邪神教団のロッジの破壊…。
それを担うのは、いつだって"特別"な少女達だった…―
芽吹「……これは…。」
防人寮に届いた。新生大赦の紋が描かれた一通の文書。
それを開けた芽吹は、驚いた顔をする。
―――――
防人全隊員に告げる。
明日の明朝、大橋付近に設立された邪神教団ロッジの破壊を命ずる。
―――――
教団ロッジの襲撃…これは、武力による攻勢を意味する。
しかし、芽吹は戸惑う。
…私たちは、"人殺し"をするわけじゃない…。
この文書から察するに、これは宗主様の意思じゃない…でも、理屈は理解できる。
彼らの行動が世界の混乱を招いているのだ、それを鎮静化するのなら攻勢に入るのは最も合理的だろう。
しかし、何かおかしい……まるで、"何かに急いでいる"ような、そんな気がしてならない。
そこへ、玲司がやってくる。
…すごく、機嫌が悪そうだ……きっと、この文書の事を知ったのだろう。
玲司「…その文書を開けてるってことは、通達が来ちまったってことか…手っ取り早くて助かる。」
芽吹「久遠さん、これって……。」
玲司「ああ、文字通りの意味だ。最悪、教団員の命を奪うことも辞さない…それが、上の決定だ。クソ、宗主様が居ねェとなりゃ、やりたい放題やりやがる…!。」
芽吹「……貴方の見解は…?。」
玲司「…正直、防人を管理する身としてはこの作戦に賛同は出来ねェ。何せ、お前らはここ最近の戦闘でボロボロだ。まともに機能しているのは"参番隊"と"肆番隊"…お前らの"壱番隊"も、黒百合と『獅子座』との連戦で身体がまともに回復出来てねェだろ…これは"戦争"じゃねェんだ。」
久遠の思いを聞いた芽吹は、考え込む。
玲司「…下手すりゃ、今度こそ死人が出ちまう…高崎の離反の件もある。このタイミングで攻勢に入るのは早計だと思うんだ。新生大赦…いや、『上位神官』の御三方が無理に命じたこの攻勢……何か、"裏"があると俺は踏んでいる。」
芽吹「…裏…ですか…。」
玲司「ああ。とにもかくにも、俺が反対したところでこの無理は通されちまうだろう…すまねェな、無力な大人で…。」
芽吹「…いえ。その"裏"を暴く意味でも、今回の攻勢に関しては従うべきでしょう。でも、これだけは言わせてください…私たちは"いつも通り"にやってのけます。」
玲司「……ああ、それでいい。頼んだぜ…?。」
………
そして翌日、明朝…――。
時刻は午前5時32分。
変身を済ませた防人達は整列する。
そこに、芽吹が先頭に立って声を上げた。
芽吹「これから行うのは、邪神教団のロッジの破壊…激戦が予想される。ひいては、件の『黒百合』が現れる可能性だって考えられる…けど、これだけは言わせて頂戴。私たちは、全員で生きて帰る!!。もちろん、向こうにも死人は出させない!!。私たちは"人殺し"をしに行くわけじゃないってこと!。無辜の民が安心して過ごせる日常を守る事!!これが、私たちの"お役目"よっ!。」
その掛け声に、全員が声を上げる。
作戦名『鉄華の乱』。
――――開始。
………………………………。
〜大橋近郊・邪神教団『第8ロッジ』〜
黒百合「……来るか。」
"呪具化"した2つの神具…『生太刀』と『大葉刈』を手に、黒百合は立ち上がる。
そこには、「乙女座」と背丈の低い少年…「魚座」も同席しており。
ヴァルゴ「…流石に少し気に食わないわね、『獅子座』のお気に入りだからと言って、全権を任されているなんて…。」
『魚座』…ピスケスはスマホの画面を閉じて溜め息を吐く。
ピスケス「…そんなの、どうでもいいじゃん。僕は言われる方が楽だな…失敗しても怒られないもん。」
ヴァルゴ「…全く……それで、「罠」は完璧なのでしょうね?。」
黒百合は立ち上がる。
黒百合「…それはお前達の好きにするといい。俺はそんな姑息な手は使いたくない。」
ヴァルゴ「なんですって……!?。」
