紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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没落した家の名誉を取り戻す。

そんな事、誰も求めていないかもしれない。
でも、あの人はただ真っすぐだった。純粋に、その夢を追いかける為に"勇者"への道を選んだ。

俺は……それが見たいんだ――――。


第42話 『夢』の続き。

~"二年前の時間軸":「外」の世界~

 

美森「…また、ここに足を踏み入れることになるなんてね。」

 

 

一言で言えば地獄。

またここに来るなんて、夢にも思わなかった…初めて"ここ”を見た時は絶望しかなかった。

 

倒したはずの"バーテックス"が再生し、無数の星屑達が蔓延る世界…聞いていた話とは全く違う事実…終わらない戦い、永遠とも言えるこの繰り返しはもうどうにもならないものだって、諦めてた。

 

そして私は…"過ち"を犯した。

 

――ここに来ると、それを思い出してしまう。

 

それに二年前の時間軸と言えど、どの時系列かは分からない…世界の真実を知った後の事なのか、それともまだ"勇者"としてのお役目に付いていないときなのか……自分はそれ以前の"勇者"なのだが…。

 

そんなことを思っていた矢先、流星は急ぐように先を進みだす。

 

美森「ちょっと紫藤君!?。迂闊に動かないで!!。」

 

流星「でも、そうこうしている内に弥勒先輩が…っ!。」

 

焦る流星。しかし、彼女は冷静で。

 

美森「無茶をして私達が致命傷を負えば本末転倒よ。助けられるものも助けられなくなるし、全滅だってあり得る…ここは私の指示に従って。」

 

流星「…はい、すみません……。」

 

美森「素直でよろしい。さて……。」

 

周囲を見渡す二人。

相も変わらず、空間を埋め尽くさんとする"悪魔"の集団……これが、『勝者』の特権なのか、今の時系列からすると300年前に人類は彼らに敗北を喫している。

それからというもの、今の今まで彼らによってこの星は支配されている…現状、人類の生存圏は神樹が存在する四国を除いて全て滅んでしまっている。これはずっと知らなかった事であり、当時、聞かされていたのは「壁の外には未知のウイルスが蔓延している」という嘘の情報を与えられていた。

 

事実を知ってから、敵は"神"そのものであったことが分かった。そして、神世紀302年の現在…人の手によって"神"を再び降臨させようとしている。そして今度は、その"神"を以て"天の神"との直接対決を目論んでいる。

 

…そんなことをさせるわけにはいかない。

確かに、"天の神"は人類を滅ぼす選択をして一度、文明を滅ぼしたのかもしれない。

しかし、それは往き過ぎた人類が神の領域に踏み込もうとしたことに対する怒りであり、その粛清を行った結果だった。

 

それが正しい事なのかは分からない…そのせいで多くの人が犠牲になったし、人間の考えではただの被害そのものだと捉えてしまう。神の考えることなんて分からないけど、間違いなく言えるのはその"討伐"の為にようやく復興に向けて動き出した人類がまた戦火に包まれるのは決して良いことではないという事だ。

 

何としても、阻止しなければならない……歴史の真実と神の存在を知ったからこそ。

それに、今見ているこの光景はもう"終わった"ことなのだ。そこに取り残された仲間を助けること―――。

 

その為に、またここに来たのだから―――。

 

その時、"星屑"の一団がこちらに気付いた。

美森は歯を食いしばり、狙撃銃を構えて臨戦態勢に入る。

 

美森「来るわ紫藤君!。私から離れないで!!。」

 

流星「はいっ!!。」

 

その一団は妙に隊列を組んでいて、まるで一つの巨大な蛇かのように一体一体が大口を開けて迫り来る。

 

対人戦に特化した次代の"勇者"と、人ならざる異形を相手にしてきた旧時代の"勇者"。

その二人が肩を並べて戦う。

 

あの戦いから二年…その腕はまだ衰えてなかった。それどころか、狙撃に関してはさらに錬度が上がっている。

 

一呼吸の合間に、次々と撃ち落としていく。瞬きすら命取りとなる星屑との戦いにおいて、彼女は身体に染み付いた感覚から作業のように撃破し続ける。

 

そんな流星は、異形との戦いに慣れていない…思考の読めない相手に関しては、予測が付き辛い。

だが、この数か月間で培ってきた技術は本物で、感覚である程度の動きは掴める。

 

