紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

32 / 82
"人として成せる事"。

…あの事件から2か月後…8月。

身を刺すほどの猛夏の中、それを胸に、防人達は今日もお役目を全うする…――




第弐部…「防人の章」。

開幕。


・弐章『防人の章』
第31話 “黒百合"。


芽吹「…お疲れ様。全員、ちゃんと揃ってるわね…?。」

 

傷だらけの隊員達を見て、芽吹は全員の安否を気に掛ける。

そういう彼女だって、受けた傷は浅くはなかった。

 

流星「…はい…なんとか……。」

 

 

 

 

…ここ最近、「邪神教団」の活動が活発化してきている。

先日は徳島辺りで"使徒"の一人が現れた。

やっていることは以前と同じ"巫女狩り"だ。

もう既に、40人ほどの犠牲者が現れている…ただ、想定被害者は100人ほど…ここ最近の自分たちの活動によって、半数以上の犠牲を未然に防ぐことは出来たが、それでも彼らの手に掛かった者たちの事を思うとやりきれない気持ちとなる。

 

その遺族が抱える哀しみや恨みは決して晴れない。

彼らのその嘆きや哀しみがダイレクトに感じるわけだから、救えなかったことに悔やみが出てしまう。

だけど、芽吹さんはこう言ってくれた。

 

 

 

「…全てを救えるほど、私たちは万能じゃない…それ以上の事をしようとすると、きっと身がもたない。だから、出来ることを全力でやり遂げましょう。」

 

 

 

……この言葉が救いになる。

人の心の声を感じることが出来る自分は、ここ最近の出来事全てに気を張ってしまう。

それ故に、身の丈に合わない行動を取る事だってあった。

その度にを怪我をして、亜耶に心配をかけている…もっと、周りの事も考えないといけないなと思いながら、今を過ごしている。

 

そして今日、邪神教団がけしかけた"人造バーテックス"を撃退してその戦闘を終えたばかりだ。

 

しずく「……なんか、今日の"人造バーテックス"は強かった。」

 

夕海子「…ええ、そうですわね。あの個体は「ベガ」…何度も交戦経験がある相手ですわ。戦い方も熟知していますし、苦戦を強いられるほどでもないと思いましたのに……。」

 

雀「うぇえ……苦戦しまくりだよォ、もう嫌だよォ……。」

 

芽吹「泣き言を言わないの。それだけ、相手は力を付けている証拠よ。こうなれば、訓練の精度をもっと上げて……。」

 

雀「やーめーてーっ!!。これ以上は死んじゃう、たださえ暑いのにっ!!。」

 

「休むことも鍛錬の一つだぞ?。」

 

そこにやってきたのは玲司と、長い髪をポニーテールにまとめた亜耶。

亜耶は救急箱を持ってきていた。

 

亜耶「お疲れ様です皆さん。今日もお勤め、ご苦労様です。」

 

ペコリと頭を下げる亜耶。

この2か月、色々なことがあった。

 

彼女の"神託"の力はどんどん強まってきている。

先ほども言ったが、"巫女狩り"における被害者の数が想定よりも下回っているのは、彼女の"神託"のおかげでもある。

だが、それも突発的に現れることもあるし数日前から現れることもある…ただ、言えるのはその詳細がはっきりとしている事。

 

「何処で、誰が、いつ?」といった事までもが分かるらしい。ただ、それでも被害者をゼロにできないのは自分たちの力量不足だ。

しかし、教団も彼女のその力を完全に認知している。

狙われている事には変わりない……俺が戦う理由も変わらない。

「彼女を助けるため」……それがあれば、どんなに辛くても前を向いていける。

 

だから、この2か月の間は彼女を一人にすることが無かった…必ず、誰かが一緒にいる。

それは"宗主様"から言い渡されたことでもある。彼女を失えば、それこそ"邪神降臨の儀"が大きく動くことになる。そして、彼女はその命を贄として捧げられ、人ならざるもののための"人柱"とされてしまう。

これは何としても阻止しなければいけない…"邪神降臨"を防ぐことじゃなく、「国土亜耶」という一人の少女の命を救うためだ。

 

そう、防人の最重要の"お役目"は彼女の安全を確保すること……ここだけの話だが、今、宗主様は極秘裏に"あるもの"を開発しようとしているらしい…。

それが何なのかは分からないが、きっと俺達の助けになるものだという……。

 

