紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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親友が生きていた。
だが、それは黒衣を纏ったあの黒き戦士“黒百合"だった。

世界を壊す為に戦う…そんなこと、させるわけにはいかない。

―――親友だから。
俺はアイツを…止めて見せる。


第50話 決別・後編。

…信じられなかった。

生きていてくれた、それは何よりも嬉しい事だ。しかし、現実はそう喜べるものじゃなかった。

 

漆黒の戦装束を纏った親友。

俺の纏う白い戦装束と対のもの…あれも「擬似勇者システム」だ。

手に持つものは、宗主様の家宝である神具「生太刀」と高知支部で安置されていた"名を消された勇者"が持っていた神具「大葉刈」。

 

その2つの神具は"呪具"へと化してしまった。

かつて、人々を守る為に"初代勇者"と共に駆け抜けた武具が、"悪意"に染まってあのような禍々しい気を放つ代物へと変化してしまったのだ。

そしてその"悪意"を放つのは紛れもない、俺の親友…三上 峻輝だった。

 

アイツは"敵"として、俺の前に立ち塞がっている。正直、頭の中がこんがらがって、未だに整理が付いていない。

 

…あれは本当に"アイツ"なのか?。

そう、疑いたくもなるくらいにまで、信じられないのだから―――。

 

 

峻輝「――こんな再会、嫌だったな。」

 

額から流れる血を拭い、殺気を放つ。

肌にビリビリと感じるくらいの殺気だ。間違いなく、俺達を「敵」と認識している。

 

そして、結城先輩は…“黒百合"の正体が俺の親友だと言うことに悲痛な表情をする。

 

友奈「…流星君…。」

 

峻輝「何か言ってくれよ、流星。じゃねェと、黙られたまま殺すことになっちまう。」

 

殺す?

そんな事、今まで言った事なんてないじゃないか…。

一体、"何が"あったんだ…あの後、お前はどうやってあの状況から助かったんだ…。

聞きたいことは山ほどある。だが、口が動かない。

気付けば俺は……身構えていた。

 

 

峻輝「…そっか。お前も腹を括ってんだな。選んだのか、"勇者"として戦う事を。」

 

流星「…そうだ。今のお前が素直に俺の質問に答えてくれるなんて思わない。あの時…“黒百合"として現れた日からお前は…"そのつもり"だったんだろう?。」

 

それを聞いた峻輝は、笑う。

 

峻輝「そうさッ!流石だな、お前は勘が鋭いッ!。俺の事、よォく分かってんじゃんか。そうさ…「仮面」さえ割られなければ、俺は一生“黒百合"としてお前らの前に立ち塞がってた。けど、こうなっちまった以上はもう“黒百合"なんて名前は通用しねェ。だから、「三上 峻輝」として、ありのままの姿でお前と対峙する選択をした。」

 

流星「カッコ付けるなよ……お前、自分が何をしてるのか分かっているのかッ!?見ろよこの惨状をッ!!。」

 

煌々と燃える街。鳴り響く無数のサイレンの音。

芽吹達も、事態の鎮圧下に動いている…ここには、当分来れないだろう。

 

峻輝「ああ…綺麗だろ?。馬鹿どもの目を覚まさせるには、最高のシチュエーションだ。安心しろよ、死人は出てないと思うぜ?。これは"宣戦布告"なのさ。お前ら…いや、"世界"に対してのなッ!。」

 

流星「……お前は…"邪神教団"の理念に沿っていないのか!?。」

 

峻輝「そうさ。"邪神教団"は俺が世界を壊す為の力を手にするだけの"きっかけ"でしかないッ!もう、ウンザリなんだよ!神だの何だの、そんなでかいものに縋って生きていくなんてなッ!。」

 

流星「だったら、何をする気だッ!?。こんな取り返しの付かない事を…ッ!。」

 

峻輝「ぶっ壊すんだよッ!"嘘"で塗り固められたこのクソみてェな世界をッ!。」

 

