人を…信じてくれませんか…ーーーー。
………………………………。
300年。人類が神の怒りを買い、世界が滅ぼされてから300年。
その長い時の中で、神に見初められた少女達は血と涙を流して"生きる"為に戦った。
名を消された者も居た。忘れられた者もいた。神格化された者もいた。神の一部となった者もいた。そして……自らを犠牲にして世界を救おうとした者がいた。脈々と受け継がれていったその"バトン"…ずっと長い距離を託され続けてきたそのバトンは遂に"ゴール"の時を迎える。
圧倒的な力を持つ天の神は人が持つ"魂と意思"により退けられ、そして300年もの間、人類を守り続けてきた「神樹」は限界を迎えて寿命により尽きてしまった。
西暦の終焉から300年間は'神の世'であったが、"人"として生きる選択肢を選んだ"勇者"達により、人類の可能性を信じた神はこの世界を再び人類に返したのであった。
そして、人類は証明しなければならない。過ちを犯さないために、そして……もう一度、人を信じた亡き"神"の為に…ーーーーー。
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〜讃州中学校・3年2組〜
「今日の授業はここまで。起立、礼。」
ーありがとうございましたッッ!!ーー
流星「…ありがとうございました。」
………………。
…俺の名前は紫藤 流星。どこにでもいるような普通の男子中学生だ。
今の季節は春…そう、進級して間もない時期だ。
先日、我が校の名高い"勇者部"の結城友奈先輩、東郷美森先輩、三好夏凛先輩、乃木園子先輩をはじめとした3年生全員は卒業を迎え、それぞれの進路に向かっていった。といっても、そのほとんどが地元の高校を選んだそうだが…。
そして俺たち、2年生もついこの間、3年生に進級したばかりだ。
……神樹様が突然、御逝去されてから2年の月日が経った。その間、何が起きたかだなんて俺達には分からない。大赦から突然告げられたのだ。
ー「我らにお恵みくださった神樹様は御逝去されました。これからは、神の恵みなど無い時代…西暦時代の"人の世"に戻ったのです。」ー
たったそれだけを告げられ、数日にも及ぶ「追悼の儀」が執り行われた。当然、全ての学校・企業・施設は休業となり四国の全人類が参加した超大規模な追悼式。それからと言うもの、挨拶の最後に必ずつけていた「神樹様に拝」といった言葉は使われなくなった。代わりに、心の中でそっとお礼を告げる風習へと変わったんだ。
…これまで、信仰の対象としていた我らが神が消えたのだ。当然、人類は不安に駆られた。でも俺は不思議と不安じゃなかった…これが現実だ。現実なら受け入れるしかない。全知全能の神であれ、人と同じく"寿命"がある。なら、本質は"俺達(人類)"と変わらない…それが自然の摂理だ、形あるものはいずれ崩れていく…ならば、現実を受け入れて生きていけばいい。そう考えていたから。
…そして、世界も変わりはじめた。300年間の間、"未知のウイルス"が蔓延る「外」から守るように形成されていた“壁"も消えてその先の"西暦時代"が現れたのだ。
大赦はまだ危険だからと言って、「外」の調査の許可を出していない…連日、地質学者やレンジャー達が壁の外に行こうと試みるが全て逮捕されている。世界は変わっても、大赦の権力までは変わらないようだ。
…それでいいのかもしれない、何故か俺はこう思うんだ…「外」に触れるのはまだ早い…っと。
…人の世となったことで、2年前からこの世界は"変革"を迎えている。
「大赦」はその最高位家系である"乃木家"の「乃木園子」を宗主とした「新生大赦」へと名を変えて、これまで秘匿の歴史だった大赦の謎を少しずつ明かしていっているとか…後は…………。
「世界は再び、"神"によって管理されねばならないッ!!。そう、恵みの神などではなく、絶対的な力を持った力の象徴たる「邪神様」にッ!!。愚かな人類の歴史を再興させようとせん新生大赦を潰そうではないかッッ!。そう、我ら「邪神教団」はこの世界の全てを否定し、「外」の世界へと羽ばたくッッ!!。」
峻輝「…飽きもせずによくも毎日、街頭演説ばっかやってんなぁ。あのカルト集団。」
こいつの名前は三上 峻輝。俺の幼馴染で…数少ない親友だ。
流星「…確かにな。あいつらの言葉に現実味なんてまるでない…全部が夢物語だ。」
峻輝「おいおい…夢見る年頃なのに相変わらずのドライっぷりだな?。そんなんじゃ、モテないぞ?。」
流星「そう言うお前も人の事を言えないだろう?。」
