紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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…人は簡単に死ぬ。

加賀城先輩の言った通りだ。
目の前でアイツは…消えた。俺を守るために。

…すまない…。

今はただ…その一言しか出てこない…ーーー。


第24話 心の崩壊。

ーーーあれから、翌日。

愛媛に続き、今度は俺たちの住む街「讃州市」が被害に遭った。

その中で俺は…大事な"友"を喪った。

 

満身創痍で動けない中、戦う力が無いアイツが俺を守ってその炎の中に消えたんだ。

アイツの事だ、体が勝手に動いたんだろう。

 

……俺は、"疑似満開"を使った影響で凄まじい疲労感と高熱に苛まれた。

かつて、"勇者"が使った"満開"のように、体の機能を一つ失うような対価が無いにしろ、この力の危険さは使っていて身に染みる。

 

"人の思惑"が色濃いこのシステムの事だ、あんな力は今の時代には不必要だとも思える。

 

…でも、そんな大きな力を持ったところで何も守れないんじゃ意味がない。

 

俺は……立ち上がれそうにない。今はただ…そう思う。

 

……………………。

 

~讃州市・病院~

 

新生大赦の運営するこの病院に来るのは2度目だ。前は、国土さんの"神託"を聞きつけた”旧体制派"の連中が駆け込んできた日以来…今度もまた、検査だ。でも、体の事よりも深刻なのは……"心"の方だった。

 

流星「……。」

 

検査を終え、帰路に付こうとする流星の前に亜耶が小さく手を振っていた。

 

流星「…国土さん…。」

 

そうして、2人は海が見える高台まで移動する。流星は心ここに在らずと言った状態で、ボンヤリと海を見ていた。昨日までの事が嘘のように時は流れる…時とは残酷だ、人の悲しみも喜びも全て流してしまう。でも、世界にとってはそれは些細なことであり、その為だけに時間が止まったりはしない。そう…運命とは、そんなものなのだ。

 

そんな沈黙の中、先に声を絞ったのは亜耶だった。

 

亜耶「その…紫藤君……三上君の事ですが……。」

 

…言っちゃいけないのかなと思いながらも、亜耶は思い切って言う事にした。言わなければきっと、彼は…心の内を吐き出さないと思ったから。

 

流星「…ああ…バカだよな、本当に。」

 

自分の手のひらを見る流星。あの力を手にするまでは特徴も何もない手だったが、今はこんなにも傷だらけとなっている。手にしたものも多かったが、何よりも失ったものが一番大きなものだった。

 

友達。

 

一番、身近なものでかけがえのないもの。それがたったあの瞬間で全てが消えてしまった。昨日まで元気に生きていた奴が、急に居なくなる…。

それを、実感して。

その瞬間、流星は拳を震わせて涙を落とした。

 

流星「…守れ…なかった!。何もかも…アイツの人生そのものを…守ってやれなかった!!。」

 

亜耶「っ……!!。」

 

流星「やれると思ったんだ!全部終わればちゃんと説明するつもりだった!でも、俺はアイツに嘘を吐き続けて…最期には「ありがとう」って言われた!。何がだよ、死んだら何もないじゃないかっ!!。」

 

柱に何度も拳をぶつける流星。その手から血が滲み出るがそれでも気にせずに何度も打ち付ける。

だが、それを見た亜耶がその腕を体で押さえ付け、首を大きく横に振る。目には微かな涙が。それを見た流星は自分を傷つけることを止めた。

こんなことしたって、何もならない…それはわかっているのにどうしても自分が情けなくて許せなかった。

 

流星「…人の命ってこんなにも簡単に散るんだな…アイツだけじゃなくて、あの場に居た人たちも殆ど殺されてしまった……なんでこんなにも…"理不尽"なんだよ……。」

 

亜耶「でも貴方は全力で…!。」

 

流星「そうさ…頑張ったさ…やったんだよ、全力で…必死に…でも、その結果がこれだ……結局俺は…誰も守れない……。」

 

流星は亜耶を見る。そして…ずっと"決意"していたものが……。

 

流星「君を…助けられない……。」

 

折れた。

 

そう言って、走り去る流星。追いかけようとした亜耶は足を止めてしまった。そして、そこには…流星のスマホが落ちていた。自分があげたあのお守りがついた彼のスマホが。

 

亜耶「…紫藤君……。」

 

ギュッと、両手で握り締める亜耶は片目から一筋の涙を流し、そっと呟いた。

 

…………それから、翌日。防人寮では……。

 

雀「大変だよメブぅうう!!。」

 

慌てた様子で駆けつけて来た雀。怪我をしているのにも関わらず、急いでやってくる。

 

しずく「…加賀城、うるさい。」

 

芽吹「っ…傷はまだ治ってないと言うのに騒がしいわね…どうしたの……?。」

 

雀「あの子っ!流星君が行方不明なんだよっ!!。」

 

夕海子「なんですって…!?。」

 

