紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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…"邪神教団"の「大司教」は"新生大赦"の『三神官』だった。

正直、未だに信じられない…彼らには彼らなりの考えがあるのだろう。

でも……だからと言って、"人"の犠牲の上に成り立つ時代なんてもう…

―――あっちゃならないんだ。


第41話 "希望"という名の花。

『三神官』が"新生大赦"を去ってから数時間後。

 

俺達は、帰ってきた宗主様に呼ばれて彼女の公務室に居る。

去り際、黒百合はこう言った。

 

…………………。

 

黒百合「……戻って、聞かねばならんことがたくさん出来た、今はお前達に構っている場合ではない…そうだ、これだけは言っておこう。」

 

 

――――亜耶"ちゃん"を守り抜け。

 

…………………。

 

――この言葉の意味が、俺は分からなかった。

奴は亜耶の事を知っているのか?それに、「守り抜け」という事は…奴も亜耶を守るために動いているというのか?。

 

"黒百合"……一体、奴は……。

そう考えていると、ようやく宗主様たちがやってきた。そこには、芽吹さんも。

 

流星「芽吹さん、来てたんですね?その……大丈夫ですか?。」

 

芽吹「ええ。これ以上、みっともない姿を見せるわけにはいかないもの。大丈夫、ちゃんと現実を受け入れたし、亡くなった"あの子"を……ちゃんと送ったから。」

 

その眼差しを見る流星。

大丈夫、これは嘘じゃない。いつもの芽吹さんだ。

そう安心すると、隣に着席した。

 

園子「お待たせしたね?さて、弥勒夕海子さんの救出作戦…その作戦会議を始めちゃうよ?。」

 

園子は車椅子を動かし、プロジェクターの前にやってくる。

 

園子「知っての通り、弥勒夕海子さんは今、邪神教団が張った「罠」のせいで"二年前の時間軸"…つまり、神樹様が消える前の「外」の世界に取り残された状況なんだけど…。」

 

芽吹と流星はそれを聞いて、あの時の彼女の姿を思い出す。

 

「スコーピオン・バーテックス」から受けた傷…あの尾針には猛毒が仕込まれている事は知っていた。

それを受けた彼女は、毒に侵されながらも殿を務めた…自分達を元の世界へと帰すために。

 

園子「はっきり言うね?生存は絶望的……あれからこっちは何日か経過してるけど、向こうは分からない……だから、確率的には2割…彼女が今も生存している確率は2割だと踏んでる。それでも…あの時間軸へと向かうんだね?。」

 

流星「はい。誰が何を言おうと行きます。それに、あの人は絶対に生きています。自分の『夢』を叶えていないからこそ、死ねない理由がある…約束してくれたんです。"必ず生きて帰る"と。」

 

園子「そっか…分かった。あの時間軸へと向かう方法は一度だけだけど、方法はある、でも、時間に限りがあるの。これ、渡すね?。」

 

そう言って、園子は「砂時計」を流星に手渡す。

 

流星「…これは…?。」

 

園子「…ある特殊な秘術で君をあの時間軸へと送り込むんだ。その制限時間を示す砂時計だよ?これが落ちきるまでに開いた『門』まで戻らないともう二度と、帰って来れない。」

 

玲司「…坊主…。」

 

園子「当然、ズレた時間軸の扉を開くんだ。何が起きるか全くわからないし、その時間軸の私達に出会ってしまえばどうなるかも分からない。正直、行かないに越したことは無いんだけどそれでも……行くんだよね?。」

 

その答えに流星は…戸惑いなど無かった。

 

流星「はい、その気持ちは変わりません。必ず、あの人を連れて帰って来ます。」

 

園子「……だってさ、わっしー?。」

 

美森は「しょうがない」といった表情をしながら、どこかその決意を嬉しく思ってもいた。

そして、一息ついて流星を見つめる。

 

美森「わかったわ。紫藤君、私も一緒に行きます。あの地獄の世界なら何度も足を踏み入れた、危険度なら熟知しているわ。」

 

流星「東郷先輩…そういえば、さっきのあの姿は…?。」

 

美森は自分のスマホを触り、そこの表示されたものを見せる。

そこに表示されたアプリは「疑似勇者外装」と表示され、新生大赦のロゴマークまで入っていた。

 

園子「これが以前、私が言っていた君達の助けになる"あるもの"だよ?。」

 

美森「私のこれは"第壱号"…完成したての「疑似勇者外装」よ?。」

 

 

"疑似勇者外装"。

園子が流星の「疑似勇者システム」を解析して構築した"人の力"を持つ「勇者システム」。

 

