紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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これまで、辛い戦いを強いられてきた戦士たち。

しかし、時には休息も必要だ。

たまには忘れよう、この現実を。


第47話 戦士達の休息。

――夏も終盤に差し掛かったこの頃。

あれほど喧しかった蝉の鳴き声も聞こえなくなってきた。そう思うと少し寂しい。

そして季節は変わり目を迎える。まだ暑いこの季節、本来ならば長期の休みを謳歌していただろう、この夏の殆どは"お役目"に没頭していた。

 

宗主の采配で、夏休みの課題については免除されている。進路に関しても、ある程度の融通は利くそうだ。しかし、勉学に関しては関係無い。特に、流星と亜耶は高校受験が控えている。

"お役目"の最中に防人の先輩達に教わってはいたが、簡易テストでは二人は惨敗。

その結果は見るにたえないものだった。

それを心配してか時々、安芸が来るようになった。元教師だ、個人的に指導を受けられるのはとても大きい。

 

当然、久遠だって出来た大人だ。

身なりはだらしないが神官職に就けるほどの学才は併せ持っている。

そんなこんなで、モヤモヤとした日常を送っていた矢先、それはまるで嵐のようにやってきた。

 

 

園子「ヘイッ!。国防の戦士達!。夏はエンジョイしてるかなッ!?。」

 

 

寮内にこだまする少女の声。

一斉に視線を向けたそこには、ラフな格好をした園子が居た。

突然の事で驚いた流星は、食べていたそうめんを盛大に吹き出してしまう。

 

亜耶「りゅ…リュウ君!?大丈夫っ!?。」

 

流星「ゲホっ!ゴホっ!そ…宗主様ッ!?。」

 

芽吹「……一体、どうしたと言うんですか?。そんなラフな格好で。」

 

園子は掛けていたサングラスを取る。

 

園子「いやぁ…君達に少しながらのプレゼントをしようと思ってね?。通りがかりで少し立ち寄ったんよ。あ、因みに今日の私は「宗主」ではなくてただの「乃木園子」だから。そこんところ、よろしく!。」

 

雀「訳分かんないよぅっ!!。」

 

園子「ま…おふざけはここまでにして、プレゼントとは……ジャーンッ!!。」

 

一同に見せたのは、高級老舗旅館のパンフレット。

 

園子「この旅館に皆さんを招待いたしますっ!。っていっても、貸し切りで抑えただけなんだけどねェ?。」

 

流星「ちょっと待ってください、ここって超が付くほどの人気旅館じゃないですかっ!。」

 

園子「そう!。ここのところ、ずっとみんなに頑張ってもらったし貴重な夏休みまで取っちゃったから申し訳ないなって。私からの気持ちだよ?。」

 

芽吹「そんな…すべきことと捉えてますから…。」

 

園子「そうじゃないんよ?。青春は一度きり。もう、返ってこない大切な時間なんよ。だから、後悔しないようにみんなには楽しんでもらいたいんだ?。」

 

しずく「…相変わらず、いきなり………。」

 

園子「ま、そういう事だから!。それじゃあね~!?。」

 

 

――――――――――――

 

……そんなことで、俺達は宗主様が用意してくれた高級旅館へとやってきた。

弥勒先輩は入院中で来れなかったけど、お土産をたくさん買っていこう。

あの人は一命を取り留めた。東郷先輩の応急処置が功を奏したみたいだ。ただ…――――。

 

………………。

 

夕海子「最近、入院ばっかりですわぁあああっ!!。

 

………………。

 

――病室に轟くくらいにまでその慟哭にも近い叫びを聞いてしまったが。

亜耶は申し訳なさそうに、女将さん達に頭を下げ回っている。

きっと、こういった経験があまりないのだろう。

 

玲司「いやあ…俺、一生宗主様についてくわぁ!。」

 

流星「…言っときますけど、タバコはやめてくださいよ?。」

 

玲司「連れねェ事言うなよ!。部屋で喫煙はOKだったろうが!。」

 

流星「考えてください、俺まだ未成年ですよっ!?。タバコの匂いに耐えられません!。」

 

玲司「ちぇ…なら、テラスでならいいか?。」

 

流星「はい、それなら構いませんが…。」

 

芽吹「くだらない事ばっかり言ってると置いていくわよ。」

 

雀「あ。待ってよメブー!!。」

 

流星はその光景に、少し懐かしい気持ちになる。

そんな流星を見て、玲司は―――

 

