紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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いつも明るかったのに、その裏の顔は知らなかった。
彼の抱えている事情を知らなかった。

だから、理解したい。そして…止めたい。

世界から"忘れられない"ようにするために。


第56話 貴方が"泣いている"から。

ここ最近、みんなの様子が少し変だ。

私を1人にしないよう、毎日誰かが付き添いで家まで送ってくれる。

一緒に帰れるのはとても嬉しいからあまり気にしないようにしていたけど、どちらかと言うと防人のみんなが気を張っているようで心配になる。

 

特に、リュウ君はずっと考え込んでいる気がする。訓練メニューをより厳しくしたのか、生傷が絶えない。声をかけるも、優しい笑みを向けていつも「大丈夫、強くなれる気がして嬉しい」としか言わない。

でも、何となくだけど分かる。

 

きっと、私が原因なのだと。

私の日常が崩れないようにみんなが守ってくれているんだと。けど、そうじゃないんだよ?。

 

私はみんなのように戦うことが出来ないし、何もできない。

けど、みんなと同じように苦しみも分かち合いたい。守られるだけじゃ嫌なんだ。

私の持つこの力が成熟しつつあるのだろう…教団が本格的に私を捕らえに動き出したんだと思う。

 

――ちゃんと、覚悟はしている。

だから……私は守ってくれるみんなを支える為に力になりたい。

 

―――そう、言いたいけど、どこか遠慮してしまう自分がいる。

言ったところでどうすればいいか分からないから。だから、考えてみようと思う。

 

私自身が出せる最善の答えを――――。

 

 

………………………………………。

 

亜耶「…"巫女"は勇者様に寄り添うもの…そう、教えられて来たからこれまで通り、祝詞を唱えて御加護を与えるのがいいのかもしれないけど……。」

 

…今回ばかりは、これまでとは違う。

死地に向かう防人達の安否を願い、自分は寄り添うことに専念していた。けど、今はその自分が狙われている。

この力……"神託"を受けられる唯一の巫女であるから。

2年前までは、一際強い霊力を持つ巫女が"神託"を聞くことが出来た。だから、特異ではあるもののそれほど珍しいことでは無かった。

 

"巫女"は大きく分けて二種類ある。

一つ目は、祝詞を唱えて神の御加護を勇者に与える力。それは、神官クラスの人間でも出来るごく一般的な力だ。

そして二つ目は、"神託"が下る巫女。

 

こっちは、少し特異だ。

大袈裟に言えば、未来予知とも言えるだろう。「これから起こりうる事象」のイメージ・詳細が頭の中に入り込む現象…当時の神樹様からのお伝えであり、それは信仰心とより強い霊力を持つ巫女が受けられる特別な能力。

 

神様の力は人々の"信仰"が強ければ強いほど、強大となっていく。

特に、神樹様は302年前の旧世界…かつて「日本」と呼ばれたこの島国に宿る各地の土地神様達が集まった集合体だった。

 

旧世界の崩壊前、「日本」と呼ばれたこの場所は八百万の神々が集まる特異な島だったと言われている。

 

どの地方、土地にも神様が座しており人々に恵みと安寧をもたらしたと言う史実が残っている。神樹様が巨大な大樹の姿をしていたのも、恵みの象徴たる「豊穣」を意味していたのだろう。あの時、自分もその一部となるために人を捨てて神の一部になろうと考えていた。

それが、使命だと思ったからだ。勇者に寄り添い、そして神の為にこの身を捧げて肉体を捨て、"眷属"としてその一部になる事が当たり前だと思っていた。

だが、防人達…芽吹先輩がそれを否定した。

そして、私は本音を初めて出した。

 

「生きたい」と。

 

――そう、願ったからこそ今がある。

そしてどう言うわけか、あの頃の私には無かった"神託"を受けられる力が今になって備わった。もう、この世界に神様なんていないはずなのに。

 

この時代における唯一無二の巫女になってしまった私。

この力が災いを呼び寄せていることは事実だ。でも、この力が悪いものではない事はよく知っている。それを利用しようとする人達が悪いのだ。だからこの力を巡って今、大きな災いが起ころうとしている。

そして、その渦中にいるのが私であり、その中心点に居るのも私。

 

"私"という存在が、この世界に混乱を招いている…そう考えると胸が苦しくなってくる。もし、あの時私が芽吹先輩に「生きたい」と言わなければ…あの時、他の神官の方達と同じく「小麦の穂」へと変わっていたら……"私"が存在しなければ………っと、後ろ向きな事だって考えてしまう。

 

こんな事はダメだって分かっていても、"私"を巡って起きているこの災いの事を考えると「消えてしまった方がいいのかも」なんて思ってしまう。

 

この答えはきっと、自分で見つけないといけないことだ。これだけは、自分にしか出来ないこと……リュウ君だって覚悟を決めたんだ。私だって。

 

