紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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その者、漆黒の炎を操りし者。
その者、『獅子座』の名を持つ者。
その者、『最強』と言われた者。

その者の名は………

――――"結城友奈"という。


第34話 漆黒の炎。

高知から戻ってきた一同。

夕海子は黒百合から受けた傷が深く、治療の為に入院することに。

 

傷だらけの防人達…日に日に増えていく生傷は、状況の苛烈さを物語っていた。

そして、黒百合による一連の事件は、世を不安の底に陥れる。

 

「乃木家・乃木園子襲撃事件」、「高知支部壊滅事件」、「"神具"強奪事件」と、この短期間で三つの大きな事件を引き起こした黒百合。

 

それだけではなく、新生大赦の関連施設への攻撃。

園子の"宣言"から2カ月……邪神教団の活動は活発化してきている。

 

"巫女狩り"に続いて、"黒百合"が引き起こした数々の事件…唯一の戦力である防人にかかる負担は大きく、別場所で"十二星座の使徒"『牡牛座』と交戦した"弐番隊"も、そのほとんどが戦線離脱を余儀なくされるという事態に…今、まともに動けるのは"参番隊"と"肆番隊"。

 

芽吹の"壱番隊"も、黒百合との交戦によって受けた傷を癒す必要もある…そんな中、招集を受けた玲司は新生大赦本殿で声を張り上げる。

 

 

 

玲司「はぁっ!?。あんたら、正気なのかっ!?。」

 

3人の上位神官に"ある事”を告げられた玲司は、その内容に思わず怒声を上げる。

 

「…事態を好転させるためです。宗主様と『乃木本家』の襲撃に加えて、“神具“の強奪を許してしまった事は由々しき事態…こうなれば、『防衛』ではなく『攻勢』に移らなければいけません。」

 

玲司「…気持ちは分かるけどよ!。今、防人達の心身にかかってる負担を考えての事か!?。このままだと、死人が出るぞ!!。」

 

「高知支部の神官達は跡形もなく消されてしまったのだ。あの場に居ながら、黒百合の拿捕に失敗しただけではなく、「大葉刈」も奪われてしまった…それに加え、"呪具化"まで許してしまう始末……これはこの世界の存続に関わる事態なのだ。彼らが大きな動きを見せる前に何としても駆逐せねばならん。」

 

玲司「違うっ!俺が言ってるのは防人達の現状を理解してるのかって聞いてんだ!。この2カ月、"巫女狩り"の被害を最小限に留めただけじゃなく、各部隊が"十二星座の使徒"とかち合ってんだぞ!?。"弐番隊"は壊滅的な被害に陥ってしまってる…もう、あいつらはボロボロなんだよ!。」

 

「だとしたら、事態がさらに混乱しても良いというのかな?。」

 

玲司「…っ……あんたら…っ!。」

 

「良いか?。彼女達も意地と誇りがある。"お役目"の為なら、命を賭してでも成し遂げる覚悟は持っているはずだ。宗主様の"宣言"の場で見ただろう?。あの目は…かつての"勇者"様と同じ目だ。」

 

その言葉に、玲司の怒りは爆発した。

 

玲司「ふざけんなよお前ら!。そうやって祀り上げて自分たちの良いように解釈してんじゃねェよっ!。あいつらは"兵器"じゃねェんだぞっ!?。」

 

「口を謹んでください、久遠殿。一介の神官である貴方が、まともな判断が出来ないわけじゃないでしょう?。」

 

玲司「…あんたらは…"勇者"達の何を見てきたんだ!?結城友奈の件から何も学んでねェのかっ!?。"防人"だって同じだろ!。痛み、苦しみ、時には泣いて…アイツらの心がどんなに疲弊してるか考えたことがあるかっ!?。」

 

必死なその叫び。

しかしそれは、彼らには"届かない"。

この3人の上位神官は、未だに神への信仰心を捨てきれていない者達。

神無き世界の事は受け入れてはいる…しかし、遠い祖先の時代から脈々と受け継がれて来たその思想は薄れる事なく、"特別"な者を"神"に見定められた者として、その力は"神"に応えるべきだと説いている者達なのだ。

 

