紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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かつて、自分がなりたかったもの。

でもそれは、より過酷な運命に身を投じるものとなった。

数多の理不尽を乗り越え、この世界を救った6人の少女達。

戦おう、その"名誉"を守るために……ーーー。


第20話 憧れから守護へ。

芽吹はゆっくりと歩き、銃を手に戦意を高める。

その瞳に宿るのは"怒り"。それは、彼女達の"名誉"を守るため。

 

今、目の前にいる「射手座」はその"名誉"を汚しているといってもいい。彼女にその点の罪はないのかもしれない…しかし、悪意の塊と感じさせるほど自分の中では許せないものだった。

 

"造られた命"とはいえ、教団の狂気そのものであるこの「射手座」は世界の理に反している存在…命の創造など、人の身でやっていいことではない。それは、旧世紀の時代からずっと決められてきた"ルール"だ。

 

人が神の領域に踏み込む…これがまさしくそうなのだろう。これほど罪深い事は…見過ごせない。

 

芽吹「お前たちは人の域を大きく超えてしまっている!!。ましてや、その姿など…!!。」

 

サジタリウス「エゴを貫くか…なら、私を殺してみろ!!。」

 

互いが放った銃弾が飛び交い、まるでお互いを否定するかのように弾丸同士がぶつかり合って。

 

芽吹「はああああ!!。」

 

サジタリウス「小賢しい…!!。」

 

接近してきた芽吹を蹴りで弾き飛ばし、銃を突きつける。しかしその懐にはすでに流星が飛び出してきていた。

 

サジタリウス「この…邪魔を…!。」

 

流星「落ちろ…!!。」

 

左手のトンファーを振り回し、「射手座」の懐を捉える。

 

サジタリウス(これは避けられんか…ならば…!!。)

 

少しだけ横に飛び、衝撃を軽減。だが、受けた一撃はそれでも大きかった。

思わず、口の端から血が噴き出る「射手座」。だが、瞳の奥がうっすらと"濁った"。

 

サジタリウス「最初から出し惜しみは無しだ。受けてみろ…!。」

 

背中に陣が浮かび上がる…それを察知した芽吹は思い出す。"これ"は…"あれ"だと。

 

芽吹「流星!!。防御姿勢!来るわよ、バーテックスの攻撃が!!。」

 

流星「!!!。」

 

サジタリウス「もう遅い。」

 

その陣に中から、ゆっくりと一部だけ顕現。口のような開口部から無数の針がマシンガンの如く、発射された。その距離から、避けられない…現に流星はバリアによる恩恵でダメージは軽減されるが身体の所々に突き刺さり、鮮血があたりを舞う。

 

流星「ぐうう…!!?。」

 

サジタリウス「串刺しにしてくれる…!!。」

 

続いて放たれたのは巨大な杭のような針。吹き飛んだ流星を照準に収めていた。

 

芽吹「やらせない…!!。」

 

地面を蹴って跳躍。体当たりで流星をその照準から逃れさせたが、高速で放たれた針は芽吹の横腹付近を通過し、掠った程度で済んだが以前に怪我をした傷が開いてしまった。

 

芽吹「ああ…!!。」

 

その痛みで思わず悲鳴が上がる。そして、地面に落下。身体を震わせながらも立ち上がろうとする。

流星もまた、受けたダメージは軽くは無かった。突き刺さった針が深く入り込んでいるせいか、思うように動かせない。

 

サジタリウス「これがお前たちの限界だよ…がふっ…!!。」

 

"サジタリウス・バーテックス"が消えた途端、吐血。どうやら、この力を使うにも"代償"がいるようだ。芽吹は"それ"を見逃さなかった。

 

芽吹(…どうやら…無尽蔵というわけではないようね…"奥の手"と言っていたもの…出し惜しみしていたのはそれが原因だったってことか…でも、分かった所でこっちの払ったものが大きすぎたわ…割に合わないわね…。)

 

開いた傷を抑え、何とか立ち上がる。

 

流星「芽吹……さん……。」

 

芽吹「流星、貴方は休んでて。こいつの相手は私がやるわ。」

 

流星「でも…!!。」

 

芽吹「忘れないで。私たちの最優先事項は「全員で生きて帰ること」。私は…隊長としての責任と…それを成し遂げるための意地が…ある……大丈夫、貴方と私でちゃんと生きて帰るわ。それに、ここで私が負けると亜耶ちゃんが危険な目に遭うから…。」

 

ゆっくりと歩き、信念を込めた瞳で引き金を絞る。

 

芽吹「…さあ、私はまだ戦えるわ…その顔で悪事を働くことは私が許さない…東郷美森の名誉は私が守る…!!。」

 