飛び出してきた峻輝の斬撃を受け止める流星。

重い…単純な力だけじゃない、この言動を裏付ける"覚悟"が重いのだ。

ミシミシと、地面が陥没していく。力を緩めれば、両断されてしまう。

 

その時、友奈が割って入って峻輝を抑え込む。

 

友奈「もうやめてッ!。友達同士で…こんなの悲しいよッ!。」

 

峻輝「…その"顔"で……喋るなァアアアアッッ!。」

 

容赦の無い横薙ぎを放つ峻輝。だが、友奈は拳で受け止める。

 

峻輝「ムカつくんだよ、あんたはッ!。俺の覚悟に土足で踏み込んで来やがってッ!何が救いたいだ、俺はそんな事…ッ!。」

 

友奈「虚しいだけだよッッ!。」

 

拳を固めた友奈は腕を振り上げて衝撃波を放つ。

その一撃は重く、防御体制をとっていた峻輝はまともにダメージを受けた。

 

峻輝「がはっ…!。」

 

友奈「…虚しいだけだよ…世界を壊したって、貴方の"心"は満たされない…ずっと、"哀しい"ままだよッ!。」

 

歯を食い縛り、友奈は歩み寄る。

 

友奈「"覚悟"ってすっごく痛いのッ!でも、貴方を見てると目の前の怒りに囚われ過ぎて何も見えてないように見えるッ!。自分の幸せを考えてない目だよ!。」

 

峻輝「…幸せ?はは、そんなもん要らねェよ……あんたらは"真実"を知ってどう感じた…絶望して泣いて…騙されていた事に怒り、道具のように扱われて来た事にッ!この世界はな、人間の事なんて何も考えちゃいねェッ!全ては"神"の為だッ!俺達人間は、"神"の「部品」なんかじゃねェんだぞッ!!。」

 

友奈「分かってるよッ!。神様だろうが、私達"人間"を好き勝手にしていいわけなんてないッ!。」

 

峻輝「だったら…だったら何で"大赦"をぶっ潰さなかったッ!?。あの時、"天の神"をぶっ殺さなかったッ!?。世界を歪めてた"元凶"共が消えてなくなれば、本当の意味で世界は変われたんだぞッ!?。あの時、お前達がした"選択"が許せねェッ!。」

 

飛び交う斬撃を受けながら、友奈は力強い眼差しで見つめる。

その目には…"迷い"は無い。

 

友奈「神様だって、世界の"一部"だから!。憎いとかそんなんじゃない…手を取り合って生きていかなきゃいけないのッ!神様がもう二度と、人間に干渉しないように私達が力強く生きていかなくちゃいけないのッ!。」

 

峻輝「共存とでも言いてェのかよ…あんたはァアアアアッッ!。」

 

振り翳された「生太刀」の一刀が友奈を切り裂いた。

 

流星「結城先輩ッ!!。」

 

友奈「ッ…大丈夫…これくらいッ…!。」

 

切り裂かれた場所が朱に染まる。身体の芯を外したのと、「擬似勇者外装」の「加護」のおかげだろう、出血はあってもそれほど大したものではない。

 

友奈「流星君…私は君のお友達を助けたいんだ……。」

 

流星「…先輩……。」

 

友奈「…悲しいよね…こんなのって…お友達が世界を壊そうとするなんて…私、思い出したくなかったな……あの時の"彼女"も、今の彼と同じ気持ちだっただろうから……。」

 

 

美森の事を頭に浮かべる友奈。

世界の真実を知って、今の峻輝と同じく世界を壊そうと壁を破壊した事があった。

それが神の逆鱗を買う事になり、その責任を感じて彼女は「奉火祭」に身を投じ、世界から"忘れられた"。

 

今の峻輝はまさにそう。

あの時の美森と同じく、真実を知って世界に失望し、破壊の選択をした。

けどそれは、何も生み出さない…世界から憎まれ、「悪」として生きていかなければいけない…自分の"幸せ"を感じる事も与えられる事もなく、そして……得ることを許される事もなく。

 

その行き着く果ては…"孤独"だと言うことを知っているから。

 

 

