紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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出会ってからまだ半年足らず。
最初は、被害者ぶって何もかも後ろ向きにしか考えられない彼が気に食わなかった。

けど…不安の中で必死に足掻く彼を見て私は放っておけなかった。

…いつしか、私が"ああなりたい"と思った理想像……。

私は……彼を……。


第57話 想い。

………。

ここ最近、ずっとしかめっ面をしている気がする。

勿論、シズクから聞かされた「双子座」の襲撃と教団が亜耶を捕える為に動き出した事が起因だ。

気の抜けない毎日に集中していると、他の子達が怖がり始めた。

 

…別に、怒っていないというのに…。

「そうじゃない」と言いたいが、何故か先にその言葉が出てくる。

ダメだ、こんな事じゃ他のみんなに示しがつかない。

そう、ここの所、私は何故か…。

 

 

『不調』である。

 

 

………………………………………。

 

雀「あれ、メブは?。」

 

寮の広間にみかんを頬張りながらやってくる雀。

"壱番隊"の面々はそこにいるのに、芽吹だけが居ない。

すると、夕海子は「またか」と言わんばかりに深い溜息を吐いて。

 

夕海子「先に休むと仰られてましたわよ。もう、これで何人目ですの…あの人だって、完璧超人じゃありませんからそう珍しくもないでしょうに。」

 

しずく「ん……でも、ここ最近は毎日そうだよ。」

 

夕海子「ぐっ…確かに言われてみれば……。」

 

学校終わりにいつもなら訓練に打ち込むはずなのに、ここ最近は何故か戻って来てはすぐに自室に戻る。

中間テストが近いというのもあるが、いつもなら両立している手際の良さがここ最近、見られない。

というのも、流星と峻輝がぶつかり合ってからこんな調子だった。

 

――死んだと思われていた親友が敵となって現れた。

 

この事実から、戦闘後は精神が不安定な状態が続いていた流星。

強大な力の代償で高熱を出して倒れた時に何度かその看病で訪れていたがそれだけは話題に出せなかったし、どこか無理して笑っていたところがあった。

 

今回ばかりは、流石に踏み込めなかった…というよりも、掛けてやれる言葉が何一つ出て来なかったと言うのが正しい。

別の話題で気を逸らしてやれる事しか出来ずに、彼はいつの間にかその状況を自らの意思で飲み込み、前を向いていた。

 

少し前、自分が"力"で思い悩んでいた時に奮い立たせてくれたというのに、こういう時には何も出来なかったもどかしさを引きずっていたのだ。力なら幾らでも手を貸せる。だが、心となると……どうしていいのかが全く分からない。ましてや、相手は異性だ。亜耶の時のようにはいかないだろう。それに、状況が全く違う。彼にまた"大きな壁"が立ちはだかってしまっている。

 

そこに、教団が亜耶を捕まえる為に動き出したということもある。

 

部屋に戻った芽吹は制服を床に投げたままそのままベッドに横になる。

…考える事が多過ぎて、疲れるな……。

 

そう、思っているといつの間にか眠ってしまっていた。

 

………………………

……………………………

 

「な…何で俺が行かなきゃいけないんですかッ!?。」

 

「いいからいいから!。お風呂の時間だし、今日の掃除当番はメブなんだよ!。機嫌悪いと怒られちゃうから、流星が行けばきっと大丈夫だって!。」

 

立ち寄った流星は雀に連れられて芽吹の自室の前にまで連れて来られる。

…帰ればよかった。

そう感じつつも、雀の押しに負けた流星は芽吹の部屋の前にまでやってくる。

返事が無かったと適当に嘘を吐いて逃げよう…そう思うも、壁の後ろには雀が隠れてこっちを見ていた。

 

…怒られるなら、俺も同じじゃないか?。

つまり、身代わりにされたのか……そう思いながらも一度引き受けた事だ、無碍には出来ない。

そして、部屋の扉をノックする。

 

流星「芽吹さん?。風呂の時間だそうですよ、後は芽吹さんだけみたいですけど…それに、ご飯もまだ食べてないんでしょう?。芽吹さ〜ん?。」

 

