慈善活動、イベントの参加、それに加えて部活の助っ人。
しかし、その実態は……かつて世界を守った"勇者"の少女達だった。
〜犬吠埼家〜
風「ほら、これ飲んで少し落ち着きなさい?。」
そう言って、出して来たのはココア。流星はその言葉に甘えて一口、飲む。
樹「びっくりしたよ〜。まさか、お姉ちゃんが連れて来た人が亜耶ちゃんと紫藤君だなんて…それに、こんな時間にどうしたの?。」
風「…あれ、新生大赦の神官達でしょ?。何かあったのね…話せるなら話して欲しい。樹のクラスメートとなると、ほっとけないから。」
流星は亜耶を見る。亜耶はコクリと頷いた。
亜耶「全部話しても大丈夫です。この人達にはちゃんと"通じます"から。」
"通じる"?。何のことかサッパリわからないが、本人が言うのなら問題無いのだろう…流星は深呼吸をした後、口を開く。
流星「…彼女は…"特別"なんです…。」
風「…"特別"…となると、その子…新生大赦にとって重要だと言うことなのね?。」
…理解が早い。それに、疑わない…真っ直ぐな目で俺の話を聞いてくれる。どう言うことだ……でも、国土さんが大丈夫と言うのならそのまま話してみよう。
流星「…はい。彼女は"巫女"です。そして、もうこの世界に神樹様は居ないと言うのに"神託"が降りてくる唯一の巫女なんです。あいつらは国土さんのその力に救いを求めてその身を引き渡せと言ってきたんです。」
…流石に突拍子過ぎたか……その反応を恐る恐る見るも、風は真剣な顔で考え込んでいた。
……"普通"じゃないこの会話をどうして、真剣に聞くことが出来る…この人は一体、何者なんだ?。あの"勇者部"だった人といえど、こんな現実離れした会話なんて聞いたところでどうにでもならないと思うが…と、流星は頭の中でそう思う。
風「…おかしいわね…新生大赦にそんな過激な事をしてくる奴らなんてもう居ないと思ってたんだけど…乃木のやつ、相当苦労してるようね…流石に全部は掌握しきれていないのか……。」
流星「えっと……先輩は驚かないんですか?。どう考えたって普通の会話じゃない…からかわれてると思われても仕方ないと思ってるんですが…。」
風「そうだったとしてもそこまで真剣な顔にはならないでしょ?。それに、あの時のあんたは何があってもこの子を守るって顔をしてた。その顔に嘘はない、だからあたしは手を差し伸べたのよ。っても、そうでなくてもあんな連中に集られてたら助けたくもなるけどね?。」
樹「因みに私も疑わないよ?。紫藤君、ここ最近変わって来たなって思ってたから。」
流星「俺が…変わった…?。」
樹「うん。いつもボンヤリとしてて全部が楽しくなさそうな顔をしてたから…でも今は、何かやるべき事を見つけたような顔をしてる。それも、とても大きな事を…。」
そう言って、タロットを並べる樹は一枚のカードを引く。
樹「『力』の正位置。…特に、諦めない…そんな感じかな?。」
流星「…諦めない…か……そうかもしれない。俺はいつもどこか諦めていた。でも、今は見つけたんだ…成すべきと思った事を。」
風「それが、この子を助けること…なのね…?。くぅ〜…泣かせるわねぇ…。」
流星「そんな…でも俺はまだ何も出来ていない。目の前の問題も何一つ解決出来ちゃいないんだ。"特別"であるからなんだ…"特別"も"普通"と同じなんだ…少し、違うだけで本質は変わらない…それを利用しようとする奴らが俺は許せない。そう…思うんです……。」
マグカップを握る手が強くなる流星。"特別"である人間がどうしていつも"理不尽"に見舞われるのか…そして、それによって壊されていかなければならないのか……あの愛媛の事件に関わってからそんな事を考えていた。
風「…だったら、今あんたが出来る最高の事をやり遂げればいい。その道を選んだのなら、あんたはこれからとんでもなく多くの壁に阻まれる事になるわ。今日の事だって、その一部にしか過ぎない…あんたが進むその道は、とても難しいものよ?。出来るの…?。」
まるで試すように問いかける風。だが、流星の答えは…決まっていた。
流星「「出来るか、出来ないか」じゃない…「やるか、やらないか」なんです…だったら俺は「やる」を選びます。その先にある答えなんて誰にも分からない、だからこそ足掻き続けるんです…彼女が誰にも利用されないようにする為に。」
