紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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―――亜耶が襲われた。

これはあの『三神官』の勅令だろう…奴らはあの子の力に目を付けている。

だけど、やらせはしない…。

この私が…いる限り―――。


第44話 誓い。

―――流星と美森が夕海子の救出に向かった時間に遡る。

 

それは、芽吹の端末に備えられた「緊急通知」から始まった。

 

2人の無事を祈り、自室で待機しているときだった。けたたましい音と共に、彼女…「国土亜耶」から連絡が入る。

 

でも、この連絡はただの連絡ではない。"巫女狩り"から、彼女の身を案じてタッチ一つで防人達に連絡が入るように構築された特殊アプリからの通知だ。

 

この通知が鳴るという事は、彼女の身に危険が迫っている証拠だ。当然、事態は慌ただしく動く。

 

 

…………………。

 

雀「メブ!あややから通知が…!!。」

 

 

芽吹「ええ、分かってる。落ち着きなさい、まずは亜耶の居場所を特定する。みんな、アプリを開いて位置情報を調べて。」

 

冷静に対処する芽吹に従い、全員はアプリを起動。

彼女の位置情報を調べるも反応が無い。

 

しずく「楠、反応が……。」

 

芽吹「…恐らく、端末を潰されたか電源が落とされている可能性があるわね。仕方ない、亜耶がどこに行ったか誰か分かる?。」

 

その質問に、誰も手を上げない。

誰も知らないのか…それとも、一人で出て行ってしまったのか。だとすれば、何故?。

 

…と、そんな考えが頭を過る。でも、そんなことを気にしている場合ではない。

緊急通知を送ってくるぐらいだ。大体、想像は付く。

 

芽吹「本殿に連絡を!。防人全隊は動ける者から亜耶の捜索に移って!!。」

 

 

「「「了解っっっ!!!。」」」

 

 

芽吹は準備を整え、先に出ようとする。

 

雀「メブ、私達も一緒に……。」

 

芽吹「ありがとう。でも、出来るだけ確率を上げたいからここは分散しましょう。しずく、雀は"護盾型"だから交戦に入れば不利になる。だから、一緒に居てあげて?。」

 

しずく「ん、分かった。」

 

芽吹「頼んだわよ?。見つけたら連絡を、多分……"使徒戦"になる。」

 

そう言って、一足先に芽吹は出撃した。

 

 

芽吹(亜耶をやらせない。あの子は……必ず守ってみせる。だから……。)

 

宙を舞いながら右腕に巻いた赤いリボンをグッと、握り締める。

 

 

―――私に力を貸して……"海奈(かいな)"!!。

 

 

……………………………………。

 

 

その頃…亜耶は気を失っていたのか、意識が朦朧とする。

自分が今、どこに居るのかなんて分からない。でも、車の中だという事は分かる。

そして、身が凍る程の邪悪な気配も感じて。

 

目覚めた亜耶に気付いたのか、同席していた女性は声を出す。

 

ヴァルゴ「あら、お目覚め?。」

 

 

"十二星座の使徒"の一柱『乙女座』。

 

先日、防人"肆番隊"隊長『加賀美 海奈』と激闘を繰り広げ、勝利した人物。

 

…防人初の犠牲者を出した張本人…いわば、"怨敵"とも言える存在だ。

だが、彼女が受けた傷も決して浅くはなく、ついこの間までは重い傷を負っていた。

その当人がここに居る…ならば、目的は理解できる。

 

亜耶「……私を大司教…いえ、『三神官』の元に連れて行く気ですか?。」

 

 

…怖がってはいられない。流星は夕海子の救出に。防人のみんなは悲しみを乗り越えて全員が前に進むと決めた。振り返らずに、真っすぐと。

自分に出来ることは無い…でも、寄り添う事は出来る。

 

彼女…亜耶は、自分が出来ることを精一杯やろうと、近くの神社に安全祈願の祈りに出ていたのだ。

 

戦うことは出来ないし、いつも怪我をして帰ってくる皆…そして、戻って来れなかった人も出てしまった。

巫女である自分が出来ることはただ、祈るだけ。誰かを思うだけ。

 

役に立たない事は分かっている…それでも、何かをやらずにはいられなかった。

そこを突かれ、自分は今、窮地に陥っている……また、誰かに迷惑をかけてしまった。だから、怖がるわけにはいかない。救難信号は出した。持っていた端末は『乙女座』に破壊されてしまったから自分の居場所は分からないだろう。