先手を取る芽吹。狙撃の位置、タイミングは完璧だった。しかし、「射手座」の反応速度は凄まじく、容易く回避された。

 

芽吹(一度でダメなら二度で…それでダメなら何度だって!!。生きている限り、チャンスなんていくらでも掴める!!。)

 

回避されても銃撃の手は緩めない。開いた傷はそこまで深刻ではないが、激しい動きは出来ない…先ほどの近接戦闘に持っていくことは逆に不利になるだろう…ならば、ここは相手の土俵で戦うしかない。その反応速度を超えるために…ーーー。

 

芽吹(…いつの間にか、私は流星に励まされていた。ついこの間までは

戦いたくないだの、巻き込まれただけだのと言っていた彼に。きっと、現実を見続けて、その中でやるべき事を見出したから今の前向きな姿勢があるんだろう。そうだ、彼の目的は世界のためなんかじゃない…ただ一つ、亜耶ちゃんを助けたいだけ……その一つの目的の為だけに武器を手に取った…それに比べて私は…間違っていたんだ……。)

 

「射手座」と撃ち合いに入る中、バリアゲージがどんどん削られていく。そして、身体の傷も増えていく…痛みも増え、視界もぼやけてくる。悔しいが、その撃ち合いの中で「射手座」は大したダメージを受けていない…これが"差"なのだろう。天才と凡人の差…埋まることのない深い"溝"なのかもしれない。

だけど、倒れるわけにはいかない…自分の後ろには、ダメージを受けて戦闘の継続が難しい流星がいる。そしてその先には…最も守りたい亜耶がいる。

 

"勇者"になれなくて、それを認めたくなくて怒りに生きて来たあの頃と何も変わらなかったこの間までの自分……圧倒的な力を前に、より"勇者"に近い力を欲しがっていた自分…本当はそんな事のために使うべきものじゃない。夕海子が手にした"力"もまた、彼女の強い意志が認められたからだ。自分には足りないもの…それは"意思"だった。

…今更ながら、ようやく気付いた。つい、勢いでこの場に立ったが現実は残酷だ…今もまた、圧倒的な力の前にただ嬲られているだけ…守りたい意思があるのは本当だ、しかし今はその"意地"だけで保っている。なんとも理不尽なんだろうか…もう嫌になる、今までの自分が全て否定されるようで。でも、それでもやはり折れないものが一つだけある。それは……"消耗品なんかじゃない"という意思。その意思が自分の意識を繋ぎ止めていた。そして、責任感…仲間を守るために自分が倒れちゃいけない。せめてそれだけは、貫かせて欲しい…周りから蔑まされようとも、評価されなくとも…あの頃から何も変わらないただ一つの自慢できる自分の"意思"なのだから。

 

そして、とうとうバリアのゲージが0に近くなる。それはつまり、自身の命の危機を知らせるものだ。これが無くなれば、相手の攻撃をそのままモロに受けてしまう。そしてその先に待つものは…明確な"死"だ。

それでも、ここを倒れるわけにはいかない…そう思って、引き金を引こうとしたその時、端末が勝手に起動した。直後、周囲の時間が止まったかのように静止する。

 

芽吹「…私の端末が……周りも止まって…倒れそうなのに意識がはっきりする…身体中の痛みも感じない…何、この感覚……。」

 

戸惑いながらも、異変を起こした自分の端末に目を向ける。そこには…「強化装束」と書かれた見たことのないアプリが入り込んでいて。そして、それと同時に玲司からメッセージが入る。

 

「全責任は俺が受け持つ。意思のままにやりたいようにやれ。good luck。」と、書かれていた。

その意図を察知した芽吹の瞳からは一筋の涙が溢れたみたい。

本当、今日はよく泣く日だ…そう思いながらも、芽吹は「改良型」を勝手にアップロードして来た玲司に感謝する。

 

芽吹「…久遠さん…私が"申請"に落ちたとわかってから勝手に持って来たのね……本当に、あの人は神官らしくない…けど、ありがとうございます。私は私の「心に従って」この力を…使います…!。」

 

アプリをタップ。すると、眩い光が自分を包み込んだ。

その中で、変わっていく戦衣…ヘルメットが無くなり、隠れていた自分の髪型であるツインテールが露わとなる。それに加え、長さも変わっていた。そして、大型化した銃剣が二挺現れて、それを両手に取る。

 

光が消えると時間も戻り、その直後に放ったのだろう「射手座」の一撃をバリアで弾き飛ばした。

 

サジタリウス「なっ!?。バカな…先程まで虫の息だった貴様が何故…それにその姿は…!?。」

 

芽吹「…凡人が駄々を捏ねて大人から与えられた"おもちゃ"よ。」

 

