紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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その者、紅の衣を纏いし少女。

その者、信念の元に生きる者。

その者、"紅の勇者"なり。


第45話 紅の継承者。

"怨敵"『乙女座』と激闘を繰り広げる芽吹。

その場は2人だけの戦場となり、鈍い金属音と互いの咆哮がこだまする。

 

勝負は五分五分…お互いに血を流しあい、息を切らす。

先に目線を切った者が死ぬ。まさに、そのような激闘を繰り広げていた。

 

これまでの"使徒戦"においては遅れを取り続けた彼女は"誓い"を胸に秘め、その"信念"の元で戦うことを決意した事で力の差を埋めつつある。

元々、ポテンシャルの高い彼女は気持ちに左右されなければとてつもない進化を発揮する程の逸材だ。

 

あの『三好夏凛』と"紅の勇者"の座を賭けて戦った過去を持つ。それ故に、一度こうと決めたのならとことん強く出れる…これまでは、使命感や自分に課せられた立場の元で戦っていた為、本気で殺しにくる"十二星座の使徒"に戸惑いと僅かながらの"恐怖"で本来の力を発揮出来ずに居た。

 

何度、辛酸を舐めてきたか…何度、打ちのめされたのか…その度に痛感する。

 

―――自分には"才能"が無い…と。

 

でも、今は無様を晒そうが決めたことを一心に、戦う道を選んだ。

 

もう、誰も死なせない。

そう、心に"誓って"ここまでの力量差を埋めつつある。

そして、勝負の天秤は彼女…楠芽吹に偏り始める―――。

 

 

芽吹「せぇええやぁあああッッ!。」

 

銃撃と共に斬撃を繰り出す芽吹。

その不規則な攻撃パターンに、『乙女座』は身を削られていき。

 

ヴァルゴ(この私が押されて…!?。)

 

芽吹が渾身の一撃を繰り出そうと、銃剣を両手で掴んで振り上げた。

対する『乙女座』は急いで分離させた蛇腹剣の回収を急ぎ、防御態勢に入ろうとする。しかし…。

 

芽吹「もらったぁぁああ!!。」

 

縦一文字に切り裂かれた『乙女座』は破損した蛇腹剣を手放し、その場に倒れ込む。

 

芽吹「はぁ…はぁ…勝負…ありね…。」

 

受けた傷から血を流しながら、芽吹は倒れる『乙女座』に近寄る。

 

ヴァルゴ「…ふふふ…あははは……。」

 

芽吹「…何がおかしい…?。」

 

ヴァルゴ「もう、どうでもよくなったの。"使徒"の中では大きな功績も上げてないし、この嘘だらけの世界で何を信じて生きていけばいいのかって。地位を上げれば、自ずとその景色が見えてくるのかと思ったけど…。」

 

そう言う『乙女座』に、芽吹は激昂する。

 

…今まで散々、人の命を奪い、日常を壊し、未来を奪ってきたくせに何故こうも、自分の事しか考えられないのか?。

 

気付いた時には、『乙女座』の胸倉を掴んで怒りの形相で詰め寄る自分が居た。

 

 

芽吹「ふざけた事を言うな!。お前は…お前達はこれまでどれほどの命を奪ってきたと思うっ!?。"巫女狩り"で人生を奪われた者の数を数えたことがあるかっ!?。」

 

ヴァルゴ「…知らない…わね…そんなの。」

 

返ってきた言葉に、拳を振り上げそうになる。

でも、ダメだ…怒りの"呑まれる"な。そう、自分に言い聞かせて拳を下げる。

 

ヴァルゴ「…それでも、殴らない…の…?。とんだ甘ちゃん…ね…。」

 

芽吹「……お前は厳正な処罰の下、法によって裁かれるべきだ。今は…そういう時代なのよ…。」

 

 

その言動に、『乙女座』は嘲る様に。

 

ヴァルゴ「…言ったでしょ、もうどうでもいいと。」

 

瞬間、芽吹は悪寒が走った。

直感で『乙女座』から距離を取る。

 

芽吹「動くな!。何をする気っ!?。」

 

ヴァルゴ「…どうせ、大司教から用済みと判断される可能性もある…知ってる?。"使徒"は"バーテックス因子"そのものが命だという事。『水瓶座』と同じ末路を辿るなら、自分の意思で使ってやるわ!。」

 

『乙女座』は"勇者システム"に似た端末を取り出す。

そして、そこに表示された「禁」と書かれたアイコンをタップ。背後に禍々しい「門」が開く。

 

芽吹(まさかこれって……!!。)

 

 

『三神官』が『水瓶座』にしたこと……"バーテックス因子"こと「疑似御霊」の暴走。

そう、人を"バーテックス"へと変貌させる禁呪。『乙女座』はその体組織を変化さえていく。

 

彼女の中に眠る"ヴァルゴ・バーテックス"の因子が暴走を起こし、人とバーテックスの融合体が生まれる。

 

その名は……『虚神(うつろがみ)・乙女座』。

 

