どんなに険しい道でも―――。
少年は振り返らない。
もう、失わない為に――――。
煉獄の世界に輝く命の炎。
神の尖兵を相手に、少年は引き下がらない。
それどころか、勢いは止まらずに攻めていく。
残り時間は後20分ほど…それまでに、開いた『門』に戻らねばならないのだ。
異なる時間軸の『扉』は何を引き起こすのか想像が全く付かない…禁忌とされてきた「錬金術」を行使する"邪神教団"の技術をそのまま拝借してこの作戦を執り行っているのだ。
最も、かの"錬金術"に時間を超える術なんてものは存在しないだろうが、それでも彼らの扱う技術は次元を超えた代物だ。それこそまさに、神に迫る勢い……こんなもの、"天の神"は当然、黙認しないだろう。
取り残されたたった一人の大事な仲間を迎えに、もう一度この世界に足を踏み入れた。これが済めば、もう二度とこの光景を見ることが無いだろう。そう、自分達がまた過ちを犯さない限り。
300年もの間、歴史の陰で死力を尽くしてきた英霊達の為に…やっと、取り戻した『地球』という星の為に。
そして…これからの"未来"の為に。
少年は…その"全て"を背負って戦う。
流星「―――うおおおおおおっ!!。」
時間が迫る中、流星はスコーピオン・バーテックスに痛恨の一撃を入れる。
固い外殻を砕き、奴の心臓とも言える"御霊"が姿を現す。
美森「後は、私に任せて!。」
美森は深呼吸をする。
この感覚……忘れもしない、出来れば思い出したくもなかった。
"勇者"になってからは失うものばかりだった。
絶対に忘れてはいけなかった"二人の親友"の姿…もう一人は、もう二度と会えない。
でも、得たものもあった。"勇者部"というかけがえのない居場所…結城友奈という、大切な親友を得たこと。
"勇者"にならなかった未来はどういったものなのか…あの時は、そんなことを考えたりもした。
自分達を騙し、利用してきた大人たちに対する不信感もあった。真実を知った絶望から一度、この世界を滅ぼそうとも考えた。
そして今……自分は再び"銃"を手に取っている。
これは、自分が選んだ選択だ。"お役目"とか大それたものじゃない……ただ、自分がもう一度、銃を手にしようと心に従った決意だ。
この"光"を放てる人達がまだ居ることに気付いたから。
――――全てを込めよう、この一撃に。
美森「……そこ。」
目を見開き、迷うことなく引き金を引く。
一直線の軌跡を描き、それは一寸の狂いも無く御霊の中心を撃ち抜いた。
美森「…状況終了。目標の討伐を確認。」
ふぅ…っと、一呼吸整えて狙撃銃を下す美森。
流星は夕海子に駆け寄る。
流星「弥勒先輩!。」
夕海子「……紫藤…さん…ご立派に…くっ……!。」
美森「毒による危機は去ったけど、怪我の具合から状況は芳しくない。急ぎましょう、時間は残されてないわ!!。」
流星は夕海子を背中におぶり、走り出す。
残り時間、後「13分」。
夕海子「……あの後…皆さんはご無事に…?。」
『門』に向かって走る流星に問いかける夕海子。
流星は息を切らしながら答える。自分の怪我も相当なものだが、幸い動きが悪くなるほどではない。
流星「はい。先輩のおかげで全員、元の世界に帰れてます。でも……"肆番隊"の隊長の人が亡くなってしまいました。」
悲痛な表情でそう告げる流星。
夕海子もまた、心が苦しくなる感覚に苛まれる。
防人"初"の犠牲者。
とうとう、出てしまった…でも、一番その事実に苦しんでいるのは芽吹だろう。
二年前からの誓い…自分達の「価値」を証明するために全員で生き残ってみせると心の固く誓った彼女の決意。
それが崩れてしまい、きっと心が脆く崩れそうになっているかもしれない。
そう思うと、彼女が心配になって。
でも、流星は続けた。
流星「芽吹さんなら大丈夫です。あの人は、ちゃんと立ち上がりました。だから、もう大丈夫……。」
走りながらそう話す流星。
だがその時…――。
美森「…こんな時に…!!。」
時間の残されていない中での2体の異形……「牡牛座」と「射手座」のバーテックスが立ちはだかる。
