大人も、神も…そして、世界も。
その全てが"嘘"で繋がれてきたこの歴史…真実を知らない者達は騙され続けてきた。
だから、俺は壊す。
この…"嘘"を。
数日後、始業式。
新学期が始まる9月は残暑が残り、夏の終わりを感じさせない気温だった。
酷暑とは言い難いが、少し歩けば汗が出る。だが、蝉の声は聞こえない。彼らはまた、次の夏まで会う事がないだろう。そして、次に出てくる蝉たちは長い月日の中で過ごした土の中と別れ、大人となって大空へと羽ばたく。
あの喧しい鳴き声は暑さを助長させるかの如く、耳障りかもしれないが彼らの訪れが夏の始まりを報せ、そしてその声が無くなると同時に終わりを迎える。
そして、学生達もそうだ。長い期間の休みを終えて、今日から勉学に励む。
正直、身体が鈍ってそれどころじゃない。ちゃんとしてる者は追われたりはしないが、大半が残り1週間であの膨大な夏休みの課題を片付ける為に必死になってただろう。
そしてそれは流星たちも然り…だ。
流星「…2日間、ほぼ完徹で宿題を終わらせたよ…流石に進路に関わるから、必死だったな…亜耶は…?。」
亜耶「私は自由研究だけ残してたけど、なかなか…芽吹先輩に助けてもらって、プラモデルを作ったよ?。」
流星「え、そんなのでいいのか…って、物は?。」
亜耶「壊れちゃいけないから、学校に送ってあるの。」
流星「そっか…ん…あれって…犬吠埼さん?。」
2人の前をゆらゆらと歩くのは樹。
夏休みの生活リズムが戻っていないのだろう、すごく眠そうな顔で歩いていた。
流星「おはよう、犬吠埼さん。すごく眠そうだけど…?。」
樹「あ、おはよー…紫藤くんに亜耶ちゃん。ふわぁあ…まだまだ寝たりないよぅ……。」
亜耶「もしかして樹ちゃん、夏休みは夜更かしさんだった?。」
樹「…アハハ、まぁね…それに、宿題も終わらなかったよぉお…どうしよう、先生に叱られちゃう…。」
流星「嘘だろ…幾つ残ってるんだ…?。」
樹「えっと……後、4つ…かな…?。」
流星(殆どやってない…犬吠埼さんって、こんなにズボラだったか?。お姉さんがしっかりしてるからついそう思ってたけど…。)
樹「はぁあ…憂鬱だなぁ…そういえば、この間の旅行は楽しかった?。」
旅行。
園子がサプライズとして用意したあの旅館のことだ。
当然、楽しかった。料理は美味しいし、風呂も最高だった。
あんな事、修学旅行ぐらいだろうと思っていたが本当に楽しかった。
しかし…周りが女子ばかりで少しばかりか目の行き場に困ったのが、唯一の欠点というか…。
亜耶「む…あの時のリュウ君、少しイヤらしい目つきをしてたよね。」
流星「えっ…し…してないよッ!?。あれは、久遠さんが変なことを言ったから…!。」
亜耶「……………私だって……。」
流星「…えっ?。」
亜耶「何でもないです。そういえば、樹ちゃん達も旅行に行ったんだよね?。宗主様がそう言ってたから。」
それを聞いた樹は苦笑いしながら。
樹「えっと、中止になっちゃったの。」
亜耶「そうなの?。なんかごめんね…?。私たちばかりが楽しんじゃって…。」
樹「いやいや、そうじゃないんだよ?。えっとね…実は、友奈さんが“黒百合"に襲われて怪我をしちゃったからなの。」
“黒百合"に襲われた。
それを聞いて、2人は驚愕した。
亜耶「えっ!?。結城友奈様…いえ、結城先輩が“黒百合"に!?。お怪我の具合は!?。」
樹「大丈夫だよ?軽傷で済んだみたいだし、友奈さんはああ見えて結構タフだから。まぁ、足を怪我しちゃったから歩けなくて…それで中止にしたんだ?。今はもう全然動けるから大丈夫だよ?。」
流星「…犬吠埼さん、詳しく教えてくれないか?。何故、奴が結城先輩を襲ったのか…。」
樹「それは…。」
理由を説明しようとした樹。しかし、学校の予鈴が鳴り響く。
樹「あ…予鈴だ。お話の続きはお昼にするね?。その方が、時間取れるだろうし…お昼休み、屋上で3人でご飯を食べよう?。」
流星「ああ、分かった。」
―――
――それから、昼休み。
樹は2人より少し遅くにやってくる。…すごく、落ち込んだ顔をして。
流星「…その顔、先生にこってり縛られたな?。」
樹「うぅ……うん…夏休みの宿題、ほぼ終わってなかった事でたくさん叱られちゃった…週末までには仕上げてこいって言われて、猶予を貰えたけど"勇者部"の部長として情けなくて…はぁあ……ダメダメだなぁ、私。」
亜耶「はい、樹ちゃん。そんな貴女にお裾分けです!。」