人の形を保ちながら、所々にバーテックスの組織が見られる異形な姿。

人を捨てたその姿はまるで"悪魔"…見るに堪えない悍ましい姿だった。

 

当然、姿形だけではない。人間の時よりも遥かに上回る戦闘力は先ほどとは打って変わって違いを見せる。

気付いた時には自分は宙に浮かんでいた…そう、背に生えた布のような触手に打ち上げられ、一瞬のうちに攻撃を入れられていた。

 

痛みが遅れてやってくるほどの速さ…この個体は確か、速度に関してはそこまでだったはず…しかし、人間の時の特性がそのまま表れているのだろう、短所もカバーされた強敵へと化していて。

それだけではなく、知性も併せ持つ…まさに、人との融合。こんな強敵、今までも類に見ない。

 

地面に叩きつけられた芽吹の「加護ゲージ」は大半を失っていた。最も、そんなものが役に立たないほどこれまでの戦いでは傷を負ってきた。今更、気にはしない。

 

視線を逸らすと、やられる……そう、これは対人戦ではなく、"バーテックス戦"なのだ。

こうなれば、考え方は変わる……

 

 

―――"討伐戦"だ。

 

 

怪物を目の当たりにし、2年前の感覚を思い出す。

次々と繰り出される『虚神・乙女座』の攻撃、流石に全てを捌き切れずこれまでの優勢状態が簡単に覆った。

 

本当に、嫌になる……バーテックスの強さに。

しかし、ここで退けば暴走状態のまま市街地へと向かう可能性だって考えられる…。

各地に散開した防人達に要請を送るか?しかし、そんな暇は与えられないほど奴の攻撃は苛烈さを増していく。

 

亜耶「芽吹先輩…!。」

 

芽吹「大丈夫よ亜耶。勝機は必ず訪れる…。」

 

物陰に隠れ、そこに避難していた亜耶を安心させようと、笑みを浮かべるも実際には難しい所だ。

 

芽吹(……さて、どうしたものか……。)

 

思考を巡らせる。

「強化装束」を使用して一気に勝負に出るしかない…そう思った芽吹は、端末を取り出して「強化装束」のアイコンを見つめる。

 

だが、隠れていた遮蔽物が崩されてしまう。そこには、怪しい眼光でこちらを見つめてくる『虚神・乙女座』の姿が。

 

 

『逃gaサなイぃぃい…っ!。』

 

芽吹「……人の姿を捨ててまで、こうも躍起になれるのか……全く、救いようがないわね…生きてみれば、もっと別の景色だって見られたでしょうに……っ!!。」

 

覚悟を決める。

 

芽吹「―――強化装束、起動っ!。」

 

辺りに花吹雪が舞い上がる。銃剣を二丁携え、ヘッドギアが外れているが機動性を重視したその姿へと変える。

 

そして、地面を思い切り踏み込みんでダッシュ。『虚神・乙女座』の懐へと潜り込む。

 

『くスのkiメb気イeeeいイい!。』

 

芽吹「…せめてもの手向けよ、眠りなさい!!。」

 

飛び込んだ芽吹は背に乗り、二丁の銃剣を突き刺した。

そして、引き金を何度も引き、ゼロ距離射撃による乱射をその身体に直接叩き込む。

立ち込める黒煙。これだけ浴びせれば、ダメージは……そう思った直後。

 

芽吹「がは……っ!?。」

 

黒煙の中から触手が伸び、突き飛ばされた。

徐々に晴れると、ダメージは負っているが驚異的な再生能力で身体を修復。それと同時に、どんどん"バーテックス化"が進んでいく。

 

一度詰まった呼吸がもとに戻り、息を切らす芽吹。ズキズキと、受けた傷が痛む。

 

芽吹(……再生能力まで健在……くっ……面倒ね…消耗は私の方が上…短期でケリを付けなければ、嬲り殺しになる…考えろ…生き抜く方法を……コイツを討伐する方法を……せめて、"人"としての意識がまだある内に逝かせるためにも…!。)

 

頭をフル回転させて、考える芽吹。しかし、思考が定まらないままさらに攻撃が繰り出されてくる。

歯を食いしばり、直撃を避ける為に転がって避けるも、追撃が突き刺さりまた吹き飛ばされる。

射撃戦に入るか、でも額から流れ落ちた血が右目に入り、視界が定まらない。でも、勝機は必ずある…。

 

諦めない事。それが自分を奮い立たせていた。しかし、身体のダメージまでは誤魔化せない。

そして、容赦なく次の一撃が迫ってくる…――――。

 

芽吹(っ……回避を……!。)

 

避けようとしたその時――――

 

 

「避けなくていいわ、私が居る!!。」

 

 

戦場に轟く少女の声。

次の刹那、伸びてきた触手が細切れにされた。

 

芽吹「……え……!?。」

 

ふわりと降りてくる少女。その手には、二振りの刀。

靡く髪に赤い装束……形状は違うが、その姿は一番良く知っている。

 

芽吹「――夏凛!?。」

 

"防人"に似た外装を纏った夏凛…得物はあの時と同じ、双剣だ。

 

