紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

40 / 82
――仲間が一人、ここに居ない。

誰も死なせない…これは、私がずっと心がけてきた事。
元々、"勇者"の適性を見出された者たちが落第して集まった集団…いわば、消耗品のような扱いを受けたと言ってもいいだろう。

だから、見返すために私は32人全員を生還させて帰ると心に誓った。

でも、あの人は……弥勒さんは…


――――ここに居ない。


第39話 "それでも"、私達は…――

二年前の時間軸から戻った私達は、ここ…「大橋」付近に設立された邪神教団の新ロッジ内に立っていた。

 

あれは、夢では無かった……現に、ここには弥勒さんが戻っていない。

雀は声を上げて泣き叫ぶ…シズクは自身への怒りと彼女の喪失感から話しかけられない雰囲気に……流星は、現実を受け入れられない状況に困惑しているようだった。

 

私は……もう、何も考えられない。頭の中が真っ白だ。

 

こんなはずじゃなかった…どんな困難が立ち塞がってきても、私達なら乗り越えられると信じていたからだ。二年前のあの地獄を、全員で生還したことから…今回のこのアクシデントも無事、乗り越えられると確信していた。

 

…でも、ここには彼女は居ない…彼女だけが居ない。

あの人は、いつもは騒がしいくらいにまで自分を強く主張してくる。

でもそれは、崇高な志故の行動だ…没落した自分の家の名誉の為に、粉骨砕身の思いでブレずにやってきたからだ。私に対して、勝手なライバル心を燃やしてくる変わった人だったが、年長者らしく私を陰で支えてくれた人でもある。

 

……最後に、私に向かって声を上げた。

全員を生かして帰せ……それが、あの人から受けた言葉だ。

 

…何が、全員生かして帰せ…だ。そういう貴女はここに居ないじゃない…貴女だけが、帰って来てないじゃない……。

 

…私は、何をしていたんだ……仲間達にこんな思いをさせて……。

 

 

 

黒百合「……共闘はここまでだ。俺も戻って、確かめたいことがある。」

 

黒百合はそのまま踵を返し、去っていく。

ここには、静寂がこだまする…激戦の後なのか、新ロッジは無残にも崩落寸前だ。

 

誰も、ここには居ない…"参番隊"も"肆番隊"もみんな…ひいては、"使徒"さえも。

 

…戻ろう。

 

今は、それしか考えられなかった。

 

 

―――――――――――――

 

芽吹「………死んだ?。」

 

防人寮…戻った矢先に受けた報告。

玲司は、冷静に帰還した芽吹にそう言う、

 

…そこには…白い布を被さられた者が横たわっていて。

亜耶は大粒の涙を落としながら、鎮魂の祈りを捧げる。

 

玲司「…ああ。「乙女座」を相手に、大奮闘だ。奴に深手を負わせたが、代わりに自分の命が散ってしまった……楠、"肆番隊"隊長は……勇敢だったぜ…。」

 

ここに眠る人物……その子は"肆番隊"の隊長だ。

私達に託し、"参番隊"と協力して"使徒"の相手を買って出た子。

そして……二年前、あの地獄を共に乗り越えた子。

 

私は…息が出来なかった。

弥勒さんに続いて、彼女さえも………。

過呼吸となり、その場に崩れる私。みんな、心配して駆け寄ってくる。

正直、何が起きたか全く分かっていない…気が付いたら倒れていて。

死人を出してしまった。どうしよう…弥勒さんの事も何も言えていないのに……全部……。

 

 

―――私の"せい"だ。

 

 

玲司「楠っ!。おい、楠っ!。」

 

流星「……俺が介抱します。」

 

亜耶「……リュウ君……。」

 

シズク「…弥勒の事はオレが言っておく。楠の奴に押し付けるわけにはいかねェ。『しずく』も塞ぎ込んじまったし、加賀城もあの様子だ。」

 

流星「すみません、シズク先輩。どうか…宜しくお願い致します。」

 

倒れた芽吹を、流星は抱えてその場を後にする。

……それから、芽吹の自室にて流星は今日の事を振り返る。

 

流星(……弥勒先輩…。)

 

窓の外を見る流星。

そこで思ったのは、彼女と知り合ってからの事…。

 

その頃、自分はまだ"防人"としての経験は浅く、戦闘ということに関しては素人も同然だった。

もちろん、勢いばかりで周りの足を引っ張ることもあった。何度、シズク先輩に怒られたことか…死にたくない、怪我をしたくない思いでいっぱいになり、物事の優先順位も分からないまま芽吹先輩の指示も蔑ろにしてしまうこともあった。

 