………全く返事が無い。何度か呼びかけるも、返事が無い。

まさか…倒れているのか?。

そう心配になる流星は、ドアノブに手を掛けるとゆっくりと開いた。

 

流星「芽吹さん!?。大丈夫ですかッ!?何処か体調が悪いんですかッ!?。」

 

部屋に入って声を上げる流星。すると、眠っていた芽吹はその声で目を覚ました。

 

芽吹「…うるさい…誰、何勝手に私の部屋に入って…ああ…寝ちゃってたのか私…ごめんなさい、手間かけさせたわね…。」

 

身体を起こし、照明のリモコンを取って明かりをつけた芽吹。

 

流星「良かった。ただ眠って…いた……だ……け…。」

 

…段々と、血の気が引いていく流星。

声が小さくなる流星に、芽吹は視界が回復しないままにその状況に疑問を抱く。

 

芽吹「何、急に黙り込んで。すぐに行くわ、だから………。」

 

視界が徐々に回復する。

映り込んだのは固まる流星。

そして……自分の"状況"にようやく気が付いた。

 

芽吹「!?!?!?。」

 

流星「えっと…その……俺、帰り………。」

 

芽吹「ッ〜〜〜〜〜〜!!!。」

 

ドゴンっと、鈍い音が響く。

鉄拳制裁。当たり前だろう、年頃の少女の部屋に勝手に入っただけではなく、「無防備な"姿"」を見れらたのだから。

 

……………………………。

 

流星「………その、怒ってます…?。」

 

あのまま帰ることも出来ずに、風呂掃除を手伝う流星の頬は大きく腫れていた。いくら女性もいえども、芽吹から貰った鉄拳は並の男性の比じゃない。

 

ジャージ姿の芽吹は湯船を洗いながらこっちを見ようともしない。

 

芽吹「…怒ってないわ。」

 

流星(いや、絶対に嘘だ…あの感じ、滅茶苦茶機嫌が悪い…でも仕方ないか…心配とはいえ、勝手に入った俺が悪いんだし……。)

 

そう思いながらも、せめてもの罪滅ぼしで掃除を手伝う流星。

そんな流星を見かねたのか、芽吹は言葉を発する。

 

芽吹「…もういいわよ、本当に怒ってないから。夜も遅いし、帰りなさい?。」

 

流星「いえ、そう言うわけにはいきませんよ。ここまで掃除したんだ、最後まで手伝います。」

 

そう言って腕を捲る流星。

腕にはいくつかの傷がある…誰かに手解きを頼んだのか、それとも教団と戦ったのか…痛々しいが特に気にしている様子もない。そんな彼を見て、少しだけ心が痛んだ。

 

芽吹「……ごめんなさい。」

 

流星「え、何で謝るんです?。悪いのは俺で…。」

 

芽吹「違うわ、その事じゃない。"この間"の事よ。」

 

"この間"。

その意味を理解したのか、掃除の手を止める。

 

芽吹「…大事な友達と敵対することになってしまった事…どうして、貴方ばかりがそんな目に遭わなければいけないのかって、ずっと考えていた。」

 

流星「芽吹さん……。」

 

芽吹「貴方は"特別"を誰よりも嫌う…なのに、いつもそんな"理由"ばかりが貴方に付き纏う…それなのに、私は何もしてやれない…声を掛けてやれない…そして今も、どうしていいのかが分からない。」

 

自分の手を見る芽吹。

自分が支えられるのは「力」のみ。しかし、今の彼に本当に必要な支えは「心」だ。今は平静を保っているが、立ちはだかるその大きな壁に立ち向かおうとがむしゃらになっているのは見ていて分かる。

ぶつかる事で答えを探そうとしている。たった1人で。

 

仲間だから…じゃない。「個」として、気になる。

こんな事、考えた事もなかった。自分はおかしくなってしまったのか?。心配以上に別の「何か」が込み上げてくる。

心が切なくなってくる…どうしたと言うのか、こんな感情…全然知らない。

 

そんな状態を見破られたのか、彼は真剣に向き合ってきた。

 

流星「何も出来ないなんて、そんな事はありません。確かに、問題は山積みです、一つずつ解決していく暇なんて無いのかもしれない。けど…。」

 

