その傷跡は未だ癒えず、2年前までの事情を知らない者達は夢物語だと思っていた"怪物"を前に、この世界の危機を感じていた。
そして、その当事者としてその場にいた少年は…花束を持って再びこの地にやってくる……ーーー。
旧体制派は園子の裁量により、その行動を制限された。そのお陰で、今だけは亜耶に一定の安寧が訪れる。
しかし、問題はそこではない…今回の旧体制派の行動によって邪神教団に亜耶が"神託"を受けたという事実が露見してしまったのだ。内容までは把握されていないがどのみち、教団はその事実に勘付いていたよう…今はまだ、目立った行動を取っていない。例の"巫女狩り"もここ最近は起きてはいないと言う。
彼女が受けた"神託"の内容から、これは嵐の前の静けさなのかもしれない…そう思って、警戒はすべきだろう。
"1か月後"。
その日に、讃州市で大きな事件が起こる…それまでに何としても尻尾を掴んで阻止したいところだが、その辺りは新生大赦に任せるしかない…無知の自分たちが勝手に行動を起こせば、悪循環になる可能性だってある。
だけど、あの惨状を目の当たりにしてしまったんだ…同じ惨劇を起こさないために、流星はもう一度愛媛の地へと足を運ぶ。
今回は、亜耶と玲司も一緒だ。他の人たちはその"神託"から讃州市の防衛に徹している。
道中の花屋で買った花束を手に、流星はあの激闘の地へと辿り着いた。
そこに、"先客"が居た。
流星「…楠先輩…?。」
芽吹「あ……紫藤に亜耶ちゃん。久遠さんまで。」
芽吹の手には、同じく花束が。目的は同じだろう、邪神教団の"儀式"によって犠牲となった者たちに手向けるためだ。そして何より、自分は怪我が原因であの戦闘に参加できていない。
その悔しさも感じとれる。今の芽吹は初めて会った時の使命感に満ちたあの表情ではなく、どこか弱弱しい…そんな表情をしていた。
玲司「お前、退院してまだ間もないだろうが。動いて大丈夫なのか?。」
芽吹「はい。ずっと寝てもいられませんから…早く復帰して、あいつらの凶行を止めないと。」
玲司「そりゃごもっともだが、死んだら元も子もねェ。無理は……。」
芽吹「死を恐れては勝てるものも勝てません!。」
つい、声をあげてしまう芽吹。すぐに我に返ったのか、下を俯いて……。
芽吹「…ごめんなさい。」
玲司「いいよ別に。お前に食いつかれるのは慣れてるからな。」
芽吹「…久遠さん…私が出したあの"申請"は…弥勒さんと同じような"改良型"の承認はどうなりましたか…?。」
それを聞いた玲司は、少し一息付いて。
玲司「それを知るのはまず、手向けてからにしねェか?。ここには、犠牲にならなくて良かった奴らが眠ってる。その魂がちゃんと行くべきところに行くように祈りに来たんだ。お前もそうだろ?。」
芽吹「………はい。」
そうして、即席で作られた慰霊碑の前にやってくる4人。多数の花束の中に、自分たちが持ってきたものを添える。そして、祈る。行くべきところにちゃんと行けるように。
亜耶「ここに眠る魂たちが、ちゃんと天に召されますように。神樹様、どうかお願いします。天の国からお導きくださいませ。」
その優しさからわかるように、本当にその気持ちで祈っているのだろう。彼女の祈りには"哀しみ"さえも感じ取れる。そしてお参りが終わり、4人は玲司の車で街外れの道へと足を運んだ。
芽吹「紫藤、ここでの戦いはあなたが勝機を見出したと聞いているわ。ありがとう、あなたがいなければここで現れた"人造バーテックス"がこっちにまで来ていたかもしれない。」
流星「いえ、俺一人じゃどうにもなりませんでした。あれは…みんなで手にした勝利です。でも…死んだ人はそれでも報われません。」
流星は空を見上げる。
流星「みんな、その先に予定があったんだ。何をしようか…どこに行こうか…何を食べようか…そんな当たり前のことが誰かの身勝手で全部壊されてしまう…あんな"理不尽”はありませんよ。」
玲司「まあな。だからこそ、早く決着をつけなきゃいけねェが現実はそんなに甘くねェ。巫女ちゃんの言う"神託"通りだと、今度は讃州市が滅茶苦茶になる…その対策として今のうちにやれることはやるしかねェ。」
流星「…"神託"の内容は覆すことは出来るんですか?。」
玲司「……いや、予言と違って、"神託"はこれから起こる事象を神様から告げられるものだ。それは絶対的なものであり、回避できない未来…つまり、"必ず起こりうる"事なんだ。だからこそ、それに備える対策を講じねェといけねェ。」
