心に従う。少年は少女を助けるために"今"を手放す選択をした。
この先、どうなるかなんて分からない。けど、それでも逃げることを否定しなかった彼女を助けたい。
その選択に後悔はない…戦おう、嘘を吐かないために。そして…その"勇敢な心"のままに。
戦衣を纏った流星の目は、初戦闘よりもずっと強い眼差しだった。
その目に宿るのは、意思。覚悟とかそんなものではない、ただ自分の意思に従って、武器を取った。きっと、もう"今"には戻れないかもしれない。それでも、後悔は無かった。だって…ーーー助けたいから。
ただ、それだけの理由だった。
亜耶「紫藤君、どうして……。」
流星「ごめん、国土さん。でも俺は…見過ごすことなんて出来ない。このまま黙って君がアイツらに連れて行かれるのを黙れる程、腐っちゃいないさ。」
トンファーを構えて辺りを見渡す。ざっと、6人くらいか…と、状況を判断。
流星(多勢に無勢か…慣れてない俺だと、戦闘で切り抜けるのは困難だな…それに、守れる保証がない…ここは…っ…!。)
邪教徒「1人が粋がったところで…!。」
流星(ここだ……。)
流星はトンファーを振り翳して地面を思いっきり叩く。そこから砂埃が舞い、邪教徒達を奪われた。
流星「はああああっっ!!。」
邪教徒「何っ!?ぐわっ…!?。」
流星はバイザーを閉じていたおかげで視界を奪われずに済み、熱源レーダーで邪教徒の位置を把握。不意打ちにより、一番近い者の無力化に成功する。だが、残りは5人…もうこの手は通じないだろう。
流星「国土さん、ごめんっ!!。」
亜耶「へっ…?ひゃわっ!?。」
流星は亜耶を抱えて跳躍。それはビルをも容易く超えられる高さにまでジャンプした。
流星「しっかり捕まってて!!。あの数相手に俺では無理だっ!!。」
流星は建物を飛び回りながら、バイザーに投影されるレーダーを見る。
5人全てが自分を追いかけて来ている…しかも、速い。
流星(最初に戦った時に思ったけどコイツら、本当に人間なのか?。それとも…防人システムと同じようなものを纏ってる…?。)
邪教徒「逃さんぞっ!。」
流星「くっ…しつこいっ!!。」
飛びながら身体を反転させ、左手のトンファーを向ける。そして、その銃口から霊力弾を発射。軌跡を描きながら飛んでいくが、向こうが放った邪気弾とぶつかり合って爆発を起こす。
亜耶「えと…どこに向かってるんですか!?。」
流星「防人寮だっ!。楠先輩に助けてもらうッ!!。流石に俺1人だとコイツらを退けるのは困難だし、そこに行けば奴らも諦めるかもしれないっ!!。」
流星(…都合が良いのは分かってる…けど、俺は……この場を切り抜ける為に…!。)
亜耶「わかりました!。芽吹先輩に緊急連絡を送りますっ!その信号をキャッチしてくれればきっと来てくれますっ!!。」
流星「そんなのがあるのか!?。」
亜耶「はいっ!私の持つ端末には有事の際に連絡が行く機能が付いています!。先日もこれを使ったんですよ?。」
流星「分かった!そこまで俺が粘るよ!!。」
…………………………………………。
〜防人寮〜
芽吹「緊急連絡ッ!?。まさか、亜耶ちゃん!?。」
連絡を受けた芽吹は端末を見る。そこには「キンキュウレンラク・キキヲシラセル。」と、カタカナで書かれていた。
玲司「おいおい、この反応…まさかあの坊主も一緒かっ!?。」
玲司は流星の持つ端末に位置情報をキャッチするための機能を仕込んでいた。亜耶の端末と同じように、変身すれば信号が届くように細工を施していたのだ。
芽吹「…っ……先日、拘束した邪教徒の尋問が入ってるのに…でも、亜耶ちゃんの命には変えられない!。それに、彼もそこにいるのならきっと…私達の元へと向かってるのかもしれない!。」
芽吹(また、変身したというのね…決心してくれたのかな…………この時間なら、"彼女"が動きやすいかも…それまではあの子を頼むわね、紫藤!。)