自分は"現実志向"で、夢のような話は正直言って嫌いだ。いくら夢を語ったって、現実はそれに応えてくれない…それどころか、否定させることばかりだ。

でも、あの人は『夢』を抱く事、語ることは決して愚かじゃないと良く聞かせてくれた。しつこいくらいにまで聞かせてくれて、俺はいつしかあの人の語る『夢』の話を聞くのが楽しみになっていたくらいだ。

 

そう、俺にとっては姉のような人だ…出会ってからは何かと頼りない俺の事を良く見ていてくれた。だから、この人の語る『夢』は俺も応援したい。

没落した「弥勒家」の再興…それは、途方もない現実だ。再興したところで、当時の栄誉なんて誰も分からないし、気にも留めないだろう。でも、それでもあの人はそれを夢見て一直線に突き進んでいる。

 

自分が"勇者"の候補生として見出されてからは特に頑張ったという。残念ながら、"勇者"の座を得ることは出来なかったが、それでも『夢』に向かって突き進むことに意味があると、そう教えてくれた。

 

そんな人が、自分の『夢』よりも仲間の命を優先したんだ。

それにあの人は、生きることを諦めていないはず…だって、『夢』はまだ叶えていないのだから。

 

 

――だったら"絶望"している暇なんて……無い。

 

……もう一度、行こう…あの"時間軸"へ!。

 

そう、胸に秘めて俺は立ち上がる。

そして、眠る芽吹さんを見ながら……。

 

流星「弥勒先輩を迎えに行きます。だからもう、自分を責めないでください。」

 

眠る芽吹さんの頬には涙の跡がある…この人はとても強い人だ。涙なんて、似合わない。

だからもう一度、あそこに行くんだ。

生きている…そう信じて。だからまずは……。

 

 

"新生大赦"…あの『三神官』を訪ねる…!!。

 

 

―――――――――――――――――――

 

玲司「……どこに行く、坊主?。」

 

流星の動きを読んでいた玲司は、寮の外でタバコを吸いながら急ぐ流星に声を掛ける。

 

流星「本殿です。もう一度、あの空間に行くんだ…弥勒先輩を迎えに行くために。」

 

玲司「…あれは"邪神教団"の張った罠だぞ?。何故、そう思う?。」

 

流星「久遠さんもおかしいと思いませんか?。あの作戦…明らかに"悪意"が渦巻いている。"黒百合"だって嵌められたんだ、俺は……『三神官』は何か知っていると思うんです。」

 

それを聞いた玲司は、タバコの火を消して携帯灰皿に収める。

 

玲司「……身内…ましてや"新生大赦"の『三神官』となると、国家の最高権力者に盾突くようなもんだぞ?。お前…その覚悟はあんのか?。」

 

その問いかけに、流星は………。

 

流星「…覚悟とか、そんなものじゃない……俺は"新生大赦"の紫藤流星じゃありません。一人の人間として、大事な仲間を助けに行くんですっ!。」

 

 

瞳に満ちたその決意。

……この間まで、卑屈ばっか並べてた坊主がなぁ……。

 

玲司はそう思いながら、感慨深げに微笑を浮かべる。

 

玲司「心に従った決意ってこったな?。いいぜ、俺がそこまで連れてってやる。正直、今の"防人"達はボロボロだ。"肆番隊"の隊長もやられて、まるで茎がスカスカになった花のように、萎れ始めてやがる。でも、お前なら今の状況でも踏ん張れるかもしれねェ。バラバラになりかけてるみんなの「心」を……頼んだぜ?。」

 

流星「はいっ!。」

 

それから数刻……2人は新生大赦の『三神官』を訪ねる。

彼らは「個人」としての名を捨てている……初老の男は「須佐之男(スサノオ)」、少女は「月読」、大人の女性は「天照」と「三大神」の名を名乗っている……仮にも、これは「神」の名だ。それを名乗るということは、自分達を「神」と同等と見なしていることになる…そんなの、"冒涜"に近い行為だ。

しかし、乃木園子という存在を除いてその地位は確かなものであり、"旧大赦"の時代からその権力も「乃木家」、「上里家」に次いで上位の地位であることは確かだ。

 

そんな人間が、療養中の園子の代わりに"新生大赦"を収めているのだ…"旧大赦"の思想の象徴たる彼らでは、二年前の体制に戻ったと言わざるを得ない。

悪く言えば、園子を出し抜いてその実権の全てを奪い取るつもりなのかもしれない…。

此度の作戦の"真意"……それも確かめなければいけない。

重々しい空気の中、玲司と流星は彼らの前に立つ。最初に言葉を発したのは…「須佐之男」だ。

 

須佐之男「…貴殿らがここに来たことはおおよそ、見当が付く。"防人"の犠牲者2名……これは、異例の事態だ。」

 