流星「…神樹様はもう居ない。なら、"どの神"が国土さんに"神託"を?。」
亜耶「……恐らくですが、この世界に散らばった神樹様の残滓かもしれません。」
亜耶は自分の胸に手を当て、そう告げた。
残滓…確か、この世界に散らばった"最後の恩恵"の事だ。その影響で人類は…いや、少女たちは"巫女"の可能性を持ったものへと進化している。
亜耶「本来、"神託"とは巫女の殆どがそのお声を聴くことが出来るものでした。精度に違いはあれど、その浮かんだイメージはみんな同じものなのです。」
流星「だったら、それを聞ける国土さんは……。」
亜耶「はい。宗主様が仰っていた通り、私が神に好かれているからでしょう。巫女にとって、これほど名誉な事はありません。神様の使いである巫女が神様に認められている…これは、大変名誉な事なんですよ?。本来なら、とても喜ぶべき事です。でも…浮かんだそのイメージは良いものではありませんでした。"神託"は…必ずしもいい事ばかりではありません。見てしまったからには、その未来が必ず訪れる…そして、現在においてその残滓のお声を聞くことが出来る私も"異例"なのでしょう。私は…神樹様を敬っていましたから。」
2人がそんな事を話している他所で、玲司はタバコを吹かしては芽吹の"先ほど"の問いに答えを出す。
夕海子と同じく防人システムの「改良」…その承認について。
玲司「楠。お前が申請したアレな……本殿からの返答は「ノー」だ。」
…それを聞いた芽吹は、目が震え出す。そして、湧き上がるのは……もう、なんとも思っていなかった"あの時"の気持ちだった。
芽吹「どうしてっ!?。」
いきなり上げたその怒声に、流星と亜耶も反応する。
玲司「…アレは、神樹様の遺した残滓から抽出したエネルギーを使っている。故に、かなり貴重なものとなる。お前、一度"勇者"の選抜に落ちているだろう?。本殿のお偉いさん達はその経緯からお前のシステムを「改良」するかどうかに疑問を抱いていた。もし、その「改良」が無意味なものとなれば貴重な資源が無駄になっちまう。それに加え、お前がそれを申請した理由が……。」
芽吹「あいつらを…倒すためよっ!!。」
玲司「そこなんだよ、申請が通らなかった決め手が。お前、"お役目"の意味を履き違えてねェか?。いいか、何も俺達は奴らを根絶やしにするために行動してるんじゃねェ。あの凶行を止めて、解散に追い込むのが最終目標だ。そこからは"人の法"によって等しく裁く…いわば、俺達は警察のようなものさ。でも、お前は…その力を以ってあいつらを倒すことしか考えてねェ。一体、どうしたって言うんだ?お前、そんな愚行を考えるような奴じゃねェだろ。」
芽吹「私は…私は…っ!!。」
玲司「正直、俺もこの返答に戸惑いがある。お前ほどの奴なら、本殿も首を縦に振るしかねェものだと思ってた。でも、現実はこうだ…本殿はお前の「精神性」に問題があると踏んでいる。まさかお前、"十二星座の使徒"と二度もかち合って、"自分の力が及ばない"事に固執してねェか?。」
芽吹「!!!。」
玲司「…図星…か。楠、それなら俺も本殿の判断に同意だ。お前、このままじゃ……"死ぬぞ"?。」
芽吹はその言葉に拳を震わせる。そして…今まで誰にも見せたことのない"涙"が頬を伝い、地面にポトポトと落ちる。
亜耶「芽吹先輩……!。」
玲司「…チャンスはまだある。今は心を落ち着かせて………。」
芽吹「どうして…どうしてなの…なんで…神様は私を認めてくれないの……なんでいつも…私から全てを閉ざすの……私がそんなに……"相応しく"ないと言うの……?。」
そう言って、どこかに走り去っていく芽吹。誰も見たことのないそんな彼女に、流星は思わず身体が動く。
玲司「坊主、楠を頼む。こう言う時、大人が行くと余計な事を言っちまうからな。」
流星「はいっ!!。」
玲司(…悔しいだろうな。自分専用の新型はあの坊主が…そして、唯一対抗出来るかもしれねェ「改良」も承認が降りねェ…加えては、過去の事もある。"勇者"に選ばれなかったあの悔しさを掘り起こす事になっちまうとは…でも、負けんじゃねェぞ楠。その度にお前は"壁"を乗り越えてきたんだろうが。あの"地獄"から32人全員を生還させた奴だ…こんな"理不尽"なんかに自分の誇りを奪われんなよ?。)
