光と影。
それは……相反するもの…―――
"黒百合"による「乃木園子襲撃事件」と乃木家の襲撃…。
"初代勇者"『乃木若葉』が手にしていた神器「生太刀」の強奪。
この3つの出来事は、新生大赦にとって大きな震撼を与えた。
現在、新生大赦の最高権力を持つものは名家「乃木家」。
その「乃木家」と肩を並べるほどの名家「上里家」はそのフォローに入っている。
故に、表舞台に立つことは滅多に無いとも言えるだろう。
実質的に全てを統括していた機能が、たった一人の人間によって崩されてしまったのだ。
そして、現宗主である園子は襲撃によって受けた傷が深く、入院を余儀なくされている。
命に別条がないのは幸いだが、この事実は世間にも不安を与えるものとなっており、彼女の変わりは居ないことから今の新生大赦の機能は殆ど、麻痺しているも同然だ。
SNSでも「黒百合」といったワードがトップに出てくるほど、その存在は世間からすれば恐怖の対象となっている。
そして今、実働部隊である「防人」達はこの事態を終息させるべく、新生大赦から新たな"お役目"が言い渡されていた。
―――――――――
安芸「…以上が、あなた達の次の"お役目"です。」
芽吹「……"黒百合"の調査と拘束……。」
そう、彼女たちに告げられたのは"黒百合"の調査と拘束。
最も、最優先事項は彼の身柄を拘束すること。
正体不明の人物である彼を放置するには危険すぎる…そして、園子の証言から彼は"十二星座の使徒"にも属していない存在……しかし、その力は"使徒"にも引けを取らないほどにまで強大で、下手をすれば彼らよりも戦闘能力が上かもしれないという。
最も、当時ほどの"神格"な力ほどではないにしろ、神具である「生太刀」を扱えることにますますその力の根源が謎に包まれた人物だ。
そしてそれは「システム」と名乗っている事と、「日像鏡」の反応を見るに彼もまた、"勇者"に近い力を持つ者…それも、"防人"と同格とも言える。
敵もまた、"勇者"…こんな事は異例中の異例だ。過去を辿っても"勇者"と"勇者"が激突した事なんて聞いたことがない。
新生大赦の内部は今、混乱に陥っている…恐らく、まともな機能は期待出来ないだろう。
園子が計画していた「あるもの」の開発も止まっていると聞く…事態は、よくない方向に進んでいるだろう。
夕海子「全く、鬱陶しいですわね…まるで、詰将棋のように少しずつこちらの壁を崩しに掛かってるなんて…。」
亜耶「でも、宗主様が無事で良かったです。あの方を失ってしまえば、新生大赦だけではなくて、この世界のバランスが崩れてしまいますから…。」
流星「それほどにであの人の影響力はすごいものなんだな…まるで、「生き神」じゃないか。」
亜耶「うん…元勇者様で、新生大赦の宗主様…加えて、"乃木家"の御息女となれば知らない人は居ないくらいだよ?。」
玲司「先輩、この"お役目"…相当危険なものなんじゃないっスかね?。」
タバコを吸っていた玲司は携帯灰皿でその火を消す。
安芸「……未成年の前でタバコは褒められたものじゃないわね。次からは場所を変えて吸いなさい。でも…そうね、貴方の言う通り、これはとても危険な"お役目"よ?。相手は"勇者"とも言える存在…加えて、乃木若葉様の「生太刀」を手にしている…不可解なのはそこよ。あれは、神具であり扱えるのは乃木若葉様のみ……どうやって、あの刀の力を引き出せているのか……教団にそんな技術があるとすれば、かなり厄介なことになる。」
玲司「…現存している神具は「生太刀」だけじゃねェッスよね…?。」
安芸「……ええ。"高知支部"で安置されている「大葉刈」……「歴史から抹消された"勇者"」の神具よ。現存するのはその2つ…それがどうかしたの?。」
玲司(……恐らく、それは邪神教団も掴んでやがるはずだ……だとすれば、"黒百合"が次に現れるのは……!。)
