紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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一度枯れたその花は、再び立ち上がった。

…友から託されたもののために。そして……。

最初から、心に従ったあの"決意"を成し遂げるために。


第25話 "芽"が開くとき。

〜防人寮〜

 

芽吹「…………。」

 

流星が置いていった"擬似勇者システム"の端末を手に取る。しかし、画面は真っ暗なまま。そして、あの時流星が使った"擬似満開"の力を思い返していた。

…確かに、強大な力だ。敵を殲滅するには理想的な力…しかし、それはこの時代には不要な力とも言える。

 

"人"を殺す力。

あの力はまさにそれだった。これが本来の形で自分に渡っていた時、その力が呼びかける"声"に抗う事が出来たのか…いや、多分出来ないだろう。何故なら、"あの頃"の怒りがまだ自分には残っていたからだ。今は鳴りを潜めているが、忘れた訳ではない。

 

ー自分が"勇者"に選ばれなかった事ー

 

それは、何よりの屈辱だった。力で勝っても、心で負けていた。そう…あの時は理解しようともしなかったが、選ばれなかったのは"心"の弱さだった。真っ直ぐな志なんてものはなかった…ただ、自分がやれるということに胡座をかいていただけなのかもしれない。だからあの時、自分でなく……"三好夏凛"が選ばれた。

 

その怒りを増幅させて力にする作用がこのシステムに隠されていたとなると、やはり旧体制派は自分を利用しようとしていたと言う事実に腹が立ってくる。"擬似満開"…それは、ある意味で"勇者"を殺す力なのだろう。"勇者"とは正反対の力…"人の悪意"によって、無理矢理咲かせる花…そんなの、認められるわけがない。

 

そんな事を考えていた時、彼女に来客が訪れる。

 

…それは……。

 

夏凛「…久しぶり…ってわけでもないか。こんにちは、芽吹。」

 

かつてのライバル…三好夏凛だった。

 

芽吹「夏凛…どうして貴女がここに?。」

 

夏凛「通りすがりよ、先日の事件…大変だったわね。」

 

芽吹「…ええ。貴女も知ってしまったのね……"バーテックス"、それも人が作り出した馬鹿げた存在…今、私達が相手をしているのは2年前のような世界を滅ぼす悪魔と神ではなく、"人"そのもの……西暦時代にあったという"戦争"の歴史を繰り返させるような事態…人はまた、過ちを犯してしまったのよ。私たちも含めて…ね。」

 

芽吹のその言葉に、夏凛は黙り込む。

 

芽吹「……まずは、謝らせて頂戴。あなた達が命を賭して選んだその選択を汚してしまった事に。」

 

夏凛「そんな大層な事はしてないわ。私たちはただ、"神婚"を止めたかっただけ…そう、大事な友達の命を救いたかっただけなのよ。あの子を犠牲にしてまでこの世界を守りたいだなんて思わなかったから…その後の世界なんてどう転ぶかは誰にも分からない。神樹様が居ない今、この世界を動かすのは人なんだから。」

 

芽吹「…そう言ってもらえると助かるわ。大丈夫、私達が絶対にその過ちを正してみせるから。」

 

夏凛「…変わったわね、あんた。」

 

芽吹「…え…?。」

 

夏凛「私に喝を入れてくれた時も、心のどこかではまだ"勇者"に選ばれなかった事への怒りが見え隠れしてた…でも、あの時のあんたは自分の状況に誇りを持ってるようにも見えたの。そして、今のあんたは…私たちよりも"勇者"をしてる。」

 

芽吹「…どうしたの、何か悪い食べ物でも食べた…?。」

 

夏凛「なっ!?。人が真剣に話してるっていうのに…!。」

 

芽吹「冗談よ、ごめんなさい。でも…そうじゃないわ。私はまだ未熟なのよ…人としても。でも、気付いたのよ…それが、"人"なんだなって。」

 

夏凛「芽吹……。」

 

芽吹「…"人"として、無様に足掻いてみせるわ。この世界にもう神なんて必要無い…私達は自分達の足で立っている。この"誇り"を捨てたくないの。だから…必死なのよ、私達は。」

 

手紙を握り締め、目を閉じる芽吹。

 

芽吹「ありがとう、夏凛。貴女の顔を見たら、負けず嫌いを思い出したわ。また"強く"なってるわね、貴女。」

 

夏凛「…フン、"完成型"で通った以上は、引退した後でも完璧でなくちゃいけないのよ。芽吹…あんた達に託す事になっちゃうけど、頼りにしてるから。だから絶対に負けるんじゃないわよ…邪神教団なんかに。」

 

