紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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「私は正真正銘の"結城友奈"だ。」

『獅子座』は、そう名乗る。

彼女の告げる、この事実とは…―――。

『獅子座』戦、第二幕……開始。


第35話 『獅子座』―結城友奈―

仮面を取った『獅子座』の素顔は結城先輩と全く同じ顔だった。

でも、俺は少しだけ感じ取った。その声の裏側に潜む並みならぬ"闇"。

 

その闇は、"恨み"とか"悪意"とかそういったものじゃない…どこか、形容しがたい何か…としか表現できない。

ただ、分かるのは確実にこちらを消すために仕掛けてきている事。彼女が何であれ、俺達の敵である事に間違いはない。

 

無感情にこちらを倒しにくるだけの敵…シンプルで分かりやすいが、その強さは今まで対峙してきたどの敵よりもはるかに強い。

 

これだけの数で攻めても、決定打どころかダメージすら与えられない。それに加え、先ほどから放たれてる威圧感が自分たちの動きを鈍らせてしまう。

 

そして、この炎はまるで毒のように受けたダメージを促進させてくる…こんな強敵にどう立ち向かえと…これが"絶対強者"とでもいうのか……自然界に置いて、捕食される側の気持ちが少し分かるような気がしてきた。

 

本能的に分かる…彼女を相手にして生き残れないことが。

だから、生存への道を探すしかない…この強敵を相手に、どう生き延びるか。

 

『獅子座』自体の謎はかなり気になる…結城先輩と同じ顔、同じ声でありながら『射手座』のような"複製人間"ではないと言う。

 

「私は正真正銘の"結城友奈"本人だ。」

 

この言葉の意味が全く理解できない…この世に同じ人間なんて存在するはずなんて無い。

そう考えながら、生存への道を探っていると懐に彼女の纏う漆黒の炎が自分の頬を掠めた。

 

 

 

流星「くっ…!?。」

 

レオ「余計な詮索はしないほうがいいよ。このレベルでの戦闘で生き残りたいならね。」

 

芽吹「馬鹿にして…!!。」

 

芽吹は『強化装束』を起動。『獅子座』の正面から二丁の銃剣を振りかざす。

 

レオ「…それが『強化装束』…なるほど、"勇者"の力に似て凄まじい迫力を感じる…。」

 

両手で銃剣の刀身を受け止め、不敵な笑みを浮かべる『獅子座』。

芽吹はそのまま叩き斬ろうと両腕に力を込める。

 

芽吹「っ…教えなさい…お前が正真正銘の"結城友奈"であるという意味…"複製人間"でなければ一体何なのか…!!。」

 

レオ「そのままの意味だよ。私の名前は"結城友奈"。お前たちの知るソイツと同じ名前を持ち、同じような運命を辿った人間だ。」

 

シズク「だから…それが意味分かんねェって言ってんだよ…っ!。」

 

シズクの斬撃が『獅子座』の懐を完全に捉えた。しかし、溢れ出す黒い炎が実体を持ったかのようにその斬撃を受け止めて見せた。

 

シズク「…またあの炎か…っ!。」

 

レオ「…爆ぜろ…。」

 

指を鳴らすと同時に炎は破裂。その爆発に巻き込まれたシズクは黒煙に包まれながら吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

レオ「…燃やし尽くす…!。」

 

左手を翳し、巨大な火球を作り出す。

その熱量は凄まじく、樹海化した周辺の木々が燃え始めるほどに。

その時、雀が怯えながらも前に出た。

 

雀「こ…こんなの喰らったらみんな死んじゃうよっ!。」

 

盾を前面に突き出し、防護結界を形成。全員はその後ろに入り込む。

 

芽吹「雀!!。」

 

レオ「受け止める選択をしたか…いいよ、なら試してみようか!!?。」

 

火球の色はどんどん明るくなり、それに伴って膨大な熱量が辺りを焼き始める。

 

 

まるで、太陽―――。

 

 

そう、思わざるを得なかった。

 

レオ「塵も残さないよ…?。」

 

鋭いその眼光が激しく光り輝く。

瞬間、轟音を放ちながら巨大火球が一同に迫る。

 

雀「ひいぃぃいっ!!。死ぬ死ぬ、これダメなやつだぁあああっ!!。」

 

怯える雀。それに呼応するように、防護結界がより輝いた。

 

流星「こ…これって…!?。」

 

シズク「ぐっ……加賀城の生きるための執着だろうな…ゴフっ!!。」

 

よろよろとやってきたシズクは吐血する。

あの衝撃がきつかったのだろう、内臓にダメージが入ったのかもしれない。

しかし、巨大火球はもう眼前に迫っていた。

 