風「…そっか。ふふ、亜耶ちゃん…だっけ?愛されてるわね、あなた。」
亜耶「ふぇええッ!?。そ…そそそんなこと…!。」
樹「お姉ちゃん、からかわないの。でも、それを言うんだったら紫藤君も…"特別"なんでしょ…?。」
流星は一瞬だけ驚く。でも、亜耶の事情を理解してくれたんだ。この人達を"誤魔化す"事なんて無い。不思議とそう思って。
流星「……ああ。間違いなく"普通"じゃない。」
そう言って、"擬似勇者システム"が入った端末を机の上に置く。
それを見た風と樹は驚いた顔をした。
風「…あんた、これってまさか……!。」
流星「え…知ってるんですか…?。」
風と樹は目を見合わせて、その端末に目を向ける。そして、思ったことは同じだった…"また"これがあるのか…っと。
風「…樹、この際だからあたし達の"本当の事"を彼に話しましょう。彼の選んだ道はかつての私達と同じ道……だったら、少しは力になれるかもしれない。それにあたし達…いや、"友奈"がした選択が"彼"という可能性だってある。」
樹「…わかったよ。紫藤君、絶対に誰にも言わないでね?。」
流星「え…な…何…を…?。」
ただ事ではない雰囲気のこの姉妹を見て、流星は思わず慌ててしまう。何を言うつもりなのか……そう思っていた。
風「…讃州中学の"勇者部"は2年前に戦いを終わらせた"勇者"そのもの…そう…あたし達は"勇者"だったのよ。」
"勇者"。あの"勇者"がこの人達?。そして、犬吠埼先輩が告げた「勇者部が"勇者"そのもの」…つまり、讃州中学のあの"勇者部"全員が2年前のこの世界の命運をかけた戦いに身を投じた人達だった…楠先輩達と違う場所で直接"天の神"と対峙したあの……!!。
流星「あなた達が……"勇者"…!!。」
流星は亜耶の言っていたことがようやく理解できた。"通じる"とはまさにこの事だと。
風「…だった…だけど。あの戦いを終えた後、神樹様が消えたと同時に"勇者"の力も無くなったのよ。だから、今のあたし達は"普通"に戻った人間。」
樹「ごめんね、黙ってて。でもこの事を言ったところで誰も分からないと思うから…"勇者"を知る人なんて殆ど居ないにも等しいんだ。」
…誰にも知られない存在…か…でも、彼女達が居たからこそこの世界は…そして、"今"があるんだと。新しい時代を切り開いた張本人達が目の前にいる…この事に、ただ驚くばかりだ。
流星「…そうだった…のか。」
風「…男の"勇者"…聞いたこともないわ。」
流星「これには訳がありまして…俺の"体質"がそうさせたというか…でも、今はこの力があるお陰でやるべきことを見極められている…それに俺はまだ"勇者"になり切れていない半端者だけど、あなた達が繋いだバトンは今度は俺達が受け取りましたよ。」
流星の目を見て、風は2年前の"あの時"を思い出す…ーーーー。
……………………………。
空一面に広がる巨大な"存在"…「天の神」。
人智を遥かに凌駕するこの存在こそ、300年前の元凶…この世界の永きに渡る"勇者"達の血と涙の物語を始めさせた張本人だ。
そして今、この存在はこの世界を滅ぼそうと直接手を出してきた。
"神"。ちっぽけな人類じゃまるで歯が立たないほどにまで強大で偉大な存在。
それに対峙するのは、ただ一人の少女…300年もの月日を経て"お役目"に徹した歴代の勇者達…英霊となったそれらはこの少女に力を貸す。
"人"として、生きたいんだ。
そう、決意を込めて降りしきる業火をその拳一つで突き進む。
そして、託された。全ての"人"の思いを背負って。
…………打ち砕いた。全知全能の"神"に、"人"の意地をぶつけた。そして世界は、この"選択"を受けて再び人類の手に戻った。
自分たちはまだまだ子供だ。この選択が正しいかだなんて分からない。もしかすると、間違った選択なのかもしれない。でも、子供なりに"意地"を通した。ただ、生きたかったから……そして、"勇者部"一同は大切な人であるこの少女の運命を取り戻した。「死」という運命から。
これは……自分たちの未来のための"選択"だった……ーーーー。
……………………………。
