それは、生まれた時に逆手を打った女の子がそう名付けられると言われている名前だ。
そして、この"友奈"という名を持つ者たちは何かしらの影響を世に遺している…。
それが一体、何なのか…
少年は、その起源に迫る…――――
―――『獅子座』との戦いから数日後。
彼女の正体が「枝葉の分かれた別次元」の"結城友奈"ということが判明した。
しかし、そんなことを聞いたところで謎が埋まるわけではない、寧ろ深まるばかりだ。
もちろん、このことは新生大赦に報告している。しかし、返ってきた答えはこうだ――
「この件については厳重に精査します。他言無用、この情報は新生大赦で管理することに…。」
―――それだけだった。
何か、都合の悪い事でもあるのか…宗主様が襲撃されてから何処か、物静かな所がある。まるで、2年前に戻ったかのように、秘匿と言われるものはとことん秘匿で貫くこの感覚…。
そして、久遠さんもこのところ毎日、機嫌が悪い。
別に、俺達に当たるとかそういうものじゃない…寧ろ、優しすぎるくらいだ。
お金もないのに、とんでもない量の差し入れを持ってくるようになった。
有名どころのうどんや、芋けんぴなど…まるで、俺達の労を労うかのように。
でも、新生大赦の話をすると何処か、表情が険しくなる。
きっと、また神官達と揉めたんだろう…。
大人の事情だ、口を挟むのは野暮ってものだろう。
それよりも、俺は個人的に気になることがある。
『獅子座』の事だ。
あの圧倒的な力はともかく、彼女のその正体がずっと気になっていた。
新生大赦がその情報を厳重に管理するほどの事実だ、"彼女"という存在がもたらすものは新生大赦にとっても大きな影響を及ぼすことなのだろう。
そして、もう一つ……"友奈"という名のことだ。
俺も、この名前が付けられる"理由"については良く知っている。
「生まれた時に逆手を打った女の子がその名を付けられる風潮」だということだ。
その"意味"までは分からないが、"友奈"という名前が特別であることは誰もが良く知っている。
そして、その名を与えられた少女はどういうわけか、何かしらの影響を遺していると言う。
誰もが知っている事、知らなかった事まで大きな物事にはこの名を持つ者が関わっていることがよくある。
300年程前から縁起物として祝福の意を込めた名前だったが、長い歴史の中でその名前が未だに風化しない事はとても珍しい事だ。きっと、他にももっとあったのかもしれないがその殆どが歴史の波に飲まれて忘れら去られている。
でも、これは当たり前のことだ。史実でもない限り、それが現代まで根付くことなんて早々無い。
時間というものは過去を置き去りにする。これは自然の摂理であり、風化してしまうのは仕方のない事…忘れられたくないなら、後世に残るものを造り出して語り継いでいけばいい…そうやって、人の歴史は紡がれてきたんだから。
でも、この"友奈"という風潮は302年前から現代に至るまでずっと語り継がれている。
捻じ曲がった部分もあるかもしれないが、その名前を持つ人が世界に何かしらの影響を遺している事は偶然ではないと思う。『獅子座』の事もあり、その"友奈"という名前を持つ人がどんな道を歩んできたのか、俺はすごく気になる。
図書館にもその起源に関する資料はあるが、どれもこれも統一されていない説ばかりが書かれていてイマイチ、信憑性が無い。
この数日、俺はいろんな図書館に足を運んだがどれもそんな結果しか得られない。巫女である亜耶なら何か知っていると思ったが、彼女もその風潮だけは知っており起源については良く分かっていないと言う。
だったら、残る手は一つしかない……新生大赦が管理する歴史資料を漁るのが早いだろう。
問題はその許可が下りるかどうかだ。
厳重に保管されているであろう、その歴史資料の在処には隠されてた「歴史の真実」に関する資料が山のようにあるはず…その中に飛び込もうというのだ。並大抵の方法では不可能に近い。
だから俺は、"ある人"にお願いすることにした――――――
安芸「…新生大赦が保管してる資料を閲覧したい…と…?。」
宗主様の見舞い帰り、俺は安芸さんを呼び止めてこの件を話した。
理由を問われた際に、"友奈"に関する事だと告げた瞬間、少しだけ険しい表情をした。
