その目的は、神の声を聞くことが出来る少女。
迷いは無い。彼女を…守る為なら――――。
亜耶を捕まえるべく、シズクと流星の前に現れた「双子座」。
その内の一人は、元防人の「高崎 美咲」。
かつての仲間が強敵として立ちはだかるが、最早関係ない。
その狙いが亜耶というのなら、たとえ苦楽を共にした仲間であれども全力で立ち向かう。
そう………俺達に、迷いは無い―――。
――――――――――――――。
状況は2対2。
「双子座」は2人居てからこそその真価を発揮する。
得物は剣と銃…まさに、表裏一体だ。
これまで対峙して来た"使徒"とは違うスタイルのこの強敵に、シズクと流星は思考を巡らせる。
その中でも、シズクは表人格である「しずく」と意識を共有している。
戦闘に参加出来ない表人格の彼女が「目」となって、シズクをサポートしているという。
いつの間にそんなことが出来るようになったのかは分からないが、あの回避技術は常人では成しえない動きだ。
だからこそ、その動きにどう付いて行けば良いのか…流星は考え込む。
だがその時…脳裏に"声"が響いた。
(紫藤。)
流星「…えッ…?。」
ふと、シズクを見る。
彼女はこちらを見つめていた。
もしかして、この声は………。
(びっくりした?。『シズク』の目を見て。"私"だよ。)
流星(…山伏先輩…?。)
(ん。『シズク』の目を通して直接、紫藤の脳に語り掛けてるの。だから、私が見た"景色"を共有するね。)
流星(そんな事が可能なんですかっ!?。)
(うん。でも、人の心の動きを敏感に感じ取れる紫藤にしか出来ないけど…後は自分の能力次第。『シズク』にしっかりついてきてね。)
シズク「"共有"は問題無ェみてェだな。ついてこい、紫藤!!。」
爆発的な踏み込み速度で飛び出したシズク。
流星はなんとか続くが、やはり今までとは動きがまるで違う。
シズク(…オレは直情的だ。だから、周りが見えなくなることがある。でも、「しずく」が見てくれるならオレは……"全力"を出し切れる…!。)
――――――――――――。
―――それはある日、突然「しずく」から告げられたことだった。
シズク(…はぁっ!?。お互いの意識を"共有"するだぁ!?。)
しずく(うん。今のままではきっと、ダメだと思う。楠も弥勒も、そして紫藤も強くなってる。加賀城は守りに徹するタイプだけど、"私達"は違う…弥勒と同じ、「銃剣型」。だから、特筆したものがないと"使徒"には敵わない。)
シズク(何なら、"新生大赦"にお願いして楠と弥勒が持ってるような「強化装束」を貰えばいいんじゃねェか?。)
しずく(ダメ。それがあったとしても、力だけじゃどうにもならないことがある。)
しずくが告げた事は何となく分かる。
「獅子座」の事だ。あの異次元な強さを持つ強敵が居る以上、力を得たとしても根本的な勝負にもならないかもしれない。
それに加え、"黒百合"…峻輝の事もある。
蓋を開くと強敵だらけ……元々、こういった戦闘は想定などしていない。
だが、幸いにも候補生時代には「対人戦」も経験している…いや、寧ろ訓練はそうだったと言えるだろう。
"紅の勇者"を勝ち取るために全員が好敵手だったあの頃…あの時の経験が、この「人」と「人」との戦いにおける大きな役割を果たしている。
だが、経験だけではどうしても埋まらないものがある。
それは「才能」と「スペック」。
「才能」があれば、"力"という「スペック」を求めても有効に扱えるだろう。
しかし、その双方が無ければ何の意味もない…自分達にしかできないものは…"長所"は何なのか。
しずくはずっとそう考えていた。
戦闘に関しては『シズク』に任せっきりだ。人と接することが苦手な「自分」では、恐怖に押し負けて死に向かってしまうだろう。だが、自分達にだけしかない"特別"を考えると、その答えは「一つ」しか無い。
それは…"二重人格者"だという事。
それも、お互いに存在を認め合って、共存している間柄。
お互いの性格の事なんて、親以上に理解しあっている。
それこそが、自分達にしか無い"特別"を利用しようと提案した「しずく」の奇策だった。
