一人の少年は、自身の抱える家庭事情から周囲に距離を置かれていた。
そんな毎日を過ごしていた少年の前に、ぼんやり過ごし、何もかもが面白くなさそうな顔を浮かべた少年が手を差し伸べた……。
…俺は三上峻輝。
今、この3年間の集大成となる機会を迎えている。それは…全国大会の切符を手にするための試合だ。
小学4年から、ずっとサッカーをやってきている。それは好きでやっていて、将来の夢がサッカー選手などということではない。将来は何になりたいとかは具体的には決めていない…そう、俺はこの中学生活でサッカーとは縁を切るつもりだ。だからこの最後の大会で俺は後悔無く全力で臨みたいと思っている。別に嫌いになったとかじゃない、ずっとその道に行くのも違うと感じてきたからだ。人生は1度きり…なら、たくさんの"道"を進まなきゃ損な気がして。いろんな景色を見てみたい…それが、正直な所だ。
高校生になれば、将来の事も考えなきゃいけねェ…大学進学もいいが俺は高校を出たらすぐに定職に就こうと思っている。家庭の事情と言うやつだ、"俺の家系"はロクでもねェからな…そう、あんな両親みたいにはなりたくねェ。だから俺は、この「三上」という苗字が大っ嫌いだ。今は親戚の家で世話になっている。とても良くしてくれている、そのおかげで今の俺の性格があるようなものだ。最も、それは"あいつ"がいたからとも言えるが。
そう、俺はあいつに"恩"がある。そして、俺を引き取ってくれた親戚にも。だから、早く定職に就いて少しでも親戚に恩を返していきたい…そう…あの頃、周囲から白い目で見られていた俺に手を差し伸べてくれた親友…流星にもーーーーー。
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…今から、4年前。神世紀298年 7月。
ここ、讃州市の小学校で2人の少年が出会いを果たす。日差しの照る中、一人の少年は全てが楽しくなさそうなボンヤリとした眼差しで入道雲を見つめていた。そして、もう一人の少年はずっと一人でいる…その遊び相手がサッカーボール…そう、この二人の共通点は"1人"だということだ。
峻輝(過去)「クソ…どいつもこいつも……俺が何をしたっていうんだ…。」
教室から聞こえてくるひそひそ話に苛立ち、ボールを持って一人で教室を出ていく少年…過去の三上峻輝。
ここのところ、毎日そうだ…原因は何となく分かる…自分の家族が引き起こした"事件"の事だ。
その事件は約2か月前……大型連休前に起きた。
ーーー……峻輝の両親は、反大赦団体の一員だった。
反大赦団体とは、この世界の全てを大赦が管理していると言ってもいいこの状況に異を唱える団体…いわば、俗に言う国家転覆を狙った過激派集団だ。
彼らが信仰するのはもちろん、神樹だ。しかし、その神樹を独占していると思い込んだ者同士が集まって出来た、根も葉もない信念を掲げる団体…この世界においての"嫌われ者"だ。
事実、その集団は大赦関連の施設に迷惑行為を続けている…どこから捻じ曲がったのか、いまはただの嫌がらせにしか過ぎない。つい先日、名門の小学院「神樹館」に対して犯行声明らしき怪文書まで送ったと言う。その過激な行動がエスカレートし、ついに件の"事件"を引き起こした。
……そう、大赦の最高家系ともいえるその名家「上里家」関係者の拉致・殺害事件。
殺害は偶然の悲劇とも言えるものだったらしい…本当は身代金を要求する誘拐事件を引き起こすつもりだったと供述していたが、手を出した相手がまずかった…その実行犯の一員に峻輝の両親が入っていたのだ。
誘拐といえど、犯罪は犯罪…それもかなりの重罪だ。ましてや、最高権力を持つ名家の一つ「上里家」のものに手を掛けたのだ。当然、日の目を見ることは二度とないだろう。そしてそれは、何の関係もない家族にも影響する…それが、峻輝の"今"だ。
この時は親のしている事が全くわからなかった。どこか変だと思いながらも、きっと仕事なのかなとずっとそう思っていた。