芽吹「ええ…必ず、奴らを1人残らず捕まえてこんな悪行を辞めさせてやるわ。その前に…バカな1人の"後輩"を捕まえに行かなくちゃ。それじゃあね、夏凛。少し落ち着いたら2人でお茶でもしましょう?ゆっくりと話したい事もあるし。」

 

そう言って、去っていく芽吹。夏凛はライバルでもあり"親友"でもある彼女の様子に問題が無いことに安堵した。そして…スマホを手にする。

 

夏凛「もしもし?…そう、分かったわ。友奈達を迎えに行ったのね?私は自分の足で行くわ。うん、風達にも連絡が行ってるなら来ると思う。ま…アイツは多分、バイトだろうけど。樹を迎えに行ってそこから向かう。ええ…また後で。園子。」

 

電話を切る夏凛は一息つく。

 

夏凛「さて、行きますか。次代を担う次の"勇者"達の為に…私達の“成すべき事"を成しにね。」

 

………………………………………。

 

流星「………………。」

 

電車に乗りながら、流星は自分の掌を見つめる。

もう…震えは無い。そして、その脳裏には親友の姿を思い浮かべて。

 

流星(…あの時、お前が身を挺して繋いでくれた俺の命…無駄にはしないよ。だから見ててくれ、俺は突き進む。どんなに辛い道であっても。)

 

「次は讃州駅、お降りのお客様はお荷物のお忘れ物がないよう………。」

 

地元へと戻ってきた流星。電車を降り、ホームに立つとそこには亜耶が待っていた。

 

亜耶「…お帰りなさい。」

 

流星「国土さん……。」

 

亜耶「結城友奈様から貴方がここに戻ってくると聞きまして…待ってました。お帰りなさい。」

 

流星「ああ…ただいま。国土さん……いや…亜耶。」

 

名前で呼ばれた亜耶は目を大きく開いて驚く。でもすぐに、柔らかな笑みを浮かべて。

 

亜耶「…はい!。お帰りなさい…リュウ君!!。」

 

「せっかくの所、悪いけど……私達にはどう説明する気?。」

 

亜耶の後ろには芽吹達も来ていた。そう、彼をここまで迎えに来たのだ。そして、今一度聞くために…彼の"心"を。

 

流星「芽吹さん…突然、あんな手紙を寄越して申し訳ございませんでした。俺……。」

 

その時、芽吹は早歩きで流星の元へと駆け寄り、そして……その頬を思いっきり殴った。

 

流星「うぐっ…ぅ…っ…!?。」

 

芽吹「当たり前よっ!!1人で思いがるんじゃないわよ!貴方の友達を助けられなかったのは私達の責任でもある!全部1人で抱え込んで、馬鹿じゃないの!?。そう言うのは一人前になってから言いなさい!。」

 

流星「っ……はい……すみません……。」

 

芽吹「それに、亜耶を助けるのでしょう!?男なら最初に決めたことを覆すな!やり遂げろっ!!途中で投げ出すんじゃないわよ!!。本当に……!。」

 

また殴られると思った流星は思わず目を閉じる。しかし、飛んできたのは拳ではなくて…芽吹の身体だった。

 

芽吹「…心配をかけさせないで。辛い事は…分かち合うべきでしょう……?。ごめんなさい…もう少し、早く来ていればあんな事にはならなかったのかもしれない…でも…1人でよく頑張ったわね……。」

 

抱き締められながら、流星はその言葉で両目から大粒の涙が溢れ出した。

 

流星「うぅう…うう…あああああああっっ!!!。」

 

夕海子「一件落着…ですわね。全く…でも、無理はいけないことですわ。」

 

しずく「うん。私達は…みんな"仲間"。」

 

雀「うぅうう…よがっだねぇ〜!!。」

 

玲司「ったく…なんでお前が泣くんだよ。」

 

しずく「きてたんだ、久遠。」

 

玲司「呼び捨て……まぁいいや。お前ら、戻るぞ?。そこは迷惑だ。バカが1人帰ってきたとこだし、お祝いで奢ってやるよ。続きはそこでやれ。」

 

雀「やったぁ!なんでもいいんですよね!?ね!?。」

 

玲司「おい、安いものにしろよ!?。この間の「強化型」を黙って持ち出したことを詰められちまって減給されちまったんだからな!?。タバコもチミチミ吸わねェといけねェ!!。」

 

しずく「…見栄を張った大人の末路。」

 

玲司「ぐっ…っ…ああもう、好きなもの食いやがれっ!!。その代わり、明日からは忙しいぞ!?この間の事件の後処理も残ってんだからな!?。」

 

……………………………。

 

〜讃州中学・勇者部部室〜

 

先日の事件から生徒の犠牲者が出た事で臨時休校となったここ、讃州中学。そして、その校内にある"勇者部"の部室…そこに、新生大赦の宗主である乃木園子は先に来て待っていた。そう…かつての"仲間"達を。

