"神具"と言われた初代勇者たちの武器は、300年経った今でもその効力と影響は語り継がれていた。
現存するものは奪われた「生太刀」とここにある「大葉刈」のみ。
死守せよ、神に見初められた少女達の"意思"を――――
黒百合「―――ふんっ!!。」
稲妻のような太刀筋。
受けは両断を意味するようなその踏み込みに、避けながら流星は活路を詮索する。
芽吹たちも「戦衣」を纏い、応戦。
「五対一」の構図だが、それほどにまで"黒百合"の戦闘能力が高いことが分かる。
事実、この数の差を感じさせないほどにまで彼の攻勢は凄まじく、有効な手段がまるで見い出せないでいた。
芽吹と流星が近接攻撃を仕掛けるが、黒百合は余裕があるように見える。
挟み撃ちも通じない……この強敵をどう攻略するか、攻撃を加えながら芽吹は冷静に考える。
黒百合「ハハハッ!。どうした、この世界を守る次代の"勇者"なんだろう、お前たちは!。」
斬撃の合間に蹴りを入れ、芽吹は吹き飛ばされる。
芽吹「くっ…ぅうう…っ!?。」
黒百合「討ち取ったぞ、楠芽吹!!。」
「生太刀」の切っ先を突きつけ、芽吹の懐を捉える。
夕海子「…やらせはしませんわっ!!。」
地面を蹴って飛び出し、二人の間に入った夕海子。
『防人システム』に表示された「強化装束」を起動。武器が戦槌に変化し、黒百合の攻撃を受け止めた。
黒百合「それがかの噂の「強化装束」か…。」
夕海子「…これでぶちのめして差し上げますっ…!。」
強引に戦槌を振り抜き、黒百合を弾く夕海子。
流石にその一撃は捌き切れず、壁に叩きつけられる…そして、追撃を掛ける為に夕海子は再度、飛び出す。
両腕に目一杯の力を込め、渾身の一撃を振りかざす…―――――
―――――…だが…。
夕海子「…なっ…!?。」
黒百合「…素晴らしいな、"神具"とやらは…。」
戦槌を「生太刀」で受け止めた黒百合は片手で容易く弾く…その力は強く、彼女は思わずのけ反ってしまった。
黒百合「まずは一人…!!。」
強烈な袈裟斬りが繰り出される。
避け切れないと判断した夕海子は崩れた態勢のまま、戦槌を盾にしてその刀身を真っ向から受け止めた。
だが、想定を遥かに上回るその腕力に負け、左肩を激しく切り裂かれた。
舞う鮮血…夕海子は痛みで顔を歪めてその場に崩れ落ちる。
黒百合「…判断がいいな。力負けすると分かって、芯をずらしたか…。」
夕海子「っ…ぅう……その神聖な刀で殺められる…訳にはいきませんもの……。」
シズク「下がってろ、弥勒っ!。」
シズクの怒声と共に横切る弾丸は黒百合の頬を掠めていく。
黒百合「次はお前か?。」
シズク「余裕ぶっこいてんじゃねェ、仮面野郎っ!。加賀城、弥勒を連れて後方で待機してろ!。止血してやんねェとその傷、危ねェぞ!。」
雀「わ…分かった…!。」
轟く銃声。しかし黒百合は弾丸の軌道が見えているのか、照準をずらした動きでシズクに接近する。
そして、芽吹と流星も後に続く。
黒百合「三対一か……。」
芽吹「安心なさい、私たちは誰も殺めない……でも、お前を拘束させてもらうわ!。」
銃剣二刀流で競り合う芽吹。その脇から、シズクの狙撃が黒百合の虚を突いた。
黒百合「これは……想定外だな……。」
芽吹「今よ流星!!。」
流星「はあああああ!!!。」
頭上に現れた流星は振り回したトンファ―を振りかざす。
回避行動に移った黒百合は、上空からのその攻撃を避けたが、流星は次の行動に移っていた。
流星「―――そこっ…!!。」
左腕のトンファ―を反転させて、反対側に取り付けられた銃口を向けてトリガーを引く。
黒百合「む…っ!?。」
放たれた霊力弾は見事に直撃。黒百合は吹き飛ばされ、黒煙に包まれながら地面を転がっていく。
玲司「やったか…!?。」
戦闘の影響で、床はボロボロだ。武器を構えながら、黒百合が倒れている場所へと近付く。
だが、その時……。
亜耶「くぁっ!?。ぅううう……っ!!。」
亜耶が突然、頭を押さえてその場に崩れてしまう。
この異変に、三人は一瞬だけだが警戒を解いてしまった。