峻輝「うるせぇ、チャンスは後1年しかないんだっ!。この春はまだゆっくり出来るけど夏からは進路を決めなきゃなんねェっ!。その間に、あの亜耶ちゃんが他の男にでも取られたりしたらどうすんだっ!!。」
国土亜耶。3年に進級したと同時に讃州中学校に転入して来た女の子だ。その姿は"天使"とも言われ、誰にでも優しく礼儀正しい所作はクラスの男子を虜にしているとか…本人にはその気はないのだろうが、この隣にいる峻輝も骨抜きにされている。俺は…関わることのない人だと思っているが。
流星「…本人も少し困っているかもしれないからあんまり絡んだりするなよ?。笑顔を絶やさないのはとても疲れることなんだから。」
峻輝「それはわかってるけどよ…って、お前はなんで興味がないんだ?。ほら、同じクラスの犬吠埼樹ちゃんもかの有名な"勇者部"の部長さんだぜ?。我がクラスにはこんなにも大輪の花達がいるっていうのに…。」
流星「俺は雑草でいいさ。その方が変に気を遣わなくて済む。」
2人は歩いていると、その目の前には故障した車が黒い煙をあげながら道路を塞いでいた。当然、辺りはクラクションだらけだ。そして1人、男が車から降りてくる。
「あぁ、すんませんねェッ!!。こいつ、ポンコツだから機嫌を損ねるとすぐに動かなくなるもんでっ!。おい、動けこのポンコツっ!!。」
ガンッと、鈍い金属音がする。すると、乾いた後のエンジン音が響いた。男はペコリと後続車の人たちに頭を下げるとすぐに路肩に寄せる。どうやら、この近くで停まりたかったようだ。
峻輝「なんだあのオッサン…今時あんなレトロな車に乗るなんて…。」
流星「おい、聞こえるぞ?。」
「残念だがもう聞いちまったよ、全く持ってその通りさ。坊主の言う通りだけど仕方ないだろ、金無ェんだし。」
そう言って、歩み寄ってくる男。見るからにだらしない…そして、タバコを咥えて火を付ける。
「あと、俺はオッサンじゃねェ。まだ26だ。そこ、間違えんなよ?。あちち…ッ!。」
峻輝「と言ってもよ…中学生の前でタバコ吸うのはどうかと思うけど…。」
玲司「いいじゃねェかそんなもん。男が小さいことを気にすんじゃねェ。おっと、これも何かの縁だな…俺は久遠 玲司。新生大赦の神官をやってる。これ、名刺な?。捨てんなよ?。」
そう言って、クシャクシャの名刺を2枚取り出して手渡す玲司。
新生大赦の神官?神官といえばまぁまぁいい役職のはずだが…。
峻輝「うっそだぁ!。神官っていやぁ、仮面つけて白装束で身を隠すいかにもって格好じゃん!。オッサンはそこらにいるオッサンと変わらねェ格好じゃんかよ!。」
玲司「オッサンって言うな!時代はカジュアルなんだよっ!あんな堅苦しいものなんて付けてられるかっ!。」
流星「…それで、久遠さんでしたか?。神官職の貴方が何故ここに?何か、催し物でもあるんでしょうか?。」
玲司「催し物…みてェなものか。まぁいい、坊主らは聞いたことが無ェか?。"巫女狩り"ってのを。」
巫女狩り。その単語に、流星は反応を示す。
流星「"巫女狩り"…聞いたことがあります。確か、そこで街頭演説をしていた「邪神教団」が主導している拉致事件…でも、それは噂でしかありません。もし、本当にそんなことをしているならただの犯罪者ですよ。」
玲司「…残念だが、事実なんだよこれがな。この事件を受けて、新生大赦では"巫女"の安全確保を優先に動いている。でも、その"候補生"達までは手が回らねェんだ。奴らはその"候補生"をターゲットにしてやがるから新生大赦の管理が届きにくい格好な的なんだよ。"巫女"だと尚更だがな。」
流星「一体、何のために…っ!?。」
玲司「…この世界に神を降ろす為さ。それも、「邪神」をな。」
邪神?何を言って…降ろしてどうするつもりだ?何故、巫女なんだ…?。
玲司「まぁ何かあれば、そこに書いてある番号に連絡くれな?。それにその制服、讃州中学だろ?。そこにゃ、"勇者"様がいたようだが…気をつけな、もしかすっと学校に仕掛けてくるかもしれねェ。そんじゃあな!。」
流星「ちょっと何処に行くんですかっ!?。」
玲司「どこって…"実働部隊"の所だよ。俺、今日からそこの配属になるんだわ。ま、何も無ければ忘れてくれていい、これは…新生大赦"初"のデカいヤマだからな。」
そう言って、車に乗り込んで去っていく玲司。「邪神教団」の演説車両はすでに去っていて、何事もなかったかのように街は動いていた。
峻輝「なんか、きな臭い事になって来やがったなぁ…。」
流星「…………………………。」
……………………………………………。
