それは、勇者に寄り添う存在。
そして、神の声を聞けし唯一無二の存在。
神が消えたこの世界において、"巫女"の力はそれほど大きなものではなくなった。
しかし、異例が一つ…。
"国土亜耶"。
この世界において、唯一"神"の声を聞ける巫女である…。
〜邪神教団・本部〜
「お集まりですね。"十二星座"。」
巨大な礼拝堂のような場所に設けられた大きなテーブルの奥には「三神官」の1人“天照"が鎮座していた。
死んだ「水瓶座」と「乙女座」、そして"新生大赦"に捕まっている「蟹座」を除いて10名…「双子座」は2人1組と言う扱いだった。
全員がその素顔を仮面で隠している…この会合は異質な空気を放っていた。
その中でも特に、"蠍座"は悪態をついたかのように机に頬をついてため息を吐く。
スコーピオン「…大司教、俺ァもう退屈だぜ?。ここんところ、ずっと待機ばっかじゃん。」
タウラス「慎め「蠍座」。大司教の前だぞ。」
月詠「構わないよ?。その退屈を紛らわすいいお知らせを持ってきたんだ?。」
仮面の下で無邪気に告げる月詠。
幼い少女のその声からは想像出来ないほど、その言葉の裏には"悪意"が込められていた。
不気味な雰囲気を漂わせる彼女に、"使徒"達も一定の距離を置こうとする。
だが、それが"制御"出来ているという事だろう。
結果を出せなければ、「水瓶座」のように粛清される。
見せしめとしては良かったのだろう。
その効果もあってか、この"三神官"の地位は教団内でも確固たるものであった。
元々、彼らが発足で立ち上げた"神政組織"だ、「世界は"神"によって統治されるもの」という思想の下、その信仰する神は問わない…だが、明らかな敵意を持って人類に仇成す最上の神である『天の神』は例外だ。
彼らはその最上の神を『討伐』し、新たなる神の下で世界を統治することを目的とし、水面下でずっと動いてきた。
『天の神』を討伐出来たなら、人類は比例なき力を持った種族…"神の眷属"にふさわしい下界の種族としてこの星の生態系の頂点という安寧を得られる…。
『三神官』の目的は、まさにそれだった。
二年前、神の眷属になり損ねた…彼らは"人"という種族を超えようとしている。
その思惑が『天の神』に知られたら、また侵攻してくることを想定しての行動だ。
その為なら、どんなものでも利用する。
例え、それが"神"であっても…―――。
須佐之男「これより、我ら"邪神教団"は国土亜耶の拿捕に踏み切る。」
国土亜耶の拿捕。
それを聞いた「蠍座」が声を上げた。
スコーピオン「待てよ、それって"新生大赦"との本格的な戦争に踏み切るってことか?。」
須佐之男「無論だ。もう、コソコソと動き回る必要もないだろう。それに…"時間"が残されていない。」
スコーピオン「はっはぁっ!。最っ高じゃねェかっ!。ようやく、防人の奴らと遊べるのかっ!。」
サジタリウス「「蠍座」、不敬だぞ!?。」
スコーピオン「うるせェよ優等生。俺はな、強い奴と戦いたくて人を捨てたんだ。そういう約束だったはずだぜ、なあ大司教様?。」
天照「ええ、その通りです。我々の望むものになればやり方は問いません。しかし、いたずらに人を傷付ける事は
流石に言及いたしますが。」
スコーピオン「それは重々、承知しているさ。だが、防人の奴らは抵抗勢力だ…それは、構わねェな?。」
月詠「うん、いいよ?。でも今回は…。」
『三神官』は、「双子座」に目を向ける。
月詠「君達に任せようかな。片割れはもう、その力に馴染んだようだし。」
片割れ…それは、"使徒"の力を得た元防人「高崎 美咲」の事だ。
ずっと探していた生き別れの双子の妹「高崎 美優」は、教団入りし「双子座」の使徒そして生きていた。
夏休みに入る前、流星に自分が防人として戦っている理由を話しているときに突然、目の前に現れた。
彼女も最初は罠だと思った…長年に渡り、何の手がかりも得られなかった妹が狙ったかのように現れたのだから。
しかし、目的そのものが目の前に現れたというのなら、手を伸ばさないわけにはいかない。