 

園子「う~ん、やっぱりここは落ち着くなぁ~。」

 

かつての自分の"居場所"に、心を和ませていた園子。そして、教室の扉が開く。

入ってきたのは友奈と東郷だった。

 

友奈「やっほー、そのちゃん!。お久しぶり!。」

 

園子「お~、わっしーとゆーゆ!!。うん、お久だねェ~。」

 

美森「そのっち、今回掛けた"招集"って?。」

 

園子「うん、それはね~?。」

 

続き様に扉が開かれる。風、樹、夏凛の3人もやってきた。役者はこれで全員…園子は集まった"勇者部"の旧メンバーの全員を見る。

 

園子「これで全員だね、このメンバーで集まるのも実に壮観だよ~。」

 

夏凛「それで、用って?。同窓会ってわけでもないでしょう?。」

 

園子「だね、さて…真面目なお話をするよ。今日、集まってもらったのは他でもない……件の邪神教団の事について。」

 

風「…ええ、先日の事件は知ってるわ。この学校からも犠牲者が出たのよね?。」

 

園子「そう。そして、今彼らに対抗出来るのは防人しかいない…私たちも2年前に力を失っちゃったしね…それに、彼らは"バーテックス"の力を使える上に、造り出す事も出来る…そこで、新生大赦は彼らを「特級天災」として正式に認定しようと思うんよ。」

 

「特級天災」。それは、類を見ない災害ランク。嚙み砕いて言えば、2年前までの"バーテックス来襲"と同格とも言えるもの。そう…もう、2度と訪れないであろう災害ランクだ。それを発令するとなると、世界規模の「天災」として認定する事となる。2年前の"神樹消滅"の混乱も収まってはいない上にこのような事態を宣言するのだ。更なる混乱は免れないだろう。

 

美森「…他の神官達は何と?。」

 

園子「もちろん、反対だよ?。この事態を宣言すれば、世界規模の大混乱を認めることになるからね。ましてや、私の宣言も受け入れられてない状況…新生大赦内でも混乱するだろうね~。」

 

樹「もし、宣言しなかったら…?。」

 

園子「先日のような規模のテロ行為が頻発すると思う。邪神教団の"儀式"は過激化するだろうね…この事態を受けて、新生大赦が動かないという噂が広まって彼らに入信希望する人たちだって増えてると聞くし…。」

 

美森「圧倒的な力を前に、死にたくないという願望から彼らに縋る道を選ぶ…というわけね。」

 

園子「うん。だから、その意味でもここでせき止めなくちゃいけない。彼らの実態を知らない人たちがその"儀式"の犠牲や狂信者なるのを防ぐためにも。」

 

風「乃木。あんたの思いは分かる…けど、それを選べばあんたは孤立無援の状態になるわよ?。ただでさえ、2年前までの体制が根強い新生大赦の現状を見ればそれを強硬するには厳しすぎる…まさしく、一枚岩ではなくなる可能性だって……。」

 

園子「分の悪い賭けってことでしょ?。分かってる、けど人の命が掛かっている以上はその賭けに勝つしかないじゃん?。だからね…お願いがあるの。私に…力を貸して?。」

 

頭を下げる園子。一同は分かっていたかのように。

 

友奈「…フフ、顔を上げてそのちゃん?。やっと、言ってくれたねって安心してるんだ?。それに、何となくそんな気がしてたからさ?。」

 

園子「ゆーゆ…。」

 

美森「そのっちが相手をするのは"世界"よ?。言われなくても力を貸すわ。」

 

風「…よぉし、やってやろうじゃないの!!。あたし達はあたし達なりの戦いをする!!。」

 

夏凛「はぁ…あんたが危ない橋を渡るのは予測がついていたからね。そのつもりでここに来たのよ、そうでしょ?"部長"?。」

 

樹「あぅ…えと…そうです!。同級生がかつての私達と同じように戦ってるんだ…なら、私達にもやれる事はありますよ!。そう…“成すべき事"が!。」

 

全員のその心に、園子は思わず瞳が潤む。でも、喜んでいる場合じゃない。この世界に更なる混乱を招くかもしれない…けど、この判断はきっと間違えていないと園子は思う。それが、今の自分達に出来る"戦い"なのだから。

 

園子「…ありがとね、みんな。それじゃ、始めよっか?。旧勇者部の"新たな戦い"を!!。」

 

ー伝えよう…この世界が辿って来た本当の"真実"をー

 

………………………………end。




300年も辿った歴史。

知るものは少ない…2年前に何があったのか…そして、「外」の世界の真実を。

全ての人に知る権利がある。
この世界の…"真実"をーーー。

次回
第26話 大赦の"真実"。
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