このタイミングでの襲撃…まともに相手をしていては確実に時間が無くなる。
砂時計の量からして後残り「8分」…この世界での行動も相まって、体力的にかなり厳しい。
そんな状況での襲撃だ。絶望が先に襲い掛かるだろう……"本来"ならば。
しかし、流星は違った。
流星「……東郷先輩、弥勒先輩をお願いします。」
美森「…何を…!?。」
流星「どうせ、コイツ等を無視しても妨害に遭います。逃げることに必死になれば、いらない攻撃を食らう可能性だって考えられる…なら、倒す方が先決です。」
美森「何を言ってるの!?。残り時間はもう…!。」
流星「戻ってきます、必ず!!。」
そう言って、流星は歩き出す。
その瞬間、微かに彼の身体から蒼い光が溢れ出した。
美森(これは……?。)
流星「……まだ、やれるな?。行くぞ!!。」
自分に言い聞かせながら走り出す流星。そして、「疑似満開」を発動させた。
流星(この光は俺だけのものじゃない…この時間軸には"神樹様"がいるんだ。ずっと昔に、事故に遭ってから俺は"神樹様"に損傷した箇所を治してもらった……だから……!!。)
眩い光。その瞬間、あたりの時間が「止まった」。
そう…"樹海化"のように。
流星「その"一部"が俺の中にあるのなら、俺だけにしか無い"花”を咲かせるんだ!!。咲き誇れ、大輪の花!!。」
――――覚醒満開、起動!!。
端末のゲージの中心が「疑」から「覚」へと変わり、流星は"疑似満開時"の姿のまま、その装束に走っている赤いラインが蒼の輝きに変わる。そして、背中のリングが激しく発光。
その神々しい姿に、美森と夕海子は言葉を失った。
夕海子「…なんですの、あの輝きは…。」
美森「…"人の悪意"から作られたあの力は、彼の意志とこの時間軸でまだ消滅していない"神樹様"の力が共鳴した結果なのかもしれない……彼があの体質になったのは4年前の私とそのっち…銀がバーテックスに苦戦していた影響もあるから…。」
夕海子「…"樹海化"が受けたダメージは、現実世界では災害となって現れる…それに巻き込まれた彼が"神樹様"によって受けた傷を修復してもらった…から…。」
美森「…ええ、心苦しいけどそれは今の彼にとっては自分の意思で決めた事。だから、この時間軸の"神樹様"は応えてくれたのかもしれない……人の持つ"可能性"を……人でありたいという"意思"を……。」
――――そうよね、"神樹様"があの時の私達がした選択を選んでくれたのは彼の"可能性"を見出したこともきっかけとしてあるのかもしれない…そう、ここに"今"の私達がいるのが何よりの証拠だから…。
そして、最後に"託してくれた"。友奈ちゃんが…"意思"を示したことで。
流星は拳を構える。そして……突き出した。
それは大きな光の奔流となり、2体のバーテックスを巻き込んでいく。
流星「――――はああああああっ!!。」
光に触れたバーテックスは瞬く間に消滅。それと同時に、「御霊」も崩落していく。
だが、バーテックスは"死なない"。この世界がある以上、"天の神"が居る以上、何度だって蘇る。
これは無意味な行動なのかもしれない…だが、今言えるのは2年後の"現代”において、この世界が消滅したという事はもう彼らが再び現れることが無いとも言える。
2年後の現代に導いたのは誰か…途方もない時間を掛けてこの"願い"を祈り続けてきた人達は誰なのか……。
そして……世界を取り戻す為に次代にバトンを繋ぎ、託してきたのは誰か……。
祈り、託し続けてきたバトンがようやく降ろされた現代…だからこそ、守らなくちゃいけない。
この世界を…英霊達の"願い"を。
流星はその思いを全て、拳に込めて放つ。もう二度と、こんな地獄が現れないように。
――――そんな中、この灼熱の世界に「異変」が訪れる。
世界が……"割れる。その天井には、空を埋め尽くさんとする圧倒的な存在。
―――"天の神"。
美森「………この時間軸…そうか…やっぱり、あの時の…。」
現れた"天の神"を見て、確信した。
そう…この時間軸……世界よりも、"一人の大切な人"を選んだ時間軸。
人が"神"と決別した日……。