だから、"勇者"にとって変わった"防人"達もその神の力の一端を担う者として、それ相応の佇まいを要求しているとでも言える。

 

そして、彼女達は次代の"お役目"を担う者として、力無き人々の為に尽くすのが当然だと言う。

その思想は、玲司が最も嫌うもの……"旧体制派"の『勇者の神格化』と同じく、選ばれた少女達の運命を縛る思想だ。

 

だが、まだ年端のいかない園子が『宗主』として努めていくには彼らの助力無しでは困難を期す。だから、安芸の下にこの3人を置いているのだろう。

そして、その安芸は園子の身を守るために奔走している…その行使権は彼ら3人に託しているのも現実だ。

この3人だって、何も夢想の戯言を述べているわけでは無い…現実を見た結果、考え抜いた末の決断なのだろう。

 

"神具"の強奪と"呪具化"。

 

これは、とてつもない事態そのものだ。"初代勇者"の武器がこちらに歯を向けてしまっている…それに、あれらは彼女達を初の"勇者"へと導いた正真正銘の神の力が備わった武器達。

 

それが何をもたらすのかは想像が付かない…だが、明らかな敵意を持っているのは間違いない。

その気持ちは、玲司だって理解している。最優先事項は、"邪神教団"の手に陥った『生太刀』と『大葉刈』の奪還だ。

しかし、今の防人達の疲弊は目に見えて分かるものだ。苛烈化する戦闘…"弍番隊"も機能を失っている…それに伴い、芽吹達ですらその疲弊は隠せていないのだ。

 

休息が必要だ…このままだと、誰かが死ぬ。

この3人に何を説いても無駄だ…"神具"の奪還を急ぐ為に、攻勢に移る段取りを強行するだろう。

 

玲司はそう考え、上位神官達の決定に背く決意をしていた。

 

大人がこれ以上、無能であっていいはずがねェ。

今まで散々、守ってきてくれたんだ。本当はアイツらだって…。

 

そう思い、何も言わずに本殿を後にするのだった…――――。

 

…………………………………。

 

その一方、夕海子の見舞いを済ませた芽吹達は徒歩で帰路に着いていた。

 

彼女の傷はそこまで大した事はなく、2日ほど安静にしていればすぐに退院できるそうだ。

それを聞いて安心したのか、緊張の糸を張っていた芽吹の表情は少しばかりが、柔らかくなっていて。

 

流星「良かったですね、弥勒先輩の怪我が軽いもので。」

 

芽吹「ええ、人知れずに鍛錬を重ねていたのでしょう。単独行動期間中に『強化装束』を纏えるくらいにまで強くなっていたのだから…そのおかげで、あの傷でも2日で問題ないくらいの回復力を見せているわ。」

 

そう安堵しながら歩いていた一同。

その時、一人の少女とすれ違う。

 

この猛暑の中、フードを深々と被った異質な雰囲気を放っているが、それ以外は特に何も感じない…ぶつからないよう、道を譲って少し通り過ぎた直後―――

 

「……"止まれ"。」

 

少女が、声を出した。

瞬間、周辺の時が止まり、海風に揺られていた木々が静止し始めた。

 

一気に汗が吹き出る一同。同行していた亜耶も固まったように動きを止めていた。

この"現象"は知っている……これは……

 

 

―"バーテックス"が襲来してきた時と同じだ…っ!―――

 

 

直後、周辺の空間が変貌する。

 

"樹海化"。

しかし、神樹亡き今はこの現象を引き起こせる要素なんて考えられない。

あるとすれば、目の前にいる少女が引き起こしたものとしか考えられない。

 

思考が追い付かない中、芽吹、しずく、雀、流星の4人少女に警戒の色を示す。

そしてかの少女はゆっくりとフードを脱いだ。

 

目に見えるのは『獅子座』を象ったマークが刻まれた仮面…4人は"十二星座の使徒"とすぐに理解した。

だが、不可解なのはその『獅子座』の放つ異様な気…押しつぶされそうなくらいの威圧感…今まで対峙してきたどの"使徒"よりも異質……まるで、周囲の重力が強くなったかのような感覚。

 

そして、『獅子座』はゆっくりと歩み寄る。

 