しかし、『シズク』はその奇策に理解が出来ないでいた。
シズク(バカ言えよ、オレ達ゃあエスパーなんかじゃねェんだぞ?。確かにちっとばかし特殊ってだけで、んな事出来やしねェだろうが。)
しずく(きっと出来る。私は信じてるよ。)
シズク(はぁ?。んな勝手な… ―――)
―――――――――――。
シズク(…って思ってたけど、確かに「しずく」が教えてくれる…!。これは"オレ達"にしか出来ない事なんだ…!。)
飛び交う攻撃を読み切るかのように、皮一枚を切らせながら接近するシズク。その狙いは……美咲だ。
ジェミニ(美咲)「この…なんでいきなり…!?。」
シズク「ハッ!お前らと同じだよ!。双子なんだろ、心が通じ合ってるとかそっちが抜かしてたがオレらも同じなんだよッ!。」
鈍い金属音が響き渡り、互いの刃が拮抗する。
シズク「互いに信じてるから、オレは攻撃に転じることが出来るッ!。考えんのは「しずく」がやってくれる!。だからオレはその判断を信じて突っ込むだけだッ!。」
ギリギリと、火花を散らしながらの競り合いは徐々にシズクに軍配が上がり始める。
純粋に攻撃に転じてくるシズクの動きが読めず、遅れを取ってしまう美咲。
シズク(いつも「守ってやるんだ」ってばかり考えてたけど…いつの間にか、「しずく」も強くなってたんだな……そうさ、2年前まではオレが守ってやらなきゃいけなかったけど、今は違うッ!。「一緒に戦う」んだ!。オレ達は2人で一つ…ッ!。)
競り合いに打ち勝ち、強引に銃剣を振り抜くと美咲を弾き飛ばす。
胸元辺りを浅く斬られた美咲は歯を食いしばりながら後退。そこへ、美優がやってくる。
ジェミニ(美優)「大丈夫!?お姉ちゃん!?。」
ジェミニ(美咲)「…ええ。少し、削られただけ…何の問題も無い。」
剣を構えながら、美咲はシズクを見据える。
ジェミニ(美咲)(あんな芸当が出来たなんてね…正直、楠以外はそこまでと思ってたけど……"壱番隊"の防人は伊達じゃないって事か…。)
戸惑いはしたが、すぐに状況を見据える美咲。
焦りは無い…これでも、芽吹と一二を争った間柄だ。その実力は嘘ではない。
そして、2人にしか出来ない"念話"で会話し始めた。
ジェミニ(美咲)(美優。連携を変更よ。あの防人…山吹しずくは表と裏の人格意識を共有してる。故に、動きを予測してのパターンは通用しない。それどころか、こっちの予測を大きく上回ってくる動きをしてくる。)
ジェミニ(美優)(だったら、あっちの少年はどうする?。どっちかって言うとあっちの方が厄介じゃない?。)
ジェミニ(美咲)(確かに紫藤は厄介よ。彼、死線を潜るたびに強くなっている…それだけじゃないけど……。)
身構える流星を見ながら、こう思った。
ジェミニ(美咲)(…どうしてそこまで"心"が強いのか……力だけなら圧倒出来る。でも、あの精神力を剥き出しにされたらこっちが押されてしまう……私に足りなかったものでどうしても手に入れられなかったものを持ってるなんて…全く、羨ましいったりゃありゃしないわ。けどね……!。)
剣を握り締めて突撃。
その狙いは、流星だった。
流星(来るっ…!。)
(紫藤、右の打ち込みッ!。高崎にはその癖があるッ!。)
流星の頭の中に響くしずくの声。
それに呼応するように、流星は右から来る攻撃を両手のトンファーで防ぎ切る。
だが、それでもその打ち込みは強く、そのまま弾き飛ばされて壁に叩き付けられる。
シズク「紫藤ッ!。」
流星「大丈夫ですッ!。」
そう言って、飛び出した流星。
事前に「しずく」から伝えられた情報のおかげでガードが間に合い、激突のダメージだけで済んでいた。そして、トンファーを振り回して美咲の剣を弾く。
ジェミニ(美咲)「ちっ…紫藤…ッ!。」
流星「あの時、背中を刺したお返しですよ…ッ!。」
態勢が崩れた美咲に1発の蹴りを繰り出してそのまま弾き飛ばした。
吹き飛びながら空中で態勢を立てなおし、その脇から美優が銃撃を放ってくる。
シズク「そう来ると思ったよ!!。」
飛んでくる邪気弾を横から撃ち抜き、「双子座」の連携を崩すように妨害していく。