ニッコリと笑みを浮かべながら、玉子焼きを樹の弁当箱の蓋に置く。
樹「ありがとー、亜耶ちゃん!。うん…美味しいー!。」
流星「ちゃんと週末までには仕上げるんだぞ?。受験までもう半年も無いんだし、それに進路にだって響くぞ?。」
樹「うぅ、言わないでぇえ…あ、そうだ…朝のお話なんだけどね?。」
思い出したかのように、そして2人は真剣に聞く。
樹「友奈さんを襲ったのは何も目的があったわけじゃない。園子さんとは違って、明確な理由なんて特に無いんだ。」
亜耶「…計画されてないんだったら、少しは安心出来るけど…あのお方は、"特別"だから…。」
特別…そうか、"御姿"の事か。
流星は、思い出す。
"御姿"。
それは、神に近しい人間の事。
彼女は度重なる"満開"によって、身体機能の殆どが供物として持っていかれた。それは、自我すらも。
しかし、神樹はその大部分を"造り替えた"。
"返還"だけでは賄えないほどだったのだろう、そしてその体質は神に近しきものへと変化したのだ。
その境遇は自分もよく似ている。4年前の"災害"によって、自分も身体の一部を"造り替られて"いる。
しかし、彼女のようにその大部分ではなく、哀れに思った神樹がそうしたのかもしれない。
おかげで、人の"悪意"が読み取れる特異な感覚を身に付けてしまったが。
しかし、偶然にしてもその彼女が襲われた事が自分にとって引っかかるものがある。
"黒百合"は、感情では動かないはず…"御姿"である事を目的とせずに襲った理由が分からない。そう考えていると、樹が言葉を続ける。
樹「…紫藤君。君じゃないけど、友奈さんは“黒百合"が抱えてる"闇"に踏み込もうとしてる。それが理由だよ、あの人は本気で彼を救いたいと思ってるんだ。」
流星「“黒百合"の抱えている闇って…それに救うって…結城先輩は何か感じ取ったのか?。」
樹「ううん、多分直感だよ。君のように、人の"悪意"を感じ取れるような感覚は無いだろうし…多分、話しを聞いている内にそう決めたんだと思う。終始、"怒り"と共に"哀しみ"も感じ取れた…だから、放っておけないって。」
流星「待ってくれ…だけど、奴は…!。」
樹「分かってる。罪の無い人達を何人もその手に掛けてる上に、"神具"を奪ってる…彼のしてる事は決して許される事じゃない、"教団"とは別の脅威だと思う。でも、友奈さんは彼を止めるために再び"勇者"になるって決めたんだ。」
亜耶「……その気持ちは何となく、分かるかもしれない。」
流星「亜耶……。」
亜耶「"黒百合"…花言葉は"復讐"と"呪い"…そんなに恐ろしい名前を自ら名乗っているのなら、彼の抱えている闇は底知れないもの…その行動からしてきっと、この世界に対する"復讐"の為に動いているのかもしれない…どうも彼からは"邪神教団"の理念に沿った行動を感じないの…まるでずっと"独り"で戦ってるかのように…。」
ずっと、"独り"…―――。
それは、まるで………―――。
――――――――――――。
「大変です、宗主様ッ!。」
1人の神官が慌てた様子で、園子の前にやってくる。
安芸「落ち着いてください。何があったというのですか…?。」
画面の下からでもわかるその慌てようは只事では無い…園子はゆっくりと目線を向ける。
「く…黒百合の手によって"新生大赦"が支援する関連企業が完膚なきまでに破壊されました!既に5社は潰されていますッ!。」
園子「えっ…!!?。」
「そして、声明を挙げてます!。「現時点を以て、“黒百合"は世界に対して“破壊活動"を行う」と!。これに"邪神教団"は絡んでいない…自らの行動だと、明言しています!。」
それを聞いた園子は慌てた様子で部屋を出て外を見る。
その目線の先には黒煙と夥しい数のサイレンの音。陽が落ちる時間帯故か、黒煙が立つ場所にオレンジ色の光が見える。
園子(…“黒百合"…ここまで、大胆な行動は取らなかったのに何故…!?。っ…きっと、ゆーゆが動くはず……こうまで感情的な暴走だとゆーゆの声はきっと…!。)
―――届かない…。
……………………………。
煌々と燃える建物を見ながら、黒百合は「大葉刈」を手にする。
黒百合(……これでいい、俺はもう後戻りは出来ないだろう…だが、ようやく"準備"が整った……今になって分かってきた気がする…「あんたら」は気が狂った訳じゃなかったんだな……全てを「知った」からこそ、この世界を……。)
「だあああああッッ!。」
とてつもない速度で飛んでくるその攻撃を避ける黒百合。