玲司「先輩、"壱番隊"の5名と俺…そして、巫女ちゃんを高知に派遣する段取りを取ってください。」
玲司のその言葉に、安芸は驚く。
安芸「待ちなさい、そんな勝手な事が許されるはずがないでしょう?。何の根拠も無いのに、楠さんの隊をまるごと高知になんて…!。」
玲司「俺の勘が正しけりゃ、"黒百合"の次の狙いはその「大葉刈」だッ!。奴には恐らくだが、神具を扱える能力があるッ!。"初代勇者"の力なんてものが全部奴らの手に落ちたら事態はもっと最悪になるッ!!。」
安芸「しかし、彼は宗主様の命を狙っている…その勘が外れると、宗主様に危険が及ぶわッ!。」
玲司「それは大丈夫だッ!宗主様の襲撃がここまでデカく報道されちまったのなら、奴だって下手な手は打たねェ!。戦力が全部こっちにある事を把握してるはずだから、無闇に仕掛けたりはしねェはずだッ!。だとすれば、一番簡単な事からやり始める…乃木家の襲撃だって、狙いは「生太刀」だったんだ!。だから、乃木家の人たちを殺さずに去ったんだよ!。」
安芸は玲司の訴えに、思考を巡らせる。
…確かに、彼の言う通りなのかもしれない。それに、園子の襲撃自体が"その気"じゃないものだとすれば……。
安芸(…こちらの機能を麻痺…それに、戦力の集中化……手薄な支部……安置された神具……なるほど、確かに……。)
安芸はスマホを取り出して、本殿に通達を送る。
安芸「こっちに残る防人達は私が取り仕切る。"壱番隊"と国土さんの事を頼んだわよ、久遠君。」
玲司「はい、お任せください。さて……テメェの思い通りには行かねェぞ…"黒百合"…!。」
…………………………。
陸路だと時間がかかる事から、ヘリで高知支部へと向かう"壱番隊"。
雀は凄く嫌そうな顔をしていたが、芽吹が引っ張り出して連れてきた。
気持ちは分からなくもない…何故なら、"十二星座の使徒"よりも謎が深い人物…教団側の"勇者"が相手だ。
それに、"初代勇者"の神具を扱う者…当然、強敵には違いない。
この時だけはこう思う…「人造バーテックス」のような化け物を相手にしている方が余程、マシだと言う事を。
亜耶「…何か、嫌な予感がします…。」
雀「えぇぇっ!?。い…今から引き返そうよっ!?。」
流星「加賀城先輩…そんな訳にはいかないでしょう…。」
夕海子「ところで久遠さん。何故、国土さんまでお連れに?。」
キョトンとする亜耶を見て、玲司はヘリの中でタバコが吸えない代わりに咥えた棒付きキャンディを噛み砕いて話し出す。
玲司「知っての通り、巫女ちゃんは"神託"を最も受けやすい体質の人間だ。今から、防衛に入る「大葉刈」という神具は、「歴史から抹消された"勇者"」の持ち物だった……史実が本当の事なら、その「大葉刈」は"呪具"に変貌する恐れだってある。だがそれは、人並外れた第六感の持ち主じゃないと分からないものだ。"黒百合"がもたらす"邪気"に反応して、その「大葉刈」が呪具化しねェように清めの祝詞を唱えてもらわないといけねェ。これは、霊力の高い巫女にしか出来ない事……俺も神官職だが、流石に邪気に対しての祝詞の効力は期待できそうにねェんだ。だから、彼女を連れてくることにした。」
しずく「……それで、国土は大丈夫なの。」
玲司「…邪気に対抗した時に『邪神』の"神託"が降りてこねェかどうか…だろ?。そいつは心配すんな、その為の俺だ。俺は防護の祝詞を唱えて巫女ちゃんを守る。」
ただ一人、芽吹は目を閉じて何も言わない。
とてつもない集中力だ、少し近寄り難い空気までも滲み出ていて。
流星「芽吹さん、大丈夫ですか?。」
芽吹「…ええ、問題ないわ。ただ…その"黒百合"という男が"勇者"に近しい存在ということに、武者震いをしているだけよ。」
雀「ええ!?。もしかして、戦いたいのっ!?。」