風(……あの時の選択が、"彼"だというのならあたし達は間違っちゃいなかった。友奈…ただ、あんたを取り戻したかっただけなのに、その結果、彼という人間が現れた…これほど、嬉しいものはないわね…あたし達の頑張りが報われた気がする。でも、きっと彼に降りかかるものはあたし達と同じもの…それよりも辛いかもしれない。それでも、この目が出来るなら……。)
ーきっと、『心』は死なないー
風「……もう、あたし達は勇者じゃないけど、困ったことがあれば言いなさい。それが、次代を託したあたし達の"お役目"だから。」
差し伸ばされた手、流星は取りそうになる。でも、その手を取ることは…無かった。そう、"答え"はもう決まっていたから。
流星「とても頼もしいし嬉しいです。でも、止めときます。」
樹「ど…どうして…?。」
流星「君たちは2年前の戦いで"日常"を取り戻したばかりだ。それなのに、今の事情に巻き込むわけにはいかない。これは、今を戦う俺達の"お役目"だ。」
風「…そう…なら、任せたわね?あたし達の繋いだバトン…しっかりと次代に繋いで頂戴。」
流星「はい…!。」
その時、流星のスマホが鳴り響く。相手は久遠だ。
流星「やっと繋がった!。久遠さん、どこにいるんですかっ!?。はぁ!?エンスト!?だから買い替えてくださいって言ったのにっ!!。こっちはもう大変だったんですよ!?。」
その会話を聞いて亜耶はクスクスと笑う。
樹「楽しそうだね、亜耶ちゃん?。」
亜耶「…そうかな?でも、安心したんだ…私を助ける…この言葉に嘘が無いことに。」
風「そっか。話してて思ったわ、自分の感情に正直なのね、彼。」
亜耶「はい。周りに流されずに自己を貫ける…それは"強さ"だって、芽吹先輩も仰ってましたし…それに、どんなに辛い道であっても決して諦めない…初めて戦った時からずっとそうなんです。」
流星「はい、今は犬吠埼先輩の家にいます。国土さんも無事です。はい、わかりました。では、待ってます。」
電話を切る流星。一息つくと、スマホをポケットに入れて。
風「お迎えが来るのね?。なら、ここでゆっくりしてなさい。あたしはちょっと、知り合いに掛けるから。」
そう言って、席を外した風。電話を掛けた先は…園子だった。そして、流星たちの身に起きたことを告げる。
………………………。
園子『そっか…分かった。こっちでも彼らの動向について審議に掛けるよ。ありがとね、フーミン先輩。』
風「ううん、構わないわよ全然。それよりもあんた、思ったよりも苦労してそうね?ちゃんと休めてるの?。」
園子『そこは抜かりなく!っと言いたいけど、実は激務なんよね〜。例の愛媛の事件のこともあるし、それに旧体制派の事も…ま、何となく予測はついてたけど。邪神教団の件は防人達が受け持ってくれてるからそこは助かるんよね〜。」
風「そう…あたし達も何か出来ることがあれば良かったんだけどね…今になって少しだけ後悔してるかも。"勇者"の力が無くなった事に。」
園子『歯痒いよね〜。でも、私達は次代にバトンを繋ぐ事を決めた。みんなは学生生活を、私は大赦をまとめ上げることを。それぞれ、成すべきと思った事なんよ。だから、ここは先達として次代の子達を見守ってあげなきゃ。』
風「ええ、そうね?。それに、あたし自身は大丈夫だって思ってるの。そう…彼に心の強さを見せつけられたから。」
園子『面白いよね〜紫藤流星君って。自分がちっぽけだって分かってても歩むことをやめたりしない…何も無いからこそ、すべき事に全力になれる。そして、感情に素直。人を救う事が当たり前だと思ってた私たちとは正反対の信念…課せられた"お役目"に惑わされないその心意気はなんだか、ゆーゆに似てる気がする。』
風「そうね…友奈よりかは危なっかしいけど、あの子より感情はストレート。一番、"人"らしいわ。だからこそ、託せる。きっと彼は…あたし達よりも“人らしい勇者"になれるわ。」
樹と亜耶と談笑する流星に目を向け、風はその行く末を見守る事を決めたのであった……ーーー。
………………………end。
"勇者"だった"勇者部"の一員と邂逅した少年。
そして、託された。"人"である事をやめなかったかつての"勇者"達に。
数日後、少年は巫女の少女と共に惨劇の起きた愛媛へと向かう。
そこには先客がいた…そう、退院した楠芽吹が。
次回
第18話 "理不尽"の果てに。