

俺は彼女を助けたいと決めている…その特異な力のせいで邪神教団からその身を狙われる彼女を。俺の事は最早どうでもいい、なんとでもして見せると決めているから。抵抗すれば何の問題も無い…しかし、彼女はその術が無い上に俺以上の厄介事に巻き込まれている。

 

だが…現実はそんなに甘くない……---。

 

流星「…なんだ、アイツら…?。」

 

窓の外には車が数台。そこから降りてきたのは新生大赦の神官たちだった。だが、様子がおかしい…人数があまりにも多すぎる。嫌な予感がした流星はすぐに玲司に連絡を入れた。

 

流星「久遠さん、病院の外に新生大赦の神官達が…!。すごい人数で…!!。」

 

玲司『クソ、速攻嗅ぎ付けて来やがったか!!。ソイツらは"旧体制派"だ!!。』

 

流星「旧体制派?。一体、何なんです!?。」

 

玲司『現宗主様の体制が気に入らねェ"時代に取り残された"奴らだ!!。ソイツらの狙いは巫女ちゃんだ!!。いいか、坊主!。今から言うことを良く聞け!!。』

 

………………………。

 

流星「ごめん、国土さん…できるだけ遠くに避難させるから。」

 

流星は亜耶を背中におぶり、病院の非常階段を下りていく。玲司から言われた通りに。

 

………………………。

 

玲司『まずは、病院の非常階段を使って裏手口に回れ。流石に、奴らも非常識な手口を使ってはこねェはずだ。言っても、悪人じゃねェからな。そして、お前のスマホのGPSをオンにしておけ、そこからお前らの現在地を追って、俺がそこに向かう。』

 

流星「変身して離れたらダメなんですか?。」

 

玲司『ああ、お前の"疑似勇者システム"には恐らくだが、奴らにデータが自動的に送信される機能が仕込まれてるかもしれねェ。そこから考えられるのはお前の位置情報が筒抜けの可能性だってある。端末の電源も切っておけ、そこからはお前の根性一本勝負だ。眠れるお姫様をしっかりと守ってやんな?。漢、見せてみろ!』

 

………………………。

 

流星「…簡単に言ってくれるけど…!。」

 

足音を立てずにゆっくりと階段を降りる流星。きっと、すぐに追いつかれるだろう。でも、諦めることは決して無い。

 

流星(そうだ…俺は彼女を助けると決めてるんだ。何があっても、俺がなんとかする…そう、約束したから…。)

 

その時、バタンと非常階段口が開く音が響く。場所からして6階だ。今、自分は2階にいる…急がなければ。

 

そうして、流星はなんとか外に出る。多分、もう気付かれてるだろう…流星は冷静にあたりを見渡すと門の中に続く道を見つけてはゆっくりと開けてその中を通る。きっとここはこの病院の関係者だけが使える道…ここを抜ければ、閑静な住宅街に出ることが出来る。普段なら不法侵入事だ。だが、四の五の言ってられない。バタバタと慌ただしい音が響く…数名が外に出たようだ。時刻は20:00を回っていた。関係者通路を使っても見つからなかったのはきっと、その旧体制派の人間が院内の関係者に伝えていたのだろう…ここは、新生大赦が管理する病院…何かしらの理由をつけて夜勤勤務の医者を別室に移動させたのだろう。それは、自分にとっても不幸中の幸いだった。こうして、彼らの虚を突いて住宅街にまで出れたのだから。

あとは、久遠に拾ってもらうだけ…そう思いながらしばらく歩いていると、亜耶が目を覚ました。

 

亜耶「……あれ…紫藤…君…?。どうしてお外に……?。」

 

まだ、頭が回っていないのだろう…彼女は細目でそう訴えかける。

 

流星「ごめん、起こしちゃったな…落ち着いて聞いてくれ。君は今、新生大赦の旧体制派の人間にその身柄を狙われているんだ。さっき、そこそこの数の神官たちが病院にやってきた…久遠さんの指示で今、できるだけ遠くに離れている最中なんだ。」

 

亜耶「……そう…だったんですか…それって……私に降りた"神託"のせい…ですよね…。」

 

流星「気付いていたのか…?。」

 

亜耶「……はい。朧気ながら、少しは……その…ごめんなさい。私…またご迷惑を…。」

 