夏凛「何とか間に合ったようね!?。あんたの反応を追いかけてここまで来たのよ!。全く、"勇者"のように思うように動けないわね…もしかして、鈍ったのかな…。」

 

芽吹「それってまさか…。」

 

夏凛「そ。東郷が同じようなものを纏ったのを知ってるでしょ?。"擬似勇者外装"の弐式。ようやく、馴染んできたからあんたを助けにきたのよ。」

 

芽吹「…ありがとう。でも……。」

 

夏凛「そうやって1人で何でもやろうとする所。私もそうだったわ、でも味方がいるのは心強いものよ?。特に、"バーテックス"との戦いは単騎じゃなかなか厳しい。私の先代の"勇者システム"の持ち主は1人で3体も追い払ったけどね。」

 

芽吹「そうだった…わね。」

 

思いがけない援軍に、芽吹は思わず笑みを浮かべた。

 

夏凛「結果的に私の手に渡ったけど、その信念はあんたも同じだった。だから、私達二人はあの「紅の勇者」の継承者よ。彼女の信念を継いだ立派な"勇者"。やれるわね、芽吹!?。」

 

芽吹「当然よ!。貴女より2年も戦い続けてるんだから!遅れを取るんじゃないわよッ!?。」

 

夏凛「言ってくれる…!。」

 

そう言って、2人は同時に突っ込む。

息のあったコンビネーションで攻める2人。互いに切磋琢磨しあった頃を思い出す。

あの時は、「紅の勇者システム」を継承するために競い合ったライバルだった。芽吹はその選抜に敗けてしまい、夏凛がそれを引き継いだ。

そこからは怒りの中で生きてきた芽吹…しかし、そのおかげで"防人"の仲間達と出会えた。"勇者"が抱えていた苦悩を知ることも出来た。"勇者"は決して、名誉なことなんかじゃなかった。より、死へと一番近い場所に駆り出され、あの頃の「嘘」で塗り固められた世界の為に、神の為に第一線で戦う戦士…強大な力を行使するたびに、人体の機能を一つずつ失っていく恐怖と不安…きっと、その重圧に押し潰されそうになったのだろう。でも、最後まで諦めなかった。そして2年前、神に証明した。自分達は"人"なんだと。

 

かつて、まだ小学生だった先代の「紅の勇者」だって世界の為に戦ったんじゃない。自分の大切な人の為に戦い、その命を散らした。守り切ったんだ、命よりも大切なものを。

 

そんな偉大な先代の意思を引き継いだ夏凛。いつしか、仲間の為に戦う"勇者"となった。そして、芽吹もまた仲間の為に今を戦う。

 

―――"憎しみ"でこの力は使わない。仲間の為に使う。

 

そう決意した芽吹の戦闘装束が紅い輝きを放つ。

 

そう…彼女もまた"紅の勇者"だ。その信念は、引き継がれている――。

 

芽吹「お前は私の大事な仲間を奪った!。あの子はもう帰ってこない、けど私は憎しみでは戦わない!。あの子だって、そうしたから…仲間の為に、戦ったのだから!!。」

 

『なにヲぉおおOOOッ!?。』

 

『虚神・乙女座』が反撃しようと飛びかかる。だが、身体の一部が思うように動かず、異形と化したその姿でも強烈な痛みを感じる。そう…あの"肆番隊"の隊長が自分の命と引き換えに与えた最期の一撃。脇腹に与えた大きな一撃。それがまだ……"生きていた"。

 

それは芽吹も…感じ取っていた。

 

芽吹(…ありがとう。貴女は今でも戦っていたのね…海奈。そのバトンを今…!。)

 

 

――――繋ぐッ!!。

 

 

渾身の一撃。二振りの銃剣で深く切り裂き、「擬似御霊」が現れる。

そして、それを…――撃ち抜いた。

 

コアであるそれが砕かれ、身体が崩れていく『虚神・乙女座』は消えゆく中、思い出す。

 

(……この嘘だらけの世界で私は……何を信じて生きていけば良かったのか……別の道を行けば、また違った景色が……。)

 

――そんな後悔を抱きながら、『乙女座』は消滅した。

 

最後に"人"を捨てた彼女の思いなんて誰にも分からない。これまで何人もの罪無き命を奪ってきたのだ。当然の報いと言えばそうなる。こんな力に手を染めたばかりに、道を踏み外したのだ。

だが…それでも、もう一度やり直せたんじゃないか…芽吹はそう思いながら、散っていく『乙女座』を見つめていた…――

 

 

『虚神・乙女座』。

 

 

―――――討伐。

 

 

…………………………end。




"誓い"の元、芽吹は『虚神』と化した"十二星座の使徒"の一柱『乙女座』を撃破した。

『虚神』…人間を"バーテックス"へと変貌させる禁呪。
人を否定したその力はこの世界にあってはならないものだ。

――その一方で、"黒百合"も独自に動いていた。

そして、彼と向き合うのは……結城友奈だった。

次回
第46話 祈りと呪い。
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