紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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――俺は、世界を壊す。

その言葉はまるで、怒りそのものだった。
彼に何が遭ったのかは分からない。
けど、あのままにはしておけない…。

怒りで全てが消えていく前に、止めなければいけない。

だからこれは、私の…"私闘"だ。


第48話 友奈、再び――

讃州市・東郷邸

そこに黒の高級車が一台、停まる。

後部座席から出てきたのは園子。防人達にサプライズをした後、美森から連絡を受けてここにやってきた。

 

「友奈ちゃんが、"黒百合"に襲われた。」

 

電話越しでもその怒りが分かった。

今日、防人達とは別の場所で"旧勇者部"メンバーと旅行に行く為に迎えに行く途中だった。しかし、その連絡を受けて急遽キャンセルし、彼女が居る東郷邸へと足を運んだ。

 

園子「ゆーゆッ!。」

 

友奈「あ、そのちゃん。ごめんね、怪我しちゃって…うわッ!?。」

 

園子の視界には頭に包帯を巻き、横たわる友奈の姿と連絡を受けて集まった風と樹、そして夏凛がいた。

 

友奈の姿を見た園子は思わず抱き締める。

 

園子「ごめんッ!。私が巻き込んだばっかりに…ッ!。」

 

友奈「だ…大丈夫…その…ちょっと痛いから優しく抱き締めてくれると嬉しいかな…?。」

 

園子「あっ…そうだよね…えっと…何が遭ったの?。なんで、ゆーゆが"黒百合"に…?。」

 

風「あたしが来た時には奴はもう居なかったわ。」

 

実はあの後、気を失う直前で友奈は風に連絡を入れていた。

身分と立場から自由に動くことが出来ない園子に代わり、何かあれば風に緊急の連絡を入れるように全員で決めていた。それが機能したお陰で風はGPSを頼りに友奈の元へと駆けつけることが出来た。

 

夏凛「東郷は血相を変えて、友奈がいた神社に向かったわ。こっちの話を聞かずにね。直に帰って来るんじゃない?。」

 

樹「頭を強く打った衝撃で気を失っちゃったみたいで…それほど大きな怪我は無いみたいです。ホッとしましたよ、本当に。」

 

友奈はアハハと笑うと、園子の目を見る。

 

友奈「私は大丈夫だよ?。ごめんね、心配かけちゃって。それよりも忙しい中でそのちゃんがせっかく時間を作ってくれたのにみんなで行く旅行を台無しにしちゃった。私抜きで行ってくれても良かったのに…。」

 

園子「そんなのは良いんだよ、またいつでも行けるんだから。それに、みんなで行かないと意味が無いんだよ?。だから、こうやってみんな集まったんじゃないかな?。」

 

友奈「そっか…余計な事を言っちゃったね…?。」

 

風「またあんたが1人で背負い込まないようにって、みんな集まったのよ。それよりも…なんで"黒百合"があんたを…?。」

 

"黒百合"の名を聞いた友奈は表情が暗くなる。

彼は"邪神教団"の手先…当然、狙われてやられたんじゃないかと皆はそう思うだろう。美森もそれを思ったから、考えずに家を抜け出して彼を探しにいった。話を聞かずに飛び出していったその様はまるで修羅のように。

 

――説明しないといけない。

そう思って、友奈は拳に力が入る。

 

友奈「…彼とはたまたま、偶然に出会っただけだよ。朝のランニングを終えて帰る途中に少し神社で涼しもうと思ったらそこに彼が居てね。あ…"邪神教団"が私を狙ってとかじゃないよ?。もう私には"何も"無いから。」

 

樹「友奈さん…。」

 

友奈「少しお話してね、そこで拗れちゃった。彼を止めるために私は変身して戦って…負けたんだ。」

 

夏凛「負けたって……そっか、あんたは人を傷付けるのが嫌いだものね。全力、出せなかったんでしょ…?。」

 

夏凛の言葉に、友奈は首を横に振る。

意外そうな顔をした。

勿論、人を傷付けるのは嫌いだし自分が対人戦なんて向いていないことは理解している。でも、そんな事よりも思ったのは彼を「止めないといけない」という感情だった。

 