――そう、自分を奮い立たせるように毎日こう考えてしまう。後ろ向きな事と前向きな事を。もう、ぐちゃぐちゃになりそうだけど負けちゃいけないんだ。

 

なんとか気持ちを落ち着かせ、いつもの神社に行くとそこには「彼」がいた。

 

 

亜耶「……三上…君…?。」

 

…三上 峻輝。リュウ君の大切なお友達。

私も良く知ってる、転校してからよくしてくれたから。

リュウ君と毎日一緒にいた人…彼にとってかけがえの無い人。

夏前に教団が起こした第二の大きな事件「讃州市襲撃」で亡くなったと思われてた人…そして。

 

――黒衣の戦闘者「黒百合」の正体だった人。

 

私の声を聞いたからか、それとも分かっていたのか、彼は振り向いた。

 

峻輝「亜耶ちゃん。」

 

…敵意は無い。だけど、学校で会っていた時とは全く違う瞳。

その瞳の奥に感じるのは"覚悟"と……"怒り"。

…だけど、ようやく彼とお話しすることが出来そうだ。そう思った私は恐れずに歩み寄る。彼もまた、引き下がろうとしない。

 

亜耶「…三上君…どうしてここに…?。」

 

その質問に、峻輝は本殿を見る。

 

峻輝「時々、ここに来てたんだよ。ここは…父さんと母さんがよく連れて来てくれた場所だからな。俺にとっても思い出深い……まぁ、今は頻繁には来ねェようになったけどな。この間、ここで結城友奈とドンパチやって以来だ。」

 

亜耶「三上君…その……。」

 

峻輝「言いてェ事は分かるよ。"この間"の事…だろ?。あん時は俺も頭に血が登っちまってたからな…今は激情に駆られたりしてねェ。安心しなよ、俺一人だし亜耶ちゃんに手を出すほど落ちぶれちゃいねェ。亜耶ちゃんこそ、悩みを抱えてここに来たんだろ?。何となく、分かる。」

 

そう言う彼に、私は少しばかり安心感を覚えた。

そして、境内に設けられた休憩スペースに並んで座る。

夏は終わり、秋の夕暮れは何処か寂しさすらも感じさせるがこの感じが逆に気分を落ち着かせる。だから、冷静にお話が出来そうだと思う。

 

亜耶「…三上君、本気なの…その…「世界を壊す」って。」

 

それを聞いた彼の顔からは…より、"覚悟“が伝わってきた。

 

峻輝「――ああ、本気だ。」

 

亜耶「どうして…ッ!。」

 

峻輝「言ったろ、俺はこの世界の真実を知った。そして、同じく真実を知った俺の両親は世界から見放され、「異端者」としてあの地獄の世界にその身を放り投げられた。それどころか、旧大赦は存在自体を"抹消"しやがったんだ。社会的にも消され、尊厳も全て…無かったことにされて。」

 

静かに拳を握り締める彼は小刻みに震え、歯を食いしばる。

 

峻輝「…確かに、やり方は褒められたもんじゃねェ。「反大赦団体」なんていう、クソ迷惑行為を繰り返していた集団に混じって訴えていたことはな。けど、それは"手段"だった。1人でも多くの人に世界の真実を知ってもらおうと、必死になって考えた答えだったんだ。命運を分けたあの事件「上里家襲撃事件」に参加したのだってそうだ。本当は…上里家当主に真実を認めさせるために参加したんだって。けど…全部は悪い方向に行っちまった。」

 

…これまではずっと否定し続けてきた両親。

だが、真実を知った今なら分かる。ずっと、嘘で塗り固められたこの世界の事…本当は、平和なんて何もない仮初のものだった事。決して逆らうことの出来ない巨大な"存在"の掌の上で生かされて来たこと。

 

そう、この世界に「自由」なんてものが無い事が。

 

峻輝「…全部知っちまってから後悔したんだよ俺は。正しい事を訴えてきた両親の事を、見捨てた奴らと同じように馬鹿げた奴らだってそう思い込んで。なぁ亜耶ちゃん…どうしてこの世界は「正直者」が馬鹿を見るんだ?。色々と調べたんだよ…"真っ暗"だった。2年前までのこの世界は。」

 

亜耶「それは……。」

 

………何も、言い返せない。

彼の訴えている事は何も間違っちゃいない。そう、自分達だって騙されてきたし、「騙す側」でもあった。

きっと、世界の安寧のために秘匿し続けて来た事なのだろう。

だがこの世界の本当の姿は常に"滅び"と隣り合わせで生きてきた世界だった。そして、その為に人知しれずに傷付き、犠牲になる"勇者"の事だって。

 

…彼また、この世界の「犠牲者」だったのだ。

世界の安寧のために"嘘"というものの上で生きてきた何も知らなかった人間…だったのだ。

 

峻輝「……勇者達だって、何も知らずに戦わされて来たんだろ。けど、真実を知って何でそれを許せるんだって俺は思った。俺は許さねェ、このクソッタレな世界を…だから、ぶっ壊すって決めたんだ。」