元々、仲間意識なんて持ち合わせていなかった。
"防人"として戦っていたのは単なる「理由」に過ぎない…彼女のように、「理由」のみで戦っているものは少なくはないだろう。
だから、「理由」を選んだ。
この妹が本物であれ偽物であれ、探し求めていた家族とやっと出会えたのだから。
今の彼女は"十二星座の使徒"の一柱「双子座」の片割れ。
人を捨て、人外の力を得た「新人類」だ。
この力さえあれば、もう何も失うものはない。
――彼女に、後悔は無い。
ジェミニ(美咲)「分かりました。その使命、果たしましょう。」
ジェミニ(美優)「それじゃ、行こっか?お姉ちゃん?。」
2人は礼拝堂を後にする。
スコーピオン「ちっ…今回もお預けか…。」
ピスケス「まあまあ。お楽しみは取っておくほうがいいって言うしね。」
――――――――――――――――。
流星「お待たせしました、山伏先輩。」
防人寮…正門の前に待っていたしずくの下に流星は駆け足でやってくる。
しずく「いい。私から言った事だから。」
放課後、流星のスマホにしずくから連絡が入っていた。
「ラーメンを食べに行こう」。
たったそれだけの連絡。しかし、彼女から誘うのは珍しい。
そういえば、一対一でまともに話したことは無かった気がする…そう思う流星。
そして、2人は歩き出す。
流星「珍しいですね、少し驚きましたよ。」
しずく「ん。紫藤、ここ最近ずっと頑張ってるから『シズク』からのご褒美だって。」
『シズク』。
彼女の中にいるもう一つの人格だ。
人見知りの激しい彼女とは正反対の性格を持つ人格であり、「しずく」を傷付ける人間は容赦しないと言い放つほどの激しい性格だ。
戦闘においては主に裏人格である『シズク』が担当する。
事実、その性格からか精神性は抜群に強く、どんな展開だって物怖じしない。
そして、芽吹には敬意を払っている。
自分が防人になってから、最初に手ほどきを受けたのは彼女からだった。
だから、"最初"の師匠とも言える。
しかし、一つだけ困ることが稀にある…。
シズク「だああ!。余計な事を言うなっ!。黙ってろって言ったろ!!。」
――そう、何の前触れもなくこうして『シズク』が急に現れるのだ。
初めはかなり驚いた。だって、二重人格者だなんて思いもしなかったからだ。
でも今は……。
流星「ありがとうございます、『シズク』先輩。」
もう、驚かなくなった。別に耐性が付いたからとかではない………多少は、そうだが。
けど、何よりもこの「二人」は自分にとって大事な先輩ですごく世話になっているというのが大きい。
普段の「しずく」はあまり言葉を話さないが、最初の頃は何かと気に掛けてくれた。
そして、裏人格の『シズク』は時には厳しくしてくれて、奮い立たせてくれた。
この「気遣い」が何よりも嬉しかったのだ。
だから、自分の心がこうまで強くなったというのもある。
しずく「…あ。引っ込んじゃった。」
流星「はは…でも、お礼が言えてよか………。」
瞬間。辺りの空気が凍り付く。
そして、「しずく」は瞬時に『シズク』に切り替わった。
シズク「ちっ……最悪だ。でもまぁ……ようやく姿を現したってところだな。そうだろ……。」
―――高崎ぃいいいいいっ!!!。
轟くシズクの怒声。
その眼前には「双子座」の二人が現れる。
ジェミニ(美咲)「山伏…久しぶりね。」
シズク「何が久しぶりだ。悪魔なんかに魂を売りやがって、この馬鹿野郎がっ!。」
ジェミニ(美優)「フフ、お姉ちゃんは人を超えたんだよ。それが疎ましいの?。」
シズク「黙ってろよ、テメェが唆したって言いてェがそうでもなさそうだ。それがコイツの"弱さ"だったって事だろ。」
怒りに触れるシズクは即座に臨戦態勢に入る。
シズク「怒りに呑まれるなって言うなよ紫藤。オレはそんなもんに支配されるほど弱くはねェからな。」
流星「分かっています、それが貴女の原動力だってことは。俺も…この人には言いたいことがたくさんある。」
