紫藤流星は"勇者"になる。   作:やままん

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これが…"神"…?。

―――――――――――

全員、気を引き締めろ!これは…


――四国の存亡を賭けた一戦だ!!。


第58話 "悪魔"繚乱――。

10月。

バタついた夏が終わり、少し落ち着きを取り戻した9月も、反旗を翻した『三神官』によって発足された亜耶の拿捕で動き出した"使徒"との戦いに明け暮れた月となった。

休息はまるで訪れないが、"邪神教団"との戦いは激化を辿る一方だった。

その中でも、妹に勧誘されて『双子座』の片割れとなった「高崎美咲」、数年前の「上里家襲撃事件」で悲劇を生んだ張本人『蠍座』の襲来といった新たな敵の出現が大きな動きとも言えるだろう。

 

その本質はやはり、亜耶を確保するために動かれていた事。物事は彼女を中心に動き出している…という事は、彼らが悲願を果たすためにここから更なる動きを見せてくるはず。

 

そう、予測して"新生大赦"は備える。きっと、大きな事件がまた起こると予測して。

当の本人に"神託"は降りていない…だが、『厄災』すぐそこにまで迫って来ている。

 

これは…誰も知りえない事だ。

 

 

――――――――――――――。

 

 

風「それで、どう説明してくれるの?。」

 

園子と一対一で対話する風。園子は先日の『蠍座』との激戦による傷がまだ完全に癒えておらず、所々に包帯が巻かれている様子が伺える。

話の内容はこの事だった。

あの後、園子は戦闘の影響で壊れたスマホを片手に誰にも言わずにそのまま帰路についていた。しかし、アルバイト帰りの風に見つかり、今こうして問い詰められている。

まぁ、あれだけの怪我をして所々に血が滲んだ姿を見られたのだ。言い訳の余地も無い。

とりあえず、彼女の家で手当てを受けてから後日、話をすることになった。

 

そして今、もう一度彼女の家でこうして尋問を受けている。

 

風「あたしが言いたいのはね、乃木。どうして"この事"を黙っていたのか…よ。」

 

机に置かれた端末…そこには「疑似勇者外装"零式"」が搭載されていた。

 

園子「…また戦いに巻き込んだのは私だから…せめて、自分も不測の事態に備えて動ける準備をしなきゃと思ったから…かな。」

 

えへへと、苦い笑みを浮かべる園子。しかし、真剣な眼差しで向き合ってくる風の圧に押されて徐々に笑みが曇っていく。

そんな彼女を見かねてか、深い溜息をついて。

 

風「そんなことだろうと思ったわ。最初にこの『システム』の話を受けた時、あんたは何処か本質を隠している気がした。もしあたし達が断ってたら自分が動く気だったってことでしょ。」

 

その言葉に、ぐうの音も出ないと言った表情で。

 

園子「あちゃ~…見抜かれてたかぁ…。」

 

風「あたしを誰だと思ってんの、あんたがいくら頭が良くても後輩の考えぐらい看破出来るわよ。」

 

園子「う~ん…まだまだ詰めが甘かったね~…。」

 

風「はぐらかさないの。乃木、あたし達は自分の意思でこれを受け取ったの。あんたはあたし達よりも過酷な道を選んだ…けどね、みんな幸せにならなきゃ意味が無いの。少しは手伝わせなさいよ、その業をあんたが全部抱えるのは間違ってるわよ。」

 

園子「…分かった。ありがとね。」

 

少し肩の荷が下りたのか、出されたお茶を飲んではリラックスした表情を見せる。

この歳で、世界の動向を左右する決定権を担っているのだ。その重圧は凄まじく、ましてや頭の良い大人達を相手取らなきゃいけない。

その苦労を考えると、これ以上の言及は野暮ってものだ。

 

風「…それで、状況はどうなの。あまり芳しくない感じ?。」

 

園子「正直言うとね、手詰まり状態かな。亜耶ちゃんの身柄を守るのに必死。相手は尻尾も見せて来ない所か、牙を向けてくる時は必ず噛みつかれる。それに、一つ情報を得たんよね。」

 

園子は先日、収監してされている『蟹座』と対話した。

そして、そこで得られた情報を風に話す。

 

――――――――――。

 

園子「……"人造神計画"?。」

 

キャンサー「うむ。国土亜耶を捕らえられなかった時の第二プランとして、そのような計画が用意されていると聞いた。」

 

 

流星と亜耶との対話以降、『蟹座』は考えていた。

果たして、この"理念"事態が正しいものなのかと。

彼は"使徒"になる前は一介の警察だった。自分の掲げる正義を信じて業務に励んでいたがある日を境に世界の真実を知った。そこからは、世界に対しての不信感を募らせていた。