互いに大きなダメージを与えられないまま、戦いは続くがシズクと流星は2人を退けることが目的だ。
故に、撃退出来ればそれでいい。しかし、「双子座」は亜耶が狙いだ。この消耗戦は望んではいない。
だから、どこかで勝負に出てくるだろう。
でも、急げばこちらがやられる…連携を想定した戦闘は、互いの"信頼"に左右される。
これは、駆け引きだ。手を間違えるな、確実に勝てる手を打つために。
(シズク、紫藤。向こうは至って冷静だと思う。こっちが有利だけど、まだ油断は出来ない。)
シズク(分かってるよ。高崎は執念深い…諦めが悪いところがコイツの強さだからな。)
目配せし、シズクは流星に前に出るように促す。
それを理解した流星はコクリと頷いて。
流星「亜耶の元へは行かせはしないッ!。」
光を帯びたトンファーの一撃を振るうと、蒼い光の波動が放たれた。
ジェミニ(美優)「こ…これは…!?。」
美優は「本能的」にその波動を避ける。
「受けてはいけない」…そんな気がした美優は勿論、"使徒"となった美咲もこの光を毛嫌うかのように回避行動に移る。
ジェミニ(美優)「あの光…何ッ!?。」
ジェミニ(美咲)(…何となくだけど、"神樹様"を感じた…私達のこの力は"バーテックス"のもの…だからなのか、相反するその力に嫌気が差すのは…!。)
そう感じつつも、美咲は飛び出して剣を振るう。
そして、「速度」が一気に増した。
シズク「な…ッ!?。」
(多分、元になったバーテックス…「ジェミニ」の能力だと思う…訓練生時代に、粗方教わったから…。)
視認も難しい程の速度。美優も同様にその速度で取り囲むかのように邪気弾を放ち続ける。
四方八方から飛んでくる弾丸と一点突破を仕掛けてくる剣…これが、「双子座」の連携だった。
「ジェミニ・バーテックス」は純粋な戦闘能力は無い…だが、その「速度」は常軌を逸した能力で、この速さを生かした連携がこの2人の真価とも言える。
"双子"ならではの阿吽の呼吸とも言える動きに、これまで優勢だったのが簡単にひっくり返されそうになる。
だが…――。
シズク「――――見えてんだよッ!。」
銃撃の合間に割って入った美咲の腕を掴むシズク。
ジェミニ(美咲)「なっ…!?。」
シズク「本命はテメェだろ!?。「しずく」が教えてくれるんだ…銃撃は全部体を掠めて行くってな!。」
握り拳を作るシズク。
そして、様々な思いを乗せたその拳の一撃が、頬を貫いた。
ジェミニ(美咲)「がはっ…!?。」
ジェミニ(美優)「お姉ちゃん!。」
シズク「テメェがどんな思いで人生を過ごしてきて、その力に手を染めたかなんて知ったこっちゃねェけどな…国土を狙うなら覚悟しろよ。」
眉間に銃口を突き付ける。
その目は怒りと共に、かつての仲間に対しての"哀しみ"も含まれていた。
シズク「この弾をお前の脳天にぶち込んでやる。その選択をしたんだ、オレも覚悟を決めてるぜ。」
ジェミニ(美咲)「っ…山伏…次は負けない…!!。」
2人は状況の悪化を判断して撤退。ひとまず、脅威は過ぎ去った。
シズク「クソッ!。」
抑えられない感情からか、瓦礫を蹴り飛ばすシズク。
それを見た流星は声をかけようにも言葉が出てこない。
…本当はキチンと話し合いたかった。
2年前のあの場所へ共に赴いたわけではなく、新たな時代へと向かったこの体制から入ったメンバーだったが、それでも厳しい訓練を共に過ごしてきた"戦友"でもあった。
だから、悲しいというよりは悔しい…そんな気持ちが、彼女の中で混濁していた。
――でも、そんな『彼女』の気持ちを理解しているのは勿論。
(――大丈夫、次はちゃんと話そう。)
シズク「――ああ。」
――――誰よりも、お互いを理解しあっている「相棒」だった。
………………………end。
"双子座"の連携を前に、互いの意識を共有しあったシズクの活躍によってなんとかやり過ごせた。
しかし、事は悠長に構ってはいられない。
"十二星座の使徒"の狙いが亜耶へと変わった。
この事実を以って、園子は決断する。
だがその時、彼女の前に最悪の相手が現れる…――。
次回
第54話 猛毒の牙。