自分の手を見る流星。

そして、グッと拳を握り締めて。

 

流星「俺は1人じゃない。そう思うと、何故か頑張れるんです。」

 

芽吹「でもそれはただの……。」

 

流星「ええ、ただの虚勢でしょうね。だけど、そう思う事で俺は前へと進める気がするんです。だからと言って、進展するとは限りませんが……それでも、この気持ちのままぶつかりたいんです、目の前の壁に。そう…俺達は"勇者"なんですから。」

 

その目はずっと強くて、最初に出会った頃とは全然違った。

…もう、後ろをついてくるだけじゃないんだな。今は隣に立って一緒に戦う事が出来る。

 

女性と男性の差だ、いつかは追い抜かれる。

そう思いながらも、最も目を掛けた後輩がここまで強くなったことに嬉しくなる。だが、それと同時に「複雑」な思いも抱いて。

 

――――それから、彼は帰っていった。

時間はもう21時を過ぎようとしている。流石に、中学生1人をこの時間に帰すわけにはいかないと思い、退勤する久遠に送迎を頼んだ。

夜はすっかりと冷え込み、秋らしさもようやく現れたその夜空は何処か静けさを感じさせる。少しだけ、気分が晴れた気がする。

 

…何も出来なかった事を悔いていたが、取り越し苦労だったようだ。彼はちゃんと乗り越えて前に進んでいる。目の前の問題にちゃんと向き合って、良くしようといつものように足掻く。

その足掻きがどこか頼り甲斐があり、そして……尊敬する。

 

胸に手を当てると、僅かながらに鼓動が早くなる。もっと、沢山話したかったな…気が沈んでいたせいか、余計とそう感じる。

 

……?。

何だろう、どうしてこう思ってしまったのか。

さっきからずっと、切なさを感じてしまう。話している時間がここ最近で一番楽しかった。先輩と後輩と言う立場の中で、遠慮せずに本音で話し合えた。

そんな気持ちを抱えたまま、寮に戻ると他のみんながまだ起きていた。

 

特に雀。少しだけ柔らかくなった自分の表情を見て安心したのか、いつものように接してくる。

 

雀「なんか、気分が落ち着いた顔をしてるね?。」

 

芽吹「そう?。まぁ…そうかもしれないわね。少し、気を張りすぎていたみたい。ごめん、みんなには心配かけたわね。別にどうってことないわ。」

 

夕海子「全く、水臭いですわよ。彼は仲間、心配するなら分かち合うべきです。貴女一人で悩んでどうするんですか。でも、心配要りませんわ。いつの間にか、置いていかれてしまうくらいにまで彼は強くなりましたから。多少の事では折れたりしません。過保護はそこまでしておきなさいな。」

 

芽吹「か…過保護って…!。」

 

しずく「紫藤は大丈夫。自分のやるべきことをちゃんと分かってるから。もう、後ろをついてくるだけの後輩じゃない。」

 

芽吹「……ええ、分かってるわ。」

 

そう言って、椅子に座る芽吹。

自分の手を見ると、先ほどまで無意識に力が入っていた拳が解けていた。

 

芽吹(…だから、守りたい。失いたくない、泥臭く足掻く彼を…ちゃんと……。)

 

 

…ああ、少し分かった気がする。

このよく分からない"感情"が。

ずっと、奥底に潜んでいたのかもしれない。「後輩」であり、「部下」である事にずっと、過保護になってしまっていたのかもしれない。

けど、"違った"。あの時、自分を励ましてくれた時から、名前で呼び合うようになった時から、どんな困難でも乗り越えようと必死に足掻く姿を見た時から、その姿をいつかそうなりたいと描いていた理想像を思い出した時から私は…。

 

彼を…紫藤流星という1人の男の子を。

 

 

――――"好き"になっていた。

 

 

………………………end。

 

 

 




生真面目すぎて、疎遠だと思っていたその感情を抱いた芽吹。
その想いに気付いた時、彼女はもっと強くなる。

――だが、混沌は加速する。

これまでにない…"怪物"の出現によって。

次回
第58話 "悪魔"繚乱――。
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