それは何よりも辛い事で、重い事だった。
感情と感情のぶつかり合い…まさに、子供の喧嘩だ。
でも俺は…諦めない。
涙は流した、だから今度は…前を歩こう。
第参章…開幕。
第51話 奉仕活動。
…峻輝と戦ってから2週間後。
未だ暑さの残る中、俺はいつもと変わらない日常を送っている。
あの戦いで受けた傷は3日の療養で完治した。幸い、大きな怪我は無く大きな力を使った代償による疲労と発熱が主だったのだ。
自宅療養していた中、亜耶を始めとした防人のみんなが毎日家に来てくれた。
その中でも、芽吹さんは毎日やってきていた。身体が軋むせいで満足に動けなかった3日間、あの人は俺の身の回りの世話をしてくれていた。
といっても、料理・洗濯・掃除…と言った所だがとても助かったし、あの人の作る料理はとても美味しかった。
きっと、親友と袂を分かった事で気が沈んでいる俺を気遣ってくれたのだろう。あの人らしいといえばあの人らしい…そんなことを話題に出す事もなく、別の話をして俺の気を紛らわせてくれた。
そんな気遣いがとても嬉しく、俺は前を向けるようになった。
どんな結果であれ、アイツが生きていた事は何よりも嬉しい事だ。
言葉を交わせるのなら、チャンスは幾らでも訪れる。
その時は迷わず"勇者"になり、"親友"の目を覚させる。
そう…生きてさえいれば、必ず何処かでぶつかる事にはなる。それが、あの状況だったと言う事だ。俺はアイツを連れ戻し、またこの日常に帰る。そして今度こそ、この素晴らしい仲間達を紹介してアイツもこの中に入れるんだ。
峻輝……お前は"独り"じゃないんだ。世界に"嘘"を吐かれていてもいいじゃないか…俺達はまだ未熟な子供だ。これから先、大人になっていく上でこんな事は最早どうでもいい事じゃないか。
2年前とは違って、この世界は変わりつつある。
宗主様が言う「人の世」として、この世界は変わる為に今、飛び立とうとしている。
過去を乗り越えて、しがらみも超えて……"人"が理解しあえるような大きな世界にするために。
過去を忘れろとは言わない…だが、"乗り越える"んだ。
きっとその先に、見たことも無い景色が広がっているはずだから…その中には、お前と言う存在も必要なんだ。
そして、大人になった時に馬鹿笑いしながら酒を飲み交わしてこう言うんだ。
「俺達、本当に馬鹿だったよなぁ」…………っと。
…………………………………………。
樹「あ、紫藤君ッ!。ちょっといいかなっ!?。」
少し慌てた様子で、樹が流星の座席へとやってくる。隣にいた亜耶はキョトンとした顔で首を傾げていた。
流星「な…なんだよいきなり……課題なら手伝わないぞ?。」
樹「そ…それはちゃんとやったもんっ!。じゃなくて…今週の土曜日、時間あるかな?。」
ガタっと音を立てながら亜耶が立ち上がる。
何やら、少し慌てた表情で。
亜耶「い…いいいい樹ちゃんッ!?。そ…そそそれって…デ…デ……。」
樹「へっ?ち…違うよ!?そんなんじゃないよっ!?。えっとね…「勇者部」の活動を手伝って欲しいんだよっ!。」
「勇者部」の活動。
それは、地域貢献やボランティアに積極的に参加し、困っている人々の悩みや依頼を解決していく…いわば、奉仕活動を主とした部活動の事だ。
その実態は、"勇者候補"を集めるために"部活動"の名を模したものだったが、活動事態は本当の事でその名声も知らない者はいないとされる。
事実、県庁から謝礼状を贈呈されたりとその活動は世間からとても評価されていた。
その活動に俺が?。
そんなことを思っていると、樹が言葉を続ける。
樹「実はね、他の部員の子達が"巫女候補"だったみたいで…園子さ……宗主様からストップが掛かっちゃったんだよ…。」
流星「えっ?でも、もう"巫女狩り"は……。」
樹「うん。それでも何があるか分からないから当面の間、その子達の活動に制限が掛かっちゃって。」
流星「そっか……。」
一安心…と言うわけには行かなかった。
何せ……。
亜耶「??。」
彼女に狙いを絞ると言うことだ。
そしてどう言うわけか、亜耶に対しては何も仕掛けて来ない。
最も、教団が今欲しがっている巫女は彼女のはずだ。それは、あの"三神官"が堂々と公言している。
だが、"乙女座"の襲撃以降、彼女に対してアクションを起こさない。
それがさらに不気味さを増す。いつ、どこで亜耶が襲われるか皆目見当が付かないのだから。
だけど今は、考えないでおこう…余計な心配をさせたくない。
そう思って、流星は気持ちを切り替えた。
流星「それで…どんな活動を手伝えばいいんだ?。」
樹「それはね…?。」
ドンっと、足元に置いてある箱を机に置く。
その中には、依頼書がたくさん入っていた。それだけじゃない。