ピスケス「もういいじゃんか、好きにしろって言うんだしそうさせてもらうだけでしょ?。面倒だからさ、ここで一気に"防人"達を一網打尽にしようよ。」
黒百合「…楠芽吹と紫藤流星は俺がやる。後は任せた。」
その瞬間……――――。
ピスケス「おぉッ!?。いきなり爆破なんて粋な真似をしてくれるじゃんっ!。」
"参番隊"の放った先制攻撃がロッジの一画を吹き飛ばした。
……………………。
夕海子「…命中。流石ですわ…長距離砲撃に長けた"参番隊"の砲撃技術…。」
芽吹「…1年前、32人を四つの隊に分けてそれぞれのレンジに特化した部隊へと方針を変えてから訓練の内容も変わったからね…あっちの防人システムは"砲攻型"という新型にアップデートしてるみたいだし…。」
雀「だったらなんで私達は4人なのさぁ!?。人数振り分けおかしくない!?。」
シズク「ガタガタ五月蝿ェんだよ、今更文句言うな。ならお前だけ"肆番隊"に行くか?。まぁあっちは隠密戦に長けてやがるから運が良けりゃ短期決戦で済むぜ?その代わり、リスクはウチ(壱番隊)よりもデケェけどな?。足も速いし、お前のような鈍臭い奴は置いていかれるだろうさ。」
雀「うぅ…私、みんなに着いていきまぁぁすっ…だから見捨てないでぇええ…。」
芽吹「私たちはそれぞれの役割を担ったタイプをバランス良く振り分けたチームよ。付き合いもそれなりに長いし…私が指揮を取り、弥勒さんが私の補佐を。そして、シズクが先攻して雀が鉄壁の防御で守る……それに、今は流星も私の隊の1人よ。この5人で十分…私たちは…"切り込み隊"だ…!。」
芽吹が銃剣を掲げる。
芽吹「"参番隊"の先制攻撃は成功したっ!。"使徒"が出てくる可能性も大いにあるっ!!制圧戦、開始よっ!!。」
その掛け声と共に、防人全隊が一斉に行動を開始。
ロッジに向かって進軍する。
向こうも当然ながら、迎撃に当たってきた…複数人の邪教徒達が現れては邪気弾を込めた銃撃戦で仕掛けてくる。
だが、2年前の過酷な戦闘に比べればこんなものはどうって事はない。
自分達は元々、化け物を相手に奮戦する事を予想した集団だったのだ。
いくつか遅れは取ったが、この2ヶ月間は各部隊もそれなりに練度を上げてきている…消耗はしても、初邂逅の時とはまるで違う。
傷つく事は百も承知、無傷で勝とうとは思わない。
しかし、生き残る事に関しては諦めない。だからこそ、粘り強く戦えるのだ。
『"壱番隊"はそのままロッジに突入を!。こちらは"参番隊"と連携して"使徒"戦に備えるッ!!。』
"肆番隊"の隊長から頭部のヘッドギアを通じて連絡が入る。
芽吹はコクリと頷き、"壱番隊"の面々と共にロッジの入り口を目指す。
芽吹「ええ、任せるわ!。各部隊、武運を祈るッ!。」
…"使徒"の相手は難しいもの…それを、恐れもせずに立ち向かう選択を取るとは……すごく、頼もしい。
だからこそ、私たちは私たちの役目を果たしましょう。その先に、何が待ち受けようとも……―――
…だけど、立ちはだかって来たのは予想通りもあり、難敵を示す反応が体中に駆け巡る…。
ー黒百合ー。
…やはり、コイツか……。
私たちはまた、コイツと対峙することになる……。
黒百合「…驚いたな、こんな大胆な作戦を決行してくるとは…お前達は不殺を掲げているんじゃないのか?。」
芽吹「そうよ。私たちは誰も殺さない。」
黒百合「フッ……。」
シズク「テメェ、何を笑ってやがる!?。」
芽吹「甘い…と、思ったんでしょうね。確かに、生死を賭けた戦いを幾度も繰り広げて来たのにも関わらず、その考えを持った上でこんな作戦を決行してきているんですもの…そう思われても仕方ないわ。でも、この作戦は"新生大赦"の意思であり、その目的も彼らの意思…しかし、人を殺さない事を徹底しているのは私達"防人"の意思よッ!。」
黒百合「矜持…と言うわけか。それでいい、その意思の強さを挫いてこそ、俺はお前達に勝利したと言える。力で凌駕しても、精神力を挫けないようではお前達を負かすことなんて出来ないだろうからな。」