二人は変身し、構えを取る。
ジェミニ(美咲)「相変わらずの芯の強さね、紫藤。でもいい…今は"敵"同士。同情や説得なんてムカつくだけだから。」
シズク「うるせェ!。裏切りやがって!テメェは一発、ぶん殴る!!。」
そう言って、先手を取ったのはシズク。しかし、その攻撃は剣によって弾かれた。
スルリと、銀の凶刃が露わになる…防いだのはフードを取った美咲。その目の色は片方だけ群青色となっていた。
ジェミニ(美咲)「やれるものならね。そこをどきなさい、私達は防人寮に用がある。」
流星「なんだって……!?。」
ジェミニ(美優)「あはは、どうせ分かっちゃうんだから教えてあげる!。教団はね、「国土亜耶の拿捕」に踏み切った。計画は本格的に動き出した、あの子を"人柱"にしてこの世界に新たな神を呼び寄せる。」
亜耶を"人柱"にする。
それを聞いた途端、流星は血が沸騰するかのような怒りを覚える。
流星「ふざけるなぁぁあ!!。」
怒りのままに、美優に向けてトンファ―を振りかざす流星。
しかし、紙のようにヒラリと避けられる。
流星(くっ…素早い…ッ…!。)
ジェミニ(美優)「あはッ!動きが見え見えってね!。」
ハンドガンのような銃器を突き付け、発砲。
黒い弾丸が流星に直撃する。
シズク「紫藤ッ!。ちぃ…ッ…!。」
ジェミニ(美咲)「防人の時は貴女に遅れを取っていたけど、"使徒"になった今、もう私の方が上よッ!。」
競り合いを強引に押し切り、袈裟斬りがシズクに直撃。
加護のおかげで致命は免れたが、それでもゲージを大きく消費してしまった。
ジェミニ(美咲)「厄介なバリア…自分にあった時は安心できるけど対峙するとこうも面倒なんてね。でも、救われたね…それがなければ貴女、死んでたよ。」
シズク「はっ…でも、皮一枚ってところだろ…。」
ゆっくりと立ち上がるシズクは斬られた箇所から血が滲む。
流星も立ち上がるが、受けた攻撃は決して軽くは無かった。
流星(これ…"邪気弾"か…通りで加護が機能しにくいわけだ…もう、1発も貰うわけにはいかないな…!。)
ジェミニ(美優)「これで分かったでしょ、私達姉妹のコンビネーションには敵わないの。フフ、本当の姉妹だもの…心は通じ合ってる。」
シズク「はっ……だからどうしたってんだよ。」
シズクは銃剣を構える。
そして、瞳を閉じて息を深く吸う。
ジェミニ(美咲)(…山伏の雰囲気が変わった…?。)
ジェミニ(美優)「そのまま立ったまま死になよ!。」
突っ込む美優。
だが、美咲はその様子に警鐘を鳴らすかのように声を上げる。
ジェミニ(美咲)「ダメよ美優!。下がりなさい!。」
シズク「……遅ェよ。」
目を開いたシズクは一気に駆け出す。
美優はすかさず、速射による対応を取るが弾丸の軌跡が見えているかのように避けながら突っ込む。
ジェミニ(美優)「えっ…!?。」
シズク「…オレが「攻撃」。しずくが「分析」。コンビネーションとか抜かしてたけどな……オレ"ら"はそんなものをとっくに凌駕してんだよッ!。」
滑り込むように懐に入り込み、銃剣を地面に突き刺してその反動を利用した強烈な蹴りで美優を空中に打ち上げた。
ジェミニ(美優)「がはっ…!!。」
シズク「しずくは戦えねェ代わりに状況を良く見てくれてる。それをオレに教えてくれるんだ。前に出るオレはしずくを信じて突っ込む。オレがいる限り、国土の元には行かせはしねェよ!!。」
銃剣を向けるシズク。
そして、傍にいる流星に目を向ける。
シズク「いや…オレ"達"…だったな?。」
流星「……高崎さん、俺達を敵と認識するのなら俺も割り切るッ!。そして何より、お前達に亜耶を好きにはさせないッ!!。」
シズク「いい気合いだ紫藤!。なら、この「双子座」をここで食い止めてお縄に掛けるぞ!。」
流星「はいッ…!!。」
………………………………end。
亜耶を捉えるべく、2人の目の前に現れた「双子座」。
かつての仲間と刃を交える事に抵抗は無い。
全ては…彼女を守るため。
次回
第53話 信頼。