その隙を突いて、黒百合は態勢を立て直した。着ていた戦装束は所々に破けが見られるが、仮面までは砕けていない……直前で身を引いたのだろう、幾分かは直撃のダメージを軽減させていたのだ。
芽吹「しまった!。」
シズク「おい、どうしたんだ国土っ!?。」
亜耶「ぅうう……何かすごい……"怨嗟"を感じます…っ。」
流星「"怨嗟"だって!?。」
辺りを見渡す流星。亜耶が感じたその"怨嗟"は、神官である玲司も感じ取っていた。
玲司「…これほどにまで、"恨み"を抱えてやがったのか……この"神具"は…!。」
玲司が見る方向…そこには、安置された「大葉刈」があった。
先ほどまでとは違ってどこか禍々しい雰囲気を放っており、その場の空気を凍り付かせるほどの寒気すら感じさせる。
そして……"声が聞こえた"。
――――…どうして。
"少女"の声が聞こえる…―――。
それと同時に、亜耶と玲司を襲う頭痛がより強くなる。
他の一同には頭痛と少女の声は聞こえない…雰囲気のみ、どこかおかしいことを感じる。
これが"怨嗟"?。
人が持つ"感覚器官"が超越している流星ですら、その感覚だけは掴めない。
そして、黒百合は仮面の下で笑みを浮かべて「大葉刈」を見る。
黒百合「…やはり、"お前"も俺と「同じ」か…。」
流星「な…何を…?。」
黒百合「今に分かる。この「大葉刈」は、「生太刀」と真逆の運命を辿っていることが。」
その時、黒百合の持つ「生太刀」が強く発光する。
こんな現象…史実でも見たことも聞いたこともない。
目の前で起きている現象は、人智を遥かに凌駕した現象…どうなるか、誰も想像がつかない。
そんな中、玲司だけはその現象に警鐘を鳴らす。
玲司「不味い…今すぐにコイツを追い払え!!。」
芽吹「えっ……!?。」
玲司「「大葉刈」と「生太刀」が相反する神力を放ってやがる!!。長い年月を経て、この二つの"神具"は超常的な力を内包したんだ!。何が起こるか分からねェっ!!。」
シズク「神具ったって、ただの武器のようなもんだろっ!?。"初代勇者"の逸話がそうさせてるだけで……!!。」
玲司「言ったろ!?これらには"意思"があるって!。"初代勇者"達が”勇者"として神に認められた直接的な要因はこの"神具"達を覚醒させたからだ!!。ただの武器なもんか、"神具"は神が鍛造した武器なんだ…俺達の範疇なんて余裕で超えてくる「遺物」なんだよ!!。」
その瞬間、「生太刀」からは白い光が…「大葉刈」からは黒い光が放たれてお互いにぶつかり合う。
その時、一同の脳裏に「ある光景」が映し出された。
――――――――――――――
―――降りしきる冷たい雨。
蒼い戦闘装束を纏った少女は、血だまりに沈む黒髪の少女を抱えて大声で泣き叫ぶ。
その少女は懸命に、黒髪の少女の「名前」を呼ぶ。
――…しかし、その「名前」は聞き取れない。
その少女の叫びだけが聞こえる……黒髪の少女の瞳は虚ろなものとなり、命の炎が尽き掛けていた。
…何かを伝えているのだろう……言われた少女は首を大きく横に振り、血に染まる衣に絶望の表情を浮かべる。
そして…"声"が聞こえた…――――。
「死ぬなっ!"■■っ"!。私を独りにしないでくれっ!!頼む…っ!!。」
「……馬鹿ね……私なんかの為に………最期のお願いよ……"彼女"に…伝えて……。」
"ありがとう……“って…―――――。
…その瞬間、脳裏に浮かんでいる「黒髪の少女」だけが消えていった。
だが、戦闘装束を纏った少女だけは、何もないはずの血だまりに顔を埋めて必死に呼びかける。
そこに落ちているのは、画面が真っ黒になった「端末」のみ…。
だが、戦闘装束を纏った少女には見えているのだろう、まだ必死にその"何か"を呼んでいた―――。
……………………………………………。
そこで、光景は途切れた。
…これはきっと、「大葉刈」と「生太刀」に刻まれた"初代勇者"達の記憶だろう。
そしてあの黒髪の少女こそ、「大葉刈」の持ち主…・・「歴史から抹消された"勇者"」なのだろう。
…存在そのものが、消された少女……他の"4名"については、長い歴史の中でも風化することなく、語り継がれている…それも、歴史の授業で必ずと言ってもいいほどよく聞く"名前"だった。