…………………………………………。
流星「はぁ…はぁ…クソ…どこまでも追いかけて…!。」
3人にまで数を減らした流星はとうとう追いつかれ、取り囲まれてしまう。トンファーに表示されている「霊力弾」の弾数を見るに、後2発しかない…亜耶を後ろに避難させて邪教徒から目線を切らないように警戒を高める。
邪教徒「ちょこまかと面倒なことをしてくれたが、これで終わりだな。でも、褒めてやる。その力で3人を退けたことを。」
流星「一つ聞かせろ!お前らは"人間"なのか!?。その人外の身体能力は一体何なんだ!?。」
その質問に、邪教徒の1人は鼻で笑う。
邪教徒「"人間"だとも。ただ…この身に"悪魔"を宿していてな。勇者システムを模倣して、外装を構築しているのだ。」
流星「"悪魔"…なんだそれは…?。」
邪教徒「…"バーテックス"だよ。」
バーテックス。その言葉に、亜耶は目を見開いた。
亜耶「!!。そんな事が…でも、バーテックスは全て消えたはずですっ!!。」
邪教徒「消えただけで"滅んで"はいないだろう?奴らは不死身だ、何度倒しても蘇る。勘違いするな、奴らは"退いた"だけで"滅び"はしていない。」
流星「待てよ…お前達はそのバーテックスとか言う奴らがまた来た時の為に邪神を降ろそうとしているんだろっ!?なんだって、敵をわざわざその身に宿す必要なんか…!。」
邪教徒「フン、我々の敵は"神"とそれを信仰する"新生大赦"だ。バーテックスは神の尖兵とも言える…だが、奴らは神ではなく、滅びを象徴するもの。逆に、邪神様の眷属として組み換えれば良い話だ。それが我々“邪教徒"。バーテックス"の因子を宿し、"新人類"だ!。」
流星(…"新人類"だと?。何を言っているんだコイツらは…この世界はそれほどにまで常識からかけ離れていたのか?。俺の知らない間に、何が起きていたんだ…そして、この世界は……どんな"秘密"があると言うんだ?。)
それは、普通から見れば「妄言」とも言えるだろう。しかし、目の前の現実は事実として認識している…だからこれは限りなく"現実"なのだ。
到底、信じられるわけがない……と、ついこの間まではそう思っていた。だが、この力を得てからは全てが変わってしまった…自分の見ていた景色はなんだったのか…これが真実だというのなら、この世界は今、"どこに向かって"いると言うのだ?。
流星の頭の中はそんな思考でいっぱいになる。しかし…これだけは理解出来る。コイツらは…この世に居ちゃいけない存在だと…。
この思想は危険だ。2年前までバーテックスという化け物と天の神によって300年以上もの間、この世界は閉ざされた世界となっていた事なんてずっと知らなかった。でもこの件に関わって今、自分が纏っているこの戦衣を見ればもう信じざるを得ない。そう…全てが"偽り"だったんだと。だから、この狂信者の言動を聞いた今なら分かる。新生大赦が邪神教団を鎮圧させようとするその理由が。
だけど自分は今、そんな大層な理由で戦うと言えるほど強くもないし覚悟も無い。だから、今は亜耶を助けるためだけに戦う。そのためにもう一度、この力を取ったのだから。
そして、深呼吸。流星は不思議と冷静になった。
流星「…やはりお前達は狂っている。世界の真実を知った癖に、またこの世界に混乱を呼ぼうとしている…そんな不確かな神を信じたところで何も救われないだろうに!。」
地面を蹴って突撃。振り翳したトンファーは邪教徒の持つ蛇腹剣とぶつかり合う。
邪教徒「この世界と神は切っても切れない関係だ。神樹亡き今、この世界は新たな神を欲しているっ!。」
流星「そんなこと、勝手に決めるなっ!!。」
その連撃は遂に、邪教徒に届いた。武器を弾き飛ばし、横薙ぎに振るったトンファーは横腹に直撃。勢いよく吹き飛ばされた。
邪教徒「ごはっ…!?。」