その正体は分かっていた。鼻で笑うと、静かに構えを取る。
黒百合「やはり来たか……結城友奈。」
その眼前には息を切らし、拳を固める友奈。
互いに睨み合うように、対峙する。
黒百合「正義感の強い"勇者"様は、この凶行を許さないと?。」
友奈「勿論ね…でも今は、それは置いとく!。」
黒百合「へぇ…じゃあ、何をしに来た?。俺を止めに来たつもりだろうが……。」
友奈「私は…貴方を"救い"に来たの!。」
"救う"?。
その言葉に、黒百合は言葉を失う。
直後、無言のまま斬撃を放つ。それを、両腕を交差させて防ぐ友奈。
そして、黒百合は…"感情"を露わにする。
黒百合「"救う"!?。傲慢だな、何の権利があってお前に救われなければならないッ!?。」
友奈「貴方はとっても怒ってる!けど、それと同時に"泣いてる"!ずっとずっと、"泣いてる"んだよ!。」
黒百合「…人の心を見透かしたかのようにッ!。すごいな"御姿"様は!。そんな事まで分かるのかッ!?。だが残念だ、俺は"泣いて"などいないッ!。」
友奈「だったらどうしてそんなに“哀しそう"にするのッ!?。」
黒百合「…さっきから好き放題と!お前なんかに俺の心を理解されてたまるかッ!。」
襲いかかってきた黒百合はこれまでのような攻撃とは打って変わって、感情を露わにした荒々しい攻勢だった。
友奈は捌きなながら、黒百合との距離を詰める。
友奈「こんな事しちゃダメだよッ!。それ以上、"悪意"を広げると貴方が持たなくなるッ!誰かに恨まれちゃう、殺されちゃうッ!。」
黒百合「別に死んだっていいな!明日なんていらない、希望も何もない明日なんていらないし"嘘"で固められたこの世界でのうのうと生きる阿呆に知らしめてやるのさッ!!。」
苛烈なその攻撃に、友奈は頬に傷をつけながらも捌き続ける。
黒百合「どうした、殴ってこいよッ!俺よりも強い癖に、加減なんていらないんだよ!。」
友奈「…自暴自棄にならないで…私は…!。」
黒百合「っ…戦う覚悟も無い半端な奴が人の感情に土足で入り込むんじゃねェよッッ!!。」
説得を続ける友奈に苛立ち、攻撃の合間に蹴りを繰り出して吹き飛ばす。そして、一瞬の速度で詰め寄り、「大葉刈」を振り翳す。
黒百合「お前は"あの人"じゃない!綺麗事で誰かを救えるならッ!!。」
振り翳されたその凶刃は友奈の頭上にまで迫る。
しかしその時……。
流星「―――やめろォオオオオ!!。」
飛び出してきた流星がトンファーで黒百合の顔面を殴り飛ばす。
たまらず地面を転がり、木に叩きつけられる黒百合。
友奈「りゅ…流星君ッ!?。なんでここにッ!?。」
流星「宗主様から連絡を受けたんですよ!「無茶をする友達を助けて欲しい」って!。大丈夫ですか、俺も戦います!アイツを止めないと…ッ!。」
友奈「ちょっと待って、彼は…!!。」
黒百合「…ククク…俺とした事が、こうも感情的になってしまった…油断したな…今のは…キツかったぜ……?。」
バリンと、仮面が砕ける。
そして、そこからボタボタと血が流れ落ちる。
黒百合「……まさか、お前に殴られるなんて夢にも思わなかったな…「流星」?。」
ゆらりと立ち上がる黒百合は下を俯き、不敵に笑みを浮かべる。
流星「何を言って……ッ…!。」
黒百合「…あー…こんな喋り方、やめよう。やっぱ疲れるわ…気取った話し方をすれば変われると思ったんだが…“黒百合"という名で一生、過ごせると思ったんだが……もう無理みたいだ。」
その"素顔"を見せる"黒百合"。
それを見た流星は…呼吸が止まるかのような感覚に陥る。
流星「あ…あ…あ…お…お前…お前は……ッ!。」
白い髪に、赤い眼。
「ひっさしぶりだなァ。随分と逞しい性格になっちまったもんだな?あの冷めた性格がまるで嘘かのように。」
そんなはずはない。
"アイツ"はあの時、俺の目の前で"死んだ"。
俺を庇って、炎に焼かれて消えていった。
それなのに何で…何で………!。
何故、俺の前に"敵"として現れた?"黒百合"という名で何故…?
流星「――――峻輝ッッ!!。」
仮面が割れた"黒百合"。
それは、死んだはずの親友……。
―――三上 峻輝だった。
…………………end。
―――何故、お前が"敵"となって現れた!?―――
===俺は世界を壊す為にこの力を手にした…お前と同じ「擬似勇者」としてなァ!===
―――俺はお前を止めて見せるッッ!―――
―――親友としてッッ!。
次回
―弍『防人の章』―最終話。
第50話 決別・後編。