でも、信じてる…あの人なら、芽吹先輩ならきっと助けに来てくれると。

 

ならば、このまま身を任せて彼ら…『三神官』の元に連れて行かれるのも手段の一つだ。

でも、『乙女座』はそれを看破していた…強がって見せてはいるものの、その心の内に秘めた"恐怖心"を。

 

そして、嘲る様に。

 

 

ヴァルゴ「連れていかれればどうなるか理解しているのでしょう?。そう、貴女は"捧げもの"として、その命を供物にされるのよ。我らが目指す"神"の為にね。」

 

亜耶「…"邪神"が世界を良くするなんて思えません……どんなに足搔いたって、"天の神"を討つことは不可能です。」

 

ヴァルゴ「何?。世界を滅茶苦茶にした張本人の肩を持つというの?。神樹を崇拝していた貴女が?。」

 

亜耶「違います。確かに、世界を一度滅ぼしたのは"天の神"でしょう。だから、人類はその存在を憎まずにはいられないのかもしれない…そして、圧倒的な"恐怖"を抱くことも。でも、"天の神"はこの星の『調和』を司る存在……だから、優先するものはいつだってこの星の「存続」なのです。それを脅かす存在が現れた時、必ずその姿を見せます。そして今度こそ……私達そのものを滅ぼすことになります。」

 

ヴァルゴ「へぇ…出てくるのなら好都合。なら、"邪神様"をお呼びした直後に仕掛ければ良い。」

 

亜耶は瞳を閉じ、恐怖を押し殺して真っすぐな目で見る。

 

亜耶「…無理です。"天の神"はあらゆる神の頂点に君臨する存在……『高天原』からずっと、見ているのです。その"邪神"がどういったものかは分からないけど、生き物と同じで本能で分かるのです…「絶対に勝てない相手」だと。」

 

 

瞬間。『乙女座』の手が亜耶の頬を叩く。

思わず吹き飛ばされた亜耶。車両の壁に叩きつけられ、口の端から血が流れ落ちる。

 

亜耶「かは…ぅう……ダメですよ……暴力は……。」

 

ヴァルゴ「気に食わないわね。」

 

『乙女座』は亜耶のその細い首を掴み、手に力を込める。

 

亜耶「あぐっ…!?。」

 

ヴァルゴ「怖がりな癖に、私にタテを突く…その目、絶望を知らないようね?。このまま殺してもいいのよ?。私がちょっと力を込めるだけでそのか弱い首は折れる…貴女の生死は私が握っているのよ?。」

 

亜耶「そんな事をすれば……『三神官』が黙って………ぐううっ…!?。」

 

ギリギリと、鈍い音がする。

締め上げるその握力は凄まじく、息が全くできない。

次第に、意識が遠退き始める。視界が揺らぎ、瞳の焦点が合わなくなる。

 

ヴァルゴ「生意気に脅しをかけてんじゃないわよ!!。私にはね、もう後が無いの!。あの『双子座』に後れを取った…そして、あの狂人…『蠍座』が動き出す。そうなれば、私の立場は無くなる!。あんたなんて死体でも構わないのよ!?足りなくなった霊力は他の"巫女"で補えば……。」

 

感情に任せて亜耶を殺そうと力を込めた瞬間、車体が大きく傾いた。

 

ヴァルゴ「な…何…!?。」

 

亜耶「ごほ…がは……ふ…ふ……来て……くれたん…ですね………。」

 

解放された亜耶は視界が定まらない中、窓の外に映る人物を見て希望を見出す。

 

ヴァルゴ「……楠……芽吹ぃぃいいい……っ!!。」

 

銃剣の先から白煙が上がる。

ゆっくりと照準を向けると、早撃ちで全てのタイヤを撃ち抜く。

運転していた邪教徒は不意打ちで放たれた狙撃により、右肩を撃ち抜かれて弱々しく運転席から逃げ出していった。

 

芽吹「……亜耶、遅くなったわ。」

 

亜耶「芽吹……先輩……!。」

 

ヴァルゴ「何故、我々の車両が分かった!?。」

 

芽吹「……端末を潰したくらいで特定できないと思った?。この子は新生大赦の宗主…乃木園子様から最優先で警護するように命じられた子なのよ?。当然、こういった事は想定出来ている…亜耶が持つその猫の人形。」