樹「紫藤君は…この中から選んで?。」
SNSに投稿された依頼を見せる。何から何までたくさん書かれていた。そして、その中で気になるものが……。
流星「…讃州高等学校の校舎清掃…?。」
亜耶「それって、結城様……コホン、結城先輩達が行ってる高校?。」
樹「そうだよ?。用務員の人が腰を痛めちゃったから代わりに依頼したいって書かれてるね。」
…何かの縁を感じたのか、俺はこの依頼を受ける事にした。
犬吠埼さんは他の依頼を受けるらしい。
こうして、件の土曜日…俺と亜耶は讃州高校の前へとやって来ていた。
流星「亜耶、本当に良かったのか?。休日返上だぞ?。」
亜耶「うん、大丈夫。それに私、お掃除が大好きだから。少し、ワクワクしてるんだ?。」
流星「そっか。そうだ、亜耶はこの高校を受けるのか?。」
亜耶「…分からない。リュウ君は?。」
流星「俺はここを第一志望にしたい。偉大な先輩達が通ってるって言うのもあるし、何よりも……。」
…アイツ(峻輝)が受けようとしてた高校だから。
全てにカタを付けたら、アイツと一緒にここに通う。そして、今度こそ普通の学生生活を送るんだ。
…そう言いたいが、亜耶を困らせてしまうかもしれない。きっと心配して、悲しい顔をさせてしまう。
俺は大丈夫だ、だから彼女を悲しませてはいけない。
そう思いながら、亜耶に目を向ける。
その時、依頼を受けた俺達を受け入れてくれる人がやって来た。
……その"人"には、驚かされたが。
美森「…来たわね。今日はよろしくお願いしますね、「勇者部」の助っ人さん?。」
………そうか、"そう言う事"か。
つまりだ、俺達は犬吠埼さんに「仕組まれた」と言う事だ。
彼女なりに俺のケアを考えたのかもしれない。いや、きっとお願いされたのだろう。
あの出来事は結城先輩から聞いているだろうし、俺の様子が気になったのかもしれない。本当に、凄い人達だ…まるで、自分達の事のように親身になってくれるなんて。
だから、敢えて乗ろう。
流星「…はい。今日はよろしくお願いします。」
乗った俺に、亜耶は戸惑うも目で訴える。
「合わせてくれ」と。
それを汲んでくれたのか、深々と頭を下げる。
きっと、目の前にいる東郷先輩に敬意を現しているのだろう、亜耶にとっては"新生大赦"のお偉いさんと同じくらい、この人達の事に敬意を持っているのだろう。
"巫女"は"勇者"に付き従う…こう言う時でも、"立場"を尊重する亜耶には驚かされる。
こうして、依頼を開始した。
清掃道具を渡され、俺と亜耶は一年の教室を掃除する。
毎日、しているはずだが窓拭きなどは用務員の仕事らしい。こんな大変な作業を1人でこなしているのだから、中学の用務員の人にも感謝しなければいけない。
亜耶は楽しそうに、隅々まで掃除している。
本当に、好きなんだな…気付いたら俺はジッと見ていた。
亜耶「えッ…ど、どうしたのリュウ君?。もしかして、やり残しがあった…?。」
流星「えっ…あ、ごめん!。楽しそうだなって思ってつい…俺も手を動かさないとな…。」
慌てて雑巾掛けをする俺に、亜耶は手を乗せる。
亜耶「ダメだよ、そんなに強く擦っちゃ。窓が傷付いちゃう。こうやって、優しく拭いてあげれば汚れもちゃんと落ちるから。」
流星「あ…ありがとう…本当だ、ちゃんと落ちた。」
亜耶「えへへ、でしょ?。お掃除が好きなのはね、心も洗われていくみたいで心地良いからなんだよ。」
流星「…心が洗われる…か。確かにそうだな。」
顔が映るくらいにまで綺麗になった窓を見ながらそう思う。
さっきまでは、砂埃で何も見えなかったのにこうして掃除をすると、嘘のように透き通って見える。
…きっと、アイツの心もそうなのだろう。
暗闇に囚われて真っ黒になり、回りが見えなくなってしまっているのかもしれない…あの時、ずっと探していた妹を見つけ、「双子座」の片割れになってしまった高崎さんも。
そんな俺の表情を見てか、亜耶は的を射った事を言う。
亜耶「…大丈夫、きっと分かり合えるよ。」
流星「えっ…?。」
亜耶「…三上君の事。きっと分かり合える。彼の憎悪の原因はハッキリしているけど、止めたいと言う気持ちが無くならない限りは絶対に大丈夫。だから、諦めないで。私も…力になるから。」
流星「亜耶……ああ、分かってる。大丈夫、俺は本当に大丈夫なんだ。だから、アイツの怒りを少しでも理解しようと思う。その上でもう一度、きちんと話し合いたい。そして…殴ってでも止めてみせる。その為に俺は…戦い続けるよ。」
そんな決意を見てか、亜耶は自分が抱いていた心配が杞憂だった事に安堵する。
そして、掃除をある程度進めていると美森がやってくる。