でもそれは…全く違った。世の中に迷惑をかけているただの厄介者…大赦が気に食わないのは良いとして、やっていることがただの過激派集団のそれだ。もはや、組織絡みの犯罪集団…そんな腐った金で食わされてきたと思うと吐き気がする。そして、連日…その親2人は俺に"理念"を植え付けようと自分達の行動を勝手に語り始める。もう…うんざりだった。狂ってるんじゃないか、そう思って。そしてその矢先でこれだ。俺もすっかり、その仲間入りとされて周囲から変な目で見られている。
三上には関わるな、あいつは犯罪者の息子だ…大赦に楯突く愚か者の子供…挙げ句の果てには、神樹様を否定する異端者など言われたい放題だ。そんな毎日を過ごしていた時、"あいつ"と出会った…ーーー。
流星(過去)「…また1人でサッカー…?。」
雲梯の上に座り、空を見上げる少年…紫藤流星。コイツも"変わり者"だ。
どうやら、最近"事故"に遭ったらしくてそこからおかしな雰囲気を出していると言う…時折、人の考えが分かるような不思議な言動を始めるらしい。そんな奴に声を掛けられた俺も不思議と警戒してしまう。
峻輝(過去)「なんだよ、1人でサッカーしてたら悪いかよ?。」
流星(過去)「別に…1人の方が気楽で俺はいいと思う。周りに誰かがいたって、うるさいだけだから。」
とことん、冷めた奴だな…そう思いながらも、俺はその場から去ろうとする。だが、コイツはまだ声を掛けてくる。
流星(過去)「待ってよ、どうせ1人でやるなら俺も混ぜて欲しいな。」
峻輝(過去)「気持ち悪ぃな……お前、誰とも絡もうとしねェじゃんか。なんで俺に構ってくるんだ?。」
流星(過去)「…君が"寂しそう"だから。」
寂しそう?俺が?…なんだコイツ、言い方がむかつくな……なんだよ、コイツも俺を馬鹿にするのか?…そんな感情が込み上げて来た。その一言で。
峻輝(過去)「うるせぇ!!お前もどうせ、俺を白い目で見るんだろ!?犯罪者の息子だからって!!。近寄んな!!。俺は1人でいいっ!。」
流星(過去)「犯罪者の息子だからってなんなんだ?。君は犯罪なんて犯してないだろ?。」
峻輝(過去)「…は…何を言って……?。」
流星(過去)「おかしいよ、みんな。親が犯罪を犯したからと言って、子供まで犯罪者扱いして…たまに分かるんだ…君を見るみんなの目に"悪意"を感じる事が。俺からしたら、君をそう言う目で見るみんなの方が余程、悪意に満ちていると思う。」
…心が覗かれているような感覚がした。俺は気味が悪くなってつい、その場から逃げ出してしまった。だって…コイツの言っている事は俺が思っていた事そのものだったから。
…そこからほぼ毎日、俺はコイツと良く会うようになった。会うたびに話しかけてくる…こんなに絡んでくる奴じゃないと思っていたが、多分…俺の心を見ちまったからだろう。心配してるんだと思う…俺が押しつぶされそうにならないかを。そして、何度か会っていくうちに俺はコイツとボールを蹴って遊ぶようになっていた。不思議な奴だ、いつも楽しくなさそうな顔をしているくせに、何故かこう言う時は楽しそうな顔をする…そこからしばらくして、俺はコイツと"友達"になった。そして、また聞いた。なんであの時、俺に声をかけたのかと。そう言うと、コイツは不思議そうな顔をして。
流星(過去)「言ったじゃないか、君が"寂しそう"だったからって。俺、時々なんだけど人の心がわかってしまう事があるんだ…覚えてないけど、この間大きな事故をして…そこから、たまに神樹様が夢に現れるんだ。その夢を見た次の日に、人の心が分かってしまう…君に声を掛けた日もちょうど、その夢を見た日なんだ。」
峻輝(過去)「そっか…お前、すごい奴だな?。それ、超能力じゃねェの?。」
流星(過去)「…いい事なんか何もないよ。人の心と言っても、強く感じるのは"悪意"と"悲しみ"だ。俺は"普通"でありたいだけなのに…こんな感覚、今すぐにでも捨てたい。でも…そのおかげで峻輝と友達になれたなら、俺は少しだけ誇りに思うかもしれない。」