………………………………。
…芽吹は高台にある休憩所で座り込み、俯いていた。そこへ、息を切らしながら流星がやってくる。
流星「はぁ…はぁ…楠先輩…!!。」
芽吹「…紫藤…。」
全速力で走ってきたのだろう、ままならない呼吸で隣に座る。
流星「はぁ…はぁ…すみ…ませ……ん……流石に持久力まで…は………ふぅ……ふぅ………。」
数分、呼吸が乱れていたのがやがて収まり、流星は改めて声をかける。
流星「その…大丈夫…ですか…?。」
芽吹「………みっともない所を見せちゃったわね…どうしたのかしら、私……こんなことで落ち込むような人間じゃ無かったのにな……。」
流星「……先輩は、ずっと強い人だと思ってました。けど…そんな一面もあって、失礼ですけど……年相応の女の子なんだなって。」
芽吹「…幻滅したでしょ…?私は…劣等感の塊のようなものなの…"勇者"にも選ばれず、それに納得が行かなくて必死になって……あの時は表舞台で輝く"勇者"達に憧れてもいたわ…"お役目"をこなして、人に認められて…でも、実際はそんなことはなかった。一番苦しい思いと怖い思いをして、そして…誰よりも泣いていた。私は知らなかった…神様に認められ、必要とされた人達だと思っていたわ。」
流星「……あの…俺、"勇者"の人たちに会いました。そこで色々と話を聞かせてもらって……でも俺は思います。2年前の戦いに居た楠先輩達も"勇者"と何も変わらないって。」
芽吹「…え……。」
流星「"勇者"の人たちは"特別"でも無かった…あの人たちも"普通"だったんです。その中で足掻いて、"最善"を探して…楠先輩の言う通り、一番苦しい思いをしていたんです。でもそれは防人達も同じだった…"選ばれなかった"からこそ、与えられた目的のために必死になって……今の世界に必要なのは"神の勇者"じゃない…"人"という強さを持った新しい時代の"勇者"なんです。そしてそれは、誰でもなれる…心を強く持って、目の前の"理不尽"と向き合う強さを持った人たちが…"勇者"なんです。」
流星は目の前に広がる風景を見ながらそう語る。
流星「……どうしようもないくらい強い相手が現れて、そして力の差を見せつけられて…誰よりも努力をしてきた貴女の思いは分かります。でも…それが貴女の本当の強さじゃないと俺は思います。俺は偶然とはいえ、貴女に渡るはずだったこの力を"奪った"ようなものです。でも俺はまだまだ未熟で……そんな俺に"意味"を教えてくれた人が弱いはずなんてない。その"弱さ"も貴女の持つ長所で…それを認めて貴女は前を向いていける。それが貴女の本当の強さだと思います。」
…芽吹の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
"責任"。その思いから、自分は常に高みにいなければいけない…仲間達を死なせない為に、誰よりも強くならなくてはいけない。
それが、二度も見せつけられた強者の力とそれに対抗出来る力…"普通"から"特別"に至る力が自分の前に現れて、努力だけではどうにもならないと勝手にそう思ってしまっていた。だから、焦った…"力"を手にしようと、これまで積み重ねて来た自分の"強さ"を無意識に否定しまっていたのだ。
それに今、気付かされた…ついこの間まで、武器も手に取った事のなかったこの少年に。自分が目を掛けて、育てたこの少年に。
その時、2人の端末からけたたましい音が鳴り響く。
流星「……これ…緊急連絡…!?。」
芽吹「…多分、邪神教団が動き出したのね…新生大赦からの連絡よ……。」
それを聞いて、流星は立ち上がる。そして、芽吹に手を伸ばして。
流星「行きましょう、"芽吹さん"。これは…俺達にしか出来ない"お役目"です…!。」
芽吹は涙を拭い、流星の手を取る。その眼差しは…いつもの彼女だった。
芽吹「ええ、あいつらを止めて人を救うわよ…!!。」
…私は、抗ってみせる。人より劣るからこそ、高みを目指し続ける。それが例え、遠回りになったとしても…誰も死なせない為に…!!。
この……"理不尽"から!ーーーー
………………………………end。
自身の"弱さ"と劣等感。それが、自分を知らずのうちに追い込んでしまっていた。
それに気付いた時、目の前の景色はいつもと同じ風景に変わる。
誰も死なせない、私たちは…"消耗品"じゃない。
その志を…貫くために。
次回
第19話 誇りと矜持。