出来れば、こんな戦いは早く終わらせたいが今、俺達に出来ることは少しでも多くの"巫女候補"達を守る事と、亜耶の身を守る事…戦争がしたいわけじゃない、歪んだ思想を止めなければいけないんだ。

 

そう思って、毎日を踏ん張っている…―――。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

流星「…黒衣の"使徒"…?。」

 

防人寮に戻った芽吹達は、手当を受けた後に切り分けられたスイカを食べていた。

外は暑い…戦闘の後、全員はシャワーを浴びてその汗を流し終わり、涼しい部屋で食べるスイカに舌鼓を打つ。その中で、玲司から"黒衣の使徒"と呼ばれる言葉を聞き、全員がその話に耳を傾ける。

 

玲司「各地で、被害をもたらしている謎の人物だ。そいつは何処か、"勇者"に似た力を行使している。」

 

雀「え……このタイミングで新手…?。」

 

顔が真っ青になる雀。

 

芽吹「…ちょっと待って…"勇者"に似た力…?。」

 

玲司「おう。これ、新生大赦が開発した装置なんだけどな…?。」

 

そう言って、印籠の形をした端末を一同に見せる。

 

玲司「これの名前は「日像鏡(ひがたのかがみ)」。この世界に散らばった神樹様の残滓を測定する装置なんだ。」

 

夕海子「それがどうしたんですの?。」

 

玲司「お前たちの力は、"勇者"に似て非なるもの……少なからずとも、"神の力"がほんの一部だけ内包されているんだ。楠と弥勒の「強化装束」は特にその残滓の力が大きい……ほら、見てみろ。ほんの僅かだが、"残滓"の反応があるだろ?。」

 

ディスプレイに映し出された表示には、赤い点のようなものが見える。

これが、"残滓"を力として反映させた反応……"恵み(エネルギー)"としての反応は「青」で表示される。

 

玲司「つまり、先日現れた"黒衣の使徒"の反応も「赤」を示していた……ということは、奴もお前達と同じような力を持った存在ということなる。」

 

しずく「……その"黒衣の使徒"がもたらした被害って…?。」

 

玲司「主に新生大赦の関連企業や施設への襲撃だ。死者は出ていないが、こちらの動きを止めるかのような動きを見せてやがる。」

 

流星は何処か引っかかるような表情をする。

…"勇者"に似た力……自分たちと同じような力を持つ者…そして、その言い回しだと"邪神教団"の者だろう。

 

まさか、「水瓶座」が?。彼の過去は"旧大赦"の研究部門に所属していた過去を持つ。

それ故に、"勇者システム"に深く精通していたからこそ、そのノウハウを生かして同型のシステムを作り出したのかもしれない。

 

だとすれば、その適合者は誰なのか……。

流星はそこが気にかかる。

 

玲司「…巫女ちゃんの"神託"のおかげで奴らの行動前にいくつかの対策は打てている。そのうち、かち合うかもしれねェ。分かることは敵だということだ。覚えておけ?。」

 

流星「わかりました。その…亜耶、"神託"の影響はないのか?。」

 

亜耶「うん。時々、頭が痛くなるだけで大丈夫だよ?。」

 

流星「そっか…ならいいんだ。」

 

雀「何々?流星君、あややと最近仲良しだけどいい関係なの?。」

 

亜耶「ふぇッ!?。」

 

流星「や…やめてくださいよ全く…。」

 

芽吹「雀。余計なことを考えている余裕があるなら、訓練メニューを増量しても問題ないわね…?。」

 

雀「うええ!?。それはご勘弁をォォォォっ!。」

 

流星(…"黒衣の使徒"…か…。)

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

園子「……ごめん、車を停めて…?。」

 

帰宅途中、送迎の車の中で"何か"を見た園子は運転手にお願いする。

いきなり、こんなことを言うのだ。運転手も驚きを隠せない。

そして、停車した途端に彼女は扉を開けて車を降りる。

 

「そ…園子様!?。」

 

園子「そこに居て。大丈夫、すぐに戻るから。」

 

それだけを言うと、車から少し離れた後方…その道の脇に向かって、彼女は声を上げた。

 

園子「目的は"私"だよね?。君……ずっと、後を付けてきたのかな…?。」

 

いつもよりも、低い声で問いかける園子。

その時、周りの空気が"止まった"。

 

「…鋭いな。流石、元勇者……いや…現大赦の宗主様といったところだな。」

 