だから、全力で戦った。

手加減なんてしていない、けど届かなかった。

あの"恨み"に向き合う為には、戦うしかない。戦って、その中で彼の抱くその憎悪を理解しないといけない。

しかし、結果は見ての通りだ。そして、話さないといけない。

 

"黒百合"という少年が持つ"怒りの感情"を。

 

そこへ、彼を探して飛び出した美森が帰ってきた。

機嫌が悪い…きっと見つからなかったのだろう。汗だくになりながらも部屋に入る。

 

美森「あの外道は見つからなかったわ。ごめんなさい、友奈ちゃん。貴女の敵を討てなかったわ。」

 

友奈「いやいやッ!。敵討ちとかそんなのはいいんだよッ!?私、彼に対しては全く怒ってないから大丈夫ッ!。」

 

風「こらこら、勝手に暴走して飛び出していったからか顔が怖いわよ?。ウチの樹が怯えてるじゃない。」

 

樹「えっ!?何で巻き込まれたのッ!?確かにちょっぴり怖いけど…。」

 

夏凛「何にせよ、東郷じゃないけど園子に引き続き友奈まで襲われたんだ。アイツにはしっかりと代償を払わせるわ。」

 

樹「あわわ…夏凛さんまで怖いです…。」

 

友奈「それなんだけどね?。彼の相手は…私に任せて欲しいの。」

 

いきなりの発言に全員は驚いた。

しかし、冗談を言っているようには見えないし言う事でもない。そして何よりも、彼女の目が真剣だった。

シーツを握る拳に力が入っているのが分かる。リベンジマッチ…というわけではなさそうだ、友奈がそんな事に拘る性格じゃないのは皆、理解している。

なら何故、こんな事を言い出したのか?。こう言う時の友奈は大きな事情を抱えている事が多い。だから、また無茶をしないかと心配にもなる。

けど彼女は…"抱え込まなかった"。

 

友奈「"黒百合"…彼からは大きな怒りや恨みと共に、どこか"哀しみ"も感じ取れた。だって、あんな事を言い出したんだから…。」

 

園子「…あんな事…?。」

 

友奈「世界を"壊す"って。」

 

夏凛「ちょっと待ちなさいよ!。何それ、完全に敵意丸出しじゃないッ!そんな危険な奴をあんたに任せるわけにはいかないでしょッ!?。」

 

友奈「お願い。それに、みんなのその力は防人の人達を助けるための力…"今"の勇者達を助ける為の力なんだ。こんなことに付き合わせたくない。」

 

美森「…友奈ちゃん。悪いけどそのお願いは飲めないわ。」

 

友奈「東郷さん…ッ!。」

 

美森「分かって?。もう、貴女1人に押し付ける訳にはいかないの。きっと、事情があるんでしょうけど彼は敵…世界に仇成す"悪意"そのものよ。彼らがどれだけのものを奪ってきたか…知らない訳じゃないでしょう?。」

 

友奈「…それは…。」

 

――ちゃんと、理解している。

"邪神教団"がもたらしてきた数々の所業…もう、何人もの人たちが彼らの目的の為に犠牲にされている。

憤りを感じないはずがない、許される事じゃない。

そして、"黒百合"もそれに加担する者の1人だ。一個人の為だけにこの力を行使することは間違っている。だから、美森の言う事が正しいのだろう。

でも、友奈は…ブレなかった。

 

友奈「それでも私は…彼を"止めたい"んだ。」

 

美森「友奈ちゃん…ッ!。」

 

園子「…いいんじゃないかな?。」

 

少しだけ感情的になる中、園子はただ1人冷静にその言葉を頭の中で理解しようとしていた。

 

園子「みんな、考えてもみて?。ゆーゆがこうなった時、止められた人は居た?。」

 

風「それは…居ない…けど…。」

 

園子「何も、ゆーゆを問題児扱いしてるわけじゃないよ?。"新生大赦の宗主"としては、軽視できない事だよ。わっしーの言う通り、私も止めに入る。だってこんなの、我儘そのものじゃない?。」

 

友奈「………ごめん…。」

 

園子「まー、それはあくまで"立場上"として。でも、"友達"としては大賛成かなー。」

 

夏凛「あんたまで何を……。」

 

