紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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その者、2人で1つ。

そして、自らの存在価値を示すために生きてきた。

…"恨み"と"渇愛"の中で、翻弄されながら…。


第29話 「双子座」。

…結局、「蟹座」からは何も情報が得られなかった。でも、目的はそうじゃなかった。奴の…本音が聞きたかった。ただ、それだけだった。

最後に亜耶が話した「敵対するだけじゃ何も進まない」。

その言葉は心の中にストンと落ちた気がした。そうだ、コイツらだって理由があるから世界を敵に回している。ただ、やり方が過激で賛同は出来ないが、それでも"知る"ということはとても大切な事なのだ。

 

「争い」を無くすのは正直、無理に等しいだろう。人は相互理解が出来ない生物…だからこそ、誰かを嫌いにもなるし好きにもなる。それは、自然の摂理のようなものだ。全員が互いを理解して生きていくなんてことは絶対と言っていいほど、無理なことなのだ。

 

だけど、理解"しよう"とする事は出来る。それだけで、人は互いに歩み寄れるのだ。今回、亜耶が伝えたかったことはそうなのだろう。そして、それを聞いた俺もそう思った。止めるにせよ何にせよただ、一方的ではダメなんだ。

 

戦いながら少しずつでもそうしていこう…その中で、コイツらの本質を見極めて道を探せばいい。宗主様が目指す世界はきっと、そう言った世界だと思うから…ーーー。

 

…数日後。

防人隊を含め、亜耶と玲司も再び本殿へと赴いていた。

ここの所、宗主様は自分達をよくここに呼ぶようになった。

あの宣言以降、自分達の存在と活動が認知されたんだ。学校にも隠す必要がない…ただ、"特別視"される視線だけはどうにかして欲しいとは思うが…仕方がない、これも"お役目"だ。事実、"元勇者"のあの人達だって自分達の正体を晒したようなものだ。度重なる"邪神教団"のテロによる抑止力を誇示しなければ、民衆の安心と信頼は得られず、不安と不信感の中で毎日を過ごさなければいけなくなっていたと思うから。

 

"防人"は今や、新生大赦…いや、乃木園子の「懐刀」という意味合いが強いとも言える。ただ、これが民衆達が変に解釈しなければいいが……最も、恐れるのはそこだった。それは、宗主様も想定していることだ。

 

そう…302年前の"初代勇者"達は民衆にその正体を公表し、世間から崇められていたとも言える。しかし、その声が大きければ大きいほど彼女達の"心"は疲弊していき、やがては成果が出せなければ罵倒の的へと変わっていくこともあった。

 

やはり、"特別"に対しての過度な期待は変わらない…"普通"は"特別"に対しての期待値が大きすぎる。それ故に、自分達がヘマをすればきっと罵倒が飛び交うかもしれないだろう。

自分を含め、33人全員がその"お役目"に対して誇りと矜持を持っていることなんてないだろう。自らの目的や未来のために戦う選択を持った者が多いはずだ。そう、自分がそうだから。

 

だから、今回のこの宣言の後に浮上するであろう問題は慎重に取り扱わなければいけない。希望を見出した民衆が暴走しないように……宗主様は自分のご先祖様が経験し、悩んだ事と同じものを俺達が味合わないように。…あの人の本当の戦いは…ここからだと言える。

 

そして、今回呼ばれた理由についてだが…件の「蟹座」の事だった。

情報の抜き取りには失敗した…だが、亜耶が言った通りに「理解する」と言った方針へと変えていき、少しずつでも教団の詳細が分かればそれでいい…犯罪者といえど、彼にもある一定の人権は必要だからと宗主様は俺達にそう告げた。

 

園子「ってなわけで…解散!!。」

 

厳格な「宗主」ではなく、普段の「乃木園子」として今回の事を告げた彼女。不思議と、その雰囲気に俺達は緊張というものが全く感じられるずにその話を聞き入れられた。

こうして帰路に着く寸前、俺は最近気になる人が居る。

 

高崎 美咲さん。

 

芽吹さんに次ぐ、前衛の防人…そして、その座を狙っていると言われているがその実力は本物だった。芽吹さんに匹敵するほどの戦闘能力の持ち主であり、讃州市のテロ事件時には“人造バーテックス"を単騎で撃破している。それがあったおかげで、芽吹さん達は俺の元へとやって来れたと言う。

 

気になると言うのは、その強さではなく彼女の"心"。

 

"力"を誇示するための執着が凄まじい…それは最早、民衆の為ではなくて自分の為。結果を残す事に全てを費やしていると言っても過言ではないその"心"を感じ取っていたからだ。