"真実"については捻じ曲げられていたが、語り継がれているこの"4人"の功績は本物だ。
しかし、今見たあの黒髪の少女だけは何も知らない…何故、"名"を消されてしまったのか……そして、「大葉刈」が放つこの"怨嗟"は一体、何なのか…もしかして、歴史から消されたことによって抱いたあの少女の"恨み"なのか…?。
そう思っていた防人達…しかし、亜耶は全てを理解したように、無意識に涙を流しながら声を絞り出す。
亜耶「……これは…「大葉刈」が記憶したあの人の記憶…そして、この"怨嗟"は……少女を「消した」この世界と神樹様に対して抱いた「大葉刈」自体の"怨嗟"……この神具はきっと、その少女の事をずっと思っていたのかもしれません……。」
その言葉に、黒百合は納得したように声を出した。
黒百合「そう。これは「大葉刈」自体の"恨み"だ。神に見捨てられ、世界にも見放された孤独な少女をただただ思っての事。」
玲司「……武具は使い手の意思に応える……神具なら尚更だ……例え、神と世界から見放されても最期まで共にあるつもりだったんだろ……そして、「生太刀」は世界から崇められ、"初代勇者"唯一の生き残りであり、後の"大赦"を牽引して来た"乃木若葉"が手にしていた神具……だから、「大葉刈」が"拒絶反応"を起こしたんだろう…。"真逆の運命"を辿った神具がそこにあるから…。」
その時、黒百合は「大葉刈」に向かって歩き出す。
流星「何をする気だッ!?。」
黒百合「分からないか?。もう、この神具はお前達の手に負えるようなものではない…見ろ、この放たれた"瘴気"を。」
凄まじい寒気…そこから放たれるものはまるで、自分達を切り裂かんとする強い"恨み"。
黒百合「叶えてやろう。かつての主が見れなかった世界を見せてやる。それが、お前の"望み"なのだろう?。」
「大葉刈」を手にした途端、その"瘴気"がより一層、激しくなる。
「生太刀」もまた、光を浴びるが黒百合の"邪気"に呑み込まれ、その刀身が黒く染まってしまう。
亜耶「ダメ……ッ……!!。」
玲司「…おいおい…これは夢か…最悪の事態になっちまった……現存する神具の二つが奴の手に…しかも……。」
黒百合は刀と鎌…その二つを携えてゆっくりと構えを取った。
玲司「全員、退避ッッ!コイツ、高知支部を丸ごと吹っ飛ばす気だッ!!。」
芽吹「なんですって…!?。」
黒百合「…まずは手始めに、この支部の者達を皆殺しにしよう。」
"呪具化"した2つの神具…「生太刀」と「大葉刈」。
その二つを手にした黒百合は自らの纏う"邪気"をその刃に乗せて。
――――振るう。
……………………………………。
………大雨降り頻る中。
瓦礫と化した『高知支部』"だった"ものを見る防人達。
…そこに、神官達の遺体は無い…文字通り、跡形も無く吹き飛ばされたのだ。
命からがら、何とか黒百合の一撃から生き残った防人達。
亜耶は玲司が唱えた防護の祝詞により、何とか守られていたが当の玲司は傷だらけとなっていた。
そのまま、タバコを咥えて火を付けるが雨に濡れたタバコに火は付かない。そして、深いため息を吐いて瓦礫に座り込み、額から流れる血をゆっくりと拭いながら…――。
玲司「……任務失敗だ。帰投しよう、これからの事を…考えなきゃ行けねェ。」
…何も出来なかった。
この2ヶ月間、死に物狂いで戦って来たが突如現れた1人の敵によってその全てが否定されたかのように、成す術も無く二つの神具が奪われてしまった。
それだけじゃない……神格化された武具そのものが、"呪具"へと化してしまったのだ。
……防人達は…"敗走"という結果に、悔しさを交えながら玲司の指示に従って、香川へと帰投するのであった…――――。
……………………end。
黒百合によって奪われた「大葉刈」は、その"恨み"を利用されて“呪具化"してしまう。それだけじゃない、「乃木家」から奪われた「生太刀」もまた、同じことに……。
そして、追い討ちを掛けるように今度は"十二星座の使徒"『最強』と呼ばれる"使徒"…「獅子座」が現れて…――――。
次回
第34話 漆黒の炎。