その瞬間、黒百合の纏う闘気が一気に溢れ出した。
黒百合「『獅子座』と戦って生き残れた奴は居ないと聞いたがお前達がそれを成し遂げた…あの人が持つ"気迫"にも負けなかったその精神力…今一度、試させてもらおうッ!。」
飛び出した黒百合の攻撃は神速そのもの。一瞬で懐を取られた。
しかし、振るわれた凶刃は雀の結界に阻まれてしまう。
雀「うわわわわッ!?。こんなの食らったら一瞬でも御陀仏だよぉ!。」
黒百合「…そう言いながら、簡単に防いでくれる…!。」
続いて振るわれたのは「大葉刈」の一閃。
シズクが割って入り、その軌道に沿って確実に防ぎ切れる角度で刃を受け止めた。
シズク「はっ、スカシ野郎がッ!。前回はしてやられたが今回はそうも行かねェからなッ!?。」
流星「黒百合ぃいいいッッ!。」
シズクと連携して放った攻撃が黒百合を捉えた。
躱わせないと踏んだのか、黒百合はその攻撃を身体で受け止めた。
黒百合「……また強くなったな……!。」
流星「聞かせろっ!お前は一体、何なんだ!?。」
互いに競り合いながら睨み合う2人。
ジリジリと、互いの得物から火花が散る。
黒百合「それを話した所で、何になる?。俺達が"敵同士"という事実は何も変わらんだろう?。」
流星「それでも同じ星の元に生まれた人間同士だっ!。敵だからと言って、分かり合わないのは違うだろう!?。」
強引に前に出る流星。
勢い良く弾かれた黒百合は仮面の下で歯を食いしばる。
そこはすかさずシズクと夕海子、そして芽吹の攻撃が飛び交ってくる。
黒百合「連携パターン…厄介な…しかしっ!。」
『生太刀』を構えて腰を落とし、闘気があたりの空気を振動させる。
芽吹「大技が来るっ!。各位、散開っ!!。」
黒百合「遅いさ…ッ!。」
振るわれたその一閃。
空気が一瞬、止まった。その刹那、まるで切り取られたかのように空気に歪みが入る。
間一髪、避けられた…しかし、その斬撃の軌跡は周辺の壁を紙のように切り裂かれ、その断面は一切のブレもない綺麗なものだった。
芽吹(なっ…今のは何…!?。)
黒百合「避けたか…しかし……っ!。」
回避行動に入ったその隙を突いた黒百合が芽吹の懐を捉える。
しかし、彼女は舞う瓦礫を手に取って盾とし、斬撃を受け止める。
黒百合「…ちっ……!。」
芽吹「お前の剣技は一度、見ているっ!そう何度も同じ手が通用するはずが…ッ!。」
シズク「おおおおお!!。」
シズクが放ったワイヤーが黒百合の身体を拘束する。
夕海子「もう一つっ…!!。」
さらに拘束。二重拘束により黒百合は身動きが取れなくなる。
芽吹「邪神教団・黒百合。乃木家及び乃木園子襲撃…そして、高知支部の破壊と二種の「神具」を強奪した容疑で……。」
流星「!!?。芽吹さん、離れてっ!。」
芽吹「…えっ…?。」
流星が叫んだその瞬間、"樹海化現象"が発生。
ロッジは瞬く間に飲み込まれ、黒百合もろともその場にいた全員が巻き込まれる形に。
そして………―――
……………。
芽吹「………ぅ……。」
……何が起きたのか、あれから気を失っていたのか…私は、ゆっくりと目を開ける。
でも、そこに広がる光景に私は……絶句した。
芽吹「……は……これって……!?。」
2年前、何度も何度も赴いたあの光景。
文字通りの"地獄"…命と言う言葉を否定するかのような無限に広がる業火の世界。
……もう二度と、見る事がないと思っていたあの光景……。
そう…2年前の…「外」の世界そのもので…―――。
…私たちは、"嵌められた"。
そう…この制圧作戦に秘められたものこそ、完全なる「罠」だったんだ…―――。
…………………………end。
無限に広がる火炎地獄…。
自分達が今、足を付けていたのはまさに地獄。
そして……"あの化け物"達がやってくる…―――――
次回
第38話 『さよなら』は言わない。