当然、"勇者"のような神格的な力を持ったものではなく、どちらかというと"防人"に近いものとなる。

だが、まだ完全ではなく変身回数に限りがあり、全部で8回までしか起動できないという。

神樹の遺した"残滓"が主なエネルギー源である為、枯渇すればこの外装は纏えない。

 

もう一度、戦う道を選んだのは彼女達の意思であり、"旧勇者部"のメンバーの総意でもある…次代を担う彼女達を助けるべく、再び立ち上がった"勇者"達。

 

一人じゃない…そう思うと、不思議と力が湧いてくる。

 

流星「ありがとうございます。お力、借りますね?。」

 

芽吹「私もあそこに……。」

 

園子「待って。貴女はこっちに残って欲しいの。」

 

芽吹「…何故…?。」

 

園子「今の"防人"達を束ねられるのは貴女しかいない。弥勒夕海子さんの事と、"肆番隊"の隊長さんの事…みんなの精神はもう限界かもしれない。でも、その絶望を超えて立ち上がった貴女という存在があればきっと、あの子たちはまた立ち上がれると思うんよ。今のあの子たちに必要なのは楠芽吹…貴女という"リーダー"なんだから…。」

 

園子から告げられたその言葉を聞いた芽吹は、瞳を閉じてゆっくりと考える。

そして、思うのは亡くなった"肆番隊"の隊長の事。

二年前のあの地獄を共に乗り越えた盟友…対して、絡みなど無かったが最後まで共に戦った盟友。

 

今のメンバーの大半は、"新生大赦"となってから加入した子達。あの時のメンバーは全てが終わったあの瞬間からそれぞれの道へと歩んでいった。そう、自分達は高校生。将来の事とか、"防人"になる前に抱いていた『夢』の続きを追いかけたいという思いから、道は分かれたのだ。

 

でも、あの子は付いてきてくれた。

そして、自分とそう変わらないほどにまで実力を伸ばし、一隊を任せられる程にまで大きくなった。

自分の『夢』を捨て、人を守る道を選んだんだ。『三神官』の言った事を借りると、使命を全うして死んだ。それは"英霊"になったとも言えるだろう。そんな彼女が、自分の命を懸けてまで守った"防人"達…。

 

なら、私がやることは…決まっている――――。

 

 

芽吹「流星、弥勒さんの事を頼んだわ。私は……あの子の遺志を継いで戦う。」

 

そう言って、芽吹は"肆番隊"の隊長がいつも身に着けていた赤いリボンを取り出し、右手に巻き付ける。

 

芽吹「託したわ、流星。」

 

肩に手を置き、芽吹は凛とした表情で彼を見つめる。

そんな流星はその意図を汲んで、コクリと頷く。

 

園子「決まりだね?。今から、あの時間軸に送り込むため儀式を行うからこっちにおいで?。」

 

流星「はいっ!。」

 

流星と美森は園子に連れられ、別室へと足を運ぶ。

それを見届けた芽吹と玲司は、互いに顔を合わせて。

 

玲司「そいじゃ、俺らは俺らでやれることをやるぞ?。」

 

芽吹「はい。もう十分、絶望はしました。私がみんなを引っ張ります。泣いている暇なんてもう…無いのだから―――。」

 

 

―――――――――――――――。

 

 

園子「それじゃ、二人ともそこに並んで?。」

 

指示を受けた通り、陣の描かれた中心地点に二人は並び立つ。

周囲には多数の神官達が正座し、両手を合わせていた。

 

園子「…今から行うのは、時間を超える儀式…「水瓶座」の研究資料から拝借したものだけど、たった一度きりしか行えない…時間は2時間が限界だから、そこで打ち切りになる。」

 

美森「つまり、その時間内に弥勒さんを見つけられなかったら戻ってこいという事ね?。」

 

園子「うん。二人まで失うわけにはいかないからね。あと、これだけは約束して?。」

 

園子は真剣な眼差しで。

 

園子「――歴史に干渉しない事。どう足搔いたって、変わらないものはある。特にわっしー、あの時間軸という事は…"分かってる"ね?。」

 

美森は複雑な顔をして、心を静める。

 

美森「…ええ、友奈ちゃんが"祟り"に侵された二年前…忘れもしないわ。あれは私のせいで……。」

 

園子「ストップ。もう、済んだことだよ?それに、今成すべきことは弥勒夕海子さんの救出。その結果がどんなものであれ、ここに帰さないといけない…流星君、そうだよね?。」

 

流星「はい。約束したんです……だから、迎えに行きます。あの人の『夢』の続きがまた聞きたいから。」

 

園子はコクリと頷き、神官達に目を向ける。

そして、一斉に祝詞を唱える神官達。二人の身体はどんどん透けていく。

 