友奈「だから私は止めたい…彼の怒りを理解したい…その上で、一緒に手を取り合っていきたい…私は彼を…"独り"にしたくない。」

 

 

自分の怪我を顧みずにひたすらに峻輝の事を心配する友奈に、流星は心の中で区切りがついた。

 

――初めは「勇者」として止めるつもりだった。

これまでの凶行と、この惨状を引き起こした"罪人"として。

だけど目の前にいるのは紛れもなく、大切な親友だ。

幼い頃から一緒で、自分が"特別"になってからも変わらずに接してくれたただ唯一の親友だ。

彼の"出自"はよく知っている。

あの時、高知支部で言っていた「世界から疎まれた」というのはその出自の事だろう。そして、世界の真実を知ってから、これまでは狂っていたと思われた自分の両親が毎日のように言っていたことをようやく理解出来たのだろう。

 

狂ったのではなく、自分と同じで何かがきっかけで"真実"を知った。

だからこそ、ずっと訴えていたのだろう…だが、そんなことを微塵にも信じない当時の何も知らない人たちは「狂人」として、彼の両親を扱ってきた。そして、"大赦"は…何もしなかった。

 

だからあの凄惨な事件…「上里家襲撃事件」を引き起こした。

当時、彼の両親はその過激派のメンバーだった。

当然、陽の目を見る事はもう無かった。

彼の両親は厳正な処罰の元、「神刑」と呼ばれる処罰を言い渡されている…それは、"神樹"の供物として、罪人の魂を天に導く為の儀式と称する「処刑」…恐らく、あの煉獄の世界に身を投げられている。

骨も残らないほどにまで焼かれて。

せめて魂だけは神の炎によって浄化され、天に召されるようにと当時の神官達の"祈祷"の一つだったのだろう。

 

その真実と現実に対して、峻輝は"怒り"のままに行動を起こした。

真実を知ってもなお、"勇者"達はこの世界の為に戦い続けた。咎める事もなく、彼らの描いた理想通りに。

だがそれは副産物だ、"勇者"達は初めから「心に従って」動いていただけなんだ。神とか、世界の為とかじゃない…ただ、"生きる"ために。

 

峻輝はそれを知らないし、理解しようともしない。怒りに呑まれ続けている限り、決して理解はしない。だから、彼女達の事も憎しみの対象としてここまで感情をぶつけてくるのだろう。

 

友奈もまた、弁解するつもりもない…"当然"だったという意識で行動していたのだから。

どんなに辛い目に遭っても、大好きな人たちと過ごしたい一心で戦い続けて来たのだから。

そう、初めからその気持ち一筋だった。

 

そして友奈の気持ちを聞いた流星は、"勇者"ではなく、彼女と同じく"人間"として彼を止める決意を固めた。

 

―――何よりも、"親友"なのだから。

 

 

流星「――"限定解除"ォオオッッ!。」

 

流星は「擬似満開」を発動。以前、あの時間軸で発現した「覚醒満開」は何故か使えなくなっていた。

それを見た峻輝も、端末を取り出して。

 

峻輝「…「擬似満開」がお前だけ使えると思うなよ…俺のこのシステムもお前と同じもの…だから、出来るんだよッ!。"限定解除"ッ!。」

 

峻輝の端末にも「擬似満開」の表示が現れる。

そして、同時にそれをタッチして発動させる。

 

2人同時に「擬似満開」形態になる。

全く同じ形式…峻輝の戦装束には紫のラインが走る。

 

 

流星「峻輝ィイイイイイイッッ!。」

 

峻輝「流星ィイイイイイイッッ!。」

 

激しくぶつかり合う白と黒の"花"。

互いに花弁を散らしながら、ぶつかり続ける。

 

全力で、叫びながらぶつかり合う様は圧巻だった。しかし、それと同時に"悲しみ"すらも感じさせる。

 

そこに、何かを感じたのか亜耶がやってくる。

 

友奈「あ…亜耶ちゃんッ!?。っうう…!。」

 

斬られた場所の痛みに思わず苦痛な表情を浮かべる友奈。

亜耶は心配そうに駆け寄り。

 

