"量産型勇者"とも言われる「防人」の力を手にした少年は、この世界の隠された"真実"を知ることになる。
そして…それは、この世界に渦巻く"悪意"の全てを見ることに。
……昨日の"巫女狩り"から翌日。
讃州中学校の周りには新生大赦の人間達が厳重に辺りの警備にあたっていた。神官クラスもいるのか、校舎の周りには「結界」を張るための捧げ物が置かれている。これは一見すればただのお供え物だが、神道を噛んでいる者にとってはそれは強力な結界そのもの。故に、邪なる神を信仰する邪神教団の邪教徒にとってはこの上ないほど強固なものだ。
亜耶が狙われた事は新生大赦の根回しで伏せられている。もしそれが露見してしまえば、彼女の性格の事だから気負ってしまうことだろう。そして、当の本人には精神面で全面的なバックアップを行うことに。普通の女学生として、普通に勉学に励めるように…と。
そして、流星は…昨日の出来事を心に潜めながらも通学路を歩いていた。その時、後ろから声をかける少年が……峻輝だ。
峻輝「よッ、流星っ!。なんだ、朝から元気が無いなぁ?。どうした?。」
流星「あ…な、なんでも無いさ。昨日の出来事を思い出してな…あんな騒ぎがあったせいか、新生大赦の人間が多く見られる。なんか、不安になるよな。」
流星(…昨日の事は他言無用…峻輝は何も知らない方がいい…国土さんの事も…"今"の俺のことも。)
カバンの中にはあの端末が入っていた。そう…あの後、置いて帰るつもりだったが芽吹が帰す条件に持ってろと手渡したものだ。そして、そのついでに…こう言われた。
…………………………………。
芽吹「…学校には貴方の事と亜耶ちゃんの事も話さないで頂戴。そのあたりはきちんと根回ししておくし…それに、亜耶ちゃんが気負ってしまうから…。」
流星「…それは構いません。俺もその方がいいかと……だけど、これだけは覚えておいて欲しいんです。俺は…貴女たちに"協力"するつもりもない。新生大赦に掛け合って、この「防人システム」とか言うのを返せるようにお願いしておいてください。これは…本来は貴女のものですから、楠先輩。」
芽吹「……保証はできないけど、務めるようにはするわ。でも、これも覚えておきなさい。貴方がそれに選ばれたのには"意味"がある。決して、無意味なものじゃない…"勇者"の適正はいつだって、意味をもたらすもの…いつかそれが分かる時が来る。だから…巻き込まれただなんて思わないで。」
流星「……勝手な事ばかり、言わないでください…貴女達は、その為に覚悟を決めたのかもしれないけど俺は違います…俺は…"普通"でありたいだけなんです。」
そう言って、流星は防人寮を後にする。その後ろ姿は…何処か哀しみに包まれていたように感じた。
芽吹「……そうやって、"逃げて"も何もならないわよ……。」
…………………………………。
流星(…そうだ…俺は……普通でありたいだけだ。こんな非現実的な事なんて…。)
亜耶「ぁ…お、おはよう…ございます。三上君に…紫藤…君……。」
バッタリと会った亜耶はどこか、気不味そうな雰囲気を漂わせながら流星な顔を見る。無理もない、昨日の出来事は自分を守るために行ったもの…それが、彼の"日常"を壊そうとしているのだ。
峻輝「おはよう、亜耶ちゃん!。昨日は大変だったな、大丈夫だったかい?。おい、流星…お前、昨日亜耶ちゃんに何もしてないよな?。」
流星「え…そ、そんなことするわけないだろうっ!?。誤解を生むような事を言わないでくれよ、全く…おはよう、国土さん。ごめん、朝は弱いんだ俺…気にしないで?。」
亜耶「え…あ…は、はい……。」
峻輝「そういうことだ、無愛想だけど悪い奴じゃねェんだ。わかってくれな?。」
亜耶「はい、それは重々承知していますよ?。フフ、仲良しさんなんですね?。」
満面の笑みを浮かべる亜耶。それはとても眩しくて、峻輝は直視出来なかった。
峻輝(くは〜っ!尊い…なんて尊いんだ!それに、凄く心が癒される〜!。)
流星「…何を尊死してるんだ…お前は…早く行かないと遅れたら面倒だぞ?。お前、日直だろ?。」
峻輝「あ、そうだった!!。先に行くわ、また後でなっ!。」
そう言って、峻輝は走っていく。