レオ「…君たちとは二度目の邂逅だね。…私は『獅子座』。"十二星座の使徒”の頭目だ。」

 

その重々しい威圧感とは裏腹に、どこかやわらげのある少女の声…そしてそれはどこか、"聞き覚え"があった。

 

その威圧に押されながらも、芽吹が声を絞る。

 

芽吹「…その頭目が何の用…?。それに、この"樹海化"は……。」

 

レオ「ああ…これは、私が創り出したものだ。神樹の起こすこの現象を再現してみたのだけれど……精度はなかなかに良い。君たちは、無辜の民を巻き添えにしたくないのだろう?。だからこうして、私がこの空間を拵えたんだ。安心するといい、多少暴れたって、現実世界に影響は無い。」

 

雀「あのぅ……それってもしかして……。」

 

レオ「まさしく、君が今した想像通りだ。私は君たちに明らかな敵意を持ってここに居る。」

 

その瞬間、『獅子座』は両手から漆黒の炎を発現させた。

 

しずく「黒い……炎……?。」

 

レオ「……さて、見せておくれよ?。君たちの…現代の"勇者"の力を。」

 

一気に放たれた殺気。立っていられないほどの威圧感は生物的本能に警鐘を鳴らす。

その刹那、『獅子座』は一気に距離を詰めてきた。芽吹が咄嗟に変身し、その一撃を受け止めた。

 

芽吹「くっ…ぅうう…っ!?。」

 

レオ「流石だ、初撃で落ちてもらっては面白みが無い。」

 

シズク「この…楠から離れろっ!!。」

 

競り合う『獅子座』の背後を取ったシズクが発砲するも、背面に溢れた黒い炎に阻まれてしまう。

 

シズク「なっ!?。」

 

レオ「私に不意打ちは通用しない。」

 

流星「……はああ!!。」

 

芽吹の背後から走ってきた流星は、トンファ―を振り回して攻撃を繰り出す。

『獅子座』は芽吹を蹴って飛び退き、流星の放った一撃は地面を陥没させるだけに留まった。

まるで全てが"見えている"ように、『獅子座』はこちらの一手を悉く防ぎ切る。

 

レオ「…君は……そうか。」

 

流星「何を…!?。」

 

『獅子座』と流星はお互いに向き合う。

そして、流星は彼女から"親しみ"に似たようなものを感じ取る。

 

レオ「…人の心の"闇"が理解できる君は、私が"何なのか"が分かるだろう…?。」

 

そう言って、『獅子座』は一歩退いて自分の仮面に手を掛ける。

靡く赤髪に、赤い瞳……花の形を象ったヘアピンをしていて、その顔立ちは自分たちが良く知る"彼女"だった。

 

だが、その瞳の奥は闇に包まれているかのような冷たい瞳で、彼女……"結城友奈"とは真逆の雰囲気すらも感じ取れる。

見つめられるだけで身震いするほどの"恐怖感"が一気に襲い掛かる…。

 

芽吹「……結城さんの顔をして…あなたも"複製人間"だと言うの…!?。」

 

その問いかけに、『獅子座』は…嘲笑する。

 

レオ「…ふふふ…私があのような「欠陥品」と同じだと…?。」

 

『獅子座』が瞳を開けると同時に、漆黒の炎が一同の周りに燃え広がった。

 

レオ「私は正真正銘の"結城友奈"だ。」

 

シズク「は…ふざけんな!。こっちはついこの間、本人と会ってんだ!。てめェがアイツなはずがねェっ!。」

 

レオ「常人には理解できない事だ、説明しても仕方無い。だが……私が"結城友奈"本人であることは間違いない……別に証明しようとは思わないが、「射手座」のような「欠陥品」と同じと思われるのは心外だな…。」

 

 

自らを"結城友奈"と名乗る『獅子座』。

顔、声…まさに本人そのものだ。

 

そして、この『獅子座』との戦いは……壮絶を極める…――――

 

 

…………………end。




現れた『獅子座』。

仮面を取り、自らその素顔を見せる。

「自分は正真正銘の"結城友奈"だ。」

そう断言する彼女は一体…――――。

次回
第35話 『獅子座』―結城友奈―
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