流星(…先輩は、俺によく語ってくれましたよね……周りにバカにされても、その『夢』は何があっても色褪せないと。俺は『夢』なんて信じません…今でも、そう感じてしまう…だけど、貴女のその『夢』の果ては見たい気がする……あんなに澄んだ目で語る人は初めてだった…だから……。)

 

 

――――俺にその"続き"を見せてください。弥勒先輩…!!。

 

 

――――――――――――――――――――

 

~防人寮~

 

しずく「……そっか…紫藤が…。」

 

戻った芽吹は本殿で見た全ての事を語った。

『三神官』の正体の事。園子が秘策として"旧勇者部"と極秘裏に開発していたもの。そして…夕海子を迎えに行った流星の事。

 

そして、彼女は光を取り戻した目で真っすぐに防人のメンバーを見ながら言葉を掛ける。

 

芽吹「……"肆番隊"の子は立派だった。あの状況下で「乙女座」を相手に奮闘し、奴に深手を負わせた事。でも、その代償は自分の命だった。彼女はもう帰ってこない。」

 

拳を固く握り締め、芽吹は一呼吸整えて。

 

芽吹「それでも、私達に止まることは許されない。『三神官』が敵と分かった以上、前に進まなければならない。それが、あの子が私達に託してくれた思いだから…今は泣いてもいい、止まってもいい。けど、立ち上がらなければならない。だから、もう一度問うわ。」

 

雀「…メブ…?。」

 

芽吹「これから対峙する者は途轍もなく強大でしょう。"使徒"は未だに健在だし、今以上に激戦になる事も目に見えてる…もしかしたら、この中の誰かが犠牲になるかもしれない…だから、ここで降りたい者は降りてもいい。これからの人生だもの、こんなことで散らして良い筈がない。」

 

しずく「……私は……。」

 

芽吹「でも、今一度ここに誓うわ。私はもう…誰も死なせない。もし、付いてきてくれるなら私はみんなの命を全力で守り通すわ。全員がここに帰ってこれるように、もっと強くなる。」

 

感極まったのか、芽吹は一筋の涙を落とす。

 

芽吹「もう……絶対に負けないから…だから…っ…。」

 

雀「…そんなの、ズルいよ。」

 

芽吹「…すず……め…?。」

 

雀「どうして、自分一人で抱え込むの?。メブ一人でどうにかなるの…?。」

 

芽吹「それは……。」

 

雀「…ちょっと前の私なら、降りていいと言われたら遠慮なく降りてたよ?。正直、今でも降りたい気持ちはあるけど…誰かを置いて降りるなんてそれはそれで嫌なんだよね…降りるなら、みんなで降りようよ。全部終わった後にさ?。」

 

雀からこんな言葉が出るのは意外だ。

人一倍に臆病な彼女は、こんなことから逃げ出せるなら真っ先に逃げ出す…誰もがそう思うだろう。

しかし、そうじゃなかった……逃げ出したい気持ちはあっても、大事な仲間を置いて自分だけ逃げるなんてことは決してしない。

 

そう、自分が傷付くのと同じくらい、大事な人が傷付くのが嫌なんだ。

だから、いつも付いてくる。どんなに危険な場所にだって、泣き言を言いながらでもついて来る。

 

―――こんなことを言うのは、野暮だったな。

 

しばらく忘れていた彼女の気質に、芽吹は思わず柔らかな笑みを浮かべる。

それは、しずくも同じだ。

 

しずく「…『シズク』が照れ臭がって出てこないから、私が代わりに言うね。「そんなしょうもねェ事言うとぶっ飛ばすぞ?馬鹿な事言ってんじゃねェ。」…だそう。」

 

雀「……一瞬、入れ替わったよね……?。」

 

しずく「…楠、私も同じ。だから、そんなこと言わないで。彼女が死んで悲しいのはみんな同じだし、止まれない気持ちだってあるのはみんな同じ。ただ…泣きたかっただけなんだ。」

 

そう言って、芽吹の手を取るしずく。

そして、「降りる」という提案に誰もが……乗らなかった。

 

みんな、覚悟を決めた顔をしている。

これからもっと過酷なことが待ち受けるかもしれない…ここにいる誰かがまた一人、犠牲になるのかもしれない。

 

でも、それでも……何気ない"明日"を手にするために、私達はここに居る…戦うんだ。

 

だから、後は貴女だけ……。

 

 

―――――――弥勒さん。

 

 

…………………………end。




立ち止まれない、立ち止まらない。

苦しみと悲しみの中、少女たちは立ち上がる選択肢をした。

そして、少年は再び"二年前の地獄の世界"に向かった。

あの人を迎えに行くために――――

次回
第42話 『夢』の続き。
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