園子「…私たちはもう"自由"なんだよ?。もう、"お役目"とかそんなのは気にしなくても良い、好きにやっていいんだよ。だから、感情一つで突っ走ってもいい。ゆーゆは"黒百合"を止めたいって心からそう思ってみんなに相談したんでしょ?。これは大きな一歩だよ、2年前のゆーゆだったら、誰にも言わずに抱え込んで1人でやろうとしたはず。」

 

友奈「そのちゃん…。」

 

園子「それを今度はちゃんと、みんなに"相談"してくれた。だったら、この際は世界の事とか考えずに感情で動けば良いんじゃないかな?。"邪神教団"の相手は防人達がしてくれる…それに今の私達はその表舞台に立つ人達を支える裏方。そしてゆーゆは、その"感情"に従ってやりたいことを全力でやればいい。勿論、私達も助けるからさ?。」

 

風「……はぁあああ…高校生になっても、友奈は友奈のままね。まぁ、その"我儘"が今に始まった事じゃないし、ちゃんと相談しただけマシなのかもね。」

 

友奈「えぇえ…私、そんなに子供っぽいですかぁ?。」

 

樹「私からも言わせてもらいます。友奈さんはとっても"我儘"です!。」

 

友奈「そんなぁ、樹ちゃんまでぇええ!。」

 

樹「でもそれは、とても優しい"我儘"です。誰かを思って行動する友奈さんのとっても素敵な所です。だから…その"我儘"を貫いてくださいね?。」

 

友奈「ありがとう…樹ちゃん。」

 

全員が良い意味で"諦める"中、夏凛は呆れたように。

 

夏凛「…なら、対人戦の極意ってものを叩き込んであげるわ。明日から毎朝6時にはいつもの砂浜に来なさい。あんな奴に負けないように、あんたを一人前に育ててみせるわ!。」

 

友奈「よろしくお願いします、師匠!。けど、朝はもう少し遅い方がいいかな……?。」

 

夏凛「何か言った?。」

 

友奈「いえ、何もありません!。こ…光栄の極みであります…ッ!。」

 

美森「……友奈ちゃん。」

 

ただ1人、最後まで納得していない美森は冷静に友奈を見る。

 

友奈「あ…東郷さん…ごめんね…心配してくれてるのに我儘言っちゃって……。」

 

美森「謝るくらいなら最初から言わないの。いつもそうよ、人の話を聞かないで自分の意見ばっかり貫いて!。」

 

友奈「その……怒ってる…?。」

 

美森「ええ、とっても!この上ないくらい!今までにないくらい一番怒ってるって言っても過言じゃないわッ!!。」

 

友奈「ひぃいい…ッ!。」

 

美森「…けど。」

 

震える友奈の手を優しく包み込むように、両手でフワリと包み込む。

 

美森「その綺麗な小さな手で何人もの救ってる貴女ならきっと大丈夫だって言い張れるわ。私も救われたから…その手に、心に。」

 

友奈「あ………。」

 

美森「「幸福な王子」というお話を知ってるかしら?。貴女にピッタリだわ、他者の為に手を差し伸べて身を犠牲に出来る貴女に。あの物語の結末はとても悲しいものだったけど、友奈ちゃんなら「自分も幸せ」である事をその身に染みているはず。だから、2年前のように自分ばかりが傷付く事が無いようにする事を約束して。それがこの"我儘"を飲む条件よ。」

 

包み込まれたその手を、包み込むように友奈は優しく微笑む。

 

友奈「うん、約束するよ。私はもう…自分を"傷付けない"。「勇者部"六箇条"」にあるもんね?。「自分も幸せである事」!。」

 

その言葉に、全員が笑みを浮かべる。

あれほど、身を粉にして他者の為に尽くしてきた友奈が自分の事も考えるようになり、大事にしだしていることに。

 

そしてこう言い張れるだろう。

 

友奈なら"大丈夫"だと。

 

友奈(黒百合…貴方のその凍てついた心に光を取り戻したい…だから、聞かせて?。その心の叫びを…悲しみを…今の私は守る"勇者"じゃなくて…心を救う"勇者"になりたい。だから……。)

 

 

――――もう一度、私は…"勇者"になる。

 

 

……………………end。




かつての勇者は立ち上がった。

世界を守る"勇者"ではなく、人の心を救う"勇者“になるために。

そして、"黒百合"は…。

――――動き出す。

次回
第49話 決別・前編。
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