そして、すれ違いざまに星屑の一体をトンファ―で殴り砕いた。

しかし、数で攻めてくる彼らは自らの命なんて顧みない。それどころか、生存本能という概念すらない生物だ。生死に関わる感覚も無い…ただひたすらに、敵と認識した物体を潰しに掛かる本能で動くだけ。

感情何もないただの殺戮生物……これが、西暦時代の人類を滅亡寸前にまで追いやった驚異の一つなのだ。

 

そして、無限とも思える数…終わらない戦い。

流星は今、かつての"勇者"達が担っていたお役目そのものを体験している。

 

しかし、それでも止まらない。コイツ等を討伐しに来たんじゃない…時間を取られるわけにはいかないんだ。

 

そう思いながら、無数の軍勢を相手に夕海子を探す。

 

 

 

 

 

 

そして、その頃…―――――。

 

彼女、弥勒夕海子は……生きていた。

「スコーピオン・バーテックス」との戦闘から逃げ延び、今はこの地獄で身を隠している。

…誰も、助けに来ない事なんて分かっているのに、こんなところで逃げ忍ぶことを選んだのは多分、本能だろう。

死にたくない…そんな思いから、逃げ延びる選択肢を取ったのだ。

だが、受けた傷は重傷と片付けるほど軽いのもじゃない。あの尾針の毒を受けてしまっている。

患部は変色し、猛毒は確実に身体を蝕んでいる。

 

呼吸も荒々しくなり、苦しみさえも感じてきた。流し過ぎた血のせいで視界もぼやけてきている。

―――"死"は確実だ。

最早、逃れることの出来ない"死"を前に覚悟を決める。

だが、不思議と恐怖は感じない……安らぎすら感じる。

 

死ぬ前というのは、こういう感覚なのか…ならいっそ、このまま……―――――――

 

―――

―――――――

――――――――――

 

――――――否、まだ死ぬわけにはいかない。

 

歯を食いしばり、残った力を振り絞る。

指一本動かすのもままならないほどにまで衰弱しているにも拘らず、ただ"生きる"為に立ち上がろうとする。

そう、まだ『夢』の途中だ。何も成せていない、それに約束したんだ…「必ず、帰る」と。

なら、こんなところで寝ているわけにはいかない。火事場の馬鹿力という事なのか、極限なはずなのに足が動く。

 

まだ…諦めない。

 

弱々しく立ち上がるも、目の前に『壁』が立ち塞がる。

それは、自分を追いかけてきた「スコーピオン・バーテックス」だ。

 

全く、鬱陶しい…そう思いながらも、武器を手に取る。

「強化装束」のリミットは切れ、再起動までに時間が掛かる。最も、あれだけ体力を消耗する手段だ。今の状態で使ったとしても役には立たないだろう。

 

でも、武器はある…長年、愛用してきた銃剣を構えて引き金に指を掛ける。

指先の感覚は無く、照準もブレる。正直、無駄な抵抗と言われればそうだろう。だがしかし。

 

夕海子「……ここで…諦めるわけにはいきませんもの…っ!。」

 

意地。

その一言に尽きる。今の自分を支えているのはまさにそうだ。

孤立無援の上に致命傷。ここで死ぬの最早、分かっている。

 

それでも……生きることを諦めない。

 

―――――それが、"勇者"だからだ。

 

夕海子「―――――うああああああああっっっ!!。」

 

声が枯れそうな勢いで、腹の底から絞り出す勢いで、全魂を乗せた一撃を放つ。

 

…でも、現実は残酷で。

その弾丸はいとも容易く弾かれる。

 

全てを出し切った……それでも敵わないなら……。

その瞬間、糸が切れたように全身の力が抜け落ちる。

 

そして、あの尾針が再び自分の身体を捉え、眼前に迫ってくる。

全てがスローモーションに見え、最期の時が迫る。

 

――――ごめんなさい。

 

心の中でそう告げて、瞳を閉じて全てを受け入れようとする。

 

"奇蹟"なんて、そう起きやしない……そう思った瞬間――――――――。

 

 

「やらせる………もんかぁぁぁぁああああああっっ!!。」

 

少年の叫び声と共に尾針そ圧し折るその一撃。

まるで、落雷のような一撃だった。スコーピオン・バーテックスは堪らず後ずさる。

 