亜耶「結城様、大丈夫ですかッ!?。」

 

友奈「アハハ…そんなに偉くないよ…大丈夫、ちょっと気を緩めちゃっただけ…でもどうしてここに……?。」

 

亜耶「…すごく"悲しい"ものを感じました…街が焼かれて叫ぶ人の悲しみじゃなくて……大切な友達同士がぶつかり合う"悲しみ"を…。」

 

夜空に輝く赤と紫の光は互いに反発しあうかのようにぶつかり続ける。

亜耶は目を逸らす事なく、見つめ続ける。

 

亜耶(…リュウ君……三上君……。)

 

 

 

峻輝「俺は世界を壊すッ!!。その邪魔をするのなら、例えお前でもッッ!!。」

 

流星「させないッ!"親友"にそんな真似は絶対にさせないッ!俺がお前を止めるッ!!。」

 

互いに大きなダメージを受けながら、全力でぶつかり合う。

そして勝負は……。

 

流星「ぐぁあ……ッ……。」

 

峻輝「うぉお……ッ……。」

 

――――互角だった。

二人は激しく弾かれ、「擬似満開」が強制解除。

地面に叩きつけられて横たわる。

身体が軋むほどにまで疲労感がすごい…もう、動くことすらままならない。それは、峻輝も同じだった。

 

亜耶「リュウ君ッッ!!。」

 

流星「あ……や……?。」

 

峻輝「ぐっ……クソが……こうまで強いなんて………がはっ…!?。」

 

峻輝は大量に吐血し、呼吸が乱れる。

 

峻輝(クソ…"呪具化"した神具二つに「擬似満開」…流石に身体が……ッ……。)

 

亜耶「……三上君……。」

 

峻輝「…はは…無様…な…ところを見せちまったな……亜耶…ちゃん…ゲホッ!!。」

 

亜耶「三上君ッ!。」

 

峻輝「寄るなッッ!!。」

 

亜耶「ッ…!?。」

 

怒声を上げた峻輝に気圧される亜耶は足を止めてしまう。

そしてその時、空間に穴が開いて1人の少女が現れた……「獅子座」だ。

 

友奈「"獅子座"!?。」

 

思わず身構える友奈。だが、「獅子座」に敵意は全く無かった。

そして、横たわる峻輝に近寄って。

 

レオ「…"黒百合"…いや、峻輝……仮面を脱いだようだね。」

 

峻輝「…ああ……あんたのようにはいかなかっ……ゲホッ!ガハッ…!。」

 

レオ「無理しない方がいい。内臓に甚大なダメージが入っている、無茶をしすぎだ。さ、帰ろう。君は教団の離反者だ、でも私の下に居れば安心だよ。」

 

峻輝を抱えて踵を返す「獅子座」。仮面をとったその素顔で友奈を見る。

 

レオ「結城友奈…この世界の「私」……どうやら私はお前と言う存在が疎ましいようだ。もう、忘れたはずなのにこの胸の中に蘇ってくる…「愚かだった頃」の私が……。」

 

友奈「貴女は……。」

 

レオ「私達の道は同じ場所にある、そして…ぶつかり合う運命だ。また会おう。」

 

そうして、峻輝と共に「獅子座」は消えていった。

その時、流星は大粒の涙を流して倒れたまま夜空を見上げる。

 

流星「クソ…クソォ……なんで……何でこうなってしまったんだ……なんで……ッ……!!。」

 

亜耶「リュウ君…ッッ!。」

 

 

亜耶も一筋の涙を流しながら流星を抱き締める。

友奈はただ……見届けるしかなかった…――――

 

―弐『防人の章』―

 

――完。




"黒百合"こと、三上 峻輝との戦いから2週間後。

流星は変わらず、学校に向かっていた。
傷は大したことはなく、3日で復帰。
そんなある日、流星は樹から誘いを受けた。

「勇者部」のボランティア活動への誘いを。

次回
―参『国土 亜耶の章』―
第51話 奉仕活動。
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