玲司「…お前らが自分自身で勝ち取った"今"だぞ?。」

 

流星「え……。」

 

玲司「失ったものばかりで、こんなのじゃまだまだ取り戻せてねェ。"邪神教団"なんて連中が現れなければ、お前達の日常は守られてたはずだ。けど、現実はそうじゃねェ。宗主様じゃねェけどよ、今この瞬間を後悔の無いように過ごしてほしいんだ。」

 

 

そう言った玲司の目は優しく、心の底からの思いだった。

自分よりも一回りも二回りも歳が離れた子供たちが、世界の為に命を賭して戦っている現実。

かつての"神"に見初められた事が、"特別"である所以。それにあやかり、彼女達を"神格化"して拝む大人達。

玲司は、ずっと疑問に思っていた。

旧大赦の神官として勤めている中、大人達はその全てをこの特別な子供たちに委ねている実態を。

世界の為に戦わせ、事実を伏せ、やり切った者は神格化される…こんな事が本当に正しいのかと。

そうじゃないだろう、やめられるものならやめている。彼女達はそれが当たり前だと割り切って、人知れずに戦ってきたんだ。でも本当は、心の中から叫びたかったはずだ。

 

――"自由"にして欲しいと。

 

悪いのは、こんな習わしがずっと続いてきた世界の仕組みだ。ただ、過激な事は何も生み出さない…だから、自分に出来ることを考えてきた。だが、彼女達は"大人"を信用していなかった。それもそのはずだ、特にこの"防人"達は、"勇者"になれなかった者達…「反抗作戦」の為の特殊工作部隊として、その適正から大赦に良いように使われてきた者達だったんだ。

 

謝罪しなければいけない。大人として、成すべき事を成さずに委ねる形で逃げ続けてきたことを。

だから、この一日だけは誰にも邪魔させないと、玲司はそう静かに決意していた。

 

でも…――――

 

流星「行きますよ、久遠さん。男湯はあっちです、一番風呂を頂きましょう。」

 

玲司「…わーったよ。今行く。」

 

――少しは、歩み寄れた気がする。そう思う玲司であった。

 

……………………。

 

芽吹「…ふぅ…いい湯ね…。」

 

名湯と名高い温泉に浸かりながら、芽吹はこれまでの疲れを癒すかのようにリラックスする。

そして、何気なく自分の手を見る。

 

あの時、『乙女座』と戦った時の事を思い出す。

一瞬だけだが、怒りに呑まれて人を殺めそうになった。憎しみという感情が先走りし、周囲が見えなくなるほどにあの時の自分は怒りに震えていた。

あんな一面は、自分自身でも分かっていなかった。憎しみは怒りを助長させる…よく聞くことだが、感情任せに一方的に人を殺める寸前だった。なんとか踏みとどまれたが、今思うととても恐ろしい…一歩間違えれば、人殺しになるところだった。

 

だが、『乙女座』は死んだ。異形となって。

紛れもなく、奴は戦友の仇だった。しかし、何も死ななくても良かったのではないか。罪を悔い改め、自分の行いを反省して生きていくことが責任だったはずだ。

そう、これは"戦争"と同じだ。

仇を討てば、討たれた方がまた「仇討ち」として仕掛けてくる…終わらない戦い、永遠に続く連鎖…どちらかが血の涙を流してでも許さなければこの負の連鎖は永遠と続く。

そしてこの愚かな行いを見た天上の"神"は、人類に見切りを付けて今度こそ終わらせに再びやってくるはず。

 

今、自分達に出来ることはこの時代を守る事。

それが、託された"お役目"であり、バトンなのだ。

だから、怒りに呑まれてはいけない。

 

―――そう、思う。

 

雀「なーに物思いに耽っているのさ、メブ?。」

 

そう言って、雀がやってくる。

 

芽吹「雀こそ、少し羽目を外しすぎじゃない?。」

 

雀「いいじゃん、今日くらいはさ?。」

 

今日くらい。

そう…たまにはいいのかもしれない。

今日くらいは、全てを忘れて羽目を外してもいい日だ。本来なら、自分達はそれが許されているし当たり前のことだ。

 

そう思ったからこそ、こうしてやろう。

 

雀「わぶっ!。い…いきなりなにすんのさっ!?。」

 

水鉄砲で雀の顔面に湯を掛ける芽吹。だが、その反応が面白かったのか、思わず笑いが込みあげる。

 

芽吹「フフフ、油断大敵…ってね?。」

 