まあ、何となく分かる……『獅子座』の一件があったからだ。それでも、食い下がらないように俺は粘る。
安芸「……"友奈"の起源を知って、どうすると言うのです?。」
流星「…俺は気になるんです。どうして、その名を持つ者が数奇な運命に翻弄されるのか……結城先輩の事も聞きました。2年前、あの人がどんな目に遭ったのか……どんな思いで"祟り”を乗り越えたのか……それに、『獅子座』もその"友奈"という名前を持つ人……ましてや、あの結城先輩と同じだと言うんです。」
安芸「…彼女の事は先の報告で聞きました。何かの間違い…と言いたいところですが、本人が"複製人間"という存在を否定したのなら、強ちそれは本当の事なのかもしれませんね。」
流星「でも、そんな御伽話のような……。」
安芸「その御伽話が現実に起きてこんな世界になったのです。『御姿』となり、その事実を受け入れずに絶望した世界線の結城さんですか…それが、本当の話なら"邪神教団"の持つ『錬金術』の手法についてもある程度の予測がつくのかもしれません。」
流星「…まさか…信じるというんですか…?。」
安芸「信じるも何も、信じざるを得ない技術なのですよ。話が脱線しましたね、よろしいでしょう。私の立ち合いの元、貴方を案内します。」
そう言って、安芸は自身の車に向かって歩き、流星を呼ぶ。
安芸「…この世界の"全て"が記録された膨大な文書が遺された場所…『封印殿』へと。」
―――それから、車で約2時間ほど。
山奥深くの山中に佇む一つの社…人気の無いこんな場所に建てられているにも関わらず、建物は朽ちていない。
それどころか、並ならぬ気配を感じる……どこか、『結界』のような神聖な空気さえも感じ取れて。
車から降りた安芸は懐から『札』のようなものを取り出して、社の門に当てる。すると、うっすらと輝き出しては「錠」が外れる。
そして、入れと促すように目を向ける彼女。流星は、そのままついて行く。
安芸「…道中で告げた通り、この事は他言無用でお願いします。防人のメンバーにも…もちろん、国土さんにも。」
流星「…はい。」
そう言って、目の前に広がるのは無数の棚の中に収められた古書たち。
随分と古いものばかりだ…まるで、歴史の授業で聞いた「昭和の時代」を彷彿させるもの…302年前とはいえ、今と変わらない科学力があったはずなのに一昔前の時代の手法で記録されているのが正直、驚いた所だ。
そして、安芸は流星が目当てとしていた一冊の「御記」を手渡す。
そこには……「勇者『高嶋友奈』について」と書かれていた。
安芸「……初代勇者の1人「高嶋友奈」。彼女こそが、"友奈"の起源です。」
流星「…高嶋…友奈…?。」
安芸「はい。初代勇者の最終決戦とも呼べる戦いで命を落とした勇者…乃木若葉様と共に駆け抜けた勇者の1人…彼女は死の直前、"神樹様"によって魂ごとその一部となりました。」
流星「…待ってください…神樹様の…一部に…?。」
安芸「はい。ここに記録されている事は全て、乃木若葉様直筆の「御記」となります。その遺体ごと、神樹様の一部となり彼女は…"神の眷属"とも呼べる存在へと"進化"したとでも言えるでしょう。」
流星「…神の…"眷属"…?。」
安芸「…2年前、旧大赦が結城さんを"神婚"させることにより、力を取り戻した神樹様の力によって全ての人類をその一部へと成り代わるもの…肉体を捨て、神樹様と一つになる事で神の眷属として新たな生を得る…。」
流星「それって…亜耶もやった事……。」
安芸「ええ…しかし、それは"人"として生きる事を選択した結城さんによって否定され、今の世界があるのです。特に、結城さんは"高嶋友奈"とその性質がよく似ていたそうで…神樹様もお選びになったのかと。」
それだけを聞くと、流星はその「御記」とは違うもう一冊の「記録帳」を見つけた。
安芸「…貴方には、その記録帳に目を通す方が早いでしょう。」
そう言われた流星は、その「記録帳」をパラパラと捲り、文面に目を通す。
――――――――――――
―――この記録に、目を通した者達へ。
私たちは『勇者部』。"西暦時代"と呼ばれた世界の真実を後世に伝えるために活動する集団である。
まず、私達が着目したのはこの"友奈"という名の事。