偽りの平和を与えられ、偽りの歴史を伝えられてきた。

そして、"正義"について考えることがあった。

果たして、"嘘"で塗り固められてきたこの世界に自分が信じる"正義"を行使する価値があるのかと。

 

改革…その為なら一定の犠牲は仕方がない。これは、世界の歴史が証明している。

だから、"邪神教団"の使徒としてその改革の為に手を汚すことを決めた。

だが、事実を知っても意思を強く持った若者の言葉を受けてもう一度、考え直すことにした。

そして、『三神官』の理念と知った今はそれが"私見"だと感じてしまう。

結局、自分が信じた"正義"は何処に向かうというのか…結局、"神"による統治へと戻るのなら今まで行ってきたことは何だったのか。自分が否定し続けてきた"悪"と同じことをやっているだけではないか。

だったら、"人"として生きる今の世界を信じてみようじゃないか。そして、本当の"正義"について考え直そう。若い頃、信じて一直線に突き進んできたあの感覚をもう一度思い出して、罪と向き合って公正な厳罰の下で"人"として当たり前の処罰を受けよう。

 

そう決意し、彼は"新生大赦"に全面協力することを表明した。

そして、知りうる情報を全て彼女に話していた。この話も、そこから来ている。

 

 

キャンサー「概要は全く不明だが、これについては消された『水瓶座』が大きく関わっている。"人造バーテックス"もその計画の産物だ。」

 

園子「…『三神官』はどうしてもこの世界に神様を置いておきたいんだね…。」

 

キャンサー「私自身も、"大司教"が『三神官』だとは思わなかった。だからと言って、騙されていたなど虫のいい話ではあるが……気を付けておけ、"邪神教団"は全てにおいて用意周到だ。失敗は想定内…あらゆる可能性において最終理念に向かうように舵を取っている。まさに、奴らの船の上で良いように動かされてきていると言ってもいいだろう。」

 

園子「ありがとね。貴方が協力してくれて助かるよ。」

 

キャンサー「…礼など不要だ。私は自分の正義の為に"粛清"という意を込めて行動してきた。しかしそれはただの身勝手な行動だ。私が嫌う"悪"と何ら変わりはない…厳正な処罰を望む。どんな罰でも受けたい。」

 

園子「…分かった。ちゃんと公正な判断をするから、待っててね。」

 

それを聞いた『蟹座』はフッと笑みを浮かべて、若者に託した―――――。

 

 

――――――――――。

 

風「……そんな事が…。」

 

園子「うん。教団内にも事情があるみたいだね。だからと言って、情けは掛けないけど。彼から得たこの情報はとても大きい…亜耶ちゃんの捕獲と同時進行でこの計画が動いているはずだよ。」

 

ベランダから見える景色を見ながら、その眼差しは鋭いものとなる。

 

園子「…この景色が見られるのも、最後になるかもしれないね…そう遠くない内に変わっちゃうかもしれない。私達の…日常も。」

 

 

 

 

…………………。

 

4日後。

"事態"は急変する。

本殿内に鳴り響くけたたましい警報音。かの「樹海化警報」にも類似した音。

それが示すのは『世界的災厄警報』。

これが鳴るのは初めてで、各支部から本殿に向けて一斉に連絡が入る。

 

徳島支部、愛媛支部、そして崩壊した高知支部に代わる「新高知支部」。この3つの重要支部が本殿に向けてこの警報についての対応の指示を仰ぐからだ。

辺りに異変は無い…だが、誤作動で鳴るものではない。何故なら、この警報は災害レベルで鳴るものではなく、2年前と同じもの…つまり、「天の神」の襲来レベルでないと鳴らないものだ。

これが発報されたとなると、「天の神」が現れたのか、それとも…――――。

 

 

安芸「宗主様。」

 

園子「うん、分かってる。これは「天の神」じゃない……。」

 

園子は決断する。

そして、全支部に向けて同時中継における声明を発表する。

 

園子「…"新生大赦"全支部に向けて通達。各支部は住民の避難を最優先に行動。上位神官達は「防護の祝詞」にて避難施設に結界を張って。これは「天の神」じゃない…繰り返す、これは「天の神」じゃない。でも、同レベルの世界的災厄…"神"と同等の厄災と認定する。各位、落ち着いて行動するように。」

 

 

そして、防人と旧勇者部メンバーに連絡を入れる。

 

 

園子「全員、戦闘準備を。今までにない決戦…「バーテックス」とは比にならないほどの大きな戦いが予想される。全四国民を守る為、死力を尽くして。」

 

 

"建前"上、厳しい言葉で指令を出す園子。

全員はちゃんと理解している…だが、プライベート回線に切り替わって。

 