しずく「……珍しい。楠がああもふざけてくるなんて。」

 

亜耶「…きっと、解放されているからですよ。」

 

しずく「…そうかもね。なら…えいっ。」

 

亜耶「ひぅっ!?。な…何するんですかぁぁあ…。」

 

しずく「同じく水鉄砲。確かに…やる方は面白いね。」

 

亜耶「ぅうう…ひどいですぅうう……。」

 

 

――――――――――――――――

 

玲司「…女風呂はかなり盛り上がってるようだなぁ。」

 

湯に浸かりながら、玲司は身体を伸ばす。

 

流星「確かに。楽しそうですね。」

 

玲司「お前も混ざってこいよ?。」

 

流星「こ……殺されます……。」

 

玲司「はは、冗談だ。確かに、一生口聞いてもらえないかもな?。」

 

流星「…それで済めば良いですよ。普通なら変態認定です。」

 

玲司「真面目だなぁ、お前は。俺がお前と同じ頃なら覗きの一つくらい、やろうと思ってたりもしたぞ?。」

 

流星「……俺はしませんからね?。」

 

玲司「はは、分かってるよ。にしても、お前もだいぶ屈強な体になってきたな?。」

 

玲司は流星の腕を見る。

出会った頃と比べ、筋肉が付いてきていた。

得物はトンファ―。打撃力を強める為に芽吹が出した訓練メニューを卒なくこなしてきた結果だ。

今は、自分の身体の一部のように自在に振り回せる。それに加え、特殊な「霊力弾」を放つ銃口も備わっている。だが、自分のスタイルは近接向きだという事が分かった。射撃の手ほどきについては、美森に教わる予定だ。

彼女の射撃センスは群を抜いている。2年間、戦いとは無縁だったにも関わらず射撃能力については芽吹達を軽く超えている。あの能力を伝授してもらえれば、さらに守ることが出来る。

 

自分は、恵まれているのだろう。戦闘に関しては、どのレンジからも特化した人たちが近くに居る。

その人達に教わることで、自分はさらに強くなれる。もう、誰も死なせたくない。その気持ちは、自分を奮い立たせることに繋がるのだから。

 

玲司「楠の訓練は厳しいだろ?。でも、アイツなりに考えたものなんだよ。自分が死なないように、そして…誰かを守れるように。アイツの信念はいつだってそうだった。」

 

流星「…そういえば、芽吹さん達との付き合いはそれなりに長いんですか?。」

 

玲司「実際の着任はお前らと街で出会った時だ。それまでに、引継ぎで何度かは訪れてたが…当初は受け入れてもらえなかったな。」

 

流星「そうだったんですか?。」

 

玲司「ああ。アイツらも2年前に旧体制時の"大赦"に散々振り回されてきた連中だからな。大人に対しての不信感は思ってたよりも強かったようだ。」

 

玲司は空を見上げる。

満点の星空…その瞳には、決意のようなものが込められていて。

 

玲司「だからこそ、今度は俺達"大人"が導かねェといけねェんだ。宗主様だって、本来ならばお前らと同じく相応の振る舞いでいなくちゃいけねェ。だが、2年前の出来事から未だに困惑し続ける"大赦"をまとめる"リーダー"が必要だった。あの人はな、本当は自分の"家"を担ぎ上げてトップに立ちたくは無かったんだ。その後の事は、"大人"達に任せるつもりだった…だが、"今"の選択を自分達がしたからその責任を背負って、あの人は"新生大赦の初代宗主"として、「乃木家」の家名を大体的に利用したんだ。」

 

自分の手を見ながら、玲司はその指の間から零れ落ちる湯を見る。

 

玲司「しっかりと手を固めれば、湯は零れねェ。だが、ほんの少しでも隙間が空けばどんどん零れ落ちる…この世界はまさにそうだ。だから、本来はその"手”は俺達"大人"の役目なんだ…俺は少しずつでも、この体制を変えて行きてェ。宗主様が…お前らが「普通」に過ごせる未来を作らなきゃいけねェんだ。」

 

―――そう語る玲司の目はいつにも無く真剣で。

 

"大人"の責務を果たそうと、そう固い決意を感じさせるものであった――――。

 

 

………………end。




休暇。

それは、戦いに一同に現実を忘れさせる瞬間だった。
その一方、"黒百合"と戦闘を繰り広げた友奈は傷を癒していた。

そして、彼女は決意する。

――――あの"心"を救う決意を。

次回
第48話 友奈、再び――
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