亜耶「……凄く、いいお友達なんですね。」
流星「ああ…俺には勿体無いくらいの大親友さ。その…国土さん。昨日はちょっと言いすぎたかもしれない…ただ、誤解はしないで欲しいんだ。昨日の事は君のせいじゃない。俺が自分で決めてやった事だし…それに、戦いたくないのも事実……だからこの件は自分でちゃんと片付けるから、気にしないでくれ。」
亜耶「え……あ…はい…その………分かりました。私の方からも掛け合ってみます。戦いたくないのはみんな同じですから…早くこんな怖い事が終わればいいなって…そうすればもう誰もこんな思いをしなくてすむのにな………。」
そうやって言う亜耶な顔はどこか儚い感じがした。
心優しい彼女はきっと、多くの"理不尽"を見て来たんだろう。
だからこそ、こんな表情をする…きっと、みんな平和が欲しいんだ。それは分かる。けど…自分ができることなんて無い。なぜなら…"覚悟"がないからだ。
そう…覚悟がない自分が使命のために"お役目"と向き合う防人達に加担する事なんてきっと迷惑が掛かるに決まっている。
一つはその理由だ。そして、もう一つは"普通"でいること。
彼は"持続"を望む。現実志向故に、変革はどこか消極的になる…今に満足しているからだ。戦うことなんて、それを役目だと感じでいる人間でやればいい。自分は……やりたくない。
そう…俺は………逃げたいんだ。
そんな顔をしていた時、亜耶が覗き込む。
亜耶「あの…紫藤君。放課後、予定はありますか?。」
流星「え……別に無いけど…どうして?。」
亜耶「フフ、少しお買い物に付き合って欲しいのです。芽吹先輩…ううん、防人の皆さんのお夕飯の為に。」
流星「夕飯…国土さんが飯を作ってるのか?。」
亜耶「はい。まだ下手っぴですけど、少しずつでも上手になりたいなって。それに…私に出来ることはそれしかありませんから。あと、少し紫藤君とお話がしたくて。」
それを見た流星は、意外な顔をした。まさか、彼女の方から誘ってくるなんて…と。
流星「…ああ、わかった。放課後な、時間はあるよ。俺、帰宅部だからそのまま帰るだけだし…いいよ。」
それを聞いて亜耶は満面の笑みを浮かべて。
亜耶「ありがとうございます!。じゃあ、放課後に!。」
パタパタと走っていく亜耶。流星は少しだけ思う。
…あの力を使って、守れて良かったな……っと。
………そして、放課後。
亜耶「お待たせしました。ごめんなさい、お手伝いをしてたら少し遅くなっちゃって。」
校門の前で待っていた流星を見かけた亜耶は息を切らしながら走ってくる。
流星「いいよ、そんなに待ってないし…先生の手伝いをしてたんだろ、見てたよ。」
亜耶「あ、はい。荷物が多くて大変そうだったので…。」
流星「そっか、優しいんだな国土さんは。」
その"優しさ"を見て、少しだけ流星は羨ましく思う。そこまで人に優しくなれる彼女が。自分とは正反対だと。それに比べて自分は…っと、少しだけ悲観な気持ちとなる。でも、それを察したのか亜耶はニッコリと笑みを浮かべては先を歩き始めた。
亜耶「さぁ、行きましょう?。お買い物、楽しみだな。」
……………………………。
…それから、亜耶の買い物に付き合う流星。メモ帳に書かれたものを必死に見ながら、材料をカゴに入れていく。背が低いのか、届かないところは取ってやったりと心なしか流星も楽しんでいた。自然と笑みが浮かぶ…こんなのは久しぶりだ。勿論、笑顔が全く無い訳ではない…しかし、心ここに在らず……っと言った感じに毎日を過ごしていた。何故、そうなったのかは覚えていない…いつの日か、心にポッカリと穴が空いたかのように世界の全てがぼんやりと見えていた。だからなのか、こんな"冷めた"感じになってしまったのは。
そして………。
亜耶「お買い物に付き合ってくれてありがとうございます。これ、お礼のお飲み物です。」
そう言って、オレンジジュースを渡す亜耶。流星はそれを受け取り、タブに指を掛ける。
亜耶「……あの、今日誘ったのはちゃんとお話したいなって思ったからなんです。」
流星「……え…?。」
亜耶「昨日はあんな状況で話を聞かされて…一方的だったでしょう?。でも、芽吹先輩は貴方の事が心配なんです。ただ、不器用なだけで…だから代わりに謝ります。ごめんなさい。」