…翌朝。
亜耶「皆さん、おはようございます。」
ペコリと頭を下げる亜耶。背は少し大きくなってはいたがそれでも並の女子よりかは少し低め。
峻輝「おはよう、亜耶ちゃん!。」
亜耶「おはようございます、三上君に紫藤君。」
…俺の名前を知ってる?まともに話したこともないのに……。
亜耶「えと……どうかされました…か…?。」
流星「え…あ…あぁ、なんでもない。おはよう、国土さん。」
その時、教師の騒ぎ立てる声が響き渡る。
教師「ちょっと…何なんですか貴方達は…!?。」
邪教徒「黙れ、我々は神の使いである"巫女"に用がある!!。」
教師を突き飛ばしてやってくる黒装束の集団。そして、流星達の教室に入ってくる。
峻輝「な…なんだ…っ!?。」
邪教徒「まさか"巫女"がこの学校にいたなんてな…それに、なんて霊力だ……候補生10人分はあるぞ。」
端末を片手にぶつぶつと呟く邪教徒。
その時、流星は見逃さなかった。
突如として入って来た邪教徒が亜耶を"見ている"事に。
亜耶(まさか、「邪神教団」!?。私を狙ってここに…!?。っ…気付いてください…"芽吹先輩"っ…!。)
持っていた端末の横についている「緊急事態」を知らせる装置を起動させた亜耶。その時、流星が亜耶の手を引っ張って走り出す。
亜耶「ふぇっ!?し…紫藤君っ!?。」
流星「峻輝っ!!。すぐに久遠さんに連絡しろっ!!。コイツら、噂は本当だった!!。」
峻輝「お…おい、流星っ!?。クソ、何がどうなって…っ!!。」
勢いよく教室を出た流星は亜耶の手を引いて廊下を走る。
樹「ふわぁあ…おはよー……って…あわわわッ!?。」
ぶつかりそうになるのは犬吠埼樹。何も知らずにやって来た彼女は驚いた顔をする。
亜耶「ご、ごめんね樹ちゃん!?。」
邪教徒「逃すか、その"巫女"をこちらに引き渡せっ!!。」
樹「えっと…何がどうなって…!?。」
…………………………………。
流星「はぁ…はぁ…はぁ……っ!。」
息を切らしながら、校庭の裏手に回る流星。体力のあまり無い亜耶は呼吸が乱れていたと同時に"震えて"いた。
流星(国土さん…震えている…?。クソ…だったら国土さんは…"巫女"だったのか……。)
邪教徒「手間をかけさせてくれる、これで終わりだ。」
手に持つものは赤い銃。その銃からは異様な気配が漂っていた。
そして、意を決した亜耶がその小さな体で流星の前に両手を広げて立ち上がった。
亜耶「わ…私が目的なのでしょう!?この人には危害を加えないでください…!。」
流星「国土さん、何を…っ!!。」
邪教徒「いや、その少年は我々のこの"お役目"を見てしまった。ならば、死あるのみ。安心するといい、その魂は邪神様に捧げられる。無駄死にではないよ。」
流星(な…なんだ…本当に撃つのか…ほ…本気なのか!?。)
そう言って、トリガーを引いた邪教徒。それは足元で着弾して爆発を起こし、亜耶と流星は吹き飛ばされて地面を転がっていく。
流星「がは…っ……なんで…銃弾が…爆発…!?。」
亜耶「っうう…違い…ます…銃弾なんかじゃな…い…あれは…「邪気」です……!。」
邪気?なんだそれは…それに、国土さんは何故"知っている"?。
そしてもう1発、足元に着弾させるように「邪気弾」を放つ。まるで嬲り殺すようにしながら、追い詰めていく。そして3発目、2人はボロボロになってしまいまたしても吹き飛ばされた。だが……。
玲司「あいててッッ!!。…なんでいきなり吹っ飛んで……。」
流星「…く…久遠…さん…!?。来て…くれたんです…がは…。」
玲司「!!!。コイツら、一般人にまで手を出しやがる外道だったか!。おいしっかりしろ,すぐに救急車呼んでやるからな!?。クソ…何してやがる…早く来い、"楠 芽吹"ッ!!。"コイツ"をお前に渡さなきゃなんねェんだからっ!。」
その瞬間、玲司の持っていたアタッシュケースから一つの"端末"が転がり落ちた。
玲司「しまった、ぶつかった衝撃でッ!!。」
流星「っ…なんだこれは……。」
流星が拾い上げた瞬間、端末が勝手に起動。そして「アプリ」が開かれる。
亜耶(え……まさか……。)
玲司「嘘だろ…それ…「楠 芽吹専用」の防人システムだぞ!?。それに、男のお前が起動なんて……!?。」
流星「…アプリ?。それにこれは……「戦衣(いくさぎぬ)」?。」
…………………end。
その"芽"はまだ小さい。しかし、人の悪意を断ち切る剣へとなるだろう。
新型「戦衣」"防人システム"起動。
ーアルストロメリアー
それは……「未来への憧れ」。
次回
第2話 アルストロメリア。