流星「神に救いを求めるなよっ!2年前に神樹様が消えたあの日からこの世界はやっと自分たちの足で立とうとしたんだろう!?。難しいことは分からないけど…みんな必死に生きてるんだ!今度こそ、自分たちの足で!!。」
その時、流星の持つトンファーが光り輝いた。その光を見て、亜耶は目を大きく開ける。
亜耶(あの光は……"神樹様"…?。)
流星「うおおおおおおッッ!!。」
懐に入った流星はトンファーを振り回し、地面に激しく叩きつける。辺りを薙ぎ払ったかのようなその威力に、一名の邪教徒は戦意を失う。だが…残り1人が亜耶の背後に回っていて。
亜耶「!!!。」
流星「しまった…!!。」
急いで対応するも、間に合わない。そして、邪教徒が亜耶の手を掴もうとした瞬間。
「詰めが甘ェんだよ、この甘ちゃんがッ!!。」
一発の銃声が邪教徒の右手を弾く。そして、1人の少女が降り立っては手に持っている銃剣の刃をその喉元に突き付けた。
亜耶「シズク先輩っ!!。」
シズク「おう、危なかったな国土。お前な、男ならちゃんと守ってろっての。オレが間に合わなかったらどうするつもりだったんだ、あぁ?。」
柄の悪い、そして荒い口調のその少女は邪教徒を蹴り飛ばして地面に伏せさせた。
シズク「お前が噂の野郎か。はは、楠の新型防人システムを掠め取ったって噂の!。」
流星「掠め取ったって…人聞きの悪いことを言わないでくださいよ!。」
シズク「冗談だよ、悪かったな?。でも、お前が国土を守ってくれたんだろ?。楠から色々聞いてるよ、悪かったな?こっちの"事情"に巻き込んじまって。アイツ、不器用だから棘のあること言われて腹が立たなかったか?。」
流星「あ…いえ…俺も自分の事ばかりでしたから……。」
シズク「ま、コイツらはオレ達が責任持って連行するよ。お前、もう帰っていいぞ。」
流星「あの…待ってください!。」
流星は去ろうとするシズクを呼び止める。
シズク「なんだ、まだなんかあんのか?。」
流星「違います…俺も行きますよ。」
亜耶「…えっ…!?。」
流星「コイツらの言っていたこと…貴女達に説明したくて。」
シズク「……いいのか?。関わるとなれば話は別だぞ。その防人システムの事もあるし、今ならオレが言いくるめてやる。まぁ遅かれ早かれ、一度新生大赦の連中が尋ねてくるかも…だけどな。それも、偉い人が。」
流星「それって神官クラスの人達…ですか?。」
シズク「いいや……"もっと上"だ。」
指を上に差し、不敵な笑みを浮かべるシズク。流星は思わず息を呑んだ。
シズク「個人的に興味があるだとさ。まぁ、お忍び程度で来るような奴だからいきなり尋ねて来やがるかもな。さて…それがお前の意思ならついて来な。」
シズクに促され、流星はそのまま歩き出す。
シズク「…場に流されねェってのは意思が強い証拠だ。それを面と言える奴は特にな。お前、また変身して"後悔"は無かったんじゃねェのか?。そんな顔をしてるぜ?。」
流星「あ…………。」
自分自身でも気付かなかった…手の"震え"が止まっていたことに。そして、シズクに言われた通り"後悔"は無かった。寧ろ…清々しい気持ちになって。
亜耶(紫藤流星さん。今なら分かる気がします…男性なのに何故、"勇者"の適性があるのか…きっと、あの人は……自分でも気付かないほどに"勇敢"なんですね。一途で真っ直ぐ…目の前の"理不尽"に戸惑いながらも、立ち向かえる…フフ、なんかこの世界に"勇者"様が帰ってきたようにも思えます。)
"勇敢な心"。それまさしく、"勇者"であった者たちが共通して持っていたもの。亜耶はそれを感じ取り、今後の彼の行く末がどうなっていくのかが気になるのだった……ーーー。
………………………………end。
この世界に渦巻く暗雲の一部が明かされてきた。
少年に後悔は無い…そして、一度"拒絶"した申し出を受けるつもりでいた。
彼女を含む、巫女達の未来のために……この"事件"はまだ、始まってすらいなかった……ーーー。
次回
第5話 防人(さきもり)。