止められなかった。
だが、少年は絶望しない。
前に進む…そう決めているから…ーーー。
……あの人は目の前で"人"を捨てた。
俺は、ただただその光景を見ている事しか出来なかった。
その道を選んだことに、何も言えない…彼女のその意志が強かったから言える言葉が見つからなかった。
それも、一つの結末なのかもしれない……個人の人生は個人のものだ。俺がどうこう言える権利なんてない。
しかし…それでも、止めるべきだったと後悔は残る。
これからどうしようか……冷静に考えなければ、間違った結末を招いてしまう。
慎重にいかないと……俺は、そう考える…ーーー。
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~讃州市・病院~
芽吹「流星、具合はどう?。」
高崎さんに背中を刺された俺は、あの後意識を失い、通りがかった通行人によって病院へと担ぎ込まれた。
背中に刺し傷一つ…あの人の言った通り、命に別状はなかった。ただ、痛みはまだ残る…戦闘は避けたほうがいいだろう。
やってきた芽吹さんが見舞いの品を持ってくる。この病院にはよく来るようになったなと、俺はそう思う。
流星「芽吹さん。はい、本調子とはいきませんが動く分には問題ありませんよ?。」
芽吹「そう…良かった。」
夕海子「……高崎さんの事ですが、邪神教団に鞍替えしてから特に大きな動きは見せていませんわ。」
シズク「は…あの裏切り者め、次会ったら容赦しねェからな…!。」
…高崎さんの離反は新生大赦全体にすぐに報告がいった。持ち出された防人システムは遠隔制御で停止をかけているという…ただ、"使徒"としての力を手にしてからは防人の力なんて不要だと思うが。
そんな事を思っていたが、やはり俺の後悔はちゃんと止めることが出来なかった事。目の前で仲間が"悪魔"に手を染めたのだ。
流星「これから、あの人はどうなるんですか?。」
玲司「ああ…正式に、除名処分となったよ。自らの意思で反旗を翻したんだ。あいつは……"敵"として、認知されちまった。」
その言葉に、流星は胸が締め付けられる思いだった。
玲司「坊主、お前の気持ちはわかる。けどな…それでも俺達は民衆を守らないといけない。それに仇成す者がいれば、腹を括らなきゃならねェ。時には…残酷な決断だって必要なんだよ。そういうもんさ。」
流星「…ええ、わかってます。当然、俺もそのつもりです。あの人はきっと、妹さんが邪神教団にいると分かったら防人を抜けるつもりだったのかもしれません。あの人が強さに固執した理由がそうでしたから…。」
芽吹「……そう。人には理由がある。それは私たちだって一緒…彼女が牙を向けてくるのなら、私は真っ向から対峙するわ。さて…そろそろ帰るわね?流星、安静にね?。」
そう言って、芽吹は一足先に病室を後にする。
その後、彼女が向かった先は……夏凛の元だった。
この時間帯はいつも、"あそこ"で鍛錬を積んでるはず……そう、いつも彼女が鍛錬を積んでいるあの砂浜へとやってきた。
案の定、そこに夏凛はいた。
芽吹「…精が出るわね?。戦わなくてもいいのに相変わらず、鍛錬を積んでいるの?。」
夏凛「…ふぅ……芽吹。」
差し入れを持ってきた芽吹。2人は砂浜に腰を落として飲み物を飲む。
夏凛「聞いたわよ、防人から離反者が出たんでしょ?。」
芽吹「話が早いわね。そう…私たちは彼女の心の底を理解出来ていなかった。彼女は彼女の意思で邪神教団へと寝返った…それは並大抵の覚悟じゃないわ。」
夏凛「そっか…じゃあ、あんたの覚悟も決まってるよね?。」
芽吹「ええ…私たちは"防人"。人を守る為の新時代の"勇者"よ。彼女が無辜の民達に仇成すなら私も引き金を引く事を躊躇わない。」
自分の手のひらを見る芽吹。その手は、年端の少女には似つかわしくない傷だらけとマメの跡が残る手。元々、ストイックな彼女は強くなる為の努力を惜しまない。ここにいる夏凛と同じく、強い自分でいる為に常に自分に課題を課しているのだ。
…自分は、"勇者"に選ばれなかった…あの時の悔しさはずっと残っている。でも、それ以上に自分は皆を引っ張っていくリーダーだ。
……皆を守るために強くなる。
今の自分は、あの時の"勇者"に憧れていた自分ではない……。
そう思って動く芽吹は確実に強くなっていた。
夏凛「…今思えば、あんた達には大変な役目を押し付けちゃったわね。私達は"バーテックス"といった化け物を相手にしてたけどあんた達は"人"…思惑そのものが相手のようなものよ。化け物と違って明確な意思がある…きっとそれは…。」
芽吹「それでも決めたことよ。この時代を守るのは私達…だから、ちゃんと割り切ってる。」
夏凛「そっか……。」
しばらく、沈黙が続く。
そして……芽吹が先に話し出す。
芽吹「夏凛、手合わせしない?。今の貴女と剣を交えてみたいの。」
夏凛「流石に、今のあんたには敵わないわよ…でも…いいわよ?。私だって、まだまだ遅れは取らないことを見せてあげるわ。」
そう言って、鍛錬用の木刀を投げ渡す。それを受け取った芽吹は楽しそうに柄を握り締めて。
そして……打ち合う。その場には少女2人が木刀を振り翳している光景。カンカンと、互いの攻撃が打ち合う音がこだまする。