美森「休憩にしましょう?。お茶とお菓子を用意したから。」
流星「ありがとうございます。亜耶、休憩しようか?。」
亜耶「うんっ!。」
………………………………。
亜耶「!!!。このぼた餅、とっても美味しいです!。」
出されたぼた餅に舌鼓を打つ亜耶。
淹れられたお茶も、それに合わすような茶葉を厳選したのかとても拘りがあるようにも思える。
美森「…ごめんなさいね?。遠回しに"依頼“と言う形で貴方達をここに連れてきてしまって。でも、用務員の方が腰を痛めたのは本当なの。」
流星「いいですよ、なんかとても新鮮な気持ちでしたし…悪くないなって思えました。」
美森「そう言ってもらえると助かるわ。」
流星「…そういえば、"あれから"結城先輩はどうしてるんですか?。」
流星は気になっていた。
あの現場に、友奈もいた…当然、自分と峻輝のぶつかり合いを見届けているはず。そして何より、彼女は峻輝を救う為にもう一度あの拳を振るうと決めている。
だから、精神的に受けたダメージは自分と同じくらい、大きいものなはず。何よりも、優しすぎる彼女なら特に。
その質問に、美森は笑みを浮かべる。
美森「それなら心配は要らないわ。いつも通り、元気すぎるくらいにまで騒がしいから。」
流星「そうですか…なら良かった。あの人にも…気負わせてしまったのかなって。」
美森「自分で決めた事だから、落ち込むくらいならもっと強くなるって意気込んでたぐらいよ。ありがとう、心配してくれて。その様子だと貴方も大丈夫そうね?。個人的に心配だったのよ、貴方はどこか2年前の友奈ちゃんに似ている部分があるから。」
流星「俺が…結城先輩に?。」
コクリと頷くと、青空に目を向ける。
美森「ええ。心は強い…けど、全て1人でやってしまおうとする所。思い悩み、がむしゃらに動く所。その結果、取り返しの付かない事になってしまいそうになったこともある。"あの時間軸"に行ったから見ているでしょうけど、あれこそまさに"結城友奈"という1人の少女が世界の為に犠牲になる分岐点だった…当然、私たちは否定してただ1人の"友達"の為に世界を後回しにしたんだけどね?。」
美森は言葉を続ける。
美森「…紫藤君。今、貴方に降りかかってるものはとても巨大な壁よ。"世界"と"友達"…"使命"と"友情"…天秤に掛けなければいけない大きなものが貴方に立ち塞がってる。その答えは…決まっているの?。」
その問いかけに、流星は―――。
流星「――分かりません。」
瞳を閉じて、素直にそう答える。だが、何かを決めているかのように言葉を繋げて。
流星「でも、俺の戦う理由は最初から決まっているんです。「国土亜耶」という、1人の女の子を助ける為に戦う。そこに、いろんな理由が追加されただけです。だから、世界とか友達とか…使命とか友情とかそんな理由が来ても変わらない。だから、一歩ずつ前に進みながら目の前の問題を片付けていこうって決めたんです。」
お茶に映る自分の顔を見ながら話す流星。
その表情はどこか、とても落ち着いていた。
自分でも驚く程に、"今"の状況に焦りは無い…寧ろ、やる気に満ち溢れていると言っても良いだろう。
確かに落ち込みはした。竹馬の友と袂を分つ結果になってしまった事。
その友が、世界にその"悪意"を振り撒こうとしている事。
けど、そんな"暇"が無いんだと、そう思っている。
芽吹は盟友の死から立ち直った。そして今も、その志の元で"お役目"についている。
友奈だってそうだ。前を向いて、この問題と真正面から向き合っている。
なら、自分もそうでなくちゃいけない。だからこそ、"悩む"事をやめた。
そして何よりも…亜耶に降りかかっている"問題"から彼女を助ける為に。
流星「東郷先輩。また"依頼"を出してください。俺、"勇者部"の活動が好きになりました。だから…また、呼んで下さい。」
美森「…ええ、分かったわ。」
――自分の手を見る流星。
手は洗ったが、真剣に取り組んだ"奉仕活動"による汚れは完全に取れなかった。
でも、それでいい。だって、"真剣"に取り組んだのだから。
だから…目の前の"問題"に真剣に向き合う。
亜耶を…助ける為に。
………………………end。
"勇者部"の活動に触れて、流星はまた学ぶ事が出来た。
自分を気に掛けてくれる人たちがこんなにもいる…支えられているんだとそう感じて。だからこそ、その人たちの為に前を向かなければいけない。
流星の"戦い"はまた一つ、大きくなっていく。
それから翌日。
"邪神教団"が亜耶を確保する為に本格的に動き出す。
そして、その前に現れたのは。
「双子座」として、"十二星座の使徒"になった元防人の少女。
"高崎 美咲"だった―――。
次回
第52話 "神の巫女"。