 

美咲「……何…?。」

 

流星「あ…いや………。」

 

視線を向けすぎていたのか、彼女に気付かれてしまった。こうなれば言い訳なんて出来ない。

 

流星「すみません…少し、気になったことがあるんです。その…高崎さんは何で"力"に執着するんですか?。」

 

…しまった、言葉を選ばずにストレートに言ってしまった。

そんな後悔が、頭を過ぎる。しかし、意外にも彼女は怒らなかった。

 

美咲「別に…ただ、私は自分が強いと言う証明がしたいだけ。あんた、色々と聞きたそうだね…いいよ、特別に教えたげる。ただ…他の奴らには言わないで欲しいんだけどね。」

 

…今、この場にいるのは自分と彼女だけだ。流星はそれを飲み、聴くことにした。そして、近くの公園へと足を運んだ。ここからは自由時間だ、何をしてようが問われることはない。

 

美咲「…私の心の内を感じ取ったんでしょ、あんた。」

 

流星「…はい。すみません…決して探るつもりじゃ……。」

 

美咲「だから良いって、気にしないでよ。そんな力を持ってるんだもん、暴発したって不思議じゃないし…そんな感覚で戦ってるなら嫌でも人の心を感じとっちゃうんだろうからね。」

 

そうして、ブランコに乗って話し出す。

 

美咲「私ね、生き別れの妹がいるの。」

 

流星「…生き別れの…妹さんが?。」

 

美咲「そ。幼い時にね、両親が離婚したのよ。双子なんだよ…その妹の事はよく覚えていないけど、ある日に1人の神官に言われたんだ?。"邪神教団"に私とそっくりな顔をした少女が連れ去られたって。」

 

流星「…まさか…"巫女狩り"で!?。」

 

美咲「さぁね。ま…ここ数年で"巫女"の素質を持つ者が爆発的に増えてきたって話だからその線が濃厚かもしれないね。だから、力をつけてその妹がちゃんと生きているのか確かめたいのよ。本当は、すぐにでもアイツらのアジトに殴り込みを掛けてやりたい気持ちなんだけど…"十二星座の使徒"と真っ向から戦って勝てる気がしない……ただ、生きてるか死んでるか確かめたいだけの話。家族はもう崩壊してるも同然だからさ、妹がどうであれ答えを知れればそれでいい。」

 

そして、拳を握り締める彼女の瞳には…"恨み"さえも感じ取れた。

 

美咲「…あの楠芽吹の座を奪う事が出来れば、防人は私の指揮下になる。そうすれば、私の本懐を成し遂げることが出来る…妹の生死…無責任な両親のせいで引き離されたたった1人の家族の生死がね…。」

 

それを聞いた流星は、立ち上がって思った事を口にする。

 

流星「それはダメだ、高崎さん!。仲間の命を危険に晒すことになる!!そんなことをすれば、貴女は誰かから恨まれる!!。」

 

美咲「別に構わないよ?。誰に恨まれたって、知りたい答えが知れるならそれでいい…防人はね、私が答えに近付く為の手段でしかないの。ただ、立ちはだかる壁が大きいから"力"が必要なだけで…そうすれば、何も奪われずに済むでしょ?。」

 

流星「そうかもしれないけど…だからと言って、仲間の命を…!。」

 

美咲は流星の前に立ち、鋭い眼光で見つめる。その目はまるで…憎しみを込めたかのような。

 

美咲「そんな綺麗事で成し遂げたい事を成せるはずなんてないんだよ。あんた、現実志向なんでしょ?それくらい、分かるよね?。」

 

その瞳で見つめられた流星はその瞳の奥に感じるものと同時に、"恐怖"すらも感じ取れた。

この執着……相当なものだと。

 

美咲「あんたは良いよ…その力は紛れもなく、何かを変えられる力だから。でもね、私は違う。"勇者"の代わりものであり、替えの利く"代替品"…いくら、宗主様がそう言ってくれたとしてもこの事実だけは変わらないんだよ。だからこそ、上り詰める必要がある……強くなれればきっと、欲しいものがいくらでも手に入る。だから……。」

 

「その"欲望"…実にいいね?。」

 

響き渡る少女の声、2人に悪寒が走る。

ゆっくりと歩み寄る少女の顔には「双子座」を表すマークが施された仮面……新手の"使徒"が現れた。

 

流星「新顔!?。なんでここに…!?。」

 

ジェミニ「お迎えに来たんだよ……ねェ、私を探してたんでしょ?"お姉ちゃん"?。」

 