トリガーを引いた芽吹。左手の銃剣から放たれたビームは高速で突き進み、「射手座」に直撃。同じようなバリアがあるのだろう、彼女の前にはガラスが砕けたかのような痕跡が見られる。

 

サジタリウス(なんだ今のは…全く見えなかったぞ…!。)

 

芽吹「お前が東郷美森の複製人間なのかはこの際、もうどうでもいい。ただ、さっきも言ったけど…その顔で凶行を行うことは私が許さない。かつて、私がなりたかった"勇者"…誰にも知られることもなく、ずっと辛い思いをして来た彼女達の頑張りを否定する行為…お前達は世界に危機をもたらすだけじゃない………人の尊厳までも踏み躙る最低な奴らよ!!。そんな奴らに、"勇者"達の苦労を汚させはしないわ!。」

 

その場から動かずに銃を向ける芽吹。トリガーを再度引くと、地面を抉るほどの一直線上に伸びたビームが突き進んでいく。

 

それは、「射手座」の放った攻撃を悉く弾いていき。

 

サジタリウス「っ…来いッ!!。」

 

サジタリウスは再度、陣を開いて"サジタリウス・バーテックス"を呼び出そうとする。しかし、何も起こらない。

 

サジタリウス(クソ…因子を使いすぎたか…!!。)

 

戸惑いが隠せない「射手座」。そして気付いた頃には眼前にその攻撃が迫っていた。

 

サジタリウス「しま……!。」

 

直撃。そして、爆発。轟音をあげながら、周囲に静寂がこだまする。

立ち込める黒煙が晴れると、「射手座」が地面に突っ伏していた。

 

サジタリウス「ごほ…っ……私の負け…か……っ……殺せ……貴様達に降伏するくらいなら…!。」

 

芽吹「私達は人殺しではない。来なさい、お前を拘束して……。」

 

その時、周囲に"悪寒"が走る。感じたことのない威圧感…そしてそれは…突然、目の前に。

 

「…………………。」

 

サジタリウス「…「獅子座」!?。何故ここに!?。」

 

「射手座」が血相を変えた相手…「獅子座」。その体躯は小柄ながら、放つ雰囲気は今までの"十二星座の使徒"とは常軌を逸していた。

 

レオ「…帰るよ、「射手座」。」

 

少女の声。この威圧感を放つものは少女だった。

 

サジタリウス「…了解した。」

 

芽吹「待て!!。」

 

威圧感に押されながらも、銃を突きつける芽吹。しかし、仮面の下からでもわかるその感じについ、物怖じしてしまう。

 

レオ「動かない方がいい。いずれは合間見える…。」

 

跳躍。「射手座」を抱えてその場から去っていった。

 

芽吹「………「獅子座」…とんでもない気迫だった…睨まれるだけで身体が硬直するなんて……。」

 

流星「っ……あの感じ………。」

 

……………………………。

 

亜耶「2人とも!!。」

 

それからしばらくして駆けつけて来た亜耶と玲司。その姿を見た2人は顔を見合わせて安堵の表情を浮かべた。

 

玲司「どうやら、カタをつけたみてェだな?。」

 

流星「はい…でも直後にとんでもない奴が現れて…っうう!?。」

 

芽吹「それは後にしなさい。貴方の傷、浅くはないんだから。それよりも、久遠さん…ありがとうございました。」

 

頭を下げた芽吹。玲司は意外そうな顔をして。

 

玲司「あの楠が俺に頭を下げた!?。」

 

芽吹「調子に乗らないでください。でも…今回は感謝してます。私の…気持ちを汲んでくれたんですか。」

 

頬をポリポリと掻きながら、玲司は目を逸らす。

 

玲司「…ま…帰ったら審問に掛けられるな。はぁ……車、当分先かぁ……。」

 

タバコを吸おうとしたが、入っていないことにさらにため息をつく。

 

芽吹「…ふふ、それくらいは奢りますよ。私、未成年ですから自分で買って来てくださいね?。」

 

玲司「マジかっ!って…高校生に奢られる大人…はぁ、みっともねぇが背に腹はかえられぬ…あざっすっ!!。さぁてお前ら、香川までぶっ飛ばして帰るぞ!!。」

 

芽吹は空を見上げる。そして、その拳に力を込めて。

 

芽吹(…私は"勇者"になれないけど…"人"を守ることは出来る。全員で生きて帰る…一人も欠けずに、全員で……あの頃の気持ちはまだ、変わらないから……。)

 

………………………………end。




人を守る存在になりたい…少女の意思は固く、そして新たな力を得た。

その数日後、讃州中学のサッカー部では3年最後の大会の日程が決まる。

その日は……"神託"の日だった……ーーー。

次回
第21話 "運命" ー前ー。
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