………………そう、コイツも苦しんでいたんだな。良くわからないこの感覚のせいで…でも、それで俺は…救われた気がした。人をもう一度、信じてみようと思えた。そこからだ、親戚に拾われて性格が明るくなっていったのも。いつの間にか、犯罪者の息子と言うレッテルは剥がされ、昔と変わらずに接してくれる奴らが増えてきた。全部はコイツがいてくれたからだ。一度、みんなの前でそれを言ったことがあったんだ。
「峻輝が悪者なら、お前達はもっと悪者だ。人の気持ちをちゃんと理解せずに、勝手に広げられた噂だけで人を見る…その方がよっぽど、悪い事だ。」っと。
小学生が言う事じゃねェなと思いながらも、俺はその一言に救われた。
きっと、流星はこの事をあまり覚えてないだろう。聞いた話によると、記憶が断片的に抜けてしまう事があるらしい…あの感覚のせいで、脳に小さな異常が出てしまうと聞いたことがある。中学に入ってからは特にそんな不思議な感覚の事も言わなくなった。一度だけ、聞いたことがあるがその感覚に覚えはあるようだけど今は神樹様が夢に出てくることもないとか……冷めた感じだけはそのままだが、一途で真っ直ぐな物言いは変わらずだった。そして、"普通"でありたいと言う思いも変わらずで。
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流星「峻輝、どうしたんだ?。なんか笑ってるけど…。」
峻輝「え…ああ、いや…ちっと、昔を思い出してな?。お前と会った時のことだよ。」
流星「ああ…あの時か。今思えば、長い付き合いだな…俺達。」
峻輝「はは、そうだな?。俺、お前に感謝してるよ。そうでなきゃ、俺は今のような性格にはなってねェ。」
流星「なんだよ急に…気持ち悪いな。」
峻輝「おいっ!。そりゃねェだろ…!?。」
流星「はは、"あの時"のお返しだよ。」
峻輝「コイツぅ……へ、まあいいや。ところで…俺、決めたんだ。次の大会で勝っても負けても最後にしようって。」
流星「…サッカー、辞めるのか?。」
峻輝「ああ。高校卒業したら、働くんだ。少しでも親戚のおっちゃん達を楽にしてやりてェなって。それに……意を決した。この大会が終われば俺、亜耶ちゃんに自分の気持ちを伝えようと思って。やりきってから中学生活を終えたい。高校生活は新しい環境でやってみてェんだ。」
"気持ち"…ああ、そういうことか。
流星「そっか、ちゃんと伝わるといいな?。国土さん、ちゃんとわかってるといいんだけど…。」
峻輝「お前は亜耶ちゃんの事、気になったりはしねェのか?ここのところ、よく一緒にいるじゃねェか?。」
流星「気にする?。いや……特に……。」
流星(考えたこともなかったな……彼女の"現状"を教えるわけにはいかないし……でも、コイツが本気で彼女を想っているなら、早くこの件を片付けないとな……。)
そして、流星は何となくだが、思ったことを聞いてみることにした。そう…彼が打ち込んでいたサッカーの最後を飾る"試合"の日を。
流星「なあ峻輝、ところで試合の日はいつなんだ?。俺、応援に行くよ。」
峻輝「おお、マジか!。それは嬉しいな…そうだな、確か……。」
そう言って、カバンの中を探り出す峻輝。そして。その日程が書かれたプリントを取り出した。
峻輝「おお、あったあった!!。えっと…後、2週間後……"6月17日"だ!!。」
流星「わかった、2週間後………。」
……その日にちを見て、流星は頭の中で思い出した。
流星(…待て…その日って……まさか………!!。)
一気に顔が青ざめる。
その日…6月17日は…………。
ー亜耶が受けた、"神託"の日……そう、……"運命の日"だった……ーーーーー
……………………end。
…親友が中学生活の全てを掛けた大事な日…"6月17日"。
その日はまさに"運命の日"。
少年は戸惑う……親友の大事な時間を守りたいと。
そして……"かの日"は訪れる……ーーーー
次回
第22話 "運命"ー後ー。