 

並ならぬ決意。

それを感じた亜耶は言葉が全く出さないでいた。

でも…この後に続けた"一言"が、彼の"心内“を少しでも感じ取れるものだった。

 

峻輝「…流星や亜耶ちゃん、学校での生活は本当に大事なものだった。それだけは変わらねェ。俺を拾ってくれた叔父さん達も…けど、"神様"なんていう、人間に対して平等じゃねェ存在に踊らされて生きてんだよみんな…俺の大事な人達だって騙されてきたんだよ…そんなの…不条理じゃねぇか。」

 

亜耶「でも…その大事な時間を全て投げ打ってまで、貴方が必要悪になるなんてそんなの…それこそおかしいです…!。」

 

峻輝「…決めたことなんだ、亜耶ちゃん。俺の大事な時間は多くのものを運んでくれた。大事な親友に出会えたのも、そして……君を好きになったことも。」

 

亜耶「……えっ……。」

 

峻輝「その全部をこの世界の"嘘"に潰されてたまるか。だから壊す、そして…正直者が泣かねェ世界にするんだ!。だから、一度全部消さなくちゃいけねェんだよ!。」

 

亜耶「ダメ…ダメだよ!。そんな事をすれば今度は貴方に全ての矛先が向けられる!貴方自身の幸せが無くなっちゃう!。」

 

峻輝の手を取って必死に訴えかける亜耶。

その瞳は…か弱い少女のものではなかった。

 

亜耶「この世界は確かに"嘘"ばかりでした…途方も無い時間で吐き続けた"嘘"の世界でした…でも、それはもう終わりました…2年前にもう…今は"変革"の時なんです…きっと…きっと、宗主様が成し遂げてくれます!。その"嘘"の犠牲者の1人だったあの人が必ず!。」

 

峻輝「……もう、遅ェんだよ。例え今変わったとしても、これまでその"嘘"に泣かされて来た奴はどうなる?。俺の父さんと母さんの魂は…何処に行くっていうんだ…世界から消された時点でもう誰の心にも残って無ェんだよ!。いいか、人が本当に"死ぬ"のは誰からも覚えてもらえなかった時だ!。肉体が死んでも、魂が生きるのは誰かの心の中にソイツが居たっていう事実を覚えてもらえた時なんだよ!。存在そのものを消された奴は魂も死んじまってる!この"大葉刈"の持ち主だった奴と同じように!。」

 

亜耶「それでも…!。」

 

立ち上がって、亜耶は峻輝の服を両手で掴んで握り締める。

涙目になりながらも、その心内を全て吐き出すように。

 

亜耶「人を"信じる"事が出来なくなれば、貴方の魂だって"死んでしまう"事になるッ!。その道を辿っちゃダメなんだよ!。」

 

峻輝「いいさッ!。それで馬鹿どもが目を覚ますのなら全然いいさッ!そして、成し遂げた後は俺も……ッ!。」

 

亜耶「そんな事、言わないでッ!。」

 

峻輝「ッ…!?。」

 

亜耶「…三上君こそ、嘘吐きです…貴方は…ご両親と同じ道を辿るって言うんですか……そのご両親の事を唯一、ちゃんと心の中に留めている貴方が同じ道を辿って、世界から"消える"って言うんですか……私はもうこれ以上、大事な人が居なくなるのは嫌です…リュウ君ともう一度、楽しそうにしている貴方が見たいんです…今の貴方はずっと"泣いている"…怒りと後悔の中で、こうするしかないって思い込んでずっと"泣いている"ッ!。」

 

その言葉に今度は峻輝が。

――何も、言い返せなかった。

 

そして、ゆっくりと立ち上がり、踵を返すと。

 

峻輝「………さようなら、亜耶ちゃん。気持ちをちゃんと伝えられて良かった。けど、君が見ているのは…"俺"じゃねェ。そう、見ているのは……"アイツ"だ。伝えてくれ、今度会う時は敵同士。言葉も道理もいらねェ、死ぬ気で来い…っと。」

 

 

そう言って、峻輝は境内から姿を消す。

その後ろ姿を亜耶はじっと見つめる事しか出来なかった。

だが、彼女は……泣かなかった。

何故なら…"答え"を見つけたから。

 

 

…私は戦えないちっぽけな人間。人より少し違う"特別"なものを持ってるだけであって、何も無い人間…迷惑ばかりかける人間。けど、私は……。

「寄り添うもの」として、人の心に寄り添っていきたい。

そんな大きな人間になって…みんなを支えて乗り越えていくんだ。

 

 

この…自分自身の"問題"から逃げずに――――。

 

 

……………………………end。




"心に寄り添う大きな人間になる"。

それこそが彼女が見つけた答えであり、自分を守るために戦う仲間達の事を想う答えでもあった。
そしてそれは…彼も対象であって。

その頃、芽吹もまた困惑していた。

自分に芽生えた「ある感情」に。

次回
第57話 想い。
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