流星「いや…謝らなくても……俺の方こそ、自分の言い分ばかりで……はは、今度楠先輩に会った時に謝らないとな…本当は分かってたんだ。俺は…逃げたいだけなんだって。」
缶を見つめながら、流星は語る。
流星「戦いが怖いのは本当だし、人殺しになりたくないのは本当だ。それに俺には…"覚悟"が無い。だから…この力を使って人を救うなんて事は出来ない……"普通"でありたいんだ…ただ、それだけなんだよ…。」
亜耶「…それでいいと思いますよ?。正直に生きている方が凄くいい。昔の私も…本当の気持ちを隠して仮面をつけてたようなものですから…。」
流星「え…国土さんが…?。」
亜耶「はい。巫女という立場上、私は神樹様を信仰しています。当然、そんな立場なんて関係なく信仰は正直な気持ちです。でも…その為なら生贄になるのも当たり前だと思っていました。しかし、私に本当の気持ちを聞き出してくれた方がいます。芽吹先輩に私は…救われました。だから私は、正直に生きている紫藤君が少し羨ましいなって思うんです。」
流星「…俺が…羨ましい……?。」
亜耶「はい。場に飲まれずに自分を貫いたじゃないですか。時には逃げることも大事です。貴方は逃げているだけだと言いましたが…その選択に後悔がないのならそれは正しかったと言うことなのです。本当の貴方はきっと…一途で真っ直ぐな人なんでしょう。だから、そのままでいいんです。戦いたくないならそれでいい…巻き込んだのは私達なんですから。」
流星「…それは………。」
「国土亜耶だな。先日は同志がミスを犯したが…今回は来てもらおう。」
不穏な男の声。2人は立ち上がるとそこには数名の邪教徒達が取り囲んでいた。
流星「邪教徒!?。クソ、気付かなかった…!。」
流星は咄嗟にポケットに入れている端末に手を伸ばそうとするが、躊躇してしまう。これを使えば本当に…戻れなくなるんじゃないかと。
しかし、亜耶はゆっくりと立ち上がって邪教徒達に歩み寄る。
亜耶「…私が行けば、この方を見逃してくれますか?。」
流星「なっ…国土さん、何を馬鹿なことを…!!。」
亜耶「いいんです。貴方は戦わなくていい、今なら戻れます……それを使っちゃうと本当に"今"を手放さないといけません。自分の心に従って下さい。それが…正直に生きると言うことです。」
亜耶は流星に優しい笑みを向ける。
亜耶「…私のこと、そして防人の事は忘れてください。ごめんなさい、貴方の日常はちゃんとお返しします。それに、今日はありがとうございました。楽しかったな………フフ、大丈夫です。きっと、芽吹先輩達が助けに来てくれますから…あの人たちを、信じてるので……。」
流星はその笑みの"裏"に、恐怖心を感じ取った。自分を巻き込まないために、そして……殺されるかもしれないという恐怖心を。
…俺はまだ"逃げる"のか?。自分よりも非力で、そして…自分のことを否定しなかった彼女を見捨てて"日常"に帰るのか?。今、手を伸ばせば助けられるんじゃないのか?。自分はどうしたいんだ、他人を踏み躙ってまで"今"に拘るのか?。そんなの……嫌だ。俺は…俺は……!。
ー彼女を、助けたいっっ!ー
………気づいた時には身体が動いていた。亜耶を守るように片手でその小さな身体を抱え、片方の手にはあの端末…「防人システム」が入った端末を手にしていた。
亜耶「紫藤君、ダメですっ!。それはもう…!!。」
流星「…何が正しくて、何が間違ってるかなんて分からないし、この先どうなるかだなんて分からない。確かに、"今"を手放してしまうかもしれない…"覚悟"なんてない…けど、俺は…君を助けたいんだ!!。」
力強いその声。流星は「心に従った」。
流星「お前達の好きにはさせないっ!!。俺は……戦うっ…!!。」
システムを起動。「戦衣」を身に纏う。
亜耶「紫藤君…!!。」
流星「邪神教団っ!。国土さんは…渡さない…ッッ!!。」
……………………………end。
自分を否定しなかった少女を救うために、心に従った少年。
"持続"を望んでいた自分を自分で否定した…それは大きな一歩だ。
戦う。その心のままに従って。
次回
第4話 brave heart。