少年は再び"防人"達の元へと赴く。
それは、狂信者から聞かされた彼らの"事実”を告げるために。
そして、その力を得た"意味"を知るために、彼は道を選ぶ。
〜新生大赦・防人寮〜
…また、ここに来るなんてな……流星はそう思っていた。
以前は、完全なる拒絶でこの場を去った。自分が言いたいことを言っただけで逃げるように。でも今は違う…彼女達に告げることがある。そして、"真実"を知りたい。かつて、この世界で起きていたことを。
何も知らないまま、加担するのは嫌だ。もう、2度も関わっている…きっと、その道に行くことが決まっていたんだろう。でも、あの時とは心持ちが違う。そう思って、またここに来た。
そして…芽吹が3人を出迎えた。
芽吹「亜耶ちゃん!!。」
亜耶「芽吹先輩、2度もご心配をお掛けしました。ごめんなさい。」
芽吹「いいのよ…貴女が無事ならそれで。」
そうして、芽吹は流星を見る。その目は"敢えて"圧をかけていた。
芽吹「…また"逃げる"為にここに来たの?。」
シズク「おい、楠…!!。」
しかし、流星はその"挑発"に乗らない。わかっているからだ…"試されて"いる事が。
流星「…この間はすみませんでした。俺が一方的で、貴女達の話を聞こうともしないで。」
芽吹「………………。」
流星「…今でも"覚悟"はありません。人を殺してしまうかもしれないこの力が怖いという気持ちは変わりませんよ。でも…それでも、俺は成すべきと思った事をやろうと決めました。そう…心に従って。」
それを聞いた芽吹は…柔らかな笑みを向けた。
芽吹「ごめんなさい。少し、試させてもらったの。2度も亜耶ちゃんを助けてくれたんだもの…貴方は恩人よ。」
流星「恩人だなんて…当たり前のことをやっただけです。あ…それよりも、貴女達に伝えることがあるんです。邪神教団…"邪教徒"の事…!。」
芽吹「……ええ、わかったわ。協力感謝します。中へ、話はそこで聞かせてもらう。」
………………………………………。
流星は邪教徒の語った事実をそのまま芽吹達に伝える。
自分たちのこの力は"バーテックス"の因子によるもの…この世界を再び、"神の世"に戻すこと…だがそれは、邪なる神……つまり、"暴力"が正義だと謳われる以前の世界とは真逆の思想へと。
もちろん、それが全てではない。末端が語ることだ、そんな事実は知られたところで何も影響はないのだろう。だから、本質そのものは未だに不明のままだ。
芽吹「…狂ってるとは思っていたけど、まさかあの異質な力が"バーテックス"から来ていたものだなんてね……あいつらとの戦いは2年前に終わったというのに…ここに来て、またその名を聞く羽目になるなんて。」
流星「その…"バーテックス"っていうのは一体何なんです?。そいつらがこの世界を約300年もの間、支配していたと言うのは本当なんですか?。」
芽吹が語ろうとした直後、先に語り出したのは玲司だった。
玲司「ソイツは俺が説明する。これでも新生大赦の神官だ。それを説明するのは"大人の義務"というものだろ。」
芽吹「…義務…ね……"新生大赦"へと名を変えてから、宗主の理念に従ってるだけなんじゃないんですか?。2年前までは秘匿ばかりで私達を騙していたようなものなのに……。」
亜耶「め…芽吹先輩…?。」
芽吹「ごめんなさい。なら、この人に語ってもらうわ…"大人の義務"とやらでね。」
玲司「…あの、楠さん?。はぁ〜…嫌われてんねェ、俺…まぁいいや。"バーテックス"っていうのは西暦時代の7月"30日"に突如として天からやって来た化け物…"天災"の事を言う。」
流星「7月"30日"?。待ってください…7月は"29日"までしかありませんよ?。」
玲司「ソイツは大赦の前身である「大社」が"天災の日"にあたるということで、抹消したんだよ。当時はその日が訪れるとあの"地獄"を思い出してしまい、精神的に異常を来たす人が現れるかもしれねェからって。元に、空を見ると発作を起こす「天空恐怖症候群」という流行り病があったくらいだ。」
流星「…そいつらが…「外」を滅ぼしたんですか?。"未知のウイルス"というのは…?。」