知っての通り、「ある動作」をした女の子にこの名が与えられるのが世の慣わしだ。これは、"勇者"と呼ばれた少女…「高嶋友奈」に因んで付けられる名だ。
彼女は、"乃木若葉"様と最後の戦いを共に駆け抜けた勇者であり、その名と行動が彼女から公表されて、後に"英雄譚"として語られるものとなった。
彼女のその勇姿と優しさ、当時の記録から憧れを抱く少年少女達は多く、"英雄"と名高いこの名前を与えられた子達は特別な目で見られる。
しかし、それが時には重荷になる事だってある…この名前が持つ意味、"英雄"にあやかって贈られたこの名前…"特別"であるという風習が根強くなってしまい、周囲からは過度な期待を寄せられる事もあると聞く。
この名前を持つだけで、"特別"になる…―――。
「普通」を望む者にとっては、この上ない枷なのだろう。でも、これだけは言える…これは、英雄視する一部の人間達によって広められた風習であり、決して大きな"意味"は無い。
"友奈"という名が、世界を大きく変えるだけの力があるとは思えない…ただ、"英雄"の名前を付けられただけに過ぎないのかもしれない。
その効力なんてものは凡人である私には分からない事だが、仮にその名を持つ者が世界にとって大きな影響を及ぼすものならば、それこそまさに"英雄"高嶋友奈を"継承"したとも言えるだろう。…本当に、そうなればの話だが…。
私から言えることは一つ。
"友奈"の名を持つ者達へ…これから、生まれてくるその名を継承された者達へ。
貴女達は特別なのかもしれない、でも決してそれが重荷ではない事を理解してほしい。
貴女は"高嶋友奈"ではなく、ただ、彼女のような大きな人間になって欲しいと願って付けられた親の寵愛を受けた子供達だ。
それは…高嶋友奈本人だってそう思っているはず…―――。
もし仮に、世界を動かすほどの大業を成し遂げる事があったとしても、それは"友奈"だからじゃない…貴女の力だ。
貴女は…"貴女"だ。
ここに、それを記しておく。
『勇者部』一同
・芙蓉・リリエンソール・友奈
・柚木友奈
・横手すず
――――――――――――
…読み終えた流星は、その記録帳をパタンと閉じた。
この先はきっと、当時の『勇者部』の活動記録だろう。
世界の真実を追求した内容や何気ない青春の日々だって書かれているのかもしれない…今日まで秘匿され続けた世界の真実だ、本質に迫ることもなく、一生を終えてしまったのかもしれない…だけど、一生懸命だったことに違いはない。
そして、これを遺した著者も"友奈"の名を持っていた。
だけど、彼女はそれが理由では無いことをちゃんとここに記している。
…そうだ。結城先輩だって、"友奈"だからじゃない。
自分が成すべき事だって、理解していたから必死になれた。それだけが理由じゃないんだ…この名前の特別性は"神格的"な物なんて一切ない…その名前を持った者がその志を強く持って臨んだ結果なんだ。
…"人"として生きていく。
それが、"友奈"の名を持つ者達が共通して持っていた感覚だ。
…そして、それは他に影響する……それこそが、この名前を持つ者達が世界にとって大きな影響を遺した理由だと、俺はそう感じた。
俺もその1人だ。
俺も思い悩んで挫けていた時、あの人に会ってあの人に励まされた。勇気を貰った。少なからずとも、あの人に影響されたんだろう…でも、それが俺の“成すべき事"だと理解出来たんだ。
そして、『獅子座』だってその名を持つ者…きっと、名前に拘りなんて無いのかもしれないが、"友奈"という名を持つだけで世界に振り回されるのも現実だ。彼女は……その"闇"を見てしまったのだろう。
結城先輩と同じでありながら、違うところはそこしか無い。
流星「……――"特別"であるからこそ、"普通"を求める…そして、それは他に影響する…あの人は…そんな強さを持ったすごい人だったんだ…――。」
帰ったら、一度尋ねてみよう。
俺にバトンを託してくれた…"友奈"って人を―――――。
…………………………end。
"友奈"の起源に触れた流星。
それが持つ意味は「何事にも必死になれる事」。
それが、他に影響して来た事。
その意味を胸に秘めて、仲間の元へと帰っていく。
そして、数日後…
新生大赦から「あるお役目」が言い渡される事に――――――。
次回
第37話 "攻勢"。