芽吹(…生き残るには、雀の防御力に全てが掛かってる…退いても燃やされるだけ…この防護結界の外は…灼熱地獄だ…。)

 

芽吹は『獅子座』を見る。

彼女以外の全てが黒い炎によって燃え始めていた。

再現化したとはいえ、"樹海化"の特性からこの周囲を及ぼすような影響はきっと現実世界にも及んでいるはず…無事、戦闘を終えたとしてもどうなっているのかなんて想像が付かない。

でも今は、生き残る事だけを考えなくてはならない。

 

思考が止まる程、彼女の脅威はそれほどにまで大きいのだ。

 

シズク「加賀城!気合入れろよ!?。」

 

雀「そんな殺生なぁあああっ!!。」

 

直後、雀が張った防護結界と巨大火球が正面からぶつかり合う。

余波が凄まじく、自分たちがいる場所以外が燃え広がっていく…。

 

レオ「…これが君たちの知る最強のバーテックス…『レオ・バーテックス』の力だよ。全てを破壊する『獅子座』のバーテックス……!。」

 

雀「ぅううう……っ……!!。」

 

全員が雀の背中を押し、受け止めた火球の勢いに負けないように必死に踏ん張る。

ビシビシと、ヒビが入る防護結界。だが、割れたと同時に瞬時にまた形成される。

その規格外の生成能力に、『獅子座』は少し驚いた顔をして。

 

レオ「……馬鹿げた再生能力…その結界だけは厄介だね……。」

 

雀「や…ヤバイ……吹き飛ばされそう……っ!。」

 

耐え続ける雀の盾が損傷し始める……結界の外は灼熱地獄。吹き飛ばされればその熱波により一瞬で焼かれてしまうだろう。

ならば…押し返すしかない。しかし、一同の体力はおろか受け止めている雀の体力に限界が訪れる。

 

でも、彼女は……"死にたくない"。

 

雀「みんなで……生き残るんだぁぁああああっ!!。」

 

崩れた盾が再生。防護能力が強化されていく。

 

レオ「な……っ!?。」

 

芽吹「侮ったわね『獅子座』…雀の生きる願望は尋常じゃないのよ…っ!。」

 

雀「うわああああああっ!!。」

 

涙目になりながら、軋む腕を前面に押し出す雀。

火球は押し戻され始め、長時間維持が出来ないせいで縮小していく。

そしてその勢いは死んでいき、雀の防護結界が火球の出力を上回った。

 

雀「もう……帰りたいぃいいいいいっ!!。」

 

最後の勢い。

火球は弾かれ、『獅子座』の横をとんでもない速度で突き抜けていく。そして、雀は力尽きるようにその場に倒れこんだ。

強烈な疲労感が彼女を襲い、指一本動かすことも難しいほどにまで体力を消耗していた。

 

しかし、これはただ『獅子座』の一手を防いだだけに過ぎず、彼女が健在な限りはこの戦いは終わりを迎えない。

 

芽吹「雀、よくやったわ。あとは私たちに任せなさい。」

 

満身創痍な雀はそのまま気を失う。

シズクもダメージが酷い…しかし、彼女は銃剣を手放さない。

 

シズク「オレはまだやれるぜ……引き金引くくらいはやらせろや…!。」

 

流星「シズク先輩…。」

 

そんなやり取りを見ていた『獅子座』は鼻で笑う。

それもそうだろう。ここまで必死にやっても、彼女に傷一つすら付けられていない……全くの無傷だ。

それに比べ、自分たちは一方的にやられている…これが力の"差"だ。

悔しいが、それが現実だ。今弾いて見せた攻撃はきっと、まだ撃てるはず……彼女の余力は嫌でも感じ取れる。

 

だが、諦めない。

生きること、そして役目を果たすために最後まで決して諦めない。

 

 

それが……"勇者"だからだ。

 

 

レオ「……どんなに足搔いたって、これが現実だよ。君たちが膝を着いて、私が立っている……この意味は分かるよね…?。」

 

芽吹「それでも……お前に背を向けるわけにはいかないのよ…!。」

 

レオ「そう……君たちという"花"を手折るには力じゃダメだということか……よくわかったよ。ここまで私たちが君たちに手を焼いている理由…力では完全にこちらが勝っているのにその"精神力"で君たちはここまで抵抗してきたわけだ。しかし、それでも私を退ける理由にはならないね。ここで君たちは死ぬ。そう……私が出てきた時点で君たちの死は免れないんだ。」

 

さらに黒い炎が勢いを増す。

 