ガタッと立ち上がった夕海子。「強化装束」状態でもこの傷だ、あの敵の強力さが身に染みるほどの怪我の具合だった。

 

芽吹「…あの馬鹿…1人で全部背負い込んで…!!。」

 

雀「あと、これがポストに入れられてて!手紙と一緒に!!。」

 

そう言って、手紙を開けた芽吹。そこには、"返却"された"擬似勇者システム"の端末も一緒に。

 

ーーーーーーーーーーーー

防人の皆さんへ

 

一身上の都合により、"防人"を除隊します。

これは返却します。お手数おかけし申し訳ございませんが、新生大赦に問い合わせをよろしくお願いいたします。

 

芽吹さん、山伏先輩、弥勒先輩…そして、加賀城先輩。

至らぬ点が多々あった俺に色んなことを教えてくれて感謝します。

国土さんのことをお願いいたします。

 

…今まで、お世話になりました。

 

紫藤 流星。

ーーーーーーーーーーーー

 

…その手紙を読んだ芽吹は…"怒った"。

 

芽吹「何が亜弥ちゃんをよろしく…だ…貴方に言われなくても分かってるわよ…!!。」

 

雀「ちょ…メブ…?。」

 

芽吹「こんなの、認められるかっ!。また逃げる道を選んだと言うの!?。探して一発、殴ってやるっ!!。」

 

しずく「ちょっと楠、落ち着いて…!?。」

 

芽吹「これが落ち着いていられるか!。何よ…私には偉そうに言った癖に……降りかかる現実に目を背ける事なくずっと突き進んできた癖に…友達を守れなかったからってそれで折れちゃうの…そうじゃないでしょ……!。」

 

手紙を握り潰して机に顔を埋める芽吹。

 

芽吹「「成すべきと思った事をやるんだ」と貴方はいつもそうだったでしょう!?。亜耶ちゃんを助けるんでしょうが…その役目を…他の者に委ねたりするな……紫藤流星ッッ!!。」

 

玲司「……………。」

 

慟哭。自分の矜持を思い出させてくれた彼に対する慟哭。芽吹は自分のように悔しかった…そして、情けなかった。たった1人で背負い込ませてしまった事に。そして、それを見ていた玲司はタバコを一噴かしさせ。

 

玲司(…今は泣いてもいい、でも本当にそれでいいのかお前は……それが…お前が「心に従った」ことなのか…坊主。)

 

………………………………………。

 

その頃、流星は1人で「大橋」までやって来ていた。

「大橋」。先端が大破したかつての"本州"と唯一繋がる道…今も繋がっていればきっと、そこから「外」に行けたはず…そう、2年前に四国を取り囲む"壁"が消えてから「外」の世界が現れた。それはかつて、302年前までは存在していた"西暦の時代"。

未だにその地に踏み入る者はいない…新生大赦でさえ、「外」の調査に乗り出していないのだ。

海路には規制が敷かれており、その境界を超えれば即刻逮捕。有罪となる。

 

そして、その大橋は4年前に自分が"事故"をした年に3人の幼い"勇者"達が命を賭して守り抜いた"絶対防衛線"。

 

その戦いで1人の少女が命を落とした。それを知る者はきっと少ない…でも、"英霊"としてこの慰霊碑に名を遺している。

 

流星は何故か、その慰霊碑から離れようとは思わなかった。ここには、この世界を守るために必死で戦って来た"勇者"達が眠っている…そう思うと、この場所が特別な場所だと感じていたからだ。

 

少し歩いていると、そこには赤毛の少女が一つの慰霊碑に手を合わせていた。

 

流星「あ………。」

 

……この人は知っている……どうして、ここに?。

そう思っていると、その少女も自分に気が付いたようで。

 

赤毛の少女「あ、お邪魔だった?。ごめんね、すぐに退くから。」

 

流星「あ…いえ……たまたまここに立ち寄っただけですから…。」

 

赤毛の少女「そうなの?。そっか…なら、手を合わせてくれると嬉しいな?。ここで眠る人たちはみんな、一生懸命な人達だったからさ。」

 

そう言って、ニッコリと笑う少女。

不思議な人だ…そう、思いながら流星は言われた通りにする。

手を合わせ、しばらくすると……。

 

赤毛の少女「ごめんね。いきなりこんなこと言って。君、この近くの人?。」

 

流星「いえ…讃州市から来ました。」

 

赤毛の少女「あ…私と同じだ!。この間の事件…ひどいよね、私はたまたま校外学習で別の場所に来てたから大丈夫だったけど……。」

 

それを聞いて、流星はまた暗い顔となる。

 

流星「…ええ、あんなの、人の死に方じゃありませんよ…。」

 

そんな様子を見た赤毛の少女は……。

 

「そう…だね……あ、そうだ、これも何かの縁だしお昼に行こ?。時間、大丈夫?。」

 

流星「え…あ、はい……。」

 