そして、繋ぐように一発の弾丸が尾の先端を撃ち飛ばした。

 

……夕海子は目を疑う。

死の間際に見る幻なのか…でも、その目の前に現れたのは……――――

 

 

流星「お待たせしてすみません、弥勒先輩っ!!。」

 

額から血を流し、息を切らせた流星。そして、右肩に負傷を負った美森。

 

間に合った。あの軍勢を振り切り、二人は夕海子の放った弾丸の軌跡を頼りにここまでやってきたのだ。

 

夕海子「…紫藤……さん……それに…あな……たは………?。」

 

美森「話さなくても大丈夫です。動かないで。今、血清を打ちますから。」

 

そう言って懐から注射器を取り出し、夕海子の左肩に打ち込む美森。

血清は見る見るうちに彼女の腕を伝って身体中に行き渡る。

 

美森「……あのバーテックスの毒を中和する特殊な血清です。これで大丈夫…でも、外傷が酷い…悠長な事は言ってられないわね…紫藤君、残り時間は?。」

 

流星は園子から渡された「砂時計」を見る。7割近く落ちきっており、軽く見積もっても「30分」といった所か。

 

流星「後、30分です。東郷先輩、『門』の場所までどれくらい掛かりますか!?。」

 

美森「急げば10分ほど…でも。」

 

険しい目で前方を見る美森。

スコーピオン・バーテックスは健在だ。

 

美森「障害はまだ残ってる。妨害を受ければ、間に合わないかもしれない。」

 

流星「……俺がコイツを撃破します。」

 

流星は前に出る。

 

夕海子「まっ……て……一人じゃ……ぐっ…!。」

 

流星「もう…誰も失いたくないから…――――。」

 

 

 

力強い眼差しでスコーピオン・バーテックスを見つめる流星。

…あれから、みんな悲しんだ。もう、戻ってこない人も居る。そして今、目の前で失いそうな命だってある。

 

俺にとって、みんなは大事な人達だ、"防人"になってからみんなは俺に良くしてくれた。

「巻き込まれた」とばかり嘆き、"お役目"に関しても前向きになれなかった自分をたくさんフォローしてくれた。

 

ずっと、"何か"が足りないと思っていた毎日が変わった瞬間だった。

皆と出会ってから、色の無かった俺の世界観に色が付き始めたんだ。

 

悲しい事もあった、苦しい事もあった。そして…失ったものも。

 

――――峻輝に、"肆番隊"の隊長さん……無慈悲に明日を奪われた人達を目の前で見てきた。そして俺はたくさん……泣いた。

 

もう、誰にも泣いてほしくないから。悲しんでほしくないから。

 

―――――失いたくないから。

 

だから俺は………。

 

 

――――――強くなる。

 

 

 

この煉獄の世界に、眩い光が行き渡る。

その刹那、スコーピオン・バーテックスは打ち上げられた。

 

流星「もう、お前達と戦うことはないのかもしれない…けど、俺達(人類)の選択一つでまたお前達が世界を支配するというのなら…っ!。」

 

跳躍し、蹴り込む流星はスコーピオン・バーテックスを地面に叩き伏せる。

 

流星「間違わないように、俺達は生きていくだけだ!!。」

 

人が変わったかのような流星を見て、夕海子は言葉が出ない。

一体、何があったのか……彼の戦いぶりに驚きが隠せない。

 

美森「……一つ、決意を固めたんですよ。彼は。」

 

夕海子「…決意…?。」

 

美森「たくさん悩んで苦しんで、人の悪意を嫌と言うほど見てきた。それに、神樹様に修復された身体の影響で感覚器官が常人より遥かに優れてしまった…だから、人の悲しみも感じたんでしょう。その悲しみが自分の事のように、泣いている人を助けたい為に……。」

 

スコーピオン・バーテックスと対峙しながら、流星は気持ちで押し切っていく。

 

 

美森「――――"全て"を選んだんでしょう。…友奈ちゃんのように。」

 

 

『門』のタイムリミットまで後…。

 

 

20分―――――。

 

 

……………………………end。




…自分が出来ることは少ないのかもしれない。

でも、それでも……

成すべきと思った事を成すんだ。どんなに辛い道であっても。

それが…

――――――"勇者"だから。


次回
第43話 覚醒。
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