レオ「それが絶対的な意味……変えようがない"現実"だ。」

 

『獅子座』の炎が怪しく輝く。

しかし、全員の目は……"死んでいない"。

 

それは強い"意思”。

生きる"意思"…生きている人たちを守り抜く"意思"…そして…成すべきことをやり遂げようとする"意思"。

 

その目を見た『獅子座』の炎が勢いを無くした。

無意識に気押されてしまったのか?。そう感じながらも、『獅子座』は不確かなその感覚に少しだけ苛立ちを募らせる。

 

力では絶対に屈服しない。それが彼女達の"強さ"なのだろう。

手足が千切れようが、最後まで食い下がらない。

そんな強い意志を感じ取り、『獅子座』は手を下げた。

 

芽吹「……どういうつもり…?。」

 

レオ「興が削がれた。どうやら、君達は力では絶対に食い下がらないようだ。今見て分かったよ、このまま戦っても死ぬまで食い下がらないね…実に面倒だ。私が一番嫌うタイプだよ。」

 

流星「…だったら、少しくらい教えてくれてもいいんじゃないか?。何故、あんたが結城先輩だと名乗るのか…"複製人間"でなければ、あんたは一体何なんだ…?。」

 

その問いに、答える気は全く無かった。

しかし、ここまでの意思を見せつけてきたんだ…圧倒的な力に屈することなく、勝算などまるで無いこの戦いに絶望する事なく、吐き気のするくらいの気迫を見せつけてきて。

 

少し、ため息を吐くと『獅子座』はほんの少しだけ、自分の事について語り始めた。

 

レオ「…いいよ。この私と対峙して五体満足どころか生きて帰れるんだ。なら、少しくらいは教えてあげてもいいだろう。私の名前は"ユウキ ユウナ"。「枝葉の別れた別次元」の"結城友奈"だ。」

 

「枝葉の別れた別次元」?。

なんだそれは…一体、何のことを言っている…?。

 

全く、理解が追いつかない……これは一体、何のことなのだ…。

 

全員がそう思う。

 

レオ「…"結城友奈"が辿る未来が別のベクトルに向かってしまった世界線の"結城友奈"…『御姿』となり、人間でなくなった事に絶望して前を向けなかった"結城友奈"…それが、"私"だ。」

 

それだけを言うと、『獅子座』は踵を返す。

 

レオ「言っただろう?語っても理解出来ないと。何が"人"として生きたいだ…"自分"はすでに人の範疇を超えた癖に、それでも"人"である事を諦めない…虫唾が走るよ、"結城友奈"という存在は本当に。そして…君達もだ。"神"に迫る力を手にしていながらも、"人"というどうしようもない愚かな器にしがみつく。人の範疇を超えたのなら、それは進化の為に使えばいいものを…見ていて滑稽だよ、以前の私もそうだが"勇者"という存在はどうにも"神"の都合に振り回される。その手のひらの上でずっと踊らされている事に気付いた方がいい。この世界に"神"は居ない?。いいや……。」

 

『獅子座』は空を見る。

 

レオ「ずっと、見られているよ。この世界は……鳥籠そのものだ。」

 

それだけを言うと、『獅子座』は消えた。

それと同時に、"樹海化"も解かれる。やはり危惧していた通り、再現したと言ってもその本質は全く同じものだ。

"災害"と言った形で現実世界に影響が現れ、自分たちの目の前には崖崩れの跡がいくつもあった。

幸い、人的被害は無いがしばらくはこの道路は使えないだろう…そして、時が動き出してまた風が吹き始める。

 

亜耶「え…み、皆さん!?。すごいお怪我を…一体、どうしたんですかっ!?。」

 

"樹海化"の影響で亜耶も時間が止まっていたせいでこの状況が全く飲み込めないでいた。

 

…それにしても、「枝葉の別れた別次元の"結城友奈"」。

今でも理解が追いつかない。そんな御伽話のような事なんて到底、理解出来ない。だが…彼女は間違いなく"結城友奈"本人だろう。

 

"邪神教団"の謎がさらに深まるばかりだった……―――。

 

……………………end。

 

 

 

 

 

 




『獅子座』との戦闘を終えた一同。
混乱を招く存在である彼女は、きっとこの世界にとって大きな"渦"を呼ぶ存在になるだろう…――。
そう思って。

そして、流星は"結城友奈"という存在について理解しようと、新生大赦が保有する「歴史の真実」が封印されている「封印殿」と呼ばれた場所に向かうことに…。

そして、そこで知る。
"友奈"という名が、この世界にとってどれほどの意味をもたらすのかを…――。

次回
第36話 "友奈"の軌跡。
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