その言葉に、玲司は……激怒した―――。

 

玲司「…なんだその言い草は……未来ある若者が世界の為に逝ったんだぞっ!!。」

 

天照「…落ち着きなさい。彼女達の犠牲を軽視しているわけじゃありません…"お役目"の為にその命を散らした……でも、これは"英霊"へと昇華したことを意味します。彼女達の魂は、お亡くなりになられた"神樹様"の元へと導かれることでしょう。すでに、彼女達の御親族にはそれ相応の援助を約束しております。」

 

流星「…英霊……あの人たちが本当にそんな事を望んでいると思ってるんですか…?。」

 

月読「紫藤流星、君なら分かるんじゃない?。それがどんなに名誉な事かが。」

 

流星は拳を握り締め、込みあげる怒りを何とか抑え込む。

 

――何なんだ、この人達は…どうしてここまで……"傲慢"なんだ?。

 

そう、感じ取る流星。でも、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

流星「…確かに名誉な事なのかもしれない…それが"お役目"なら、みんな命を懸ける覚悟はあるだろう…でも、それは決して"神"に認められたいからじゃないっ!。みんな、大切なものの為に戦ってるんだ!。家族、友達…家……皆それぞれ、思いのままに辛い道を進むと決めてるんだ!。あんた達の為じゃないし、世界の為で無いっ!。」

 

天照「でも、貴方方は神に選ばれた身……それを、神の為ではないというのは、無礼極まりない……。」

 

流星「それはあんた達のエゴだろっ!?。勝手に押し付けてもらっては困るっ!あんた達は二年前の体制に戻したいだけなんだっ!。神を諦められないからっ!。今回の作戦だってそうだ……あんた達は、宗主様の思想の元で戦う俺達を消すためにあんな作戦を立案したっ!。張られた「罠」がどんなものか、最初から知ってたんだっ!!。」

 

流星の訴え。

それを陰で聞く人物が一人……。

 

―――芽吹だ。

 

芽吹(……やっぱりそうか……新ロッジ一つを破壊するために防人全隊を動かすなんておかしいと思った……私達は………身内にすら"嵌められた"……!。)

 

…自然と湧き上がる怒り。

自分の中から"怨嗟"が込みあげる…でも、流星は言葉を続けていた。

 

流星「それでも俺達は止まらなかっただろう……あんた達の思惑がそうだったとしても、彼らを止める為に動くことは賛成だった。」

 

須佐之男「…だとしたら、何を訴えたい?。」

 

流星「俺達は……"悪意"に屈しない。」

 

それを聞いた芽吹は、自分の中に渦巻く"怨嗟"が薄れていく感覚を覚える。

あの作戦の裏に仕組まれた"悪意"…それが何であっても、自分達の意思であの場に立っていた。

弥勒さんもそう、死んだあの子もそう……命の限り、自分達の大切なものの為に戦ったんだ。

決して、コイツ等の為じゃない……流星は、それを代弁してくれた。

 

流星「弥勒先輩を迎えに行きます、俺をあの時間軸へと飛ばしてください。」

 

月読「んん?何を言ってるのかな?。そんな事、出来るわけないでしょ?。それに、弥勒夕海子は生きてはいないよ。君達の報告にあった通り、あの地獄に取り残されているのなら生き延びる可能性は無いに等しい…そんな危険地帯に君を送るわけにはいかないでしょ?。」

 

流星「だとしても、眠る場所はそこじゃないっ!。」

 

怒声を放つ流星。

その気迫は凄まじく、陰で見ていた芽吹も肩が上がる程。

 

流星「もう一度、言います……俺をあの時間軸……二年前の時間軸に飛ばしてくださいっ!!。」

 

須佐之男「勘違いしているようだが、貴殿は我らがあの………。」

 

「見苦しい言い訳はよせ。ソイツの感性は騙せんぞ?。」

 

――その場にこだまする声…そこには…。

 

黒百合「コイツから裏は取った……まさか、貴様達がそうだったとはな………。」

 

その手には、ボロボロの『水瓶座』…彼は懇願するように…―――。

 

アクエリアス「…私は約束を守りましたっ!!。貴方方の言われた通りにっ!!。」

 

月読「……ちっ……使えないやつ……!。」

 

黒百合「聞かせてやる、紫藤流星…そして、この場に居る者たちに。」

 

 

―――――この『三神官』が"描いた脚本"とやらを。

 

 

………………………………end。




突如現れた"黒百合"…そして、『水瓶座』。

彼が語る『三神官』の"脚本"とは…そして…――――。


"邪神教団"…その、"真意"を。

次回
第40話 虚神。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。