美森は瞳を閉じ、「覚醒満開」が解けた流星に声を掛ける。
美森「戻りましょう。ここからは、"私達"が関わってはいけない事が起きる。」
流星「…東郷先輩…。」
夕海子「……分かりますわ……この時、確か私達も………。」
美森「ええ。顛末を知る者はここに居る。だから、この時間軸の"勇者"達がした選択…私達が生きる「2年後」に戻りましょう。」
―――残り時間、後「4分」。
3人は、『門』に向かって歩き始める。
その脇では、時間が早送りされるかのように場面が変わり、様々な出来事が起きる。それを見ることもなく、3人はただただ、『門』に向かって歩き続ける。
―――残り時間、後「3分」。
"天の神"が放った一撃……それを防ぐ緑色の光。
そして、その後に続く赤い光と紫の光……巨大な「光の斧」を形成し、絶対的な存在に損傷を与える。
――直後、どこからともなく放たれた巨大な砲撃が直撃……「千景砲」だ。
この時間軸の"防人"達が放った一撃……"勇者"達を信じて放った願い。
―――残り時間、後「2分」。
次は、巨大な砲台が突貫していく光景。青い光が散華する。
その後に、天に届くほどの巨大な剣が大地を割る。黄色の光が力尽きたかのように弱々しい光を放つ。
―――残り時間、後「1分」。
もう、『門』の目の前にいる。
最後に、この"顛末"を見届けよう―――
今にも消えそうな桃色の光を支えるように、先ほどの青い光が寄り添う。
だが、真っ白な蔦と蛇がその青い光を遠ざけようと妨害する。
徐々に、桃色の光がその輝きを失っていく…―――
まるで、命そのものが尽きるように…―――
――
―――
――――――――――――
蒼い烏が飛んできた…それと同時に、大地から少しずつ光が溢れ出してくる。
一つ…また一つと、どんどん集まってくる。輝きを失いかけた桃色の光に向かって。
"奇蹟"が起きた。
―――桃色の光が、その輝きを取り戻した。直後、それは天に向かって伸びていく。あの圧倒的な存在に向かって、そのちっぽけな光が帯を残しながらひたすらに伸びていく。
"天の神"は、大地を引き裂かんとする程の巨大なエネルギーをその光に向けて放った。一気に飲み込まれるが、それでもその光は突き進むことを諦めない。
緑、赤、紫、黄色…青の光が桃色の光に向かっていく。それを助けるかのように、無数の光が集まっていく。そして……虹色に変化する。
…もう、時間は残されていない。砂時計の砂が完全に落ちきろうとしている…―――
『門』に入る直前、流星が最後に見たのは……―――――。
"神"のような神々しさを纏った、結城友奈が一瞬だけ自分を見るように。
そして……。
――――後は、"託すね"。
そう、聞こえた気がした……―――――。
――――――――
~新生大赦・本殿~
「2年後」の現代に帰ってきた3人。
戻れた安心感から糸が切れたように気を失った夕海子はすぐに搬送され、その場には流星と美森、そして園子しかいなかった。
園子「お疲れ様。無事、帰ってきたようで安心したよ。」
流星「その…弥勒先輩の事をお願いします。」
園子「うん。わっしーの的確な応急処置があるお陰で後遺症の心配がないかもだけど…後は本人の気力次第だね。」
流星「そう…ですか…あ…芽吹さん達に報せないと…!。」
そう言った瞬間、園子は険しい表情をして。
園子「…聞いてね、リュウ君?。実は……亜耶ちゃんが襲われたの。」
流星「………え………?。」
頭の中が一瞬、真っ白になる。
亜耶が…襲われた?。
それは最も、恐れていた事だ。
だが、園子は続ける。
園子「だからね?今、「メブー」…ううん、楠隊長が動いてる。だから、信じて。今の彼女なら必ず、助け出せるから。」
―――――襲われた亜耶。
それを追うのは芽吹。
そして、実行犯は……―――――。
"怨敵"とも言える相手…『乙女座』だった…―――――。
…………………………end。
――もう、負けないから。
もっと強くなってみんなを守ってみせる。
そう…この手から大切なものを無くさないために。
あの子が身に付けていた"リボン"に誓って――――。
次回
第44話 誓い。