そう言って、美咲を見ながら仮面を取る少女。その顔は美咲とほとんど同じだった。そしてその後に続いた「お姉ちゃん」と言う言葉…それを聞いた彼女は絶句する。

 

美咲「ま…まさか……あんた………。」

 

驚く"姉"に、クスクスと笑う少女…そして、その瞳の奥には他の"使徒"と同じような"気迫"…。

 

…長年、探していた妹が突然現れたのだ。流星は感じ取る…。

 

この瞬間を、待っていたんじゃないかと。

 

当の本人は、端末を手に取るが変身しない。恐らく、頭の中が整理出来ていないのだろう。ならば、この場で動けるのは…自分しかいない。

流星は、端末を構える。

 

…しかし……。

 

流星「ぐううっ…!!?。」

 

背中に突然、激痛が走る…脂汗が自然と溢れ出す。

恐る恐る、後ろを振り返ると……。

 

美咲「…………………。」

 

美咲が無表情でハサミを握り締め、それを流星の背中に突き刺していたのだ。

着ていた服が徐々に赤に染まる…そして、目の前にいる「双子座」は朗らかに笑って。

 

ジェミニ「アハハハハハッッ!最高だよお姉ちゃん!!。」

 

美咲「…邪魔しないでよ紫藤。大丈夫…致命傷は避けてるからさ。」

 

その場に崩れ落ちる流星を冷たい視線で見つめる美咲。そして、「双子座」に歩み寄る。

 

美咲「…………美優(みゆ)?。」

 

ジェミニ「…そうだよ?。会いたかったな…お姉ちゃん。」

 

2人は互いに手を取り合い、その再会を喜び合う。

普通なら、感動的な再会だ…しかし、流星は「双子座」の奥底にある"悪意"を感じ取っていた。そして、朦朧とする意識を何とか維持しながら血に塗れた手を伸ばす。

 

流星「……ダメ…だ……高崎…さん……ソイツは…!!。」

 

ジェミニ「ねェお姉ちゃん。力が欲しいんでしょ?私ね、"邪神教団"に入ってからとっても強くなったんだ?。この力は神様にも近い力…紛れもなく"勇者"よりも強い力なんだよ。せっかく会えたんだ…これ、プレゼントしたいな?。」

 

そう言って、「双子座」が手渡したのは一本の注射器…美咲はそれを手にする。

 

流星(まさか…あれが……"バーテックス因子"!?。)

 

美咲は導かれるがままにその注射器を手に取る。

 

美咲「…これで…私は……。」

 

流星「ダメだ……ダメだァアアアア!!。」

 

声を絞って手を伸ばす流星。必死に制止するも……。

 

ーもう、何も失わずに済むんだー

 

………彼女は、誘惑に負けた。

首筋に根元まで針を差し込む。そして、中の薬品を自身の身体の中に投与。すると、目が血走ると同時に自身に邪気が纏い始めた。

 

ジェミニ「頑張ってお姉ちゃん!!。認められればその先にあるのは…!!。」

 

美咲「があああ…嗚呼ああああああああ!!!。」

 

獣のような咆哮…吹き荒れる邪気がその周辺に渦巻く。

そして………「双子座」が笑った。

 

ジェミニ「…おめでとう…お姉ちゃん!。やっぱり、私たちは"2人で1つ"だったんだ!!。」

 

邪気が収束すると、そこには黒いローブを纏った美咲の姿が…そして、額には「双子座」を示す「♊︎」の痣が刻まれていた。

 

…目の前で、"人"が"十二星座の使徒"へと変わり果てた…そのあまりにも信じられない光景に流星は目を大きく見開いた。

 

ジェミニ(美咲)「……さようなら、紫藤。私は望みを叶えた…そうか…最初からこうすれば良かったんだ…近道は"ここ"にあった。私は……"悪魔"になる素質があったんだ……。」

 

ジェミニ(美優)「そう!。"勇者"なんてくだらない!。"神"がいないなら"悪魔"になればいい!!。さぁ、私達と一緒にこの世界を素晴らしい世界にしよう!?。そう…神様さえも殺せる人類に進化したんだ!!。ここから始めよう?私達の空白に穴を埋めるために。」

 

2人の「双子座」は互いに手を繋ぎ、その場を後にする。

 

そして、流星は…意識を手放した…ーーー。

 

…………………………end。




力を求めた少女は、"人"を捨てて"悪魔"になる道を選んだ。

不意打ちで意識を手放した流星は病院で目覚める。

そして…自らの前に立ち塞がる"壁"を痛感することに…。

次回
第30話 自分が成せる事。
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