流星「謝らないでくれ。君は何も悪くない。」

 

流星は彼女に謝罪を遮るように、力強い声でそう言った。

 

流星「悪いのはその力を己の為に利用しようとする奴らだ。"特別"な力を持っているというだけで"普通"の人は目の色を変える…俺はそれをずっと感じてきたから、君が悪くないと言い張れる。」

 

歩きながら、流星は続ける。しかし、それに対して亜耶の声は震えていた。

 

亜耶「でも!また紫藤君を巻き込んじゃった!その力を手にした時だってそう…私を助けるために"普通"を手放して、嫌だった"特別"を選ぶことになって!!。今だって私の為だけに危険なことに手を出させちゃった…決めたのに…"巫女"として、貴方を支えたいと…それなのに逆に私ばっかりが助けられて…!!。」

 

涙声になる彼女に、流星はその瞳に流れる涙を感じていた。でも、否定することなくそれを聞き続ける。

 

亜耶「ごめんなさい…ごめんなさい…。」

 

一時の沈黙…自分の背中に伝わる仄かな涙の温かみを感じながら。

ひたすら謝る彼女に、流星は場を変えようと別の話を切り出す。

 

流星「…そういえば国土さん、動物は何が好き?。」

 

亜耶「……え……?。」

 

突然のことで、目を丸くする亜耶。こんな時に聞くことじゃないなと、流星は思いながらも"こんな時"だからこそ、話題を切り出した。

 

亜耶「………猫さん………。」

 

流星「猫か…俺も猫が好きなんだけどどうしてか、動物に懐かれないんだよな。この間なんか、近所の大人しい犬に追いかけられたんだよ。わかるんだろうな、俺って捻くれてるからさ?。」

 

はは…と笑いながらも街灯に照らされながらもゆっくりと歩を進める。

 

流星「そういえば、国土さんから貰ったあのお守りも猫だったな。」

 

自分のスマホにつけているお守りを見せる。亜耶はそれを見て、大事に持っててくれたんだなと少し嬉しくなって。

 

流星「これのおかげで俺は勇気をもらった。人から何かをもらったのが初めてでさ…これをくれた人の為に何か恩返しができないかって、少しは考えた。」

 

亜耶「…恩返しだなんて…。」

 

流星「…人は誰かに迷惑をかけて生きる生き物だ。人は不完全で…邪神教団の奴らが言うように、人は完成された生命体なんかにはなれない。なる必要もない。だからこそ、支えあって生きていかなきゃいけないんだ。最初は、現実が受け入れられなくて巻き込まれたって思ってたさ。でも、心の底から"君を助けたい"と思ったからこそ、今がある。これは紛れもなく俺の意思だ。そしてそれはずっと…変わらない。」

 

亜耶「…………。」

 

流星「俺は楠先輩達のように、立派な人じゃない。まだまだ未熟だ…これから先、どんなことが待ち受けているかだなんて分からないし、怖くもある。だけど、歩くことは止めたくないんだ。それがどんなに辛くても…助けると決めたから。」

 

そんなことを語っていた直後、暗がりから複数の神官達が現れた。

先回りされていた…流星は思わず焦りを募らせる。すると、その神官たちは自分の目の前で突然…その場に正座した。

 

神官(旧体制派)「紫藤流星様。お願いに上がりました、もうご理解なされていると思われますが、国土亜耶様をこちらに引き渡していただきたい所存でございます。どうか、この通り。」

 

人目を憚らず、頭(こうべ)を垂れる神官たち。その異様な光景に、流星は言葉が何も出てこない。

…なぜ、ここまで"必死"なんだ…そんな思考が過っていく。

 

流星「…どうして…どうして彼女に固執するんですか!?。"特別"であることがそこまで重要なんですかっ!?。」

 

神官(旧体制派)「左様でございます。我々は"神の眷属"…その身と魂は神樹様と共にあります。2年前の御逝去から道が閉ざされ、我々は絶望の淵に落とされました。しかし、此度は再び神の声をお聞きになられた国土亜耶様に………。」

 

流星「ふざけるなっ!!。」

 

怒声を挙げる流星。冷静に話し合いで何とかなるかもと思っていたが、想定よりも歪んだ返答に思わず腹を立てた。

 