 

園子「…みんな、約束して。絶対に生きて帰る事。誰一人欠けることなく、またみんなで会えるように…これは私からの「お願い」。」

 

 

――――――――――。

 

夏凛「…分かってるわよ。」

 

砂浜でいつも通り、鍛錬を積んでいた夏凛は空を見る――。

 

――――――――――。

 

樹「お姉ちゃん。」

 

風「ええ…いっちょ、世界を救いに行きますか!。」

 

買い物カートをそのままにし、走り出す姉妹――。

 

――――――――――。

 

美森「了解。これより、行動を開始する。友奈ちゃん。」

 

友奈「うん!。」

 

友奈は拳を握り締める。

 

――絶対に誰も死なせない!。

 

――――――――――。

 

防人寮。

全員は「戦衣」を身に纏っていた。

園子からの「お願い」を聞き、気を引き締める。

 

芽吹は先頭に立ち、高々と銃剣を掲げて声を上げた。

その傍らには、巫女装束を纏った亜耶も神官の装束を身に着けた玲司が居て。

 

芽吹「各位、宗主様から与えられた"お役目"を理解したかっ!。」

 

全員、声を上げて肯定する。

 

芽吹「これから、何が迫ってくるかは誰にも予想できない。異変は無いが、『世界的災厄警報』が発報されたのなら、これまで以上の災いが予想される!。いいか、全員責務を果たせ!。我々の背中には全四国民の命が掛かっている!。手足がもげようと戦い抜け!。全員、気を引き締めろ!これは…四国の存亡を賭けた一戦だ!!。」

 

一発の銃声が"合図"だった。

それと同時に全員の指揮が上がる……雀以外は。

 

雀「あぁああ……今度こそ死ぬ…本当に死ぬ…お父さん、お母さん…今までありがとう…子孫を遺せず、すみません…。」

 

シズク「シけるような事を言うんじゃねェよっ!。お前は絶対に死なねェよ、だからオレらをちゃんと守りやがれ!。」

 

雀「ひぃいいいっ!殺生なぁあっ!。流星君、私を守ってねぇえええ!!。」

 

流星「後輩にお願いしてどうするんですか…でも…頑張りますよ。誰も死なせないように。」

 

雀「…素敵…!。」

 

 

そして…"災厄"は訪れた。

空が真っ赤に染まり、それは四国中に広がり、ありとあらゆるライフラインが一斉に機能しなくなる。

すると、亜耶が頭を抱えてその場にうずくまってしまった。

 

芽吹「亜耶っ!?。」

 

亜耶「ぅうう……ダメ……ダメぇええええっ!!。」

 

苦しむ亜耶の瞳の色が赤く染まる。

直後、空が割れ始めた。

そこからゆっくりと、街一つを軽く覆うほどの『巨腕』が現れる…予想を遥かに超えるスケール。一同は唖然としながら。

 

徐々に姿を現すその"怪物"。

徳島でも同じ巨腕が現れて街の一角が圧壊した。

続いて、愛媛と高知には巨脚がそれぞれに一足ずつ。何が襲来したのか全く分からない。"新生大赦"ではその全容を掴む為に衛星からの映像を確認する。

 

そして…驚愕した。

 

園子「…これが…"神"…?。」

 

『蟹座』から聞かされたもう一つのプラン「"人造神計画"」。

 

玲司「……信じられねェ……。」

 

スマホに送信されたその映像を見る。

 

流星「なっ……"巨人"…!?。」

 

…そう、巨大な"人間"が四国全土を覆い被さるように四つん這いになっていた。あまりの巨体に自立出来ないのか、その体勢から動こうとしない。

 

 

 

――――――――。

 

須佐ノ男「…かつて、この島は「日本」と呼ばれていた。」

 

天照「そこには、八百万の神々と"妖(あやかし)"と呼ばれる悪鬼魔道が存在しました。」

 

月読「それは悪霊とも言う…そして、それは土地に依存する。」

 

 

"西暦時代"の終焉…302年前、「バーテックス」によって蹂躙された四国に逃れられなかった者達の怨念を集約し形にしたもの…現代の"妖"……。

 

――"『凶星』ネメシス・バーテックス"。

 

"人造神計画"で生み出した"神"…いや、"悪魔"と言うべきだろう。さぁ…。

 

―"神"と決別した人類を粛清せよ。

 

 

……………………………end。

 

 

 

 

 




“人造神計画"によって生み出された"悪魔"「ネメシス・バーテックス」。

島そのものの大きさを誇る怪物に"勇者"達は四国の存亡を賭けた戦を仕掛ける。

そして、亜耶は……"覚醒"する―――。

次回
第59話 神化。
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