玲司「それも偽りだ。じゃねェと、興味本位で出る奴らが現れるだろうし…これは"協定"だったんだ。"高天原の天の神"とのな。」
流星「…天の神…高天原……その"協定"というのはまさか…。」
玲司「察しがいいな、その通り。"人類"をこの四国…つまり、神樹様が作りし結界の中に閉じ込めておき、「外」に干渉させない…これがその"協定"だ。真実は奴らが四国外の全てを滅ぼし、人類はこの四国にいるものだけとなった…世界人口の9割以上が奴らによって"駆逐"されちまったのさ。ま、協定と言っても奴らが人類を滅ぼしたいのは変わりないからな…定期的な周期で侵攻し、神樹様を殺そうとしてやがったのさ。」
流星はその真実を知り、神妙な面持ちとなる。取り乱すこともなく。
流星「…じゃあ、2年前にその戦いが終わったって事なんですか…そんなに大きな戦いなのに、どうして俺たちは何も知らなかったんだろう…。」
芽吹「それは、神樹様が作り出す「樹海」の一部になっていたからよ。その"樹海"が広がれば、世界の全ては停止する…だから貴方達は知らないのよ。"樹海"の一部となっていたから。」
流星「…なるほど…これが"真実"だったのか……後、聞かせてください。2年前にその戦いを終わらせた"勇者"とは何なんですか?その人達は今…何をしているんですか?。」
…その質問に、全員が沈黙した。
"勇者"…もちろん、それが誰なのかは流星以外の全員が知っている。でも…"彼女達"はもう自由なんだ。もう…"巻き込むわけにはいかない"。
そう思って。
玲司「…"勇者"とは、神樹様の力を分け与えられた少女達の事だ。すまねぇ、これ以上は語れねェんだ。"勇者"の正体は知ってるが……今、言えるのは神樹様が死んじまったから"勇者"はその役目を終えて"日常"に帰ってる、今は何処かで平和に暮らしてるだろうさ。それ以上は詮索しねぇでやってくれ、"あの子"達はもう十分過ぎるほど頑張ったんだ。もう…関わらせたくねェ。巻き込んじまったお前に言うのもなんだけど…勘弁してやってくれな?。」
いつにも無く、悲痛な顔をする玲司を見てその本気さが分かるようだった。そして、流星はそれに快く応じた。
流星「わかりました。そう言う事情なら気にしません。それに俺はもう"巻き込まれた"だなんて思ってませんから…さっきも言ったはずです、「成すべきと思った事を心に従って成すんだ」と。俺の"理由"はそれだけですから…。」
玲司「…坊主…ありがとな…?。」
芽吹「…でも、私達「防人」の事は私自身から語らせてもらうわ。"防人"とは量産型の"勇者"の事を言う。貴方もそれに属しているのよ、まぁ…防人全員が"勇者"の適性が確認された者で構成されてるから、誰かれ構わずなれるものでもない…と言ったところかしらね。」
流星「量産型の"勇者"…俺のこの力もそうなのか。」
芽吹(…貴方が"それ"を纏ってからは、どこか違うものを感じた…ただの新型と言うわけではなさそうね……謎がとても深いもの……貴方の"それ"は分からないことだらけのブラックボックスの塊のようなものね。)
流星「でも、神樹様が亡くなったのに防人は力を失わないんですね。」
芽吹「ええ。"勇者"が神の力で戦う戦士なら、"防人"は人の力で戦う戦士。防人は勇者になれなかった人間の集まりだけど、気持ちは勇者と同義よ。私たちは消耗品じゃない…それを証明するために今を頑張るのよ。」
芽吹の思いを聞き、流星は心打たれるものがあった。この人達は完璧だと思っていた。でも、血の滲む努力の末に今がある…そしてそれは、自分と同じく「成すべきと思った事を成すために心に従う」のと同じことだった。誤解していた、この人達も…"気持ち"で戦ってるんだと。
流星「……楠先輩、お願いがあります。俺を…"防人"に入れてください。」
立ち上がって深々と頭を下げる流星。全員が意外な顔をする。
亜耶「本気なんですか?。」
流星「ああ、本気だ。楠先輩は言ってましたよね?この力に選ばれたのには"意味"があると。だったら、それを探したい…勿論、奴らを野放しにするのは危険だと言うことがわかったからでもあります。でも、それでも俺はこの力に選ばれた"意味"が知りたいんです。」