 

亜耶のポケットから猫の人形が転がり落ちる。

 

芽吹「「サンチョ」と言ったわね。それ、宗主様からの贈り物と同時に、超小型のGPSが仕込まれてるの。ま…私ぐらいにしか分からない事だけど。」

 

そう言って、芽吹は銃剣を構える。

 

芽吹「後で知ったことだけど、宗主様はここ最近の展開を何となく掴んでいたらしいのよ。「新生大赦に"離反者"が居る」…そこまで掴んでいたから対応が早かった。そして、その狙いはだんだん絞られて、唯一"神託"を受けられる亜耶になる。だから、この子の居場所だってすぐにわかったの。私が出来る判断は、大人数で動くとお前達にこちらの動きを察知される…ここには私一人しか来ていないわ。最も……。」

 

容赦なく、引き金を引く芽吹。その弾道は『乙女座』の仮面を掠り、その素顔が晒された。

 

芽吹「…相手がお前と知った今、この判断は一石二鳥だったと知ったわ。」

 

ヴァルゴ「…へぇ…恨みで私を殺すと…?。」

 

芽吹「これは亜耶を守るための"お役目"であり、私個人の…。」

 

 

――――"私闘"だ!!。

 

 

先に動いたのは芽吹。

爆発的なその踏み込みは全身全霊をかけての動きだった。

感情が先に動く…本来、いけない事だが『乙女座』を前にして冷静を保てるはずがない。

 

そう、コイツは……彼女の"仇"なのだから…――――。

 

 

芽吹「はあああああっ!。」

 

初手は芽吹の放った斬撃。それは『乙女座』の脇腹を掠めた。

そこから血が吹き出るが、『乙女座』は意に介さず得物の蛇腹剣を振りかざす。

 

ヴァルゴ「あんたもお仲間の元へと送ってあげるっ!!。」

 

『乙女座』の苛烈な攻撃が芽吹を襲う。しかし、全く気にすることなく芽吹は左手を突き出して『乙女座』の襟を掴んだ。

 

芽吹「そこで…倒れてなさい…!。」

 

強引に振り抜き、『乙女座』は宙を舞う。

そして、そのまま地面に叩きつけられて息が詰まった。

 

芽吹「…もらった……!!。」

 

鬼のような形相で、銃剣を両手で持ち上げて喉を貫こうとする。

『乙女座』は歯を食いしばり、なんとか逃れようとするがその気迫に押されたのか身体が動かない。

 

芽吹「おおおおおおおおおっっっ!!!。」

 

 

咆哮のような叫びと共に、その刃の切っ先が喉を貫く寸前…――――。

 

 

芽吹(……待って………。)

 

 

一瞬、"我"に返った。

今、自分はどんな顔をしていたのか……この、手に入る力は何なのか……。

 

今……「何をしようとしていた」のか……。

 

 

……殺そうとしていた。

怨敵を前に、完全に人を殺そうとしていた。

 

そうじゃないだろう、私は…私達は……人を殺す為にこの力を使うんじゃない。

その気持ちが、凶刃をズラした。

 

そう、殺せばコイツ等と同じだ。

どんな人間だって、命は命…罪は償わないといけないし、奪う権利なんて誰にも無い。

それを今、やりそうになった。一時の感情に任せて。

 

"我"に返ったその時、『乙女座』はその隙を逃さずに芽吹を蹴り、窮地から逃れる。

 

ヴァルゴ「チャンスを失ったわね。そのまま刃を落とせば私を殺せたのかもしれないのに。」

 

芽吹「…冗談じゃない、私はお前達と違う!。命を軽んじたりはしない……『乙女座』!。お前を無力化して拘束する!。そして、彼女の墓前に向かってしっかりと謝りなさい!!。」

 

 

芽吹は右腕に巻いた赤いリボンに手を添える。

『乙女座』は気に食わない表情でこちらを睨み、闘気が溢れ出る。

本気で来るだろう…だけど、私はもう負けない。みんなの為に、守るべきものの為に。

 

 

―――それが、あの子との……"誓い"だから。

 

 

……………………………end。




―――その力、自分の信じる者の為に。

"紅"は継承された。

かつて、目指した"紅の勇者"…その継承者は皆、自分の信念の為に戦った。


だから、私も誓う。


―――この"紅"に誓って。


次回
第45話 紅の継承者。
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