……それから、近くにあるうどん屋に入る二人。腹が空いていたのかこんな気持ちでも食は進む。

そして、食事を終えると二人はまた大橋の近くまで来ていた。

 

赤毛の少女「…綺麗だよね、海。」

 

静かに揺れる水面を見ながら、その少女は靡く髪に手を当てる。

 

流星「そう…ですね……時間は進む、この間の事だって風のように過ぎていく。人がたくさん死んでも、世界は動き続けるんだなって…。」

 

赤毛の少女「そうだよ。世界にとっては、人の死なんて些細なものだから…それが神様なら尚更の事だね。今はもう、神樹様は居なくなっちゃったけど"人の世"になってからもそこは変わらない。私たちの"昨日"だって、世界にとっては風と同じくらい過ぎていくものだから。」

 

少女は流星の顔を覗き込む。

 

赤毛の少女「…それでも、悲しいものは悲しいよ。だから、君の抱えているその悲しみも簡単なものじゃない。他の人は乗り越えろっていうかもしれないけど、立ち止まるときは止まってしまう。」

 

流星「……え……。」

 

赤毛の少女「…それでも"勇者"だから、その悲しみも乗り越えて戦わなくちゃいけない。人を守るということはそういうものなんだよ。いろんな"理不尽"が襲い掛かってくるけど…止まっちゃいけないんだ。」

 

流星「…俺は…そう簡単に割り切れませんよ…覚悟なんて……。」

 

赤毛の少女「それでいいと思う、悩むときは思いっきり悩めばいい。でも、誰かに相談しなくちゃ。一人で抱えても答えはきっと出ない…でも、相談すれば助けてくれる人だっている。人間は…独りぼっちじゃないんだよ?。」

 

独りぼっちじゃない…その言葉に、流星は自然と涙が出た。

そうだ…峻輝が身を挺して自らが犠牲になったとき、自分を引き剥がした芽吹も悔しさで涙していた。きっと、あの人も同じ気持ちなんだ…でも、立ち止まれないからこそ先を見ることをやめなかった。

だとすれば、自分はどうなんだ?。あの時、峻輝が業火に呑まれていったのだって自分に生きてほしかったからだ。そして、託されたんだ…あんな悲劇を起こさないように、頼むと。

 

……逃げていいのか、友の死を無駄にしてしまってまで。生かされた自分が「成すべき」ことは…逃げることじゃない。

 

そうだ……俺は………あの子を助けるために戦うんだ。

 

流星「ありがとうございます、"結城先輩"。俺……もう一度やってみようと思う。アイツの死を無駄にしないためにも…アイツが愛したあの子を助けるためにも…俺の戦いは最初からそうだったんだ。いつしか、全ての人を助けるんだとばかり思ってて…でもそれは決して、一人じゃ成せない事だ。だからこそ、頼らなくちゃいけない…でも俺自身がすべきことは…国土さんを助けること。悪魔の手からあの子を…助けることだ。」

 

……その目に"光"が戻った。そして、"決意"も同時に戻ってきた。

立ち上がった流星。涙を拭い、その目はとても強いものだった。

 

その少女…"結城友奈"もまた、安心したかのように優しい眼差しを向けて。

 

友奈「…君は私と同じ。でも、違うのは…「全部」か「一つ」か…私は欲張りだから「全部」を選んだけど、"人"として立っている君は「一つ」の為に戦える。ごめんね、嘘吐いちゃった。君の事は知っていたんだ?。だからこそ、心配になってここに来た。君がここに向かったことを知っていたから。」

 

流星「…全部、分かってましたよ。確かに、俺と貴女は似ている…感じる心も同じだ。だからこそ、俺は貴女のように目指してみます……"人"としての"勇者"を。」

 

それを聞いた友奈は背中を押すように、にっこりと笑みを浮かべて。

 

友奈「託したよ?私の"バトン"を。」

 

流星「はい、託されました。貴女からの…"バトン"を。」

 

互いに握手を交わし、流星は走っていった。

 

友奈「……風先輩から聞いた子、確かに私と同じだよ。頑張ってね?。貴方は私の"希望"だから…。」

 

見送る友奈は自分が選んだ"選択"を託し、次代に繋いだ。そして、話を終えて物陰から黒髪の少女…"東郷美森"がやってきた。

 

美森「…行ったわね、彼。」

 

友奈「うん。じゃあ、私たちも行こっか?。そのちゃんから"招集"を受けてるし…私たちの"成すべき"事をやるために。"勇者部"、再集結だね?。」

 

…絶望ばかりじゃない…希望もある。

その僅かな希望を追いかけよう。

 

………前に進むために…ーーー。

 

………………………end。




絶望を乗り越えて先に進む。

いつだって、人はそうしてきた。生きている限り、何度だって立ち上がれる。

人はそう簡単に潰れたりはしない。託されて託し続けるから"人"でいられる。


失ったものを数えるのはもうやめて、行こう…託された"その先"へ…ーーー。

次回
第25話 "芽"が開くとき。
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