流星「結局は自分たちが安心したいがために彼女を利用しようとしているだけじゃないか!!。あんた達だって本当はわかっているんだろ!?。こんなことしたって何の意味も無いことぐらい!!。」

 

亜耶を守るように、流星は神官たちに詰め寄る。

 

流星「いい加減に現実を受け入れろっ!。神樹様はもう居ないんだよっ!。」

 

神官(旧体制派)「居ないならまた呼べばいい…"神託"を受けたということはこの世界にまだ"神"は存在します。我々は神と共に有るべきなのです。"人"という器を捨て、神の眷属として安寧を得る…それこそが、救いの道…。」

 

流星「未来は自分の手で探さなきゃいけないんじゃないのか!?。あんた達は自分たちの"可能性"を閉ざしているんだよ!。みんな、不安の中で必死に生きているんだ!新しい時代の生き方をみんなで探すんだよ!。それを俺たち(人類)が示さなきゃいけないんじゃないのかっ!?この世界を支えてくれた神樹様の為にも!。」

 

流星は一人の神官を掴み、訴えかける。

 

流星「それを一人の"特別"な女の子に寄って集って救いを乞うなんて大人のやることかよっ!。成すべきことが他にもあるじゃないか…もう…時代を"振り返る"なっ!。」

 

神官(旧体制派)「…宗主様のいう"人の世"が西暦の終焉を招いたことがお分かりですか?。人は同じ過ちを犯します。だからこそ、神が管理した…我々は"人"という枠組みから脱さなければいけません。世界を終わらせないために…!。」

 

流星「…宗主様のいう"人の世"が正しいかどうかなんてわからない…それでも、人の自由を奪ってまで成り立つ安寧など俺は…いらない!!。」

 

亜耶を抱えて強引に切り抜ける流星。亜耶は握る手が自然と強くなる。

 

流星「追いつかれるかもしれない…でも信じてくれ!。俺は絶対に君を助けて見せるから!!。」

 

亜耶「……はい……。」

 

走りながら、スマホを見る流星。久遠からの連絡は…無い。

 

流星「クソ、まだなのかよ!!。どこかで足止めでも食らっているのか…!?。」

 

そう考えながら走っていると、前方から多数の神官たちが車から降りてくる。

 

流星「しまった…囲まれた……!?。」

 

万事休す……そう思ったその時。

 

「ここよっ!。早くっ!。」

 

女性の声が聞こえたと同時に、流星はその腕を引かれて竹林の中に引きずり込まれた。

 

流星「え…ええ…!?」

 

「ついてきなさい!。ここ、抜け道なのよ!!神官たちのあの格好じゃなかなか入り辛いから少しは有利になるわ!!。」

 

前を走る女性についていく流星。一体、誰なのかと感じつつもそれどころではない。今は、逃げ切らねば。

そう思いながらも、走り辛い竹林を抜けていく。

そして、抜けた先は別の住宅街。それでもついてこいと女性は促す。それからしばらく走り続けると辿り着いた先は、1棟のマンションだった。

 

「はぁ…はぁ…ここまで来れば大丈夫ね…さ、入って。ここ、あたしん家だから。」

 

流星「え…はい…その、お邪魔します。」

 

亜耶(この人…まさか…。)

 

そして、その女性の家に入る。すると、同居人が居るのか別の少女の声が響いて。

 

「おかえり、お姉ちゃん。アルバイトお疲れ様…………。」

 

扉が開いたその先にいたのは……。

 

亜耶「い…樹ちゃん!!?。」

 

樹「え…亜耶ちゃんに…し…紫藤君っ!?。」

 

同じクラスメートで"勇者部"部長の犬吠埼 樹。そして……。

 

流星「お姉ちゃんってことは……。」

 

「ああ…樹のクラスメートだったかぁ…でも、訳ありみたいね?神官に追われるだなんて…あたしは「犬吠埼 風」。讃州高校の2年よ。そして…"勇者部"の元部長でもあるっ!!。」

 

2人を助けたのは長い髪をポニーテールにまとめ、赤いフレームの眼鏡をかけた女性。

 

犬吠埼 風。その本人だった……---。

 

………………………………end。




犬吠埼 風。

"勇者部"の初代部長。そしてそれは……

"勇者"達のリーダーだった。

次回
第17話 "勇者部"
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