陰から現れたのは、黒衣と仮面をつけた人物…その声色から察するに男の声だ。

 

園子「……今を騒がす件の人物……君が"黒衣の使徒"だね…?。」

 

「…使徒……そんな枠組みではないさ。そうだな…俺の事は"黒百合"とでも呼んでもらおう。」

 

"黒百合"と名乗ったその男が出す雰囲気はまるで氷のよう…"十二星座の使徒"とは違った別の不気味さを滲みだしていた。

 

園子「黒百合……怖い名前を名乗るんだね…?。」

 

黒百合「俺もそう思う。だが……この"システム"がその名で呼ばれているんでな。名を名乗るのも面倒だから、こう名乗っている。」

 

ゆっくりと歩いてくる黒百合。殺気は感じない……それでも、園子の直感が危険信号を出していた。

 

園子「それで…私に何の用かな?。これでも、忙しいんだけどな……また今度というわけにはいかない?。ちゃんと埋め合わせはするからさ?。」

 

黒百合「…すまないが、俺も"予定"が埋まっていてな。無理を承知でお前に接触したんだ。乃木園子……。」

 

氷のような冷たさがさらに加速。

その刹那、殺気が一気に解放された。

 

―そのお命…頂戴する…!―

 

…一瞬の速さ。冷たい刃が一気に引き抜かれる。

 

園子「ッ………!!?。」

 

着ていた洋服が朱に染まる。そしてその直後に灼熱の痛みが身体に走り、思わず態勢が崩れそうになる。

 

黒百合「……外したか……流石だな。この俺の刃を、人の身で躱すとは…。」

 

園子「…そう…かな……ふふ…避け切れてないからこんなに痛いんだけどな……。」

 

身体の芯を外すも、その刀傷は浅くはなかった。

横腹を切り裂かれ、血が溢れ出る。

 

黒百合は、手に持つ刀に付いた彼女の血を振り払う。そして、その"刀"に、彼女は見覚えがあった。

 

園子「……ちょっと、冗談がキツイんじゃないかな……それ……"ご先祖様"の刀なんだけど…。」

 

痛みに耐えながら玉のような汗をかき始めた園子は、その刀を見て片膝をついた。

 

黒百合「察しがいいな…そう、これは"初代勇者"が神の力を賜ったときに手にしたもの…これはお前の先祖のものだったな……"乃木若葉"が振るっていた業物……「生太刀(いくたち)」だ。」

 

302年前、"初代勇者"が手にしていた神器「生太刀」。

それはかつて、この"日本"に存在していた神々の武器…これに選ばれた彼女は"勇者"として、後の"終末戦争"に身を投じたのだ。

その後の行方は、「乃木家」代々に大切に保管されてきたが、それが彼の手にあるということは……。」

 

園子「……私の…お家を襲った…ね…?。」

 

黒百合「隠しはしない。だが、命までは奪っていない…少し眠ってもらっただけだ。俺はお前の命を奪うように言われてきたからな。」

 

園子「……教団の…人…かな…?。」

 

黒百合「…そうだ、まあ……その中でも特に"異質"な人物だ。他の"使徒"とはくらべものにもならない……さあ、もう限界だろう?。次は……。」

 

ゆっくりと歩み寄る黒百合。だがその時、園子を呼ぶ声が響いた。

その声の主は夏凛。この止まった空気の影響を受けずにやってきたのだ。

 

黒百合「…力を失えども、"勇者"だった者はこの影響をうけないのか。勉強になった…今日はこれで失礼する。この程度で死なないように願うぞ?。」

 

そう言って、黒百合は陰の中に消えていった。

気が紛れたのか、園子は意識が一気に遠のく。

そんな彼女を、夏凛が支えて。

 

夏凛「ちょっと、しっかりしなさいよ!。そこにあんたを送迎してるいつもの車があったから来てみたものの…待ってなさい、すぐに運転手を呼んでくるから!!。」

 

園子(…"黒百合"……何故かな……あの声の中に何処か……。)

 

 

―並みならぬ憎しみを感じた……―――――

 

そう思いながら、園子は意識を手放した…――

 

……………………end。




"黒百合"による「乃木園子襲撃事件」。

これは、世に震撼をもたらした。
彼が引き起こした「乃木家襲撃」は、新生大赦の機能を一時的に麻痺させた。

この事実を以て、防人達の"お役目"は「黒百合」の拘束に力を入れることに。

次回
第32話 白き花と黒き花。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。