2人は打ち合いながら、あの頃を思い出す…"勇者選抜"の為の鍛錬…互いに切磋琢磨し、己を高め合ったあの頃。
同じ苦労を分かち合い、時には良きライバルとして競い合ったあの頃。
相変わらず、強い。
そう思う2人…でも、お互いに負けず嫌い同士なので打ち合いがどんどん激しくなる。でも、楽しい…嫌な事や与えられた使命の重ささえも忘れられるこの瞬間…やはり、「好敵手」は良き「親友」でもある。
芽吹の気持ちは夏凛にしか分からないだろうし、夏凛の思いも芽吹にしか分からない事だってある。
この打ち合いは、お互いを確かめ合う交流のようなものだ。
…それから、小1時間は互いに打ち合った。決着は…また付かなかった。
実戦かと思わせるほどの激しい打ち合いの中で、2人は疲労困憊となり汚れなんて気にせずに砂浜に大の字で倒れ込む。
芽吹「はぁ…はぁ……敵わないって…どの口が言うのよ……貴女、生身でも"使徒"と渡り合えるんじゃないの……?。」
夏凛「何を…そんな…冗談……流石に…死ぬわよ……。」
乱れる呼吸で言葉が途切れ途切れとなる中、2人は笑い合う。
夏凛「…久しぶりにこんなに楽しい鍛錬はなかったわ…。」
芽吹「私も…一心不乱に何も考えずに剣を振るのもたまには悪くは無いわね……。」
夏凛は、芽吹に目を向ける。
夏凛「芽吹…負けるんじゃないわよ?。どんな理不尽が降りかかっても…あんたはあんたを貫きなさい?。」
芽吹「…それは、"先達"として?。」
夏凛「ううん……"親友"として…よ。」
その言葉に、芽吹は瞳を閉じて笑みを浮かべる。
芽吹「…ええ、任せなさい。必ず…私達が……。」
ー人の世を守るわー
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数日後。
流星は治療を終えて退院。あの事件…邪神教団の『讃州市襲撃事件』から一時休校とされていた学校は再開。いつも通りの日常が始まる。
でも…それでも、"失った"ものは戻らない。そう……。
流星「……峻輝…。」
教室に入ると、峻輝の机の上には彼を弔う供物がたくさん置いてあった。
誰もが、彼の死を悲しむ…それだけ、峻輝は皆に好かれていたのだ。
彼の明るさはいつしか、自分の家族が犯した罪さえも忘れさせるほどでいつの間にかそう言った過去も気にされないほどに。
同じく、登校した亜耶と樹も彼の机に花を置く。
だが、流星は何も置かない…。
樹「紫藤君は何も置かないの?。」
流星「ああ…何か違う気がして。」
亜耶「違う?。」
流星「…俺は…峻輝を助けられなかった。それは、どんな理由であれ罪と同じだ。」
亜耶「リュウ君、でもそれは……。」
流星「分かってるよ。悲しんでるんじゃない…やらなきゃいけないんだ。助けられたからこそ、アイツに胸を張れるように俺は…教団を止めてみせる。それが…託された事の意味だ。」
樹「そっか…。」
流星「全てを終わらせた時にアイツに手向けの花を置く。それまでは置かないって決めたんだ。次、"会う"時は自分の成す事を成し遂げた報告をする時…その時、アイツと本当に"別れる"踏ん切りがつきそうだから…。」
流星は自分の拳を握り締める。
流星(…そう……俺は戦うよ。お前が隣に居るって思えば頑張れる。そして、全てが終われば俺はお前を"送る"。だから…もう少しだけ、俺に力を貸してくれ……峻輝。)
…親友が力を貸してくれる。それは物理的では無く"理由"としてもだ。
だからこそ、頑張れる……背中を押してくれる人がちゃんと居るから。
…流星と芽吹は、前を歩く。
成すべき事の為に…ーーー。
そう…俺達は託されてきた次代の"勇者"であるから。
だから、戦う。どんな理不尽が相手でも…そう、それが俺(私)達の…。
ー"理由"だからー
…ー壱『紫藤流星の章』……完。
ーーーーーーーーーーーーー。
「…『計画』は順調です…“大司教"。」
…瀬戸内海のどこかにある孤島…そこに建てられた巨大な建造物はまるで"聖堂"。しかし、何処か禍々しくて。
だが、その“大司教"は何も言わない。それがわかっているのか、"彼女"もそれ以上は何も言わない。
一際、巨大な椅子の前に跪くのは、獅子座・『レオ』。
体躯の小さい少女の声とは裏腹に、放つ威圧感は自分でも抑えきれないほどにまで他の"使徒"も圧倒していた。
そう…"十二星座の使徒"の中でも『最強』と呼ばれるこの少女は邪神教団の最高戦力…彼女はなかなか動かない。何故ならば、「そうする必要が無い」からだ。しかし……。
レオ「……世界は乃木園子の意思に賛同し、動き出しました。ずっと"閉ざされた"この世界の刻が動き出したのです。だから、今回は私も"出よう"かと……。」
仮面を取る「獅子座」。フワリと靡く赤い髪……赤い瞳。
その顔は……
……結城友奈と全く同じ"顔"だった。でもそれ教団が造り出した"複製人間"とは全く違って、紛れもなく……。
"本人"だった…ーー。
……………………end。
良くも悪くも、世界は"動き出した"。
様々な思惑が交差する中、次代の"勇者"となった少年も少女は新たな戦いへと身を投じる事になる…ー。
次回
ー弍『防人の章』ー
第31話 “黒百合"。