芽吹「もちろん、邪な思惑であの力を模倣していることは許せないわ。でも、今までにない"対勇者戦"ということに少しばかりか、心が躍っているの。」
玲司「おいおい、マジかよ…。」
芽吹「でも最優先事項は「大葉刈」の死守…"初代勇者"の力を好きにはさせないわ…!。」
―――――――――
~新生大赦『高知支部』~
無事、『高知支部』に辿り着いた芽吹率いる"壱番隊"。
支部長の神官に案内され、「大葉刈」が安置されている「宝物殿」へと足を運んだ。
その最深部で祀られるように厳重に保管されているそれは刀身が酷く錆びており、とても神具とは呼び辛いものだった。
そしてそれは、かつての主と共に歴史から忘れ去れた事で「大葉刈」自体からも寂寞(せきばく)を感じさせる。
亜耶はその佇まいを見て、悲しさに満ちた表情をしながら。
亜耶「……かつての主様と共に、信念と正義を以てあの時代を駆け抜けた神具……お怒りになられているのでしょうか……。」
流星「亜耶……。」
玲司「神具は"意思"が宿るとも言われている。道具だが、神様が鍛造したものだ…敬意を払わなければいけないのは当然だろ?。」
流星「…付喪神…的な…?。」
玲司「まあ、そう考えてもいい。ものを大事に扱うのは当然だ。それに、武器は自分の『相棒』でもある。使う者の命を守り、時には身代わりとなる…この「大葉刈」が辿ってきた歴史を考えると、人知れずにずっとここに安置されていたのだろうな…何せ、「歴史から抹消された"勇者"」のものだ。」
夕海子「…その…「歴史から抹消された"勇者"」って一体?。」
「知りたいか?。俺も「大葉刈」の持ち主だった奴の気持ちは良く分かるからな。」
流星と玲司以外の男の声。
そして、一気に行き渡る氷のような冷たさを持つ殺気。
一同は身が震えた。
そう……音もなく、"黒百合"がやってきたことに。
芽吹「お前が……"黒百合"…!!。」
黒百合「かの名声高い防人殿に会えて光栄だよ。どうやら、先を越されちまったようだな。」
流星は"黒百合"を見て、違和感を感じた。
流星(なんだコイツ……この感覚……。)
"黒百合"もまた、流星を見る。
黒百合「…御託は良いか……俺がここに来た理由は知ってるだろう?。」
鞘から見える白刃。彼は戦闘態勢に移る。
雀「あわわわ…っ!。」
シズク「は…テメェ一人でオレ達とやろうってか!?。ナメやがって…っ!。」
黒百合「……10分だ。10分あればお前たちを地に伏せさせる事は造作もない事……。」
挑発するように、黒百合は「生太刀」を携えながら迫り来る。
その刹那、黒百合は急接近する。
流星「させるか……っ!。」
流星は瞬時に変身し、その白刃をトンファ―で受け止める。
黒百合「…やるな…!。」
流星「くっ…ぅぅうう…っ!。」
力負けしそうになる……その踏み込みは洗練されたものだった。
ただ、奪っただけじゃない…その立ち回りは刀剣の扱い方を完全に熟知した熟練者そのものだ。
しかし、流星も負けてはいなかった。
彼はこの2か月間、死闘を繰り広げて心身共に大きく成長している。
あの時、"友"を失った悲しみを乗り越えて、自分が成すべきことを思い出してから。
失ったものは多い、だがそれと同時に得たものもある。
この強敵を相手に、引き下がるわけにはいかない…ここで引き下がれば「大葉刈」が奪われてもっと多くの人が犠牲になってしまう。
その意志を乗せて、流星は強引に黒百合の刃を押し返した。
黒百合「……へェ…。」
流星「黒百合っ!。お前を拘束してその「生太刀」を返してもらうっ!!。」
"白き花"と"黒き花"。
相対するものが今、激突する…―――――
…………………………end。
高知支部に安置された「大葉刈」の死守。
防人達は"黒百合"を相手に激闘を繰り広げる。
「大葉刈」。
この神具の持ち主は…悲しい過去を背負った者だった…――――。
次回
第33話 世界から"捨てられた"者。