以前とは全く違うその眼差し。それは、"決心"。
昨日のような、"巻き込まれた"だけの少年ではなく、物事の本質を見極めるために決意したその目。
芽吹「…本当にいいのね?言っておくけど、今日のような事なんて日常茶飯事…見たくないものも見てしまうかもしれない。貴方の嫌な事なんて当たり前に起きてしまう。それでも貴方は…いいと言うのね?。」
流星「構いません…どのみち、関わった以上は避けて通れない道…なら、自ら進んで進む方がいいでしょう?。」
流星(国土さんは言ってたな…「こんな怖いこと、早く終わればいい」って。そうすれば、誰もこんな思いをしなくて済む…と。俺は彼女を助けたいと思った。なら…国土さんがあんな顔をしなくてすむようにこの力を使って正しい道を探せばいいんだ。それが…"成すべき"と思った事なんだから…。)
しずく「ん…それじゃ、よろしく……紫藤。」
先ほどとは打って変わって、物静かな口調のしずくに流星は目を丸くする。
流星「え…その……"双子"…なんですか…?。」
その時、しずくの「人格」が入れ替わった。
シズク「誰が双子だっ!。"オレ達"は2人で1つ!テメェ、「しずく」をビビらせると承知しねェからな!?。」
流星「は…はぁああああ!!?。」
しずく「やめて「シズク」。大丈夫、紫藤は怖い人なんかじゃないよ?。」
芽吹「彼女は"二重人格者"なの。でも、どちらも大切な仲間よ。」
しずく「そう言うこと。山伏しずく、よろしく。」
手を差し出すしずくに、流星は握手を交わした。
流星「よ…よろしくお願いします…山伏先輩…。」
流星(忙しいな……どっちの先輩か慣れないと地雷を踏みそうだ…。)
芽吹「他にもまだ仲間はいるけど、今度紹介するわね?。今は違う支部にいるから。」
亜耶「皆さん、とってもいい人達なんですよ?。」
流星「そうなのか…その、頑張ります。よろしくお願いします。」
…………………………………。
…こうして、流星は自分の意思で「防人」に加わった。夜と言うこともあり、帰りは玲司が車で送ることに。
玲司「…まさか、昨日まで悲観的だった坊主があんな事を言い出すなんてな。どう言う風の吹き回しだ?。まさか、あの巫女ちゃんに惚れたとか?。」
流星「…笑えない冗談ですよ、だから楠先輩に冷たくされるんです。」
玲司「なんだよ…青春してねェな。こんな冗談くらい、笑って返せよな全く……ま、決心してくれてありがとよ。新生大赦の本殿にお前の事は伝わっちまってたからどう説明するか頭を悩ませてたんだ。何せ、異例の"男"だからな。」
流星「よくわかりませんが…女の人しかその適性は見られないんですよね。」
玲司「ああ。その辺りに関しては、神樹様のみぞ知る…と言ったところだが、俺はあいにく巫女じゃねぇし当の神様は御逝去されちまった。だから、もう謎のままだ。自分らで答えを探すしかねェ。」
流星「……それを含めて、頑張りますよ。俺。」
玲司「はは、ますます気に入ったわお前。だから、お前も何か悩めば俺に言いな。"大人"って事でちっとは威張らせてくれよ。じゃねぇと…"アイツら"に申し訳が立たねェからな。」
"アイツら"……きっと、楠先輩達のことだろう。…流星はそう思った。
そしてその時、車がいきなり止まる。運転席の玲司は慣れた様子でため息を吐いては。
流星「…………いい加減、買い直しましょう。もう寿命ですよ。」
玲司「だったらもう少し給料を上げてほしいなぁ…さ、手伝え坊主!じゃねェとお前を返してやれねェわ!。」
流星「…はいはい、わかりましたよ。」
そう言いつつも、流星はどこか楽しそうだった。
これを機に、何かが変わるかもしれない…それが良いことなのか悪いことなのかなんて分からない。だけど、それが"成すべき"と思ったことなのだから…。
この選択に、"後悔"はない……ーーー。
……………………………end。
自分が選ばれた"答え"を得るために、防人の一員となった少年。
これからきっと、全てが変わっていくだろう…でも何も怖くはない。
そして…"防人"となってから初めての"お役目"に赴く事に。
次回
第6話 "お役目"。